RENEWABLE ENERGY Medium-Term Market Report 2016 エグゼクティブ・サマリー Japanese translation Market Analysis and Forecasts to 2021 国際エネルギー機関 その主な使命はこれまでも、そして今日も次の二つである。石油供給の物理的途絶に対して 加盟国が集団的に対処することで、エネルギー安全保障を促進すること。加盟29か国、および その他の国々に対し、信頼できる、手頃な価格の、かつクリーンなエネルギーを確保するための 方策について、権威ある調査分析を行うこと。IEAは、加盟国間のエネルギー協力に関する包括的 プログラムを実施している。各加盟国は、石油純輸入量90日分に相当する備蓄を義務づけられて いる。IEAの目的は次の通りである: n あ らゆる種類のエネルギーにつき、特に石油供給が途絶された場合に効果的な緊急対応を行う能力を 維持することによって、加盟国に確実かつ十分な供給へのアクセスを確保すること。 n 特に気候変動の要因となる温室効果ガスの削減を通じ、 グローバルな経済成長および環境保護を向 上させる持続可能なエネルギーを促進すること。 n エネルギーデータの収集および分析を通じ国際市場の透明性を向上させること。 n エネルギー効率の改善や低炭素技術の開発及び活用等を通じ、将来のエネルギー供給を 確保し、環境への影響を軽減するエネルギー技術に関するグローバルな協力を支持す ること。 n 非加盟国、産業界、国際機関、その他の関係者との取り組みや対話を通 じ、 グローバルなエネルギーの課題への解決策を見出すこと。 © OECD/IEA, 2016 International Energy Agency 9 rue de la Fédération 75739 Paris Cedex 15, France IEA加盟国: オーストラリア オーストリア ベルギー カナダ チェコ デンマーク エストニア フィンランド フランス ドイツ Secure ギリシャ Sustainable ハンガリー Together アイルランド イタリア 日本 韓国 ルクセンブルク オランダ ニュージーランド ノルウェー ポーランド ポルトガル スロバキア スペイン スウェーデン スイス トルコ 英国 米国 本出版物の使用および配布は 制限されている。利用条件はオ ンライン上に公開されている。 www.iea.org/t&c/ 欧州委員会もIEA の活動に参加している。 エグゼクティブサマリー エグゼクティブサマリー 2015 年－再生可能エネルギー電気にとって記録的な 1 年 2015 年は、陸上風力発電（63GW）及び太陽光発電（49GW）の記録的な導入量により、再生 可能エネルギー電気の設備容量の年間増加量が過去最大の 153GW に達した。これは、カナダ の累積の全発電設備容量以上の値に相当する。再生可能エネルギーは、初めて、全発電設備 の正味の年間導入量の過半を占め、また世界の累積設備容量において石炭火力を上回った。 この再生可能エネルギーの記録的な導入に伴い、発電コストが引き続き急激に低下し、陸上 風力、太陽光とも長期報酬価格(公表ベース)は 30USD/MWh から 50USD/MWh の範囲という記録 的に低いものであった。これらのプロジェクトは、北米、南米、中東そして北アフリカとい った広範な市場において、予測期間のうちに運転を開始するとみられている。さらに、欧州 での大規模な洋上風力発電事業の最近の入札の結果、2021 年までに新規プロジェクトにお いて 40%から 50%のコスト削減が可能であることが示された。これら契約価格をそのまま平 均発電コストとみなすべきではなく、仕上がりのコストは、最終的に運用開始時で異なる可 能性はあるが、それでも、明らかにコスト削減が加速していることのシグナルとなり、経済 性の拡大、政策決定者と投資家にとっての再生可能エネルギーへの魅力を高めている。 本中期再生可能エネルギー市場レポートは、陸上風力の発電コストが 2021 年までに平均し てさらに 15%低下し、大規模発電事業用の太陽光発電のコストは 25%下落すると見込む。持 続的な政策支援及び技術進歩、並びにより良好な再生可能エネルギー資源を有するより新し い市場への拡張といった要因が複合してこうした傾向を支えている。さらに、政府支援の入 札システムを含む、公募あるいは指名による競争的価格入札を通じて決められる長期の電力 購入契約（Power Purchase Agreement）の利用拡大に後押しされ、財務条件の改善が特に重 要な役割を担っている。 政策の改善が再生可能エネルギー電気のより楽観的な見通しの原動力となる 世界の再生可能エネルギー電気の設備容量は、2021 年までに 42%（すなわち 825GW）増加す る。全体として予測は 2015 年版より、一層（13%）楽観的なものとなっている。この上方修 正の大部分は、主要 4 市場における政策変更と市場見通し改善によるものである。米国だけ で上方修正分のほぼ半分を占めるが、これは、太陽光と陸上風力の拡大加速につながる連邦 税控除の中期的な延長によるものである。中国の再生可能エネルギー電気の見通しは、支援 政策に支えられ、第 13 期五か年経済計画において目標も（事実上）高められており、より 楽観的となっている。