ネット炎上と情報社会の未来: 統計分析による実態解明と予防・対処

ネット炎上と情報社会の未来:
統計分析による実態解明と予防・対処
2016.11
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
専任講師
山口真一
[email protected]
© 2016 Yamaguchi. All rights reserved.
炎上とは何か
炎上とは何か
 炎上の背景




昨今のインターネット普及によって、非対面コミュニケーションが容易に。
不特定多数に対して、個人が情報を発信することも可能。一億総発信時代。
それに伴い炎上事例が増加。平均して1日1回以上発生と言われる(年間
1,000件という統計も)。
炎上:ある人や企業の行為・発言・書き込みに対して、インターネット上で多数
の批判や誹謗中傷が行われること。
<炎上の歴史>
●2004年に無料ブログやSNSが多くサービス
を開始したことに端を発する(伊地知,
2009;田代・折田, 2012)。
●炎上と言う言葉が定着したのは2005年前
後といわれている(小林, 2015)。
●Twitterが一般的に使われるようになった
2011年から急増(山口, 2015)。
3
インターネット利用動向(総務省「平成26年度通信利用動向調査」より)
炎上とは何か
 炎上の特徴:今までの批判集中との違いは何か





インターネット普及前から批判が集中する現象はあった。何が変わったか。
<1>拡散力の違い:潜在的不満者へ無料で迅速に伝達。
<2>情報発信の容易化:誰でも発信可能。過激行動にも。
<3>批判の可視化:追随的参加者を生む。心理的負担に。
<4>サイバーカスケードの存在(Sunstein, 2009)
【サイバーカスケード】
●インターネットが持つ、同じ思考や主義を持つ者同士を繋げやすいという特徴から、
集団極性化を引き起こす。
●情報の氾濫するネットでは、情報のフィルタリングが常に行われている(好ましい
情報を共有する人たちだけで繋がる)。
※集団極性化・・・集団で討議した結果、討議前の各個人の意見よりも、より先鋭
化した決定がなされること。
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炎上の分類と事例
炎上の分類と事例
 炎上対象が「何をしたか」の分類





I. 反社会的行為や規範に反した行為(の告白・予告)。
II. 何かを批判する、暴言を吐く。デリカシーの無い発言をする。特定の層を不快
にさせるような発言・行為をする。
III. 自作自演、ステルスマーケティング、捏造の露呈。
IV. ファンを刺激。
●著名人、法人、一般人と、幅広く対象となり得る。
V. 他者と誤解される。
●特に企業が対象となりやすいI~IIIについて見る。
※ステルスマーケティング
●消費者に宣伝だと気付かれないように宣伝すること。
●企業や広告代理店が製品の良い口コミを書いたり、企業から報酬を受け取った芸能人が良いブ
ログ記事を書いたり等、形態はさまざま。
●ステルスマーケティングは、消費者の情報選択を誤らせてしまう(口コミは中立と思っている)。
●イギリスでは消費者保護の観点から違法であるとされている。
●日本でも、消費者庁が2011年に発表したガイドラインで、実際の物よりも明らかに優良であると
誤認させるような口コミは「不当表示として問題となる」としている。
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炎上の分類と事例
 I型:規範に反した行為 「グルーポンスカスカおせち事件」





グルーポンにて21,000円のおせちを半額販売。
元旦に届かない、サンプル写真と異なる等の苦情が殺到。食材偽装も発覚。
ネットメディア・まとめサイトだけでなく大手メディアで取り上げられ大炎上。
神奈川県と厚労省が衛生面の懸念により立ち入り検査。消費者庁が景品表示
法違反調査。
消費者が証拠画像を容易に発信可能、かつ、それをまとめるまとめサイトの存在
により大炎上に発展。企業の規則違反行為に対し、消費者の主張がとおりやす
くなったという側面。
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炎上の分類と事例
 II型:批判・暴言・不快にさせる 「HIS東大美女ツアー事件」


