海砂採取が環境や漁業に与える

佐賀県海砂採取限度量の決定について
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見直しの背景
(1)海砂採取が環境や漁業に与える影響への懸念
○
唐津湾沖の玄海海域で行われている海砂の採取については、環境や
漁業に与える影響について懸念が高まっている。
○
県では、海砂採取が環境や漁業に対してどのような影響を及ぼして
いるのか等を把握するため、平成22年度から平成25年度において、
海砂採取環境影響調査検討会を設置し、環境影響調査を行ったところ、
同委員会から、
・
海砂採取が底質や底生生物相に及ぼしている影響を把握すること
はできなかった。また、海砂採取が漁業に及ぼしている影響の程度
を把握するまでには至らなかった。
・
ただし、海砂採取により海底面は大きく改変されており、これま
での調査結果からは十分には解明されていないものの、この海底面
の物理的変化が、長期的には生物相に大きな影響を与える可能性が
あることは否定できない。
・
追跡調査(モニタリング)を継続することにより、海砂採取が自
然環境や漁業に及ぼす影響を確認していくとともに、関係機関や採
取事業者と連携を図りながら、環境負荷を軽減するための枠組みを
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創設し、その取組みを行っていくことが望ましい。
などの報告を受けた。
○
この報告を受け、環境負荷を軽減するための取組の一つとして、海
砂採取限度量の見直しを行った。
(2)見直し前の海砂採取限度量
○
見直し前の海砂採取限度量は130万㎥である。
○
ただし、平成24年度に海砂採取事業者が違法に超過採取を行って
いることが発覚し、この超過採取160万㎥を平成24年から平成
29年にかけて限度量から差し引いていており、その結果、限度量は
次のとおりとなっている。
・平成24年から平成28年までの5年間
毎年 [限度量]130万㎥-[超過採取]30万㎥=100万㎥
・平成29年
[限度量]130万㎥-[超過採取]10万㎥=120万㎥
(3)海砂の建設用資材としての役割と状況
(役割)
○
本県で採取される海砂は、主にコンクリートやアスファルト混合物
を作る際に用いられる材料(細骨材)として使用されている。
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○
河川砂は、現在は砂の量が減少しており、河川の河床低下の防止の
ため堆積量相当分が採取されるのみとなっている。
○
陸砂及び山砂については、本県では花崗岩が風化してできた真砂土
が多く、そのままでは細骨材に適さないこと等から、現在採取されて
いない。
○
岩石(砕石)を砕いた砕砂等については、砕石全体に占める割合が
一割程度と少なく、今後、生産量を増やす余地は十分に残されている
が、そのためには多額の設備投資や体制整備等が必要である。
○
輸入砂は、以前は天然砂の輸出国であった中国が輸出を原則禁止し
ていること等から、現在、極めてわずかとなっている。
(骨材需要動向調査)
○
海砂採取限度量を見直すにあたり、建設用資材としての細骨材の需
要について調査(骨材需要動向調査)を平成26年度に実施し、次表
のとおり細骨材の需要量の推計を行った。
(単位:千㎥)
区分
H21
H22
H23
H24
H25
H26
H27
H28
H29
H30
H31
細骨材
828
835
899
882
1074
1058
1078
1093
1112
1135
1150
海砂
633
647
689
686
861
847
862
874
890
909
920
*細骨材は海砂、河川砂、陸砂、山砂、輸入砂から構成されている。
*細骨材の需要量の推計方法
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[平成25年度まで]
生コンクリート用砂、コンクリート二次製品用砂、アスファルト合材用砂、
モルタル等用砂ごとに既存統計資料をもとに整理・算定。
サンドパイル、中詰、置換、盛土、敷均し、埋設管のクッション、吹き付け
等に用いる工事用砂は建設投資額に金額当たりの砂原単位を乗じて推計。
[平成26年度以降]
佐賀県の建設投資額を推計し、この建設投資額に基づいた細骨材トータルの
需要量を推計(海砂の需要量は細骨材トータルの需要量の80%を見込む)
○
海砂は県内の細骨材需要量の概ね75%から80%を占めており、
本県における貴重な建設用資材と言える。
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海砂採取限度量の見直し方針の整理と意見聴取
(1)見直し方針の整理
○