インドでは、政策環境の改善、競争的入札、及び発電コストの低減を 主因として、太陽光発電の見通しがより明るいものとなっている。最近のメキシコにおける 電力部門改革及び入札システムも、中期的な成長の期待を高めている。 © OECD/IEA, 2016 アジアは再生可能エネルギー電気の設備容量拡大の原動力である 中国は引き続き世界の再生可能エネルギー拡大の紛れもないリーダーであり、世界の設備量 の成長の 40%近くを占める。中国の大気汚染に対する懸念と望ましい政策環境が、この成長 M EDIUM -T ERM R ENEWABLE E NERGY M ARKET R EPORT 2016 3 エグゼクティブサマリー の原動力となっている。2021 年には、世界の太陽光及び陸上風力の設備容量の 1/3 以上が 中国にあることとなる。しかし、政策の改善及び期待する電力部門の改革をもってしても、 系統統合が中期的に引き続き重要な課題となる。さらに、エネルギー効率の改善を含むいく つかの要素により電力需要拡大ペースが鈍化すると同時に、中国では未だかなり多くの石炭 火力、原子力及び再生可能エネルギー設備が建設中であることを踏まえると、電力設備過剰 という新たな課題が中期的に浮上する可能性がある。 インドの太陽光発電の設備容量は、政府の野心的な目標及び 2014 年以来契約価格がすでに 半分に下がる実績を示している競争入札により、8 倍に拡大すると予測される。東南アジア では、電力需要の拡大、化石燃料輸入の増加、大気汚染への懸念が、再生可能エネルギーの 導入目標と支援政策の重要な推進要素となっており、同地域のエネルギーミックスの多様化 が進むことが期待される。 米国における再生可能エネルギーの設備容量の拡大ペースは欧州連合（EU）を上回る。州レ ベルの RPS（Renewable Portfolio Standard）制度に支えられる中期的な連邦税控除の延長 により、天然ガスの現在の低廉な価格の状況においてさえも、陸上風力及び太陽光の経済的 な魅力は改善している。この政策の改善に伴い、米国は予測期間中、再生可能エネルギーの 新設量が世界で 2 番目に大きい市場になる。電力需要拡大が鈍いこと、再生可能エネルギー の規制、市場設計の停滞及び 2030 年目標の取り組み体制が未決定であることが、多くの主 要国における政策の根強い不確定要素であるとともに、EU における再生可能エネルギー電 気の拡大が過去に比べて鈍化する主な理由となる。 太陽光及び陸上風力が設備容量拡大を牽引する一方、水力の新設は鈍化する 太陽光及び陸上風力が、両方合わせて、世界の再生可能エネルギー電気の予測期間中の設備 容量拡大の 75%を占める。太陽光は、世界の再生可能エネルギーの設備容量の増加分のほぼ 40%となる一方、陸上風力は再生可能エネルギー電気の新設発電量における最大の電源とな る。水力発電は、様々な途上国でのプロジェクトが遅れる一方、中国及びブラジルで事業化 する大規模な在来型プロジェクトが減少することにより、拡大が鈍化する。他の再生可能エ ネルギー技術は、成長ペースは劣るものの、それでも相当拡大する。それらのうちでも、バ イオエネルギーが最も顕著な分野であり、特に欧州での石炭からバイオマスへの転換、アジ アの新興国、特に中国における廃棄物発電及びバイオガスプロジェクトの開発など注目すべ き取り組みが顕著である。洋上風力の設備容量は、欧州での普及が牽引するが、中国におけ る拡大も大きく、予測期間を通じて 3 倍になると見込まれる。それらに加えて、太陽熱発電 （中国及びモロッコ）、地熱発電（インドネシア及びトルコ）及び海洋エネルギー（フラン ス及び韓国）も緩やかに拡大する。 © OECD/IEA, 2016 再生可能エネルギーは世界の電力需要拡大の大きな割合を供給することになるが、地域 による大きな違いが目立つ 全発電量に対する再生可能エネルギーのシェアは、2015 年の 23%強から 2021 年の 28%近く に上昇する。エネルギー効率が改善し、経済活動のエネルギー集約度が低下することにより、 世界の電力の需要拡大は過去 5 年間に比べて鈍化する。平均すると、世界の再生可能エネル ギーからの発電量は、予測期間中の全発電量拡大分の 60%以上を担うと期待される。しかし、 4 M EDIUM -T ERM R ENEWABLE E NERGY M ARKET R EPORT 2016 エグゼクティブサマリー 地域間でみると大きな相違が目立つことになる。先進国のほとんどは（例えば、EU や米 国）、予測期間における再生可能エネルギーの発電量の増加は、電力需要の増加幅より大き く、電力部門の低炭素化を加速化することとなる。電力需要が引き続き大幅に増加すると見 込まれる中国、インドや ASEAN（東南アジア諸国連合）といった新興国の多くでは、再生可 能エネルギーは新規発電増分の一部を満たすにとどまると予想される。 バイオ燃料及び低い石油価格：複雑な相互作用 運輸部門の燃料需要におけるバイオ燃料のシェアは、2009 年から 2015 年までの上昇ペース から鈍化し、2015 年の 3%から 2021 年の 4%への上昇にとどまる。バイオ燃料の混合規制は、 部分的にバイオ燃料を低廉な石油価格の環境から守っており、主要市場におけるこれらの強 化は、予測期間を通して、製造量の成長の 19%を支援する。