MARKET INSIGHTS Market Bulletin 2016年11月30日 局面が変わりつつある新興国株式 ~攻めと守りのバランスが重要~ 要旨 • 新興国の資本フローは足元流入に転じており、中国を除く新興国通貨は持 ち直しを見せている • しかし、世界の貿易量は、2008年の金融危機によって落ち込みを見せて以 降、2008年以前の拡大トレンドに戻ることはできていない。加えて、新興国 企業の債務の積み上がりを踏まえれば、新興国の中長期のリスクは少し ずつながら増大していると考えている • 新興国株式への投資の際は、攻め一辺倒ではなく、警戒的な視点も取り入 れるべきと考える。言い換えれば、攻めと守りのバランスを意識する必要が あると考える 新興国の課題 次ページ以降の図表は、新興国が直面している3つの課題を示しています。 Tillmann Galler Global Market Strategist Market Insights Akira Kunikyo Global Market Strategist Market Insights 3つの課題とは①資本フロー、②世界の貿易量、③新興国企業の債務の積み 上がり(特に中国)です。これらの課題によって、投資家は数年の間、新興国 に対して悲観的な見通しを持っていました。しかしここ最近の動きは、全てでは ないものの、一部の課題が解消しつつあることを示しています。 次ページ以降では、これら3つについて見た後に、新興国株式への投資につ いて確認します。 Guide to the Markets Japan のダウンロードはこちらから www.jpmorganasset.co.jp/guide MARKET BULLETIN | NOVEMBER 30, 2016 課題①:新興国の資本フロー 新興国の資本フローは国・地域の成長、または成長の見通しに左右されま す。一般に、成長の勢いが強まれば海外からの資本流入が拡大すること で、通貨が上昇します。逆に成長の勢いが弱まれば資本が流出することで、 通貨は下落します。 過去数年、新興国は米国の利上げを背景とした資本流出に苦しんできまし た。しかし、足元は資本フローが流入に転じており(図表1)、中国を除く新 興国通貨は持ち直しを見せています。この影響もあり、新興国の購買担当 者景気指数が緩やかながら加速したことは、新興国経済の改善基調がし ばらくの間、持続する可能性を示唆しています。先進国が横ばいの成長に 留まる中、新興国の成長が加速したことで、相対的に新興国の魅力は高 まっています。 課題②:世界の貿易量 新興国は過去数十年間にわたり、急速なグローバル化や世界貿易の力強 い拡大から恩恵を受けてきました。しかし、貿易量は、2008年の金融危機 によって落ち込みを見せて以降、2008年以前の拡大トレンドに戻ることは できていません(図表2)。 足元を見てもここ数年、貿易の伸び(金額ベース)は停滞しています。もち ろんこれにはコモディティ等の価格下落による影響も含まれるため、いくら かは割り引いて考える必要があるでしょう。しかし、この動きは、新興国が 外需というドライバーを以前より頼りにできない可能性を示唆しています。 図表1:資本フローとGDP成長率 10億米ドル 600 前年比 図表2:世界の貿易量 2005年=100 10% 250 資本フロー 230 500 8% 400 210 190 300 6% 170 1991年~2008年8月までの 拡大トレンドが続いた場合 200 150 100 新興国の GDP成長率 4% 0 110 -100 2% -200 実際の 貿易量 90 70 0% -300 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 '14 '15 '16 出所:Institute of International Finance、IMF、J.P. モルガン・ アセット・マネジメント 2 130 E M E R G I N G M A R KE T E Q U I TY : E N TE R I N G A N E W P HA S E 50 '00 '02 '04 '06 '08 '10 '12 '14 出所:Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis、 Datastream、J.P. モルガン・アセット・マネジメント '16 MARKET BULLETIN | NOVEMBER 30, 2016 課題③:企業債務の積み上がり、特に中国 現在、世界の総債務残高は金融危機前よりも高水準にあります。これは特 に、新興国企業の資金調達によるものです。図表3の通り、先進国企業の 債務(GDP比)は減少していますが、新興国企業の債務は2007年末以降、 50%ポイント超上昇しています。 筆者はこの点について、新興国が直ちに危機に陥るリスクとはみなしてい ません。新興国企業の債務は先進国よりも30%ポイントも低く、悲観すべき 水準とは考えていないからです。とはいえ、最近の増加トレンドは懸念材料 であることは確かなため、新興国の中長期のリスクは少しずつながら増大 していると考えています。 