ベネズエラ:OPEC 減産合意を守るのか?

更新日:2016/12/7
調査部:舩木弥和子
ベネズエラ:OPEC 減産合意を守るのか?
(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas、Business Monitor International 他)
1. 2016 年 11 月 30 日に開催された OPEC 産油国通常総会で、2017 年 1 月 1 日より 6 ヶ月間、加盟国
全体で原油生産量を 117 万 b/d 引き下げることで合意が成立した。ベネズエラは、基準原油生産量
206.7 万 b/d から生産量を 9.5 万 b/d 引き下げ、原油生産水準を 197.2 万 b/d とすることとなった。
2. OPEC Monthly Oil Market Report によると、ベネズエラ政府が示した同国の原油生産量は、2016 年
1 月の 255.8 万 b/d から 10 月には 231.6 万 b/d へと 9.5%減少、二次ソースによる同国の原油生産
量は、1 月の 232.5 万 b/d から 10 月には 206.7 万 b/d へと 11%減少した。
3. ベネズエラの原油生産量減少要因の主なものは、同国の政治・経済状況悪化、資金不足によるサー
ビス会社の事業縮小や希釈剤不足等であるが、これらの要因や同国の石油産業や PDVSA を取り巻
く状況に改善は見られず、さらに生産量が減少することが懸念されている。したがって、ベネズエラ
については、厳しい経済状況から、できうれば OPEC 総会で定められた原油生産制限を越えて生産
を行なうこともありうるが、引き続き生産量が減少し、原油生産制限を下回る量の生産しかできず、結
果的に、生産制限を守ることになると見る向きもある。
2016 年 11 月 30 日、OPEC 産油国通常総会が開催され、2017 年 1 月 1 日より 6 ヶ月間、加盟国全体
で原油生産量を 117 万 b/d 引き下げることで合意が成立した。生産制限は、市場の状況や展望によって
はさらに 6 ヶ月間延長することもありうるという。ベネズエラは基準原油生産量 206.7 万 b/d から生産量を
9.5 万 b/d 引き下げ、原油生産水準を 197.2 万 b/d とすることとなった。また、アルジェリア、クウェート、
非 OPEC 産油国 2 ヶ国とともに監視委員会を設立し、この生産制限の遵守状況を監視することとなっ
た。
ベネズエラは、この生産制限を守ることができるのだろうか。
OPEC Monthly Oil Market Report によると、ベネズエラ政府が示した同国の原油生産量は従来より減
少傾向にあったが、2016 年に入るとその傾向を強め、1 月の 255.8 万 b/d から 10 月には 231.6 万 b/d と
9.5%減少した。特に、5 月は 237 万 b/d と 4 月の 249 万 b/d から一ヶ月で 12 万 b/d 減少した。二次ソ
ースによる同国の原油生産量は、2015 年は 235~238 万 b/d とほぼ横ばいで推移していたが、2016 年
に入り減少、1 月の 232.5 万 b/d から 10 月には 206.7 万 b/d と 11%減少した。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図 1.ベネズエラの原油生産量
(OPEC Monthly Oil Market Report に基づき作成)
2016 年に入ってからのベネズエラの原油生産量減少の主な原因として、同国の政治・経済状況悪化、
資金不足によるサービス会社の事業縮小や希釈剤不足等があげられる。以下に、ベネズエラの原油生
産量減少要因、石油産業や PDVSA を取り巻く状況についてまとめたが、いずれについてもあまり改善
は見られておらず、さらに生産量が減少することが懸念されている。
したがって、ベネズエラについては、厳しい経済状況から、できうれば OPEC 総会で定められた原油
生産制限を越えて生産を行なうこともありうるが、引き続き生産量が減少し、原油生産制限を下回る量の
生産しかできず、結果的に、生産制限を守ることになると見る向きもある。
政治・経済状況の悪化、混乱
IMF によると、ベネズエラの経済成長率は 2014 年が-3.89%、2015 年が-6.22%で、2016 年は-
10%、インフレ率は 2014 年が 62.17%、2015 年が 121.74%で、2016 年は 475.81%となる見通しである。
食料や医薬品を始めとする生活必需品の不足が著しく、Maduro 大統領の退陣を求める声が高まってい