しかしながら、低い石油価格に よって、伝統的及び先進的双方のバイオ燃料においてより厳しい投資環境となり、義務的消 費を順守することを確保するための適切な統制の重要性を高め、また、混合の経済性の魅力 が低下するなか義務量以上の裁量による混合の機会が抑えられている。引き続き、バイオ燃 料の持続可能性を担保するような健全な規制枠組みが、長期的な市場成長確保に必要となる 適切な支援政策の主要な一部分となる。 アジアが中期的にバイオ燃料市場拡大を牽引しようとしている。米国及びブラジルが 2021 年のバイオ燃料製造で引き続き抜きんでた存在である一方、アジア市場が、2015 年から 2021 年までの世界バイオ燃料製造増加の 3 分の 1 以上を占めると予想される。供給確保の 観点に後押しされ、バイオ燃料国内製造に向けた政策支援の促進は、インド及びタイでのエ タノール製造を高める。一方、バイオディーゼルの成長はインドネシア及びマレーシアに集 中する。先進的なバイオ燃料に関しては、既存プラントからのより多くの製造と予定されて いる新規プロジェクト群が燃料製造の増加につながると考えられる。しかし、バイオ燃料産 業が大きな成長を遂げるためには、予測期間及びそれ以降において、より広範囲の政策支援 を必要とすると考えられる。 熱部門における再生可能エネルギーの拡大は引き続き課題である © OECD/IEA, 2016 再生可能エネルギー熱の普及は、中期的に緩やかにとどまると見込まれる。熱は、世界の最 終エネルギー消費の半分以上を占め、依然として主に化石燃料から供給される。近代的な再 生可能エネルギー熱（伝統的なバイオマス利用を除く）は、現在、再生可能エネルギー電気 からの熱製造も含めて、世界の熱需要の 9%弱を供給するにすぎない。EU は、再生可能エネ ルギー熱の最大の生産者であり、北米が続く。新興国では、ブラジルが、熱需要（主に産業 部門）のほぼ 40%を再生可能エネルギーから賄い、この分野では突出している。再生可能エ ネルギー熱利用は、予測期間を通じて、21%増加すると見込まれる。近代的なバイオエネル ギーがこの拡大の大半を占め、さらに、太陽熱及び地中熱、増加基調にある再生可能エネル ギー電気からの熱利用が続く。この拡大に寄与するのは、主に中国、EU、北米そしてインド である。しかし、世界の熱の総需要の増加から、再生可能エネルギーの熱供給への貢献度の 上昇は 2021 年までに 10%を上回る程度となる。 再生可能エネルギー熱市場は、特に、低位の石油価格環境における、ターゲットを絞った政 策支援を必要とする多くの経済的、非経済的課題に直面する。多様な市場において、特に M EDIUM -T ERM R ENEWABLE E NERGY M ARKET R EPORT 2016 5 エグゼクティブサマリー 建築部門に焦点を当てた、また省エネルギー政策と連携した様々な手段が実施されているに も関わらず、熱部門の再生可能エネルギー政策を展開している国の数は、電気部門で同様の 政策を実施している国よりも少ない。高い投資価格に、化石熱燃料価格低下により運転費用 の優位性が縮小することが合わさって、再生可能エネルギー熱への投資家にとっての経済的 正当性がより難しいものとなる。特に、ドイツや英国といった、再生可能エネルギー熱の選 択が石油ボイラーと直接競争する市場において顕著である。 長期的気候変動目標の達成と有害な大気汚染の低減のためには、更なる再生可能エネル ギーの展開が必要である 本レポートの main case 予測結果は、再生可能エネルギー電気の拡大は現在のところ、INDC の 2030 年までの電力の目標から大筋で外れていないことを示している。しかしながら、長 期的な 2 度シナリオへの道筋に乗っているのは陸上風力及び太陽光のみである。世界の平均 気温上昇を 2 度より十分低く抑えるという COP21 合意の目標を達成するには、より強い低炭 素化及び電力、運輸、熱の全ての部門における再生可能エネルギーの加速的な普及が求めら れる。 電力部門に対して、本レポートは、主要市場（中国、米国、インド、EU 及びブラジルを含 む）において、短期間で実施可能で、かつ中期的に重要な影響をもたらす追加的な一式の政 策を明らかにしている。この Accelerated case における見通しでは、世界の再生可能エネ ルギーの設備容量の成長は、main case より 29%より高くなると予測されている。これらの 取り組みにより、中国、インド、ASEAN といった主要新興市場における大気汚染状況の改善 にも寄与しつつ、世界の電力システムを野心的な気候変動目標に向けた一層強固な道筋に乗 せ、主要な新興国市場（中国、インド及び東南アジア）における大気汚染を改善すると考え られる。