マーケット・フォーカス

2016/
マーケット・フォーカス
12/6
投資情報部
シニアエコノミスト
折原 豊水
経済:ブラジル
ブラジル政治動向~汚職防止法審議等が焦点に
 ブラジル下院は多くの議員への汚職捜査が近づくとみられるなか、大統領が過去の犯罪への恩
赦は行わないと発言すると、汚職防止法の改悪を承認。判事や検察の職権乱用罪も盛り込む
 上院の対応が注目されるほか、上院議長が罷免されており、財政審議の遅れが懸念される
 ブラジルレアルは上記の政治リスクがOPEC減産合意を帳消しし、下落。しばらく汚職防止法の
審議の行方や財政改革への影響を見極めるため上値の重い展開か。同法の改悪が見送られ
捜査が進展したり、財政改革が進めばレアルは反発するとみている
ペトロブラスの汚職
捜査の波及を防ごう
と、下院が汚職防止
法の改悪を画策
ブラジルの連邦下院では、2014年に発効している汚職防止法の修正審議が行わ
れている。国営石油大手ペトロブラスを中心とした一大汚職スキャンダルが政財界
におよび国民の政治不信が高まっていたことで、内容を一部厳格化すること等が当
初の目的であった。しかし、近々にもペトロブラスとともに汚職の舞台となったとみら
れている大手ゼネコンの幹部が司法取引に応じ、200名近くの国会議員が裏金工
作を含む贈収賄への関与が暴露されるのではないかとみられている。そうしたなか
で連邦議会は、選挙時に二重帳簿を作成し裏金を作る行為を、同法成立以前につ
いては恩赦を適用するような法改正を目指す動きを見せていた。こうした動きは裁
判所や検察の強い反発を招き、国民も抗議デモを起こしていた。こうしたなか、テメ
ル大統領は11/27、上下両院議長と共同で会見を開き、恩赦は行わないと発言し
た。
これに反発した連邦下院は11/30未明、同法の多数の修正条項を可決した。そ
のなかには、選挙時の二重帳簿は犯罪とするものの、二重帳簿で犯罪に問われた
政党の活動停止や二重帳簿の責任者の党籍停止についての条文を削除すること
が含まれる。また、汚職事件を担当する判事や検事に職権乱用罪を適用できるとい
う条文を盛り込んだ。修正条項が成立すればペトロブラスの汚職捜査にも影響が及
ぶと懸念されている。上院でもすぐに可決を目指す緊急動議が提案されたが、いっ
たん否決された。上院で審議が進むのか不透明であり、仮に下院の可決通りに上
院が可決しても、大統領が拒否する可能性がある。最高裁も法案を無効とする可能
性があると指摘されている。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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刑事被告となった上
院議長が罷免判決を
受けており、財政審
議に影響も
こうしたなか最高裁は12/1、連邦上院のレナン・カリュイロス議長に対する公金横
領や公文書偽造等についての告発を賛成多数で受理した。刑事被告になったこと
で上院議長は罷免されるべきとの訴えに対して、最高裁の担当判事はカリュイロス
議長の罷免が妥当との決定を12/5に出した。カリュイロス氏は最高裁の大法廷に抗
告することができるが対応を協議中としている。上院副議長は野党労働者党(PT)
所属であり、歳出上限法案に反対姿勢をとっている。政府・与党は今後の審議日程
やカリュイロス氏の処遇を巡って協議するとしており、財政審議への影響が出る可能
性もある。
テメル政権は早期に
混乱を収束させる必
要がある
テメル大統領はこうした混乱を早期に収束する必要があるが、自身も過去の選挙
時に不正献金疑惑がくすぶっているほか、直近では側近のひとりが北東部サルバド
ル(バイーア州)の世界遺産のある歴史地区においてマンション建設の許可を出す
よう文化相に圧力をかけた件で側近や文化相が辞任しているが、テメル大統領も圧
力をかけた疑惑がもたれている。世論調査では大統領の支持率は政権発足後も
10%台で低迷しており、国民はテメル大統領や連立与党幹部の汚職疑惑に不満を
もっている。政府の対応が遅れ、混乱が長期化するとルセフ前大統領時と同様に大
統領弾劾を求める声が強まるリスクもある。また、財政改革審議が再び停滞したり、
改善している企業や投資家のセンチメントを悪化させる可能性もある。
財政改革は 歳出上
限法案の 成立近い
も、年金改革法案を
控える
財政改革については歳出上限法案が下院で承認され、上院では第1回投票が
すでに賛成多数で承認され、12月中旬にも第2回投票で可決、成立するとみられて
いた。ただ、審議日程はいくぶん後ずれする可能性も出てきた。加えて、今後国会
で審議が見込まれる、年金受給開始年齢の引き上げ等の年金改革法案の行方が
焦点だ。歳出上限法案が成立しても歳出の約4割を占める年金等の社会保障費の
抑制が進まず、GDP比1%以上の年金財政の赤字が続けば、その他の歳出項目にし
わ寄せが及び、中期的に財政再建が進まないリスクがある。政府は2017年2月の
カーニバルシーズンまでに議会で年金改革法案の投票に持ち込みたい意向だっ
た。議会が審議に応じないリスクもあるなかで、汚職防止法案の内容を巡ってテメル
政権が議会と国民のいずれも納得させられる落としどころを見つけることができるか
注目される。
財政動向は 租税恩
赦による資金回帰で
一時的に持ち直し
政収支)GDP比は▲0.9%と1~9月累計の同▲1.9%から改善し、16年通年の政府目
も、景気低迷が重し
れとなったレパトリアソン法が寄与した。同法は租税恩赦の一種で、海外にある未申
足元の財政動向をみると2016年1~10月累計のプライマリーバランス(基礎的財
標(同▲2.8%)を上回る可能性がある。これには16年1月に成立し10月末に期限切
告資産を申告し、税金と罰金を払うことでその資産を合法化できる。政府は16年に
約509億レアル(約1.5兆円、16年GDP比約0.8%)の臨時収入が見込まれるとし、17
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
