世帯の小規模化が鈍化 人口や世帯などに関する2015年の国勢調査の基本集計結果が2016年10月に発 表された。それによると、世帯の動向において、単独世帯、夫婦のみ世帯の増加ペース が鈍化するという興味深い結果となった。世帯の小規模化があまり進まなかった背 景の一つには独身の子供が親と同居しているケースが増加していることが挙げられ よう。 減少となっている。この 1 世帯当たりの人員をみる と、1995 年以降は国勢調査のたびに 0.12 〜 0.15 人減 少する傾向が続いており、これらと比較して 2010 〜 人口減少や少子高齢化への注目度が高まる中、 15年の間の減少幅は小さいといえる。 2015 年 10 月実施の国勢調査の結果が順次発表され ている。5 年ごとに行われる国勢調査はわが国随一 の大がかりな調査で、全ての結果が出そろうまで数 年かかる。そのため、速報や抽出、項目別などに分け このような世帯の小規模化の鈍化は、家族類型別 て数年かけて発表される。まず、人口と世帯数に関す 世帯動向でもみることができる。これまで大きな増 る速報集計結果が 2016 年 2 月に取りまとめられた。 加率を記録してきた単独世帯や夫婦のみ世帯の増加 次いで、年齢別人口や世帯類型別世帯数、労働力状態 ペースがやや鈍化しているからだ。例えば、単独世帯 などを掲載した抽出速報集計結果が 2016 年 6 月に、 さらに人口や世帯数に関する確定値である基本集計 結果が 2016 年 10 月に発表された。本稿では、この基 本集計結果をベースに世帯の動向について概観した ●図表1 世帯数と1世帯当たりの人員の推移 (万世帯) (人) 6,000 未婚化の進行や高齢化に伴う高齢者のみの世帯の 増加などで日本では世帯の小規模化が進んでいる。 そのため、日本の人口増加率は低下傾向にあったが、 日本における世帯数は着実に増加しており、5 年ご 3.5 1世帯当たりの人員 (右目盛) い。 3.0 5,000 4,000 2.5 世帯数(左目盛) 2.0 3,000 との国勢調査のたびに 200 万〜 300 万世帯増加する のが通例であった。しかし、2015 年の世帯数は 5,333 万 2 千世帯で、2010 年から 149 万世帯増と、これまで に比べて少ない増加数にとどまった(図表1)。 この要因としては、これまで進んできた世帯の小 規模化が 2010 〜 15 年の間にあまり進まなかったこ とを挙げることができる。例えば、1 世帯当たりの人 員は2015年が2.33人で、2010年からわずか0.09人の 1.5 2,000 1.0 1,000 0 0.5 1980 85 90 95 2000 05 10 15 0.0 (年) (注)全ての世帯から施設などの世帯(寮の学生や老人ホームの入所者など) を除いた 一般世帯が対象。 (資料)総務省統計局「国勢調査報告」各年版より、 みずほ総合研究所作成 9 数の増加率は、2005 〜 10 年が 16%であったが、2010 において全都道府県で最も少ない東京都は最も多い 〜15年は9%になっている。一方、2005年まで家族類 山形県に比べて 1 世帯当たりの人数の減少傾向がス 型別世帯数で最大であった夫婦と子供の世帯は少子 ローダウンしている(図表3)。 高齢化の影響を受けて長らく減少傾向にあり、2010 年に初めて単独世帯に抜かれたものの、2010〜15年 の間はマイナス 1%とわずかな減少にとどまってい る。 現在、東京圏を中心とする大都市圏から地方圏へ 単独世帯や夫婦のみ世帯があまり増えなかった背 の若者や高齢者の移住が期待されている。しかし、中 景の一つとして考えられるのが、成人で未婚の子供 高年の親と一緒に住んでいる独身の若者にとって、 が親と同居している世帯が増加していることであろ 地方圏へ移住して独立することは、地方圏で仕事を う。例えば、成人の子供が未婚で独立せず親と同居し 得たとしても大都市圏で親と同居するより負担は重 続けるケースや、単独世帯や夫婦のみ世帯を営んで くなる可能性が高い。したがって、地方圏の自治体な きた年老いた親が介護の必要性などから独立してい どは若者向けの仕事を創出することに加え、地方圏 た成人で未婚の子供と同居するようになったケース での暮らしが大都市圏よりも大きなメリットをもた などが考えられる。前者のうち、中高年以上である親 らすよう、工夫を凝らす必要があろう。また、地方圏 の経済力に依存する子供は、単独世帯の生活費が比 に移住した高齢者であっても、介護が必要になれば 較的高い大都市圏に多くみられる。また後者では、子 介護の人手不足が懸念される地方圏よりも子供の介 供が就業している大都市圏に高齢の親を呼び寄せる 護を期待して、子供が就業する大都市圏に戻って同 ケースが増加していると考えられる。 居するケースが多くなろう。その結果、仕事と介護の 実際に、2010〜15年の間の65歳以上の世帯員がい 両立を迫られる子供が増えることが懸念される。彼 る家族類型別世帯数の増加率をみると、高齢者のい らが介護離職に至らぬよう支援していくことも重要 る世帯の典型例とされる単独世帯(24%)や夫婦の となろう。 み世帯(16%)はもちろん、夫婦と子供から成る世帯 (18%)やひとり親と子供から成る世帯(18%)も増 みずほ総合研究所 政策調査部 主任研究員 岡田 豊 加しているのがわかる(図表2)。 また、大都市圏で世帯の小規模化の鈍化がより明 [email protected] 確にみられる。1 世帯当たりの人員をみると、2015 年 ●図表2 65歳以上の世帯員がいる家族類型別世帯数の推移 ●図表3 1世帯当たりの人員の推移(東京都、山形県) (人) (万世帯) 700 4.0 2000年 2005年 2010年 2015年 600 500 3.5 400 3.0 山形県 300 2.5 200 100 2.0 (注)全ての世帯から施設などの世帯を除いた一般世帯が対象。 (資料) 総務省統計局「国勢調査報告」各年版より、 みずほ総合研究所作成 10 その他の世帯 ひとり親と子供 から成る世帯 夫婦と子供 から成る世帯 夫婦のみ世帯 単独世帯 0 1.5 東京都 1990 95 2000 05 10 15 (年) (注)全ての世帯から施設などの世帯を除いた一般世帯が対象。 (資料)総務省統計局 「平成27年国勢調査人口速報集計結果」 (2016年) より、 みず ほ総合研究所作成
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