HISが『東大美女図鑑』の学生たちが 『あなたの隣に座って現地まで楽しくフライト
してくれる企画』を開始。
「セクシスト(性的差別者)の企画」「セクハラ・性差別」等の批判が集中し、「「
不快な思いをさせる企画内容があった」として即日中止。
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炎上の分類と事例
 II型:批判・暴言・不快にさせる 「ICT女子プロジェクト炎上事件」



総務省IT関連情報発信用アカウントが「ICT女子プロジェクト」を紹介。
ICT女子プロジェクトの募集要項に、年齢制限や、全身写真の添付といった項目
があり、「差別的」「アイドルの募集のよう」と炎上。
総務省ICTは不適切な企画を紹介したことを謝罪。ICT48募集ページは削除。
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炎上の分類と事例
 II型:批判・暴言・不快にさせる:「民進党アカウント炎上事件」



熊本地震時、民進党の公式アカウントが自民党を批判するツイートを行う。
「震災時に政争をするな」などの批判が集中し、炎上
炎上を受け、ツイートは削除され、謝罪文を掲載。
10
炎上の分類と事例
 III型:ステマの露呈 「ペニーオークションステマ事件」



2012年にペニーオークションサイトであるワールドオークション関係者が逮捕され明
るみに。当該サイトはサクラや自動botを使用して入札妨害を行い、入札に参加し
た消費者から手数料を搾取するという詐欺行為を行っていた。
それにもかかわらず、多くの芸能人がブログ内でワールドオークションにて落札し
たと投稿しており、かつ、サービスを勧めていた。
運営から依頼されて書いた記事であり、報酬を受け取っていて、かつ、落札等して
いなかったことが後に判明。大炎上に。20人以上の著名人が加担。警察から事
情聴取を受けたほか、活動自粛、ブログ休止等を行った。
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炎上の社会的影響
炎上の社会的影響
 炎上がもたらした良い影響


企業の不正行為に対し、消費者の声が通りやすくなった(弱い立場の声も通り
やすく)。
炎上が知られることで、著名人の暴言や一般人の反社会的行為に対する抑止力
が生まれた。
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炎上の社会的影響
 炎上のミクロ的影響


炎上対象者の心理的負担増加、社会生活への影響。進
学・結婚の取り消し等。
企業であれば株価の下落、企業イメージの低下。倒産し
た企業も。マスメディアに取り上げられると株価に負の影響
(Adachi & Takeda, 2016) 。まとめサイトも影響。
 炎上のマクロ的影響


炎上から逃れる方法は沈黙。情報発信の停止をまねく。
「表現の自由」は今まで政府による規制の議論が中心だっ
たが、炎上は「大衆による表現の萎縮」という新しい現象。
かつ、その規制は過剰なものとなりつつある。
 窮屈な社会へ


NHKスペシャル「不寛容社会」
荻上チキ「僕らはいつまで『ダメ出し社会』を続けるのか」
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炎上の社会的影響
 表現の萎縮がもたらす結果①:中庸的なサービスばかりに



企業や人々は「批判されにくい中庸的なサービス」しか展開出来なくなる。
その結果、企業は競争力を失っていく。
長期的には、多様な消費者も自分にベストなサービスやコンテンツがなくなり、効
用(幸福度)が低下する。
 表現の委縮がもたらす影響②:極端な意見の人のみが残る


言論から撤退する人間が偏っており、極端な意見の持ち主のみ発信を続ける。
意見の過激化と議論の劣化が発生する。
●極端な意見の持ち主は炎上に強く、情
報発信を続ける。
●中立・中庸な意見の持ち主は情報発
信を停止。
●結果として偏った意見分布となる。
田中・山口(2016)『ネット炎上の研究』
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「ネット世論」は本当に世論なのか?
―統計分析による炎上の実態解明―
「ネット世論」は本当に世論なのか?
 「ネット世論」が社会を動かした事例:五輪エンブレム事件
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「ネット世論」は本当に世論なのか?
 ごくわずかの人が起こしている炎上


