金融緩和効果、企業の 6 割近くが「実感なし」

2016/12/14
松本・長野・飯田支店
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特別企画:金融緩和政策に対する長野県内企業の意識調査
金融緩和効果、企業の 6 割近くが「実感なし」
経済対策に「期待している」と「期待していない」が拮抗
はじめに
日本銀行では、2013 年4月に始めた金融緩和政策をその後も継続しているが、9月 21 日には新
たな政策枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」を導入した。一方、政府は
事業規模 28 兆円の経済対策を8月に閣議決定し、10 月 11 日には 2016 年度第2次補正予算が成立
するなど、景気が低調に推移する中にあって景気対策の両輪となる金融・財政政策の投入・転換
が行われている。
こうした金融緩和政策は、企業経営にどのような影響を与えてきたのだろうか。また、企業は
この間の経済対策をどのように受け止めているのだろうか。帝国データバンクでは今回、金融緩
和政策の効果や政府の経済対策に対する企業の見解について調査を実施した。なお、本調査はT
DB景気動向調査(2016 年 10 月調査)とともに行っている。
調査期間は 10 月 18 日~10 月 31 日。調査対象は全国2万 3779 社、長野県 500 社、有効回答企
業数は全国1万 243 社(回答率 43.1%)
、長野県 233 社(同 46.6%)
。
調査結果(要旨)
■金融緩和政策の効果、
「実感がある」は 13.7%にとどまる
金融緩和政策の効果について、
「実感がある」が 13.7%にとどまったのに対し、
「実感は
ない」は 57.9%と6割近くに及んだ。
「分からない」は 28.3%だった。
■1年前と比べ、販売価格が「上昇」は 18.5%、
「低下」は 30.9%
主力商品・サービスの販売価格が1年前と比べ、
「上昇」した企業は 18.5%、
「低下」し
た企業は 30.9%。
「変わらない」も 45.5%と多く、厳しい実態が浮き彫りとなっている。
■政府の経済対策に「期待している」は 28.8%、
「期待していない」は 27.0%
政府の経済対策に「期待している」企業は 28.8%、
「期待していない」企業は 27.0%と
拮抗。
「どちらとも言えない」も 29.2%にのぼるなど見解は分かれた。期待する経済対策と
しては、
「中小企業・小規模事業者の経営力強化・生産性向上支援」が最多(51.1%)
。
■物価上昇率、来年度 0.51%、5年後 1.37%と予想
物価上昇率(インフレ率)を尋ねたところ、来年度の平均は 0.51%、5年後の平均は 1.37%
となった。日本銀行が目標として掲げる2%には届かないと予想している様子が窺える。
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特別企画:金融緩和政策に対する長野県内企業の意識調査
1.金融緩和政策の効果、
「実感がない」とする企業が 57.9%
日本銀行は 2013 年4月以降、金融緩和政策を随時見直しつ
つ現在まで継続している。企業活動において、金融緩和政策
の効果に関し「実感がある」と回答した企業は 13.7%(32 社)
にとどまり、
「実感はない」とする企業が 57.9%(135 社)と、
「実感がある」の4倍以上に及んだ。
「分からない」は 28.3%
(66 社)
。長期にわたる金融緩和政策。金融機関の姿勢に対し
ては、「貸し出しが積極的になっている」「設備投資の借り入
れが楽になった」「金融機関の姿勢にあまり変化が感じられ
ない」
「金利面の変化はない」などと企業間で分かれているが、
実際に効果を実感している企業はそれほど広がっていない状
況が浮かび上がる。
「実感はない」の構成比を規模別にみると、「大企業」
55.6%、「中小企業」58.4%、「(中小企業のうち)小規模企
業」67.2%。また、主要業界別では「サービス」66.7%、
「卸売」64.3%、
「建設」63.3%、
「製造」
54.3%。規模別・主要業界別とも極端な差は生じていないが、規模別では小さくなるほど構成比
が高まり、主要業界別では基幹産業の「製造」が最も低い。
全国の調査結果は、「実感がある」12.9%、「実感はない」59.7%、「分からない」27.5%。「実
感がある」は長野県が全国を 0.8 ポイント上回った。
2.販売価格、1年前から平均で 0.78%下落
自社の主力商品・サービスの販売価格が1年前
と比べてどの程度変化したか尋ねたところ、「上
昇」
(18.5%、43 社)が「低下」
(30.9%、72 社)
を大きく下回った。最も多かったのは、「変わら
ない」(45.5%、106 社)だった。平均変化率を
算出すると△0.78%。
「低下」の構成比は、
「大企業」が 27.8%、
「中
小企業」が 31.5%。また、主要業界別では「製
造」の 34.3%、
「建設」の 33.3%、
「サービス」
の 28.6%、
「卸売」の 26.8%が「低下」と回答し
ている。平均変化率は、「大企業」が△0.25%、
