公社債(債券)(2)

第
7回
伊藤 宏一
Ito Koichi
公社債
(債券)
(2)
千葉商科大学人間社会学部 教授
NPO 法人日本 FP 協会専務理事、CFP® 認定者、金融経済教育推進会議委員。専攻は、パーソナル
ファイナンス、ソーシャルファイナンス、金融教育、シェアリング・エコノミー。
今回は、国債や社債、外債など、債券の種類
国債の金利
(表面利率)
は、個人向け国債と変
とそれぞれの特徴やリスクについて解説します。
動利付債を除いて、入札時の国債市場の実勢に
よって決められ、償還まで変わりません。
国 債
●個人向け国債
国債は国が発行する債券で、国内債券の中で
国債には、個人だけが購入できる
「個人向け
は信用度が高く、流通量も多いため、換金性に
国債」があります。額面 10,000 円単位で購入で
も優れています。国債の基本は固定利付債で、
き半年に1度利払いがあります。通常の国債の
利子は半年に1回支払われ、元本は満期時に償
場合、中途売却すると市場価格となりますが、
還されます。満期は1年・2年・3年・4年・
個人向け国債の場合、1年経過後は国が額面金
5年・6年・7年・8年・9年・10 年・15 年・
額で買い取ります。ただしその場合、一定の利
20 年・25 年・30 年・40 年となっており、別途
子相当額が差し引かれます。種類は次の3つで
3年・5年の個人向け国債があります。また
す
(図)
。現在はマイナス金利政策の影響で、金
15 年の変動利付債と 10 年の変動利付個人向け
利はいずれも最低の年 0.05% となっています。
国債があります。その他、元本が変動する10 年
変動 10 年金利型
の物価連動国債もあります。また額面を下回る
固定5年金利型
発行頻度
価格で発行され、利払いなしで、満期時に額面
で償還される割引国債もあります。
このうち満期が2年・5年・10 年の利付国債
については、手軽に購入できるよう多数の金融
機関で取り扱う「新窓口販売方式」
で募集を行っ
ン管理組合や法人でも購入でき、基本的には毎
毎月発行
金利水準
基準金利× 0.66
基準金利- 0.05% 基準金利- 0.03%
基準金利
金利見直し時の
10 年国債利回り
募集開始直前の期 募集開始直前の期
間 5 年の国債想定 間 3 年の国債想定
利回り
利回り
中途換金
1年経過後は中途換金可能
最低利率
保証
年率 0.05%
図
ています。これらは個人だけでなく、マンショ
固定3年金利型
個人向け国債の種類
地方債
月販売されています。
国債は証券が発行されず口座上の記録で管理
都道府県や政令指定都市が発行する公募債で、
されるため、初めて購入する場合は、金融機関で
自治体が個別に発行するほか、複数の自治体が
口座開設が必要になります。また金融機関によっ
共同で発行するものもあります。申込単位は 10
ては口座管理手数料がかかることがあります。
万円、償還期間は 10 年が一般的です。
2016.12
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地方債の中には、
「住民参加型市場公募地方
基本になります。
見ず知らずの会社や個人から、
債」があります。地域住民等を対象にし、公園
電話や訪問により、
高い金利の私募債の社債(い
や学校整備などの特定事業の財源とするために
わゆる
「怪しい社債」
)
を勧められた場合、出資法
発行されます。期間は3年から5年が多く、利
や金融商品取引法に違反するケースが多いので
回りが国債と比べてやや高めとなっています。
気をつけてください。
例えば 2016 年 11 月に発行された「船橋みらい
●転換社債
(転換社債型新株予約権付社債)
債」は、保育園・児童ホーム・公民館整備を目
転換社債とは、コンバーチブルボンド
(CB)
的とし、10 万円からの購入、利率は 0.1% で償
と呼ばれる社債の1つです。基本的には普通社
還期間は5年となっています。
債と同じですが、特別な条件として、一定の価
格で、その会社の
「株式」
と転換することができ
社 債
る条件がついています。将来、発行会社の株価
が上昇すれば、決められた価格
(転換価格)で株
●普通社債
社債は事業会社が発行する債券です。期間は
式に転換して値上がり益を得ることができます。
1年から3年、5年と比較的短いものが多く、
株価が上昇しなければ債券のまま償還まで持っ
利回りが国債や個人向け国債に比べ、やや高め
ていて一定の利子を得て元本が償還されます。
なのも特徴です。普通社債のほかに、株式に転
転換社債には繰上償還条項が付されることが
あり、
償還期日前に償還されることもあります。
換できる転換社債や、私募債もあります。
対象となる株式への転換が進むと転換社債残
例えば2016年5月に発行されたM社社債は、
1年満期のもので、額面は 10,000 円、年利率は
存額の減少や出来高の減少等で流動性が低下し、
税引き前で 0.6%と個人向け国債よりも高い水準
希望する価格で売買できない場合や上場廃止と
です。この会社の格付けは、ある格付け機関か
なる場合があります。また、株式へ転換請求で
らBBB(見通し:安定的)
とされています。会社
きる期限が制限されています
に倒産などの事態が起こらない限り、年2回の
●少人数私募債など
利息を受け取り、1年後に償還されます。
証券会社を通じて広く一般に募集される公募
ところで、社債には公募債と私募債がありま
債
(不特定多数の投資家を対象)
とは異なり、少
す。社債の多くは不特定多数に対して応募され
数
(50 人未満)
の知り合いの投資家が直接引き受