過去全期間で1.1%、1年に絞ると約0.5%の人しか書き込んでいなかった(
2014年調査、約20,000人対象)。2016年調査でも約1.3%と約0.7%。
先行研究でも似た結果が得られている(吉野、2016)。
●ネットアンケートのバイアスコント
ロール後の値。
●コントロール前は、過去全期間で
の加担率が1.5%だった。
炎上に書き込んだことがあるか(約20,000人を対象)
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有識者には知られていた
●ひろゆき氏:2ちゃんねるの炎上
の主犯は5人以下。
●川上量生氏:荒らしって実は少な
いんです。
●上杉隆氏:靖国問題でブログが
炎上して700以上のコメがついたが、
IPを見たら書いていたのはたった4人。
●遠坂夏樹氏:ニコニコ動画で罵
詈雑言コメントが飛び交っているとき
に、数人のコメントを消すと平和にな
る。
「ネット世論」は本当に世論なのか?
 「ネット世論」と今までの世論の違い



電話調査や訪問調査の「世論」は、受動的に述べた意見が反映。
「ネット世論」では、能動的に述べた意見しか反映されていない。言
いたい人が言った結果形成された世論。
確固たる信念を持ち強く批判する人ほど、強い思いをもって多く発信
する。偏っている可能性がある。
マスメディア・政府等
マスメディア・政府等
ソーシャルメディア等
観察
世論
調査
受動的に
発信
能動的に
発信
ネット世論
大衆の一部
大衆の一部
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「ネット世論」は本当に世論なのか?
 同じ人が何度も書き込んでいる実態
●過去1年に1件しか書き込んでいない人は30%程度。2~3件が最も多い。
●1年間に11件以上書き込んでいる人が10%以上存在。
●最大で書きこんだ炎上について、1件当たり51回以上の人が3%存在。
●「世論」というには、一部の人の声が大きすぎると考えられる。
過去1年間に炎上に書き込んだ件数
2016年調査
予備調査対象:約40,000人
本調査対象:約2,000人
本調査取得1年以内書き込み者:277人
過去1年において何件の炎上に書き込んだか
1件当たり最大何回書き込んだか
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「ネット世論」は本当に世論なのか?
 炎上加担の動機

動機は「正義感」に基づいている人が多い(70%程度)。
●ネット上では自分の意見と同じ
人が同じように批判しているため、
正義感はより満たされ、過剰に。
●社会通念上良くないこと(発
言)をした人は格好の餌であり、そ
の人たちを批判することで正義感は
満たされる。
アイスケース炎上に対して書き込んだ理由
2016年調査
調査対象:約40,000人
書き込み者:145人
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「ネット世論」は本当に世論なのか?
 モデル分析による実態解明

炎上加担(書き込み)行動に対して、「個人の客観的属性」と、「個人の主観
的属性」が影響を与えているというモデル。
𝑷 𝒀𝒊 = 𝟏
𝒍𝒐𝒈𝒊𝒕 𝑷(𝒀𝒊 = 𝟏) = 𝒍𝒐𝒈
𝟏 − 𝑷 𝒀𝒊 = 𝟏
= 𝜶 + 𝒁𝟏𝒊 𝜷 + 𝒁𝟐𝒊 𝜸
●𝑌𝑖 :個人iが炎上に参加したことがあれば1、そうでなければ0となるダミー変数。
●𝑃(𝑌𝑖 = 1):𝑌𝑖 = 1となる確率。
●𝑍𝑖1 :個人iの客観的属性ベクトル。性別、年齢、住んでいる地域等。
●𝑍𝑖2 :個人iの主観的属性ベクトル。「ネット上では非難しあって良いと思っている
か」「ネット上で嫌な思いをしたことがあるか」「世の中は根本的に間違っていると
思うか」等。
●𝛼・𝛽・𝛾:それぞれの変数・ベクトルにかかるパラメータ。
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「ネット世論」は本当に世論なのか?
 炎上参加者の属性


計量経済学的なモデル分析の結果、「男性」「年収が高い」「課長以上」等の属
性が、炎上に参加しやすい人の特徴であることが明らかに。
社会的地位があり、知識のある人が攻撃を加えているという実態。
 炎上参加者の価値観




