東邦大学複合物性研究センター 2015 年度報告書 光機能性研究グル-プ 縮合多環芳香族化合物の合成研究 渡邊 総一郎 1. 研究目的 縮合多環芳香族は,長波長光の吸収や発光特性に優れ,電子材料などへの応用が期待され ることから注目を集めている.またそれらの性質は,置換基の種類や置換の位置,環内へのヘ テロ原子の導入等により,さまざまに変化させることができると期待される.我々は,これま での研究で,1,3-ジスチリルベンゼン誘導体の酸化的光環化反応において,置換基を適切に選 ぶことで,これまで合成の難しかったジベンゾアントラセン誘導体を選択的に得る方法を見 いだした.この反応を複素環化合物に適用し,新規な金属配位子を合成し,それらの物性を評 価することを目的とした. 2. 2015 年度の研究計画 スチリル基を置換基として持つビピリジン誘導体の酸化的光環化反応により,共役系の伸 びた金属配位子を合成する検討をおこなった. 3. 2015 年度の研究成果 スチリル基を持つビピリジン誘導体の合成及びその光環化反応の検討 4,4’–ジメチル-2,2’-ビピリジン 1 の一方のメチル基を酸化してアルデヒド 2 とし,Wittig 反 応によりスチリル基を導入して化合物 3 を得た.3a に対し酸化的光環化反応をおこなったと ころ,化合物 4a と 5a がそれぞれ収率 28%,11%で得られた.ここで,臭素は標的化合物をさら に誘導体化するための足がかりとなる部分である.メトキシ基を持つ 3b のアセトニトリル 溶液に金属塩化物の水溶液を添加して UV スペクトルの変化を追跡したところ,鉄,コバルト, ニッケルでは 3:1 錯体を,亜鉛とは 2:1 錯体を形成していることを示唆する結果を得た. 図1.ビピリジン誘導体 3 の合成と酸化的光環化反応 -1- 東邦大学複合物性研究センター 2015 年度報告書 スチリル基を2つ持つビピリジン誘導体の合成及びその光環化反応の検討 ジアルデヒド 6 の Wittig 反応により合成したビピリジン誘導体 7 の酸化的光環化反応を おこなったところ,生成する可能性のある化合物 8-10 のうち化合物 8 は得られず,化合物 9 と 10 がそれぞれ収率 42%,8%で得られた.スチリル基が1つの場合には,化合物 4a が優先的 に得られた(図 1)ことを考慮すると,化合物 7 でも,はじめに主として化合物 4a と同じ方向 に環化が起こり,2回目の環化がこれとは逆向きに起こることにより主生成物である 9 が得 られると推定される. 図 2.ビピリジン誘導体 7 の合成と酸化的光環化反応 効率的な光環化反応の検討 ヨウ素を酸化剤として用いる光環化反応では,反応中に生じるヨウ化水素を捕捉するため にプロピレンオキシドを用いる方法が広く用いられている.本研究でもこの方法を試みてい るが,プロピレンオキシドに由来すると思われる副生成物を完全に除去することが難しい. また,図 1,2 に示すように収率もよいとは言えない.そこで,研究を円滑に進めるために,スチ ルベン誘導体をモデル基質として用いて,効率的な光環化反応の検討をおこなっている.プ ロピレンオキシドに代えて無機塩基を用いる方法や,ヨウ素の代わりに金属ヨウ化物塩を用 いる方法などを検討中であり,従来法より簡便で収率のよい方法が見つかりつつある.反応 条件を最適化することにより,縮合多環芳香族化合物の合成研究を加速できるものと期待さ れる. 4. 成果公表リスト 原著論文 1) S. Takahashi, K. Aizawa, S. Nakamura, K, Nakayama, S. Fujisaki, S. Watanabe, H. Satoh Accumulation of alkaline earth metals by the green macroalga Bryopsis maxima. Biometals, 28, 391-400 (2015). DOI 10.1007/s10534-015-9843-y 2) S. Ishii, Y. Niwa, S. Watanabe Deoxyfluorination of α-N-phthaloyl cycloalkanones with bis(2-methoxyethyl) aminosulfur trifluoride (Deoxo-Fluor). -2- 東邦大学複合物性研究センター 2015 年度報告書 J. Fluorine Chem., 182, 41-46 (2016). 学会発表,シンポジウム講演 1) 松島 智也, 小林 清香, 渡邊 総一郎 ヨウ化物塩,安定ニトロキシルラジカルを用いたスチルベン誘導体の光環化反応. 日本化学会第 96 春季年会 京田辺市 京都 日本(2016.03) 2) 齋藤 弘, 内田 朗, 渡邊 総一郎 トリプルヘリセンの合成と構造. 日本化学会第 96 春季年会 京田辺市 京都 日本(2016.03) 3) 沢内 大和, 渡邊 総一郎 フルオロシクロブテン環を有するアンチブレット化合物の合成. 日本化学会第 96 春季年会 京田辺市 京都 日本(2016.03) 4) 浅面 里美, 矢吹 円蘭, 渡邊 総一郎 ピリジンおよびビピリジンのスチリル誘導体の合成と蛍光特性. 日本化学会第 96 春季年会 京田辺市 京都 日本(2016.03) 5) 樋山 裕晃, 渡邊 総一郎 ベンゾ[h]イソキノリンのスチリル誘導体の合成および蛍光特性. 日本化学会第 96 春季年会 京田辺市 京都 日本(2016.03) -3-
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