る。9 月1 日には Maduro 大統領の罷免を求める大規模デモに 100 万人(野党発表)が集結した。Maduro
大統領は 2013 年に、Chávez 前大統領の死去を受けて行われた大統領選で当選したため、任期は
Chávez 前大統領から引き継いだ 2019 年1 月までとなっている。憲法の規定では、Chávez 前大統領就任
から 4 年が経過する 2017 年 1 月 10 日より前に、国民投票で Maduro 大統領が罷免されれば新たに大
統領選挙が実施されるが、それ以降であれば副大統領が昇格するとされており、野党はそれ以前に
Maduro 大統領を罷免したいと画策してきた。ベネズエラの選挙管理委員会は大統領罷免を問う国民投
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
票実施のための署名集めの日程を 2016 年 10 月 26~28 日の 3 日間と設定していたが、10 月 20 日にな
って、大統領罷免の手続きを中止することを決定した。これに野党が反発、野党が過半数を占めるベネ
ズエラ議会は 23 日、Maduro 政権による大統領罷免を求める国民投票の妨害はクーデターであると宣言
する決議を採択、26 日には各地で野党主導により大規模なデモが行なわれた。ローマ法王が仲介に入
り、30 日に政府と野党が緊張緩和に向け協議を開始したが、今のところ大きな成果は上がっていないと
いう。
石油部門では、Del Pino PDVSA 総裁兼石油鉱業相が 7 月 27 日、2009 年に実施された石油関連資
産接収は誤っていた、資産の所有者は補償を受けるべきだ、E&P に関する契約を外資や民間セクター
が過半を所有するジョイントベンチャーモデルに変更すべきだ、と発言したと伝えられた。しかし、Del
Pino 総裁は 8 月 4 日に、全てのことは国の規制下にあり、元に戻すことはないとして、先の発言を撤回し
た 1。8 月 2 日には、石油関連資産接収について同様の発言を行なった Miguel Perez 産業・商業大臣
兼経済担当副大統領が解任されており、政府上層部内に意見の対立があることがうかがわれる。
10 月中旬には、Rafael Ramirez 氏が総裁であった 2004~2014 年の PDVSA の使途不明金が 110 億ド
ルであることが議会の調査により判明し、議会はこの責任は Ramirez 氏にあるとした。Ramirez 氏は議会
の調査は無責任な嘘であるとしてこれを否定した。さらに、最高裁判所が、PDVSA の使途不明金は
Ramirez氏の責任であるとする議会の調査を無効とする判決を下した。このPDVSAの使途不明金につい
ては、米検察当局が訴追手続きを開始し、米国内にある個人財産を没収する準備を進めている。
サービス会社の操業縮小
2016 年4 月以降、PDVSA からの支払いの滞りを理由に、Schlumberger、Halliburton 等サービス会社が
相次いでベネズエラでの操業を削減すると発表した。
6 月末には、Del Pino 石油鉱業相が、Halliburton と Weatherford が既存債務を借り換えることで PDVSA
と合意した発表した。ただし、合意した債務額や融資条件等詳細については明らかにされなかった。
Schlumberger に関しては、6 月 13 日に、Maracaibo 湖で操業中の掘削プラットフォーム 6 基の操業を
続けることで Schlumberger と PDVSA が合意したとされた。しかし、7 月末に、PDVSA から支払いが行な
われないので、Schlumberger は、Maracaibo 湖で操業していた掘削プラットフォーム 6 基中 4 基の操業を
停止していることが明らかになった。9 月になると Schlumberger はこれらの掘削プラットフォーム 6 基全て
の契約を終了させると発表した。PDVSA はこれを引き継ぎ、Schlumberger が解雇した 358 名の労働者を
雇用したという。
その後、PDVSA は Orinoco Belt での坑井掘削作業の入札を実施した。PDVSA が 2015 年 8 月に実施
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LatAmOil 2016/8/9
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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