本レポートの accelerated case の達成に向け、政策決定者が再生可能エネルギー を進展するための 3 つの重要な課題に取り組むことが必要になる： 再生可能エネルギーのシステム統合を改善するため、インフラストラクチャーの課題及 び市場設計の問題に取り組むこと 安定しかつ持続可能な政策枠組みにより、資本集約度の高い再生可能エネルギー事業の より多くの収益を確実にし、加えて政策の不確実要素を減らすこと 特に途上国、新興国において、資金調達コストを低減し、引き取り手のリスクを下げる 政策メカニズムを開発すること © OECD/IEA, 2016 6 M EDIUM -T ERM R ENEWABLE E NERGY M ARKET R EPORT 2016 rgy Agency e En ab le To ge t her Internationa l . iea E-mai w PD l: bo S e c u re S u s t ai n 0% di s c o u s at 2 nt io n er s r o o ks o b / g Fv Onl in w w. e s k h o o o p b oks @ iea g . or Energy Technology Perspectives series Energy Policies Beyond IEA Countries series Energy Statistics series New_Bookshop_20x27_FINAL.indd 1 World Energy Outlook series Energy Policies of IEA Countries series Oil Coal MediumTerm Market Renewable Reports Energy series Gas Energy Efficiency Market Report 25-09-2015 15:12:16 本文書の原文は英語である。 IEAは本和訳が原文に忠実であるようあらゆる努力をしているが、 多少の相違がある可能性もある。 This publication reflects the views of the IEA Secretariat but does not necessarily reflect those of individual IEA member countries. The IEA makes no representation or warranty, express or implied, in respect of the publication’s contents (including its completeness or accuracy) and shall not be responsible for any use of, or reliance on, the publication. Unless otherwise indicated, all material presented in figures and tables is derived from IEA data and analysis. This document and any map included herein are without prejudice to the status of or sovereignty over any territory, to the delimitation of international frontiers and boundaries and to the name of any territory, city or area. IEA PUBLICATIONS, 9 rue de la Fédération, 75739 PARIS CEDEX 15 Typeset in France by IEA, December 2016 (61 2016 23 1P1) - ISBN: 978-92-64-26496-0 Cover Photo credits:GraphicObsession IEA/OECD possible corrigenda on: www.oecd.org/about/publishing/corrigenda.htm RENEWABLE ENERGY Medium-Term Market Report 2016 再生可能エネルギーの急速な普及は、低炭素経済に向けた世界のエネルギ ーの移行において明るい材料である。低い化石燃料価格下にも関わらず、 政府の支援政策とコストの急速な低減により、再生可能エネルギー電気は 2015年にこれまでで最も速く拡大を示した。再生可能エネルギーは、昨年、 世界の追加的な発電設備容量の半分以上に達した。しかしながら、この目覚 ましい進展をもってしても、再生可能エネルギーが、パリ合意で策定された 目標を達する筋道に乗っているか否かについては疑問の余地がある。 本レポートは、低廉な化石燃料価格に直面する向こう5年間に渡り、電力、 熱、輸送部門における再生可能エネルギーの発展について精査し、これらの 疑問を詳細に検証する。特に風力及び太陽光の発電コストが引き続き低下 していくなかで、様々な地域、国々にわたって、最近の再生可能エネルギーの 普及動向及び政策のトレンドを探る。 本Medium-Term Renewable Energy Marketレポート2016では、“accelerated case”において、電力部門に対し「強化した政策行動がどのような影響を及ぼ しうるのか」も評価する。このケースでは、世界がより持続可能で、供給安定 性も高いエネルギーシステムとなるための道筋に確実に乗ることになると期 待される。 Market Analysis and Forecasts to 2021
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