る公募債で、証券会社を介して募集されます。
ける私募の社債です。金額の規模は比較的少額
他方、特定少数の知り合いに対して発行される
で、
譲渡には取締役会の決議が必要になります。
のが私募債です。私募債は、社債を発行する会
少人数私募債は、株式会社しか発行できませ
社が知り合いに対して募集するもので、見ず知
んが、NPO 法人や有限会社等が発行できる擬似
らずの人や会社から電話や訪問による勧誘を受
私募債もあります。これは商法・証券取引法に
けることはありません。
定められた社債ではなく、民法上の証拠証券の
社債の金利は、日銀によるマイナス金利政策
下で、国債に準じて低くなっています。また債
ため
「擬似」
私募債と呼ばれています。いずれも
「知り合い」
であることが前提になります。
券に人気があって買い手が多い場合、金利は低
外国債
(外債)
くなり、逆に買い手がつかない場合は、金利を
高くしないと買ってもらえないので、高くなり
外国債とは、債券の発行主体、発行通貨、発
ます*1。
以上から、社債に投資する場合は、名前の知
*1 ウェブ版「国民生活」2016 年 11 月号「金融商品の基礎講座」
第
6 回 公社債(債券)
(1)
http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201611_12.pdf
られた会社の公募債を証券会社で購入するのが
2016.12
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行場所のいずれかが海外である債券で、外債と
を変えるために、長期金利が短期金利より高い
も呼ばれています。海外で、外貨建てで発行さ
通常の順イールドにするために、9月にこの政
れる債券(外貨建て外債)
以外に、国際機関や海
策に踏み切ったわけです。またアメリカ大統領
外の企業が日本国内で、円建てで発行する債券
選挙*3 結果によるアメリカの金利上昇も影響
(円建て外債)も外国債券となります。外債は、
し、2016 年 11月22日現在の国債金利は、1年物
国内の債券に比べると情報量が少なく、また為
- 0.291%、5年物- 0.091%、10 年物+ 0.032%、
替差益が得られる可能性がある反面、為替差損
15 年物+ 0.233%、25 年物+ 0.575%、40 年物
を被るリスクがあり、また売却や中途換金が容
+ 0.708% と、10 年物からプラスに転じていま
易でない場合もあります。
す。これは金融機関にとってはいいことなので
すが、10 年物国債の金利が住宅ローンの固定
仕組債
金利の基準となっているため、消費者にとって
債券の中には特別のしくみをデリバティブを
は住宅ローン金利が相対的に上がることを意味
利用して作っているものがあり、その1つに EB
します。
(エクスチェンジャブル・ボンド)
債があります。
公社債の税制
これは他社株転換条項付債券といわれるもので、
転換対象となる株式の株価が一定価格以下に下
公社債の税制は 2016 年1月抜本的に変更さ
がると、その株式が交付されるもので、株価の
れました。特定公社債
(国債・地方債や公募公
価格変動リスクが付いて回るリスクの高いもの
社債など)
は従来、利子は源泉分離課税、譲渡損
です。
益は非課税、償還差損益は総合課税となってい
ました。利子や譲渡の取り扱いは、預金と同じ
長短金利操作付き量的・質的金融
緩和政策と国債金利の影響
扱いにするという税制でした。しかしこれが申
告分離課税に一本化され、上場株式等の配当や
ご存じのとおり、日本銀行は 2016 年9月に
譲渡損益と通算できるようになったのです。つ
「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」
を
まり公社債はリスクがあるので株式と同じ取り
導入すると発表しました。これはそれまでのマ
扱いにすることへの転換です。
損が出る場合は、
イナス金利政策により、国債金利が短期から長
上場株式の配当や利益と損益通算して、損をカ
期のものまでフラットにマイナス金利となって
バーするということなのです。これは国債につ
しまったので、短期金利よりも長期金利のほう
いていえば、戦後ずっと
「日本国債は安全で、損
が金利が高い、というイールドカーブ*2の基本
することはない、格付けも極めて高い」といわ
的なあり方に戻すことを意図したものです。保
れてきた状況から、
「日本国債はそれほど安全
険会社や銀行などの機関投資家は、従来、資金を
でもない、格付けもそこそこで、取引によって
長期国債で運用していました。ところが長期国
は損が出る可能性もある」という認識に転換し
債もマイナス金利になって運用難に陥りました。
たことを意味しています。
なお、国債および地方債については、
「障害者
ちなみに 2016 年7月4日当時の国債金利は、
1年物- 0.344%、5年物- 0.354%、10 年物-
等の少額預金の利子所得等の非課税制度」いわ
0.257%、15 年物- 0.121%、25 年物+ 0.072%、
ゆるマル優等により、障がい者や寡婦年金等の
40 年物+ 0.103% となっていました。この状況
受給者は、額面 350 万円までの利子が非課税と
なっています。
*2 ウ ェブ版
「国民生活」2016 年 11 月号「金融商品の基礎講座」第
6 回 公社債
(債券)
(1)
http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201611_12.pdf
*3 2016年アメリカ合衆国大統領選挙
(2016年11月8日)
2016.12
30