した Orinoco Belt で 600 坑の坑井を掘削する作業の入札で、スイスに本社を置くコロンビア企業 Trenaco
がこの事業を落札したが、PDVSA のジョイントベンチャーパートナー企業から Trenaco は技術的にも資
金的にも能力不足であるとの指摘があり、PDVSAがTrenacoとの契約をキャンセルし、入札を再実施した
ものである。その結果、Schlumberger 等と 30 ヵ月間に 32.3 億ドルを投じリグ 18 基を用い 480 坑の坑井
を掘削する契約が締結され、PDVSA は生産量を 25 万b/d 増加させるとしている。PDVSA は、また、中国
企業 Shandong Kerui Group Holding 等と 1.3 億ドルを投じ Maracaibo 湖の 931 坑の坑井を修復、再活性
化し、2017 年に石油生産量を 50,600b/d 増加させる計画であるとした。しかし、サービス会社に対し継続
的な支払いが行なわれない限り、作業は進まず、生産増につながらない可能性があると懸念されてい
る。
サービス会社やサプライヤーへの支払いができず、PDVSA は外国の資機材への依存を減らさざるを
えない状況にあると考えられるが、同社はこれについて国内の知識、技術を利用することを目指しており、
自前の資機材を使うことが増えているとしている。Del Pino PDVSA 総裁によると、その結果、ここ数ヶ月、
Orinoco Belt の生産量は、多くのアナリストの見方に反し、増加しているという。
石油サービス事業と採鉱活動に従事することを目的に、ベネズエラが 2016 年 2 月に設立した防衛省
付属のサービス会社 CAMIMPEG (Military Company for the Oil, Mining, and Gas Industries)に関しては
報道がなく、活動は行なわれていないと見られていた。ところが、9 月に CAMIMPEG がベネズエラのサ
ービス会社 Pacific Rim Energy と 25 年にわたり東部 Sucre 州及び Monagas 州の油田の生産を再活性化
する契約を締結し、60 日以内に作業を始めることが明らかになった。PDVSA と Pacific Rim Energy による
と、これらの油田の埋蔵量は 96 億 bbl で、バレルあたり 8~10 ドルで開発ができるという。Pacific Rim
Energy は同事業に関心を持つ投資家、パートナーを求めているとしていることから、CAMIMPEG には技
術力、資金力が不足していることがうかがわれ、同社がベネズエラでの活動を縮小するサービス会社の
代わりを務めることは難しいと思われる。
同国のリグ稼動数は、2015 年半ばから 70 基前後で推移していたが、2016 年 4 月から減少し、10 月に
は 48 基と 50 基を下回る水準となった。リグ数減少の時期がサービス会社の事業縮小発表時期と一致し
ており、その影響によるものと考えられる。新たに締結された契約に基づいて、また、CAMIMPEG 等国
内のサービス会社や資機材を用いて、PDVSA がベネズエラでの掘削活動を活発にし、期待するような
生産増につなげることができるのか、状況を注視していきたい。
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図 2.リグ稼動数推移
(Baker Hughes ホームページを基に作成)
希釈剤不足
ベネズエラは 2019 年に原油生産量を 600 万 b/d に引き上げることを計画している。その中心となるの
は Orinoco Belt 超重質油の生産増とされ、ベネズエラは Orinoco Belt の生産量を 2019 年に 400 万 b/d
に増やすことでこの目標を達成するとしてきた。
ところが、Orinoco Belt の探鉱・開発に注力した結果、在来型油田の管理やメインテナンスが十分に行
なわれなくなり、軽質、中質の原油生産量が減少してしまった。一方、PDVSA の資金不足から計画して
いたアップグレーダーの建設が進まず、Orinoco Belt で生産される超重質油を輸送する際に必要となる
希釈剤の量が増加している。そのため、ベネズエラは軽質原油を多く輸入する必要に迫られるようにな
っている。
しかし、財務状況の厳しい PDVSA は希釈剤の代金を支払うことができず、Orinoco Belt のジョイントベ
ンチャーパートナーに負担を求めたり、主要港 Jose 沖合にタンカーが多数停泊したりするという事態が
起きていたが、最近ではベネズエラに原油を供給している企業が前払いでなければベネズエラに原油
を納入しないとしているという。
