国際会議の概要について…三好 敏之

国際会議の概要について
2016 年10 月6-9日開催、於:アメリカ:ワシントンD.C.
SPOT
国際局国際機構課長 三好
敏之
国際局開発機関課長 土谷
晃浩
2016 年 10 月 6 日~9 日にかけて、アメリカ・
ワシントンにて、G20 財務大臣・中央銀行総裁
会議、国際通貨金融委員会(IMFC)
、世銀・IMF
合同開発委員会(DC)等の国際会議が開催され
た。
これらの会合は、年に一度行われる IMF・世銀
年次総会に合わせて行われるものであり、以下、
1.国際通貨金融委員会
(2016 年10 月8-9日)
国際通貨金融委員会(注)においては、世界経
済の動向等について議論が行われた。
(注)国際通貨・金融システムに関する問題について IMF
に助言及び報告することを目的として 1999 年に設
立。以降、春・秋の年 2 回開催。
本稿では、国際通貨金融委員会及び世銀・IMF 合
麻生大臣からは、世界経済には不確実性が存在
同開発委員会について議論の概要を紹介したい。
するが、だからこそ、過度な悲観論に陥ることな
く、適切に対処することの重要性を提起した。例
えば、最近の世界貿易の成長の減速を悲観する声
があるが、要因をしっかりと把握し対処すること
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国際会議の概要について
2016 年 10 月 6-9 日開催、於:アメリカ:ワシントン D.C.
が大事であることを指摘し、要因のうち、保護主
ついて発言するとともに各国総務と意見交換を行
義的な動きの広がりは懸念すべきものであり、各
った。
国が自由貿易の障害を除去すべく行動することが
求められることを発言した。
また、最近の人口構造の変化等に基づき、継続
日本からは、冒頭でキム総裁の再選を歓迎する
とともに、Forward Look に関して 3 点考えを提
示した。
第一に、世界が自然災害や難民、パンデミック
あるが、悲観論に基づき経済停滞に甘んじるので
といった多様な危機に直面する中、危機への予防
はなく、生産性や潜在成長率の引上げに正面から
及び備え、対応といった危機管理の各段階におい
取り組むことが重要であると述べた。そして、8
て適切な支援を行うことが重要であり、世銀グル
月に決定された経済対策を紹介し、
「働き方改革」
ープが有する危機関連ツールを集結させた
を含む構造改革や、リニア新幹線や国際戦略港湾
Global Crisis Response Platform の設立を歓迎
をはじめ生産性引上げにつながるインフラ整備を
した。
通じた民間投資の喚起等、潜在成長率の引上げに
取り組んでいることを説明した。
第二に、開発のための限られた資金について
は、深刻な貧困問題に直面し、他の資金源へのア
さらに、経済の好循環のため、継続的に賃金を
クセスが限られている国に重点配分することが重
上昇させることが極めて重要であることを指摘
要であり、IBRD が低中所得国向けの資金配分を
し、デフレ脱却を確実なものとして、持続的な経
強化する方向性が示されたことを歓迎した。
済成長につなげていきたい旨述べた。
第三に、IBRD が今後とも役割を適切に発揮す
金融政策においては、9 月に日銀が、金融緩和
るためには、引き続き、強固な財務基盤を確保す
強化のための新しい枠組みとして、長短金利操作
ることが重要であり、まずは収益構造の改善策を
やオーバーシュート型コミットメントを含む「長
検討することが必要であるとした。
短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を決
定したことを説明し、引き続き、政府・日銀が緊
密に連携し、金融政策と、財政政策や構造改革
を、一体として進めていく旨、発言した。
また、日本が世銀グループと連携して取り組む
途上国支援として、3 点を示した。
第一に、広範な危機への予防・備え、対応とし
て、①防災について、世銀東京防災ハブと連携し
また、公表されたコミュニケにおいては、
「全
て防災主流化に向けた努力を継続すること、②国
ての政策手段を個別にまた総合的に用いる」
、
「為
際保健について、本年 5 月の G7 伊勢志摩サミッ
替レートの過度な変動と無秩序な動きは、経済及
トで「国際保健のための伊勢志摩ビジョン」を策
び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを認
定し、世銀が設立表明した公衆衛生危機発生時に
識する」との記述が盛り込まれた。
おける迅速な資金供給メカニズムである PEF に
2.世銀・IMF 合同開発委員会
(2016 年10 月8日、ワシン
トンD.C.)
対して3年間で5,000万ドルの資金拠出を表明し、
世銀・WHO とともに来年東京で UHC の進捗に
係るハイレベルのモニタリング会合を開催するこ
と、③難民問題について、世銀グループが難民を
10 月 8 日午後には、第 94 回世銀・IMF 合同開
受け入れている国々をグローバルに支援する観点
発委員会が行われ、「2030 年に向けた世銀グルー
からグローバル譲許的資金ファシリティを立ち上
プのビジョン(Forward Look)
」について議論
げたことを評価し、本年 4 月の譲許的資金ファシ
が行われた。日本からは、浅川財務官が閣僚級制
リティへの貢献に加え、追加でグラント 6,000 万
限昼食会に、岡村大臣官房審議官(国際局担当)
ドルの協力を行うことを示した。
が開発委員会本会合に出席し、日本のスタンスに
第二に、途上国の経済成長や包摂的な発展にお
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的な経済停滞が今後不可避であると悲観する声も
国際会議の概要について
2016 年 10 月 6-9 日開催、於:アメリカ:ワシントン D.C.
いて重要な、
「質の高いインフラ投資」を推進す
るため、世銀に「質の高いインフラパートナーシ
ップ基金」を設立し、東京開発ラーニングセンタ
ー(TDLC)が活用することを期待するとした。
第三に、現在交渉中の IDA18 において、日本
は低所得国支援に果たす IDA の重要性に鑑み、
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引き続き相応の貢献をする考えであることを示し
た。
このような日本の指摘もあり、開発委員会のコ
ミュニケでは、難民、自然災害、パンデミック等
から生じる危機への予防・備え、対応や質の高い
インフラの重要性が盛り込まれた。また、世銀グ
ループの財務状況の強化に係る議論について、
2017 年の年次総会までに結論を得ることを目指
すことを各国が確認した。
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