「中小企業」が△0.86%。主要業界別では、「建
設」が△1.50%、
「製造」が△0.64%、
「卸売」が
0.43%、
「サービス」が 0.30%。全体的に厳しい
価格設定を余儀なくされている実態が浮き彫り
となった格好だが、規模別では「大企業」より「中小企業」で、主要業界別では「建設」で特に
厳しさが表れている。
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なお、全国の調査結果は「上昇」17.7%、
「低下」24.0%、
「変わらない」51.8%、
「分からない」
6.5%。平均変化率は△0.48%だった。
3.政府の経済対策への見解は分かれる
政府は8月に事業規模 28 兆円にのぼる経済対策を閣議決定し、10 月 11 日に 2016 年度分の補正
予算が成立した。政府の経済対策に関しては、
「期待している」
(28.8%、67 社)が「期待してい
ない」
(27.0%、63 社)を若干上回り、
「どちらとも言えない」
(29.2%、68 社)もほぼ同水準。
各社の見解は分かれており、
「分からない」
(15.0%、35 社)も含め判断を保留する企業も少なく
なかった。
規模別では、
「大企業」が「期待している」30.6%、
「期待していない」27.8%、
「中小企業」が
「期待している」28.4%、
「期待していない」26.9%と、
両者とも「期待している」の方が多かったが、
「小規模企
業」では「期待していない」
(37.9%)が「期待している」
(25.9%)を 10 ポイント以上上回った。また、主要業界
別で「期待している」が「期待していない」より多かっ
たのは「製造」だけだった(
「期待している」30.5%、
「期
待していない」22.9%)
。
全国の調査結果は、
「期待している」24.5%、「期待し
ていない」29.6%、「どちらとも言えない」32.3%、「分
からない」13.7%。
なお、期待する経済政策を複数回答で尋ねた結果は下
表の通り。最も多かったのは「中小企業・小規模事業者
の経営力強化・生産性向上支援」(51.1%、119 社)で、
半数以上の企業が選択した。
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4.物価予想、日銀目標に届かず
日本銀行は物価上昇率2%を目標としているが、企業はどの程度になると予想しているのだろ
うか。来年度(2017 年度)、
「上昇」すると予想している企業は 37.3%(87 社)で、平均上昇率は
0.51%となった。
また、5年後の物価動向予想で
は、
「上昇」が 55.8%(130 社)
と半数を超え、平均上昇率は
1.37%。5年後は来年度より物価
が上昇すると見込む企業が多く、
平均上昇率も高くなっているが、
それでも日銀が目標に掲げる
2%には届かない。
全国調査では、来年度の「上昇」
が 38.6%(平均上昇率 0.44%)
、
5年後の「上昇」が 53.6%(同
1.29%)との結果が得られている。
まとめ
金融政策に多くを頼るアベノミクス政策が転換を迫られている。日本銀行は9月 21 日に実施し
た「総括的検証」を踏まえ、新しい金融政策の枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政
策」を導入したほか、政府は臨時国会において 2016 年度第2次補正予算を成立させるなど、景気
対策の両輪となる金融・財政政策が打ち出されている。
しかし、今回の調査では、2013 年4月から継続されている金融緩和政策について、6割近い県
内企業が自社の企業活動において、効果を実感していないことが明らかとなった。また、自社の
主力商品・サービスの販売価格は1年前より平均 0.78%低下していたが、
「大企業」より「中小企
業」で、また主要業界別では「建設」や「製造」などでマイナス幅が大きかった。
政府の経済対策に対する見解は、「期待している」(28.8%)、「期待していない」(27.0%)、
「どちらとも言えない」
(29.2%)などに分かれる一方、具体的に期待する経済政策としては「中
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特別企画:金融緩和政策に対する長野県内企業の意識調査
小企業・小規模事業者の経営力強化・生産性向上支援」が最も多く、中小企業や小規模事業者が
厳しい経営環境からなかなか抜け出せない現実を物語っている。
企業は、日銀のインフレ目標の達成は当面、届かないと予想している。20 年にわたり続いたデ
フレ経済からの脱却は、本格的な景気回復には欠かせない要件だが、企業からは「金融緩和政策
がデフレ解消につながっていない」、あるいは「金融政策に偏りすぎているのでは」「政府は成長
戦略の具体的な内容や財政再建の方向性を示すべき」といった指摘も寄せられている。政府・日
銀は、企業や個人の将来不安を払拭し、安心して事業を展開できるようにするためにも、これま
で以上に企業の声に耳を傾けたきめ細かい政策を実施していくことが肝要となろう。
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