「ネット上では非難しあって良い」「世の中は根本的に間違っている」「ずるい奴が
のさばるのが世の中」「相手の意見が間違っているなら、どこまでも主張して相手を
言い負かしたい」等の考えを持っている。
社会に対して否定的で、攻撃的で、不寛容な人というプロフィール。
これらを選択している人は決して多くない。価値観に特殊性が見られる。
尚且つ、「炎上は社会を良くしている」と肯定的だと、炎上加担件数も炎上書き
込み回数も増加する傾向。
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「ネット世論」は本当に世論なのか?
 不寛容社会の正体



他者を攻撃する「正義感」が社会を窮屈に。
人の本質は不寛容(集団において、ある一方向
以外に対して排他的になるのは、昔からあった)。
誰でも自由に発信可能になった。そして、強い思い
を持てば持つほど多く書き込み、声が大きくなるよう
な場所がインターネット。
 萎縮する側にも課題




差別や誹謗中傷を除き、批判するのも「表現の
自由」である。
発信が本当に問題があったかどうか検討したうえで
謝罪対応等をする必要がある。
過度の表現の萎縮はするべきではない。
NHKあさイチ「気をつかいすぎ?社会」。
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●「同感」でも23%。多くの
人は同感できない。
●わずかの批判で取りやめる
「超萎縮社会」。萎縮側にも
問題がある。
炎上の予防・対処方法
炎上の予防・対処方法
 炎上の予防方法




①炎上しやすい話題を知っておく。具体的には、食べ物・宗教・社会保障・格差・
災害・政治・戦争・性別等多岐にわたる。
②コミュニティの規範を知っておく。規範はサービスごとに異なる。
③SNSを利用した広報は複数人でやる。
④ガイドラインを制定したり、従業員への教育を徹底したりする。
ガイドライン例) ※携帯可能なカード型形式等が望ましい(小林、2015)
1. 常に誠実で良識ある態度を
こころがけてください。
匿名でも容易に投稿者が特
定されます。乱暴な言葉遣い
はそれだけでも“火種”になりか
ねません。社会人としての常識
とマナーをわきまえた言動をとっ
てください。
2. やらせ行為、および誤解を
まねく発言は避けてください。
当社製品・サービスを手放し
で褒めたたえる連続投稿などは
不自然さを感じさせ、不信感
を与えます。スパム行為にも注
意してください。
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3. 投稿内容はネット上に長期
間にわたり保存することを注意
してください
思い付きの投稿は一瞬です
が、投稿は拡散・コピーされネッ
ト上に長期間残り続けます。
投稿ボタンは一呼吸おいて押
すように心がけてください。
炎上の予防・対処方法
 炎上の対処方法




炎上加担者が少ないことを知っておく。パニックになってすぐ反論したり、アカウントを
削除して隠ぺいしたりといった対応は良くない。
謝罪や取り下げも慎重にするべきである。
1.炎上の規模を考える。「まとめサイト・ネットメディア等に取り上げられ大炎上」
にいかなければ、致命的な炎上ではないと考えられる。
2.批判が殺到する中で、擁護コメントも少なからずついていたら、「ある層のネッ
トユーザの規範に反してしまったが、行為としては特に誤りはない」可能性が高い。
 SNSリスク対策のタスクフォース



SNSリスクは、従業員の個人アカウントでの投稿が発端となるケースもあるため、公
式アカウントをもたない企業にすら起こりうる。
部門横断型のタスクフォースを組むことが予防・対策として考えられる。
組み込むことが推奨されるのは、有事の窓口となる広報・広告部門、火種となりう
る顧客窓口部門や統括を行う総務部門など。
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炎上の予防・対処方法
 炎上の対処の失敗例:ペヤング虫混入事件





ペヤングに虫が混入しているというツイートが写真とともにアップされ、ネット上で話題
に。当初は投稿者の嘘を疑う意見が多かった。
ペヤング製造元である、まるか食品の担当者が投稿者を訪問。返金したものの、「
お互いのためだ」とツイートの削除を求めたことが明かされる。=隠ぺい工作と捉え
られまるか食品側が批判の対象になっていく。
まるか食品は、製造過程での混入はないと断言し、メディアにもそのように説明。
外部機関により、製造過程での混入が濃厚との判断が下され、大炎上に。
初期対応のまずさが炎上激化を招いた例であり、消費者の声を封じ込めること
は困難であることが示された。
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炎上の予防・対処方法
 炎上の対処の成功例:チロルチョコ虫混入事件





