Economic Monitor

Dec 14, 2016
No.2016-063
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
主席研究員 武田
淳
03-3497-3676 [email protected]
日銀短観(12 月調査)
:企業景況感は極めて良好ながら設備投資
には依然として慎重
12 月調査の日銀短観では大企業製造業の業況判断 DI が改善するなど企業景況感が極めて良好な
ことが確認された。一方で、設備投資計画は伸び悩み、企業が設備投資に依然として慎重なこと
も示された。設備・雇用とも不足感が一段と強まっており、特に設備投資の抑制姿勢が日本経済
の成長制約要因となることが懸念される。
企業景況感は極めて良好
本日、発表された 2016 年 12 月調査の日銀短観では、業況判断 DI(良い-悪い)が大企業製造業で前回
9 月調査の+6 から+10 へ上昇、大企業非製造業は前回と同じ+18 を維持した。製造業、非製造業とも事
前予想と概ね同水準であり特段のサプライズはないが、企業の景況感が極めて良好な状態であることが確
認されたことになる。
業種別の内訳を見ると、製造業(大企業)で改善が目立つのは石油・石炭製品(9 月+5→12 月+22)や
非鉄金属(+8→+20)、電気機械(▲5→+4)
、はん用機械(+6→+14)であり、それぞれ原油・非鉄金
属市況の改善や需要の持ち直しなどが背景とみられる。一方で、鉄鋼(0→▲7)や造船・重機等(▲18
→▲25)が悪化しており、原料炭価格の上昇(鉄鋼)
や年前半の円高進行(造船)が一因と考えられる。
なお、前提とする為替レート(2016 年度平均)は 9
月調査の 107.92 円から 104.90 円へ、実勢相場とは
逆の円高方向に修正されている点に留意が必要であ
る。つまり、輸出企業が多い大企業製造業にとって
円高方向への修正はネガティブな要因であるにもか
業況判断DIの推移(大企業、%Pt)
30
20
10
0
▲ 10
▲ 20
▲ 30
▲ 40
かわらず、全体として景況感が改善していることは、
▲ 50
実際の企業の状況が今回の数字の示す姿以上に良い
▲ 60
2007
可能性があるということである。
2008
2009
2010
2011
製造業
非製造業
製造業(新系列)
非製造業(新系列)
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 日本銀行
非製造業(大企業)については、電気・ガス(9 月+3→12 月+8)や対事業所サービス(+29→+33)な
どが改善した一方で、小売(+7→+3)、物品賃貸(+23→+20)、対個人サービス(+26→+23)、宿泊・
飲食サービス(+12→+9)などが悪化した。電気・ガス業の改善は原料コストの下落が料金値下げに先
行したため、小売業の悪化は販売の伸び悩みが背景にあるとみられる。
設備投資に対する慎重姿勢は崩さず
このように景況感は極めて良好ながら、設備投資に対する企業の姿勢は依然として慎重である。2016 年
度の設備投資計画(含む土地投資額)は、全産業規模合計で 9 月調査の前年比+1.7%から 12 月調査では
+1.8%への小幅上方修正にとどまった。12 月調査としては前年(+7.8%)どころか、過去 4 年のいずれ
をも下回っており、当面は設備投資に力強い拡大を期待できない状況にある。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
さらに、製造業に限って見ると 9 月調査の前年比+
6.1%から 12 月調査は+5.6%へ伸びが鈍化している。
設備投資計画の推移(前年比、%)
10
その背景には、前述の通り、前提とする為替相場が
8
円高方向に修正されており、それが故に製造業(規
6
模合計)の経常利益の見通しは 9 月調査から 3.1%下
4
2013
2
2012
方修正(前年比▲14.6%)されたことがあろう。その
▲2
が上方修正され、製造業の設備投資計画も見直され
▲4
判断には時間を要することになろう。GDP ベースで
2011
0
ため、今後は為替相場の実勢に合わせて業績見通し
る可能性はあるが、海外情勢が不安定な中で、その
2014
▲6
2016
2015
3月調査
6月調査
9月調査
12月調査
3月調査
実績
( 出所) 日本銀行
横ばい推移が続く設備投資が増加基調に転じるとしても、その時期はしばらく先になるとみられる。
設備・雇用とも不足感が一段と強まる
設備投資を抑制していることもあり、設備過剰感は着実に解消に向かっている。既存設備の過剰感を示す
生産・営業用設備判断 DI(過剰-不足)は、非製造業(9 月調査▲2→12 月調査▲3)のマイナス(不足
超過)が続き、製造業(+3→+2)が一段と改善したため、全産業で前回同様ゼロとなり生産設備の過剰
感がマクロ的には解消している。さらに、先行き(3 月見通し)は製造業で+1 へ改善が続き、非製造業
で▲5 まで不足感が高まり、全産業でも▲2 と不足状態を見込んでいる。
人手不足感は、設備以上に強まっている。労働力の過不足を示す雇用人員判断 DI は、全産業規模合計で
9 月調査の▲19 から 12 月調査では▲21 へマイナス幅が拡大した。内訳を見ると、大企業(9 月▲12→12
月▲13)
、中小企業(▲20→▲24)ともマイナス幅が拡大している。先行き(3 月)も中小企業で▲27 ま
で、規模合計でも▲23 へマイナス幅の拡大、人手不足が一段と強まる見通しとなっている。
こうした人手不足に対応するため、新卒採用計画(全産業全規模合計)は 2016 年度の前年比+4.6%から
2017 年度は+6.9%へ伸びが高まっている。新卒採用の積極化はここ数年続いており、一方で若年層の人
口は減少傾向にあることから、新卒就職市場は今後も一層売り手市場の様相を強めることとなろう。
ただ、新卒採用だけで不足した雇用を充足することは困難である。かといって、労働力人口が減少してい
る中で、女性や高齢者を含めた中途採用の拡大でも限界があろう。したがって、経済成長を高め企業の業
容を拡大するには、設備投資の積極化が不可欠であるが、今のところ企業にそうした動きは広がっていな
い。日本経済の成長のネックは、もはや需要サイドではなく、供給サイド、特に設備投資にあると言える。
生産・営業用設備判断DI(規模合計、過剰-不足、%Pt)
40
雇用人員判断DI(規模合計、過剰-不足、%Pt)
40
製造業
35
製造業
非製造業
30
非製造業
30
製造業(新系列)
20
製造業(新系列)
25
非製造業(新系列)
20
非製造業(新系列)
10
※最新期は見通し
0
15
▲ 10
10
5
▲ 20
0
▲ 30
▲5
▲ 40
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
※最新期は見通し
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
( 出所) 日本銀行
( 出所) 日本銀行
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