海砂採取限度量を見直すにあたって、以下のとおり見直し方針を整
理した。
○
海砂採取による海底面の物理的変化が、長期的には生物相に大きな
影響を与える可能性があることは否定できないことから、環境負荷を
軽減するための取組の一つとして次の考え方により海砂採取限度量を
見直すこととする。
ア 海砂採取限度量は、県内の建設工事等に必要な海砂の量を上限と
する。
イ
ただし、大型投資や災害対応等の予測できない事業を考慮し、海
砂の県内需要量に対応するため、海砂採取限度量は一定の余裕量を
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見込んで設定する。
ウ
海砂採取限度量は、数年ごとに見直すものとする。見直しに当た
っては、すでに一定の利活用が進んでいる砕砂等を中心とした代替
骨材の利用状況を勘案しながら、徐々に削減する方向で検討する。
エ
採取限度量を削減する場合は、これにより海砂単価の上昇や海砂
の県内への供給が困難になることがないよう配慮する。
○
ただし、現在継続している海砂採取環境影響調査の追跡調査(モニ
タリング)において異常が確認された場合は、別途必要な措置をとる
ものとする。
(2)意見聴取
○
この海砂採取限度量の見直し方針について、海砂採取事業者や海砂
採取海域に係る漁業協同組合、海砂採取に関係する団体(石材関係団
体、建設業団体、コンクリート関係団体)
、環境保全等分野の専門家(佐
賀県海砂採取限度量検討会)から意見聴取を行うとともに、パブリッ
クコメントを実施し、県民の意見を募集した。
○
その結果、「海砂採取は環境や漁業に悪影響を与えるので禁止すべ
き」、「採取量を抑制するため、県外への搬出禁止など規制を強化すべ
き」という意見がある一方、海砂採取を産業として評価する意見や海
砂価格の上昇など限度量見直しによる影響を懸念する意見など様々な
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意見が寄せられた。
○
また、佐賀県海砂採取限度量検討会において、
「環境負荷を軽減する
ための取組として、海砂採取限度量を現行の130万㎥から3割程度
削減(90万㎥~100万㎥)することが望ましい。」という意見がと
りまとめられた。
○
これらの意見を踏まえ、以下のとおり海砂採取限度量を決定した。
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海砂採取限度量の決定
(1)基本スタンス
○
長い年月をかけて育まれた自然環境というものは、一度改変される
と元に戻るには相当の年月を要することは容易に想像されるため、し
っかりと保全して後世に引き継がれていかなければならない。
○
一方で、玄海地区の海砂については、貴重な建設用資材として活用
され、本県の産業や県民生活を支えていることも考慮する必要がある。
○
こうしたことから、海砂採取の限度量については、本県の産業や県
民生活への影響に配慮しつつ、自然環境に与える負荷を可能な限り軽
減する方向で決定する。
(2)海砂採取限度量の決定
○
海砂採取限度量の決定にあたっては、海砂採取が自然環境に与える
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負荷を可能な限り軽減する方向性を踏まえつつ、海砂が県内の細骨材
の概ね75%から80%を占めている状況にも配慮し、県内の建設工
事等に必要な海砂の量(平成29年:89万㎥~平成31年:92万
㎥)を確保することとする。
○
また、大型投資や災害対応等予測できない事業に一定程度対応でき
るよう配慮する。
○
海砂採取限度量を削減する場合は、これにより海砂単価の上昇や県
内への供給が困難になることがないよう配慮する。
○
以上の考え方を踏まえ、平成29年から海砂採取限度量は100万
㎥とする。
(3)今後、配慮すべき点
○
海砂採取限度量は、本県の産業や県民生活への影響に配慮しつつ、
自然環境に与える負荷を可能な限り軽減するという基本スタンスを踏
まえ、砕砂等を中心とした代替骨材の利活用の状況を勘案しながら、
徐々に削減する方向で必要な時期に見直しを行う。
○
ただし、見直しにあたっては、本県において海砂が貴重な建設用資
材として活用され、本県の産業や県民生活を支えていることに配慮し、
海砂単価の上昇や県内への供給が困難になることがないよう十分に配
慮する。
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○
現在継続している海砂採取環境影響調査の追跡調査(モニタリング)
において異常が確認された場合は、別途必要な措置をとるものとする。
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