投資額の減少、希釈剤不足により、生産増を続けてきた OrinocoBelt の原油生産量も 2016 年に入り減
退しているとされており、この状況に拍車がかかることが懸念されている。
石油会社の動向
PDVSA がジョイントベンチャーのパートナーである石油会社に配当を支払っていないことが明らかに
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なる一方、一部の企業は PDVSA とのプロジェクトに投資を行なうとしており、動向が注目される。
2016 年中ごろ、PDVSA と ONGC は、未払いとなっていた 2009~2013 年の配当を原油で支払うことで
合意した。両社は2008年にジョイントベンチャー、Petrolera Indovenezolanaを組み、Orinoco BeltのJunín
Norte 鉱区の開発(San Cristóbal プロジェクト)を進めてきた。ONGC は、2008 年分の配当5,620 万ドルに
ついては PDVSA から受領したものの、2009~2013 年分 5 億 3,763 万ドルについては受領しておらず、
この分について支払いが行なわれることとなった。なお、2014 年以降、PDVSA が ONGC に配当を支払
ったのかは明らかにされていない。その後 2016 年 11 月に、PDVSA と ONGC は Petrolera
Indovenezolana に 3.18 億ドルを投じることで協定を締結した。San Cristobal プロジェクトの生産量は
2013 年の 3.4 万 b/d から現在 2 万 b/d に減少しており、これを 4 万 b/d に引き上げる計画であるという。
以前から、配当が支払われないためにベネズエラの事業から撤退したいとしていた Harvest Natural
Resources(HNR)は、2016 年7 月時点では株式売却を通じて CT Energy Holding にベネズエラ資産を売
却する計画としていたが、10 月に Petrodelta の権益を Delta Finance に売却し、ベネズエラから撤退する
ことになった。Delta Finance はメディア、醸造業、電気通信、不動産等で富を築いたベネズエラの実業家
Oswaldo Cisneros 氏が築いた企業である。PDVSA と Delta Finance は 11 月に、Petrodelta の生産量を今
後 5 年間で 4 万 b/d から 11 万 b/d に引き上げるために、11.3 億ドルを投じることで契約を締結した。
同じく 11 月に、PDVSA と CNPC が 22.7 万 b/d の石油の追加生産等を目的に 22 億ドルを投資するこ
とで合意した。明らかにされたプロジェクトは以下の通りである。
●両社のジョイントベンチャー、Petrozumano に 2 億 2,500 万ドルを投じ、坑井やインフラを再開し、石
油生産量を 1.5 万 b/d に増やす。
●両社のジョイントベンチャーSinovensa が蒸気圧入のパイロットプロジェクトを実施、生産量を 16 万
b/d から 23 万 b/d に引き上げる。
●5 億ドルを投じ両社のジョイントベンチャー Petrourica の生産量を EOR で 3 万 b/d 増加させる。
●軽質原油を生産する 500 坑の坑井を改修し、生産量を 42,800b/d 増加させる。
●中国広東省に、ベネズエラが 40%、CNPC が 60%を保有する掲揚製油所(精製能力 40 万 b/d)を
建設。主にベネズエラ原油を精製処理する。
この他、2015 年 8 月以降、PDVSA から ENI、Repsol への配当支払いが遅れていると伝えられている。
一方、PDVSA は、Repsol と両社のジョイントベンチャー Petroquiriquiri がオペレーターをつとめる
Quiriquiri、Mene Grande、Barúa、Motatán 油田の生産量を増やすため 12 億ドルを投じることで合意、
Rosneft と Orinoco Belt で生産を行なうジョイントベンチャー5 社を支援するため 200 億ドルを投じること
で合意したという。
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ガス田開発は進展か
ENI、Repsol が 2009 年に Cardon IV 鉱区で発見した Perla ガス田の開発は、PDVSA が開発に参加し
ていないことが影響しているのか、石油関連のプロジェクトと比較すると順調に進んでいるようにみえる。
