調査の背景 - 国立国際医療研究センター 国際医療協力局

2016/12/13
カンボジア国コンポンチャム州における
子どもの慢性低栄養の男女差
岩本あづさ1)、TUNG Rathavy2)、虎頭恭子3)、
野上ゆき恵4)、谷口直美4)、宮崎あすか4)、松井三明4)
1) 国立国際医療研究センター国際医療協力局
2) カンボジア国立母子保健センター、
3) シェア=国際保健協力市民の会
4) 長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科
調査の背景
•
ミレニアム開発目標「妊産婦と子どもの死亡の削減」
達成に向けた各種の取り組みの結果、5才未満児の
死亡数は大幅に減少したが、その約半数の背景に低
栄養が存在する。
•
カンボジア・プレイベン州の農村部で2才未満児1827
名を対象にした調査では、32.5%の児が慢性低栄養*
と診断された(虎頭ら、2013年)。
•
慢性低栄養は小児の疾病発生・発育発達遅延・死亡
の大きな原因とされているが、カンボジアにおける新
生児期から補完食開始後にかけての低栄養への移
行要因は不明である。
•
慢性低栄養の要因は多岐に渡り、介入の複雑さから
対策実施がきわめて困難な分野であるとされている。
*「慢性低栄養」の定義 :
発育阻害(WHOが定める生後0-59か月の子ども
の成長基準に基づき、年齢相応の身長を持つ基礎
集団の中央値よりも、標準偏差がマイナス2より低い
状態)Stuntingで表す(世界栄養報告、2014年)。
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目的
• カンボジア農村の一地域において、妊産婦と
出生する全新生児を登録し、乳児期以降の
成長過程を継続的に追跡することで、子ども
の慢性低栄養の発生・移行要因、低栄養に
伴い発生する疾病や死亡、発育・発達遅延と
の関連性等を明らかにする。
• 初年度は予備調査として、対象地域の状況
を把握するための横断調査を実施した。
横断調査の方法
• カンボジア国コンポンチャム州ストゥントラン郡内
の2つの保健センターが管轄する計11村において、2
才未満児(推定約360人)がいる全家庭を訪問し、
両親(不在の場合には養育者)からの同意取得後に、
身体計測(体重、身長)と家庭環境および養育に関
する基本情報インタビューを実施した。
• 養育者の季節労働に伴う転出例等を除いて、318例
のデータを収集した。
• 得られた身体測定データ(体重、身長)を、世界保
健機関(WHO)の小児標準発育曲線をもとに開発さ
れたソフトウエア(WHO Anthro (version 3.2.2))を用
いて分析した。
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結果(1) 月齢群・男女別の低栄養の数と割合
表1 低体重**の数と割合(男女別)
表2 低身長***の数と割合(男女別)
**「低体重」の定義 :
WHOが定める生後0-59か月の
子どもの成長基準に基づき、年
齢相応の体重を持つ基礎集団
の中央値よりも、標準偏差がマ
イナス2より低い状態。
***「低身長」の定義:
WHOが定める生後0-59か月の
子どもの成長基準に基づき、年
齢相応の身長を持つ基礎集団
の中央値よりも、標準偏差がマ
イナス2より低い状態。
(世界栄養報告、2014年)
結果(2) 月齢群ごとのZ値の比較
• Z値:計測値が、平均値から標準偏差の何倍分ずれて
いるかを示す値
• Z値マイナス2(平均値マイナス2標準偏差)以下を
「低栄養」と判定
• WFA (Weight For Age): 月齢に対する体重
• HFA (Height For Age): 月齢に対する身長
• WFH (Weight For Height) : 身長に対する体重
• それぞれのZ値を、WAZ, HAZ, WHZ と表す
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結果(3a) 月齢群ごとのWAZの比較
(平均値±95%信頼区間、 p値はt検定後ボンフェローニ補正)
0-5か月と比較すると、12-17 か月と18-23か月で有意に低下
結果(3b) 月齢群ごとのHAZの比較
(平均値±95%信頼区間、 p値はt検定後ボンフェローニ補正)
0-5か月と比較すると、12-17 か月と18-23か月で有意に低下
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結果(3c) 月齢群ごとのWHZの比較
(平均値±95%信頼区間、 p値はt検定後ボンフェローニ補正)
0-5か月と比較すると、12-17 か月と18-23か月で有意に低下
結果 (4a) 男女別のWAZの比較
(平均値±標準誤差)
6-11 か月、12-17か月で有意な男女差が見られた。
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結果 (4b) 男女別のHAZの比較
(平均値±標準誤差)
結果 (4c) 男女別のWHZの比較
(平均値±標準誤差)
12-17か月で有意な男女差が見られた。
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考
察
• 初年度の横断調査では、補完食開始時期の生後6か月
時を境に低栄養の割合が急速に増加し、男児の方が高
率となる、という結果が得られた。
• 補完食開始時期後に低栄養が悪化する所見は、カンボジ
アでの先行調査を含むこれまでの知見と合致する。
• 一方で、1才前後に低栄養の男女差が発生する状況は、
カンボジアでこれまで報告されていない。さらに、世界各
国の先行研究で男児の方が高率に低栄養に陥る要因は
同定されていない。
• これらの結果をふまえ本研究では2016年度より、対象地
域で2016年4月1日以降に出生した全ての児を対象に、栄
養状態と関与する栄養要因の追跡調査を開始した。慢性
低栄養の実態把握を目的として、現在継続実施中である。
この調査は、国立国際医療研究センター国際医療
研究開発費27指5「国立国際医療研究センターの拠
点を活用した、予防可能な新生児・小児死亡削減
対策に関する研究」の分担研究、「カンボジア農
村部における小児の慢性低栄養の疫学的・社会文
化的決定要因」として実施している。
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COI開示
岩本 あづさ
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