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STAMP モデリングによるプロセス先行指標の活用
日下部
茂†
Exploiting Process Leading Indicators using STAMP Modeling
KUSAKABE Shigeru
ねらい 動的なプロセスの改善に,先行指標を活用することがねらいである。系統的に先行指標を用いて動
的にプロセスを改善するためのモデル化や分析にシステム理論的因果律モデル STAMP を用いる。
キーワード プロセス管理,先行指標,システム理論,ハザード分析
Target: In order to realize effective dynamic process management, we develop a framework which exploits process
leading indicators. We use STAMP, a system-theoretic accident model, in building and analyzing such framework.
Keywrds:
Life Cycle Process, System Theoretic Hazard Analysis, Leading Indicators
1. 想定する読者・聴衆
プロセスの改善では,実施後の振り返りに基づくも
のだけでなく,実施中における動的なものも重要であ
析,実際に実施している際の分析を動的分析とする。
実践時の実際の状況をもとに動的にプロセスの改善を
行うための適切な先行指標の選定と,その先行指標を
用いた効果的な制御構造を構築することを目指す。
る。そのようなプロセスの改善を系統的に行うことに
関心がある読者や聴衆を想定し,システム理論的因果
律モデル STAMP (Systems-Theoretic Accident Model &
Process) [1]に基づいてモデリングや分析を行い,動的な
プロセス改善に先行指標を活用する方法を議論する。
2. 背景
スコープ,スケジュール,品質および予算といった
プロジェクトの制約内で,プロジェクトの期待される
パフォーマンスを達成するための行動の必要性やその
効果に関する情報を与えるものとして,先行指標に関
する取組が行われている [2]。先行指標は,可能性のあ
る将来の成果への見通しを提供するためのもので,既
存の履歴データに類似して見えたとしても,情報の収
集,評価,解釈,使用方法に違いがあるとされている。
例えばプロセスの状態を適切に監視・フィードバック
し,目標の状態に向けた制御を行う際に活用できる [3]。
3. 課題
先行指標は,汎用的なものは特定困難か有用性が低
い可能性があるとされており,活用のコンテクストに
応じ設定する必要があるが,その方法は自明ではない。
ここでは,プロセスの実態と期待との間でギャップ
が大きくなり過ぎると,望ましくない状態(ハザード状
態)にあるとして考え(図 1 参照),後述の STAMP モデ
リングのハザード分析手法を活用する。ここでは,プ
ロセスのテンプレートを設定する際の分析を静的な分
†
長崎県立大学・情報システム学部
Faculty of Information Systems (Siebold Campus), Univ. of Nagasaki,
1-1-1 Manabino, Nagayo-cho, Nishi-Sonogi-gun, Nagasaki, Japan
E-mail: [email protected]
図 1 : プロセス改善と先行指標の見方
4. 提案
ここでモデル化や分析のために用いる STAMP は
MIT の Nancy Leveson 教授が提唱したもので,システ
ムの構成要素間の構造と相互作用を表した「コントロ
ールストラクチャ(CS)」,対象プロセスに対する抽象表
現とコントロールアルゴリズムである「プロセスモデ
ル」,安全のために守るべき制約である「安全制約」を
三つの基本モデル要素とし,CS とプロセスモデルに対
してシステムの安全制約が正しく適用されているかど
うかに着目するものである。STAMP はソフトウェアの
制御構造だけでなく人的相互作用を含む組織の制御構
造など様々な制御構造を対象としており,ここではプ
ロセス改善に適用することを考える。
STAMP に関連する取り組みのうち,特に,仮定ベー
スの先行指標導入に関するものを参考にする。ここで
の仮定とは,目標達成のための分析において前提とし
1
ているもので,その不成立がハザードにつながり得る。
起こりやすさなどの判断に依存する。ここでは代表的
仮定の成立のために Shaping Action を,仮定不成立に備
なものとして PSP のプロセス品質指標 PQI (Process
えて Hedging Action を導入する。先行指標はこの仮定
Quality Index)の例と関連づけた分析について述べる。
が不成立となる警告のサインに相当し,関連する仮定,
PQI の例のうちレビュー速度が欠陥除去フィルターモ
チェックするタイミングと方法,指標により仮定の不
デルと関連付けて先行指標として使える。チェックポ
成立が予想される際の対処法と合わせて導入される。
イントはフェーズ終了基準チェック時,Hedging Action
このような仮定ベースの先行指標導入を,前述のプ
は再レビューやスクリプト改善などになる。
ロセス改善に関する見方と統合する。プロセス改善の
PDCA サイクルでの,プラン時の Shaping のための静的
な分析,監視のためのチェック,問題に対処する
Shaping と Hedging の動的な分析に STAMP を用いる。
5. 効果
適用対象を個人レベルのプロセス改善フレームワー
ク PSP (Personal Software Process) [4]として試行を行う。
PSP は個人レベルのプロセスで,CMM (CMMI の前身)
に基づいて開発され,そのレベル 5 相当の個人プロセ
スとして設計されている。そのトレーニングでは,見
積もりや品質について段階的にプロセス改善の知識と
図 3 : PSP2.1 のデータ測定およびスクリプトとフォーム
スキルを獲得する。これは段階的に Shaping されたテン
プレートを使用していくことに相当する。
品質に関するプラクティスを含む PSP2.1 では,テス
6. まとめ
ト時の欠陥ゼロを目標にプロセスを実施する。そのプ
システム理論的因果律モデル STAMP にもとづいて
ロセスのフェーズ構成と,PSP で用いられている欠陥
モデル化や分析を行い,プロセス先行指標を活用した
の混入・除去モデルを図 2 に示す。混入した欠陥は適
プロセスの動的改善を考案するアプローチを提案した。
切に欠陥除去フェーズで除去できればテストまで残ら
STAMP は創発的な特性を対象にしており,今回論じた
ない,ということを仮定に設定し先行指標を導入する。
個人レベルのプロセス単独の分析だけでなく,PSP 実
施時の環境やステークホルダを含めた分析,チームレ
ベルや階層的ステークホルダが存在するといったプロ
セスでも分析可能であり,そのようなものに対象を広
げた先行指標の取り組みへと発展させる予定である。
[謝辞]
本研究の一部は科学研究費補助金 24220001
の助成による。
7. 参考文献
[1] N. G. Leveson, Engineering a Safer World - Systems
図 2 : PSP2.1 のフェーズ構成と欠陥の混入・除去モデル
Thinking Applied to Safety -, MIT Press, 2012.
[2] G. Rhodes , D. Roedler, “Systems engineering leading
PSP2.1 では図 3 のようにスクリプトやフォームが準
備されている。これを,欠陥は適切に除去されるとい
う仮定を成立させる Shaping Action とそれを支援する
ものととらえ,仮定ベースの先行指標の導入を行う。
仮定が成立しないシナリオの分析を STAMP により行
い,そのような状況への推移を示す先行指標を考える。
STPA(Systems Theoretic Process Analysis) の よ う な
STAMP モデリングでの分析法は,より低コストで多数
のハザードシナリオを分析可能とされているが,分析
indicators guide, version 2.0,” Massachusetts Institute
of Technology, Cambridge, MA, 2010.
[3] C. Orlowski, P. Blessner, T. Blackburn , B. Olson, “A
Framework for Implementing Systems Engineering
Leading Indicators for Technical Reviews and Audits,”
Procedia Computer Science, 61, pp. 293-300, 2015.
[4] W. S. Humphrey, PSP: A Self-improvement Process For
Software Engineers, Addison-Wesley Pub, 2005.
で得られた結果をどこまでどう利用するかは深刻さや
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