2015 年 7 月に生産を開始し、生産量は 2015 年末に 450MMcf/d、2016 年 8 月には 510MMcf/d に達し
た。2016 年 5 月には Repsol の Miguel MartinezCFO が同ガス田の生産量は目標どおり増加していると語
った。Eni、Repsol は 2017 年には 800MMcf/d、2020 年には 1.2Bcf/d を生産する計画である。
Perla ガス田が生産量を増やしていることから、PDVSA は 9 月 28 日、12 月 1 日より Perla ガス田より
50MMcf/d のガスを Antonio Ricaurte パイプラインを経由してコロンビアに供給する契約を、コロンビア企
業 Petromil Gas と締結した。ただし、ベネズエラ国内ではガスの供給不足が続いており、コロンビアへの
ガス輸出が開始されるのは 2017 年になるとの見方もある。
ベネズエラ東部のガス田開発について、PDVSA は 2016 年 2 月に、Rosneft と Mariscal Sucre プロジェ
クトのPatao及びMejillonesガス田開発のためのジョイントベンチャーを設立することでHOAを締結した。
7 月に両社は、Patao、Mejillones、RioCaribe ガス田の開発に関するフィージビリティスタディを実施し、
2017 年上半期までにエネルギー石油省に結果を提出する計画であるとした。両社は 3 ガス田の生産量
は年間 317.8Bcf に達するとみている。
11 月には、PDVSA が Mariscal Sucre プロジェクトの Dragon ガス田の生産を 2016 年末か 2017 年初に
開始する予定であるとの報道があった。2010 年末に PDVSA と設計・調達・建設管理契約を締結した
Technip が同ガス田にインフラを設置し、当初生産量は 300MMcf/d を計画しているという。ベネズエラは
Dragon ガス田で生産されたガスをトリニダード・トバゴに輸出する計画だが、初期フェーズの生産は国内
向けとする計画だ。
精製能力の減少
ベネズエラ国内の製油所の精製能力は合計で 130 万b/d とされているが、低油価、生産減による資金
不足で精製部門への投資は少なく、PDVSA は製油所の故障箇所を修理することもできず、製油所を最
適な水準で操業できていない。
同国最大の製油所、Paraguana Refining Center (CRP)は Amuay 製油所(精製能力 645,000 b/d)と
Cardon 製油所(同 310,000 b/d)から構成されるが、稼働率はそれぞれ 50%、40%程度となっている。両
製油所では軽質、中質の原油を主に処理しており、軽質、中質原油の生産減も稼働率に影響を与えて
いる。El Palito 製油所(同 140,000 b/d)は閉鎖中、Puerto la Cruz 製油所(同 18.7 万 b/d)も軽質原油が不
足しているため精製能力の半分以下で稼動しているという。
その結果、ベネズエラ国内では石油製品不足が著しい。国内市場の不足分を補うために石油製品を
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輸入しようとしても、PDVSA には十分な資金がなく、輸入できない。石油製品輸出は 2014 年、2015 年は
約 40 万 b/d であったが、2016 年は 15%程度減少していると見られている。
PDVSA の精製能力減少の問題はベネズエラ国内に限ったものではない。
PDVSA は 1985 年以降 10 年毎のリース契約を結びキュラソー島の Isla 製油所と Bullen Bay ターミナル
の操業を行なってきた。同製油所は 1918 年に開設され、精製処理能力は 33.5 万 b/d で、主にベネズエ
ラの重質油を処理しているが、エクアドルやコロンビア、メキシコの重質油からナイジェリアの軽質油や
WTI も精製可能である。キュラソー政府は 2016 年7 月に、PDVSA の維持、管理が悪く、同製油所の精製
能力が低下したとして、契約更新(現在の契約は2019年末に満了、2017年末までに解除を通告しなけれ
ば自動延長)とともに、設備近代化費用 15 億ドルを支払うように PDVSA と協議を試みた。しかし、PDVSA
は 9 月に、更新について話し合うには時期尚早であるとキュラソー政府に返答した。その数日後、キュラ
ソー政府は広東振戎と Isla 製油所の操業と約 100 億ドルの設備近代化事業に関して MOU を締結した。
現在、両者が製油所近代化とガスターミナル建設計画、中国系金融機関が資金を提供することについて
