平成 28 年 12 月 13 日 Press Release／報道関係各位 【取材依頼】 伊勢の漂流民・大黒屋光太夫の自筆ロシア文字墨書が 神田外語大学の「洋学文庫」から発見 -- 当時のロシアブームを伝える貴重な資料 このたび神田外語大学（千葉市美浜区／学長：酒井邦弥）の「洋学文庫」から、日本とロシアの平和的な交流を象徴する歴史的人 物、大黒屋光太夫自筆のロシア文字が見つかりました。光太夫は漂流のため 10 年近いロシア滞在を余儀なくされたが、ロシア皇帝 エカテリーナ二世に謁見し、許され、1792 年に無事帰国。将軍・徳川家斉より上覧を受けました。光太夫がもたらしたロシアの文物と 漂流物語は大名や蘭学者から庶民まで広く関心を集め、人々の好奇心、探究心を満足させたといわれています。今回発見された自 筆書は、当時のロシアブームを伝える貴重な資料です。 光太夫の書は 2016 年 10 月 10 日に洋学文庫の調査にあたっている松田清日本研究所客員教授が発見し、調査報告書にま とめました。発見されたロシア文字は縦 31 ㎝、横 47 ㎝の和紙に墨と筆で二行書きされており（※画像参照）、読み方は「フ クジュ ／イセ ダイコー」 （福寿 伊勢 大光）です。洋学文庫の元となった京都の古書店主・若林正治氏（1913～1984） の収集品のひとつで、若林氏はロシア文字の正体に気付きませんでした。裏打ちした和紙の裏に「古代の花文字」と鉛筆 書きしたのは、若林氏以前の所有者と思われます。 伊勢の港町白子（しろこ）の船頭、大黒屋光太夫（1751～1828）は 1783 年 1 月 15 日に遭難し、ロシアに漂流しました。 ロシアの女帝エカテリーナ 2 世の許可を得て、1792 年 10 月 9 日、使節アダムス・ラクスマンに送られて、10 年ぶりに部 下の小市（こいち）、磯吉とともに根室に帰国しました。翌年、小市は根室で病死しますが、光太夫と磯吉は江戸に移送さ れ、幕府の対ロシア政策に必要な貴重なロシア情報をもたらしました。 当時、ロシア語に精通していた日本人はほとんどおらず、光太夫はロシア語を操れたため、幕府のロシア外交における 重要人物としての地位を築き上げました。 また、幕府の対ロシア政策に必要なロシア事情を熟知していたことで、1793 年 10 月、ロシア研究を進めていた蘭学者 の桂川甫周（かつらがわほしゅう）や大槻玄沢（おおつきげんたく）の研究に学術面で貢献しました。翌年、桂川甫周は 光太夫から学んだロシア事情をまとめ上げ、日本最初の本格的なロシア研究書である『北槎聞略（ほくさぶんりゃく）』を 著しました。これは、光太夫の約 10 年に及ぶ漂流体験や、ロシア帝国の風俗・制度・言語等を克明に記録した漂流記であ り、多くの蘭学者や庶民にとって未知の地であった「ロシア」という国を広く周知しました。 光太夫のロシア体験談とロシア文字は支配層や知識人だけでなく、庶民の耳目も集めました。持ち帰ったロシアの文物・ 衣服・生活用具は鎖国下の庶民の好奇心を刺激し、当時各地で流行した見せ物に出品され、引っ張りだこになりました。 とくに光太夫自筆のロシア文字は珍しがられ、光太夫は方々から求められてロシア文字の書を揮毫（きごう）しました。 1795 年 8 月、名古屋大須の寺で開催された漂民小市の遺品展には、ロシア文字で「今啼（ない）た声はたしかに時鳥（ほ ととぎす）」と墨書した掛物が出品されました。 1802 年、光太夫は幕府に許されて故郷の白子に帰郷。この年、京都の蘭学者・辻蘭室は光太夫の書いたロシア文字のア ルファベットを入手し、言語学的な分析を加えています。 光太夫自筆のロシア文字墨書は所在不明となったものも含めて、現在までに 40 点ほどが知られており、光太夫の出身地、 三重県鈴鹿市の大黒屋光太夫記念館には、そのうち 20 点が収集されています。一番最近に発見されたロシア文字墨書は、 2008 年に光太夫の母の実家のあった玉垣村の旧家から発見された「ツル」で、袱紗（ふくさ）に書かれていました。 発見されたロシア文字はイロハ文字（13 例）やツル（6 例）と書かれたものが多く、それについで多いのが「フクジュ （5 例）」。「フクジュ」はこれまで 4 点知られており（うち 1 点は所在不明）、今回の発見は 5 例目です。