チロルチョコに虫が混入しているとのツイートが写真とともに投稿され、ネット上で話
題に。
チロルチョコ社は即座に対応、製造過程以後に混入したものであると発表(限定
販売の物であり、特定が容易であった。また、害虫の侵入についての詳しい説明
も行う。
結果、短時間で収束。冷静で適格な対応に称賛の声も。
事実関係を冷静に述べ、管理状態に問題があった消費者への反論でなく、不安
の払拭を第一にした投稿を行ったことが、成功した理由といえる。
悪意のない告発者は自社のファンでもある。安易に批判するべきではない。
29
炎上への社会的対処
炎上への社会的対処
 政策的対処:インターネット実名制の実施結果と課題



ネット掲示板等の利用に本人確認を課すというもの。韓国での導入実績がある。
匿名性がネットでの誹謗中傷を増加させるとの観点から施行。
表現の自由という観点から匿名性の強制撤廃は違憲とされ、廃止された(2012
年)。
*インターネット実名制の効果*
●誹謗中傷の抑制効果は小さく、一般の書き
込み数の大幅な減少を招くのみの結果となっ
た(柳,2013)。
●掲示物数(日次):1319件→400件
●誹謗掲示物割合:有意な変化はなし
●大韓民国放送通信委員会(2011)でも
同様の結果:悪意あるコメントの割合は
13.9%→13.0%
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炎上への社会的対処
 正しい情報を提供するプラットフォーム



デマによる炎上・バッシングは極めて悪質。正しい情報をソース付きで示すプラットフ
ォームを提供することで、デマによる炎上を止めることが出来る。
First Draft News:Googleを中心にソーシャルメディア企業や欧米報道機関が
参加している非営利団体。ソーシャルメディアに投稿される情報の検証ソフトを共同
で開発し、加盟社に提供する。
DISAANA:Twitter上の災害関連情報をリアルタイムで分析し、情報を発信する
だけでなく、ツイート情報の矛盾からデマを検証。
●民間の取り組み「Hoaxmap(デママッ
プ)」(ドイツ)。
●ドイツでは難民に関するデマを流す事例
が増加。
●Hoaxmapでは、事件があったとされる場
所を地図上に表示し、ピンをクリックすると事
件の概要とその虚偽を証明。
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炎上への社会的対処
 マスメディアの在り方の見直しと期待





炎上を取り上げる際、多様な意見の一つであることを強調して報道する。
ただ批判をするだけでなく、ポイントを明確にし、冷静な議論を呼びかける。
逆に、ネットの罵詈雑言を見て「ネットは怖い」「ネットで意見表明している人は口
汚い」等と報道してはいけない。それもごく一部しか見ていない。
ごく一部の過激な批判を恐れて表現を委縮してはいけない。
インターネットと早さで競争するがあまりネット上の情報を安易に利用するのではな
く、質で勝負して差別化を図っていく。
※炎上に加担するマスメディア※
①炎上を大げさに報道…実際に加担している人はごくわ
ずかであるが、大きく報道、拡散。※炎上認知者の約60%
はテレビのバラエティ番組から認知(吉野、2016)。
②炎上したことを厳しく追及・積極的に取り上げる…ネット
発信のバッシングに乗っかり、著名人を厳しく追及する例が多
い。また逆に、擁護する時にネット全体をバッシングする例も。
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「不謹慎狩り」では擁護の声が多く、批判を書き込ん
でいる人はごくわずかであった。しかし、大々的に報道。
炎上への社会的対処
 ネットリテラシー教育の促進