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年も恩典を縮小しつつ、レパトリアソン法を再導入する意向で、300億レアル程度の
収入を見込む。もっとも、景気悪化が続いていることや、今までの財政改革の遅れ
により財政状況は引き続き厳しい状況が続いており、財政改革の進展が急がれる。
ブラジルの主要スケジュール
ブラジルの財政収支GDP比率
(%)
(年次:1998~2016)
利払い
プライマリーバランス
財政収支
4
2
0
▲2
▲4
▲6
ルセフ
▲8
▲ 10
▲ 12
カルドーゾ
(95~02年)
↓財政赤字拡大 (11~16年)
ルーラ
(03~10年)
▲ 10.4
98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(注)地方政府、公営企業含む一般政府ベース、16年はみずほ証券予想
出所:ブラジル中銀資料よりみずほ証券作成
(年)
日付
16年4月17日
5月12日
5月25日
6月15日
7月7日
8月
8月16日
8月31日
10月2日
10月19日
10月25日
10月31日
11月~
11月~
11月30日
12月~
17年1月11日
2月24日
18年10月
内 容
下院でルセフ大統領の弾劾審議継続を決定
上院で弾劾裁判を設置、テメル副大統領が大統領代行に
16年基礎的財政収支目標を黒字から▲2.7%に修正
歳出の伸びを実質でゼロとする財政改革案発表
17年基礎的財政収支目標を▲2.0%に、公的資産売却表明
リオデジャネイロオリンピック(5~21日)
大型地方選挙キャンペーン開始
ルセフ大統領の罷免、テメル新大統領就任
大型地方選挙(市町村、決選投票となった場合は10/30)
ブラジル中銀会合で4年ぶり利下げ実施
歳出上限法案が下院で可決
為替および税務規制特別制度(レパトリアソン法)申請期限
歳出上限法案を上院で2回投票(12月中旬可決か)
汚職防止法案審議(選挙時等の政治資金の透明性向上)
ブラジル中銀会合
年金改革法案の審議(17年2月までに投票開始か)
ブラジル中銀会合
リオ・カーニバル(~3/4)
ブラジル大統領選挙
(注)11/30時点
出所:各種資料よりみずほ証券作成
レアルは政治リスク
の再燃がOPECの減
産合意を帳消し
ブラジルレアルは、10月末に1ドル=3.1レアル台だったが、米大統領選の結果を
受けて米国金利が上昇したことやメキシコペソが急落したことにつれ安する形で、11
月中旬には一時、3.5レアル台までレアル安となった。こうした動きを受けて、中銀は
為替の過度の変動を抑制するため、レアル買いドル売りに相当するスワップ入札を
実施、レアルは下げ渋る動きとなっていた。また、11/30の石油輸出国機構(OPEC)
の減産合意の正式決定により、原油価格の上昇が資源国通貨の下支えに寄与した
が、レアルについて上記のように汚職防止法の改悪懸念が広がるなか、レアルは
12/2にかけて一時、3.5レアル近くまで再度下落している。12/5は中銀の介入等に
より3.42レアルまで反発しているが、上院議長の罷免報道は同日夕刻であり相場に
織り込み切れていないとみられる。
今後については、①汚職防止法案の改悪となる修正条項が上院でも承認される
のか、②財政改革審議への影響が限定的となるのか、等を見極めるためしばらく上
値の重い展開が見込まれる。同法案の修正条項が見送られ、ゼネコン幹部の証言
により汚職議員が明らかとなり、捜査が進展することに加えて、年金改革法案等の
審議にも議会が応じるという状況になればレアルに対する慎重姿勢は和らごう。
リスクとしては、第1に、米国金利の上昇が続くことで新興国通貨の重しとなる、第
2に、テメル政権幹部の汚職疑惑や汚職防止法の審議を巡る混乱が続く、第3に、
鉄鉱石価格が需給悪化懸念等で下落する、等が挙げられる。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
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ドルレアルとレアル円の推移
(日次:2014/7/1~2016/12/2)
(1ドル=レアル)
ドルレアル(左逆目盛)
レアル円(右目盛)
2.0
(1レアル=円)
50
レ
ア
ル
高
45
2.5
40
3.0
35
3.5
レ
ア
ル
安
30
4.0
25
4.5
20
14/7
15/1
15/7
16/1
16/7
(年/月)
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
米ドル・ブラジルレアルと原油価格
(日次:2014/7/1~2016/12/2)
(1ドル=レアル)
ドル・レアル(左逆目盛)
2.00
(1バレル=ドル)
WTI原油価格(右目盛)
110
100
90
2.50
80
70
3.00
60
50
3.50
40
30
4.00
20
10
4.50
14
15
16
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
(年)
ブラジル・レアルとソブリンCDS
(週次:2014/1/3~2016/12/2)
(1ドル=レアル)
ブラジル・レアル(左逆目盛)
(%)
ブラジルソブリンCDS(右逆目盛)
2.0
1
2.5
2
3.0
3
3.5
4
4.0
5
↑レアル高
↑ソブリンCDS低下(カントリーリスク小)
6
4.5
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
(注)ソブリンCDSは米ドル、期間5年ベース
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
16/7
(年/月)
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