過去 4 点の「フ クジュ」の墨書のうち最も古い日付は、 「文化九年申歳五月吉日 大光書 六十弐翁」とあり、同じ日付のものが別に 1 枚、 67 歳のものが 1 枚、日付も歳もないものが 1 枚存在します。ツル（6 例）、カメ（2 例）、マツ（1 例）は長寿を象徴するめ でたい文字です。フクジュも同様で、そのロシア文字によるローマ字書きが庶民の趣味に合い、相当流布したと思われま す。蘭学の普及とともにオランダ語のローマ字墨書が為政者や学者・知識人、富裕な好事家に好まれ、オランダ通詞が彼 らの求めに応じて、オランダ人の手をまねて内職とした現象と比べると、漂流民である光太夫のロシア文字はより庶民的 であり、光太夫は庶民のスター的存在として、一時的ではあれ、ロシアに対する庶民的な異国趣味を巻き起こしたと言え ます。 また、ツル、カメ、フクジュは文化年間（1804～1818）に巻き起こった園芸ブームと無縁ではなく、光太夫がこれらの めでたい言葉をロシア文字で書いたのは当時の福寿草ブームを反映しているものと思われます。当時、福寿草の鉢植えが 流行し、染め付けの鉢にはツルやカメや七福神が画かれており、晩年の光太夫は「フクジュ」とロシア文字を墨書するた びに、ロシアの厳しい冬に耐えて生き長らえ、帰国できた喜びを福寿草に見いだしていたのではないではないかと想像さ れます。今回発見された書は大変力強い筆致で、彼の意志の強さも感じ取ることができます。 光太夫が漂流し、ロシアという未知の地で生き長らえ、ロシア語やロシアの生活文化を身につけることができたのは、 日本人に理解のある多くのロシア人支援者のおかげであったとされています。とくに、ロシア人博物学者のキリール・ラ クスマンは、光太夫の最大の支援者として知られており、お互いに日本とロシアの文化や習慣の違いを教え合うなど、深 い友情で繋がっていました。 彼は光太夫の境遇に同情すると同時に、帰国が叶うように最大級の尽力を惜しまなかったとされています。光太夫が約 10 年の海外滞在で得た教訓は、言葉を一から習得したことによって、異なる文化や習慣の違い、外国人の考えを理解するこ とができるようになったことです。 光太夫の自筆書が発見された神田外語大学では、 「日本文化に関する国際的および学際的な総合研究ならびに世界の日本 研究者との研究協力」を目的とする「日本研究所」を設置しています。同研究所は、この目的を達成するため、洋学文庫 を含む洋学資料を継続的に収集しており、今後も貴重書籍研究および成果の社会的発信に役立てています。 ▲大黒屋光太夫 自筆ロシア文字墨書 ●松田 清（まつだ きよし） 1974 年 名古屋大学大学院文学研究科 修士課程退学 2007 年 京都大学博士 京都大学名誉教授 2015 年 神田外語大学 日本研究所 客員教授 ［著書（共著も含む）］ 『洋学の書誌的研究』 （2000 年第 19 回新村出賞受賞）、 『講談社オランダ語辞典』、 『山本読書室資料仮目録』、 『杏雨書屋 所蔵宇田川榕菴植物学資料の研究』 【取材受付】 ご取材は随時お受けいたします。ご取材希望の際は、下記までご連絡をお願いいたします。 ※本リリースは、大学プレスセンター、千葉県政記者クラブ、千葉市政記者会、千葉民報記者クラブにも配信されてい ます。 ▼本件に関する報道関係の方の問い合わせ先 学校法人佐野学園 学園広報部 担当：関根勇人 TEL: 03-3258-5837（平日 9:30～17:30） FAX: 03-5298-4123 E-mail: [email protected] ＦＡＸ返信先 03-5298-4123 (学校法人佐野学園 学園広報部 行) 取材申込書 ご取材いただける際は、お手数ですが本シートに必要事項をご記入の上、ご連絡いただければ幸いです。 お申込者と当日いらっしゃる方が異なる場合は、当日いらっしゃる方のお名前もご記入ください。 御社名 御所属 御芳名 御連絡先〈TEL〉 〈MAIL〉 当日ご取材担当者 ※お申込者と異なる場合は、以下ご記入ください。未定の場合は後日お知らせ下さい。 御所属 御芳名 （他 TEL 名） 車 MAIL 取材趣旨 媒体名 放映・掲載予定日 【お問い合わせ】 学校法人佐野学園 学園広報部 TEL 03-3258-5837(平日 9:00～17:30) MAIL [email protected] 台
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