小中高生に、炎上の知識や適切な情報発信の形を教育する。
炎上やネット情報に対する理解を深めることで、炎上被害を回避させ、炎上参加も
防ぐ。情報発信と読み解き、両側面からの教育。
低年齢化に伴い、幼少期からネットに触れており、早期の教育は必須。
 教育の要素
①ネットもリアルも変わらない:ネット上での言
葉遣いも良識に従う。
②炎上参加者は少ない:実際に書き込んでい
るのはごくわずか。小さい世界。
③情報を鵜呑みにしない:情報は常に「偏って
いる可能性がある」「デマである可能性があ
る」ことを知っておく。
④フィルタリングの可能性:情報選択において、
自分と近いものを見ているだけの可能性がある。
34
要約・考察
要約・考察
 炎上とは

平均して1日1回以上発生。著名人・企業・一般人問わず対象になる。
 企業が対象になりやすい炎上




I. 反社会的行為や規範に反した行為(の告白・予告)。
II. 何かを批判する、暴言を吐く。デリカシーの無い発言をする。特定の層を不快
にさせるような発言・行為をする。
III. 自作自演、ステルスマーケティング、捏造の露呈。
公式アカウントトラブルのみに絞っても約16%の企業が経験。
 炎上の社会的影響



ミクロ的視点:炎上対象となった人の人生に大きな被害を与えたり、企業に大き
な損害を与えたりする。
マクロ的視点:人々が、1日1回以上発生している炎上を恐れ、自由に公の場
で発信をしなくなってしまう(萎縮効果)。
ネットの持つ大きな価値「誰でも自由に情報発信出来る」をなくしてしまう。
36
要約・考察
 ネット世論は世論とは言い難い


炎上において書き込んでいる人はごくわずか。同じ人が何度も書き込んでいる。
既存の世論と異なり、能動的に述べた意見しか反映されていない。
 炎上加担者の実態






炎上加担確率が高いのは、世帯収入が高い人や、男性、課長クラス以上。
ある程度社会的地位があり、確固たる知識を持つ人の方が、批判しやすい。
「ネット上では非難しあって良い」と考えている人が多い。また、社会に対して否定
的、攻撃的な人が多い。
炎上加担動機は正義感に基づく人が多く、7割程度。
炎上加担者は「炎上は社会を良くしている」と考えている人が多い。
特に「社会を良くしている」と考えている人は、炎上加担件数も、1件あたりの書き
込み回数も多い。
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要約・考察
 炎上の予防方法




①炎上しやすい話題を知っておく。具体的には、食べ物・宗教・社会保障・格差・
災害・政治・戦争・性別等多岐にわたる。
②コミュニティの規範を知っておく。規範はサービスごとに異なる。
③SNSを利用した広報は複数人でやる。
④ガイドラインを制定したり、従業員への教育を徹底したりする。
 炎上の対処方法




炎上加担者が少ないことを知っておく。パニックになってすぐ反論したり、アカウントを
削除して隠ぺいしたりといった対応は良くない。
1.炎上の規模を考える。「まとめブログ等に取り上げられ大炎上」にいかなけれ
ば、致命的な炎上ではないと考えられる。
2.批判が殺到する中で、擁護コメントも少なからずついていたら、「ある層のネッ
トユーザの規範に反してしまったが、行為としては特に誤りはない」可能性が高い。
部門横断型のタスクフォースを組む。
38
要約・考察
 「不寛容」な情報社会のゆくえ




産業革命以降100年以上産業社会(モノの豊かさを重視する価値観・社会)
が続いたことを考えると、現在は情報社会の黎明期。
産業社会黎明期も、労働問題・フリーバンキング等多くの問題があった。→現在は
誰もが平等に過剰な情報発信力を持っている状態といえる。
現在の情報社会(面白さ・楽しさといった「情報的」な豊かさを重視する価値観・
社会)黎明期の問題として炎上が起こっている。
「過剰な批判」を批判する空気の形成、ネットファシリテーターの登場、有意義な
議論を出来るサービスの登場等、「表現の自由」を保障したまま発展していく必
要がある。
39
参考文献
参考文献

参考文献

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的本人確認制度・インターネットリテラシー教育の在り方―. 情報通信政策レビュー, 11, 52-64.
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山口真一. (2016). 炎上加担動機の実証分析. 2016年社会情報学会(SSI) 学会大会予稿.
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Corporate communication studies, (20), 66-83.
41