協議を行なっている。広東振戎にとっては新規製油所を建設するよりは費用がかからず、アジア以外の
市場へのアクセスが良くなり、貯蔵設備や VLCC 受入港を確保できる等利点が多い。一方、PDVSA は、
精製能力だけでなく、VLCC の受け入れ港、貯蔵やブレンディングの能力を失うことになる。ただし、広
東振戎が同製油所を高性能の製油所に改修すれば、PDVSA は設備近代化費用や維持費を支払わず
に、使用料の支払いのみで同製油所を使用することが可能となるとの見方もある。
PetroCaribe への石油供給量減少
ベネズエラは 2005 年にカリブ諸国と PetroCaribe を創設、市場価格よりも安い価格でベネズエラから
その他の加盟国に 30 万 b/d の石油を供給、これを通してカリブ諸国への影響力を強めてきた。ところ
が、原油生産量減少に伴いこれらの国への輸出が減少している。
PetroCaribe 加盟国の中で最大の供給先であるキューバへは原油約 10 万 b/d が供給され、キューバ
は商品やサービスを提供することで対価を支払ってきた。ところが、2016 年に入り、ベネズエラからの供
給量は約 20%減少している。また、これまで中質原油が中心だったが、より重質の原油が輸出されるよう
になっている。国内需要の 50%をベネズエラからの供給に依存してきたキューバは、不足分を補うため
アルジェリア等他の原油供給源を探している。ベネズエラから輸入する原油を処理していた Cienfuegos
製油所(精製能力 55,000 b/d)は 1980 年代に建設され、PDVSA が 49%、Cupet が 51%を保有する製油
所だが、PDVSA からの原油供給減少により、精製処理量が半減している。2007 年には PDVSA がキュー
バと協力して同製油所の改修と精製能力を 8 万 b/d に引き上げることで合意したが、ベネズエラの経済
状況の悪化で実現していない。ジャマイカもキューバと同様の状況にあるという。
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PDVSA デフォルトの可能性
ベネズエラは 2007 年以降、ベネズエラが原油や石油製品を中国に輸出することで返済する融資
(Loan for Oil)約 600 億ドルを中国から得てきた。ところが、原油価格下落により、ベネズエラが中国向け
に輸出する原油等の量が当初想定していたよりもはるかに多くなってしまった。そこで、両国は当初の合
意を調整し、中国は少なくとも 2 年間、元本の支払いを免除するとともに、Sinovensa、PetroUrica
PetroZumano の生産増に充てるために 50 億ドルを新たに融資することとなった。加えて、原油価格が年
初よりは回復したことで、ベネズエラ及びPDVSAは2016年中にデフォルトに陥ることを避けられるとの見
方が強まっていた。Del Pino 石油鉱業相も 6 月に、PDVSA の生産コストは平均で 12 ドル/bbl で、原油価
格がおよそ 50 ドル/bbl であれば PDVSA は今年後半の債務支払い(10 月 14 億ドル、11 月 28 億ドル)
ができ、デフォルトを避けることができるであろうと語っていた。
ところが、9 月 13 日、PDVSA は、2016 年 10 月、12 月、2017 年 4 月および 11 月を償還期限とする債
券から 2020 年償還債への乗り換えを投資家に提案した。十分に応募者が集まらないため、PDVSA は、
条件を変更、締め切りを 10 月 6 日から 12 日、17 日、21 日と延期した。PDVSA は 10 月 17 日には、少な
くとも 50%の債務交換が行なわれなければ、債務支払いを行なうことができなくなると、デフォルトとなる
可能性を示唆していた。21 日までに、PDVSA が交換を希望していた 53.25 億ドルのうち 28 億ドル分に
ついて交換が成立し、PDVSA はデフォルトを回避することができた。
このような状況を受け、10 月末には Standard and Poor's が PDVSA の格付けを選択的デフォルトに格
下げしたが、11 月には選択的デフォルトから CCC-'に引き上げている。
デフォルトを回避し、格付けを戻した PDVSA だが、11 月末には再び債務支払いが遅れているとの情
報があり、次の多額の債務返済期限である 2017 年 4 月にはデフォルトとなる可能性があると見る向きも
ある。
以
上
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