中長期の先行きを見通すには、新興国で最大の経済規模を誇る中国抜き には考えられません。図表3が示唆する通り、中国では2008年以降に債務 の積み上がりが続いています。 これは度重なる景気刺激策や金融緩和によるものと考えられます。過去数 年の間、中国当局は国営企業に対して資金調達手段を提供したり、金融 緩和で企業の資金調達コストを引き下げたりと、資金調達(=債務の増加) を促進してきました。 こうした政策は、中国経済にとって短期的にプラスですが、中長期的な影 響は不透明です。多くの企業は依然として過剰設備の問題に直面しており、 収益性は極めて低くなっています。過度な景気刺激策は過剰設備の解消 を先送りさせることになり、企業の非効率的な状態を温存させるリスクがあ ります。中国経済の中長期的な見通しについては、警戒を怠るべきではな いでしょう。 図表3:企業債務の推移(GDP比、金融機関を除く) 200% 180% 160% 先進国 140% 新興国 120% 100% 80% 新興国 (中国を除く) 60% 40% '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 '14 '15 '16 出所:BIS、IMF、J.P. モルガン・アセット・マネジメント 3 E M E R G I N G M A R KE T E Q U I TY : E N TE R I N G A N E W P HA S E MARKET BULLETIN | NOVEMBER 30, 2016 投資への示唆 これまで見てきたように、新興国を取り巻く状況は、資本フローが流入に転 じ経済指標が改善に向かうなど、好転しつつあります。もちろん中長期的 の視点では、貿易量の伸び悩みや企業債務の積み上がり(特に中国)など の課題も残っていますが、現状は新興国に再度目を向けるタイミングとも 言えるかもしれません。 上記を踏まえると、新興国株式への投資の際は、攻め一辺倒ではなく、警 戒的な視点も取り入れるべきと考えます。言い換えれば、攻めと守りのバ ランスを意識する必要があるでしょう。具体的には、「国・地域を分散してダ ウンサイドに備える」「高配当銘柄に投資をする」「有望と考える新興国に 単独で投資をするものの、逆の値動きが期待できる先進国債券も同時に 積み増す」といった工夫が必要と考えます。 新興国株式というと、過去5年間で何度も下落局面を経験したため、一部 の投資家は新興国株式に対して悲観的な見方を持っているかもしれませ ん。しかし、今年の初め以降、新興国株式市場のセンチメントは徐々に回 復し、既に証券投資の資金フローは流入に転じています。 筆者は引き続き新興国の企業業績の改善を予想しています。特に来年に ついては、先進国との比較でも相対的に高い業績の伸びが期待できると 予想しており、市場コンセンサスも同様の見通しになっています。また、バ リュエーションも過去平均と比べ、割安な水準に位置しています。 4 E M E R G I N G M A R KE T E Q U I TY : E N TE R I N G A N E W P HA S E MARKET INSIGHTS Market Insightsプログラムは、グローバルな金融市場の幅広いデータや解説を、特定の金融商品に言及することなく提供するものです。お客さまの市場に対する理解 と投資判断をサポートします。本プログラムは現在の市場データから投資のヒントや環境の変化を読み解きます。 本資料はJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社(以下、「弊社」という。)が作成したものです。本資料は投資に係る参考情報を提供することを目的とし、特定 の有価証券の勧誘を目的として作成したものではありません。また、弊社が特定の有価証券の販売会社として直接説明するために作成したものではありません。弊 社は信頼性が高いとみなす情報等に基づいて本資料を作成しておりますが、当該情報が正確であることを保証するものではなく、弊社は、本資料に記載された情 報を使用することによりお客様が投資運用を行った結果被った損害を補償いたしません。本資料に記載された意見・見通しは表記時点での弊社の判断を反映した ものであり、将来の市場環境の変動や、当該意見・見通しの実現を保証するものではございません。また、当該意見・見通しは将来予告なしに変更されることがあり ます。 【ご留意事項】お客様の投資判断において重要な情報ですので必ずお読みください。 投資信託は一般的に、株式、債券等様々な有価証券へ投資します。有価証券は市場環境、有価証券の発行会社の業績、財務状況等により価格が変動する ため、投資信託の基準価額も変動し、損失を被ることがあります。また、外貨建の資産に投資する場合には、為替の変動により損失を被ることがあります。そのため、 投資信託は元本が保証されているものではありません。 ◆ご注意していただきたい事項について - 投資信託によっては、海外の証券取引所の休業日等に、購入、換金の申込の受付を行わない場合があります。 - 投資信託によっては、クローズド期間として、原則として換金が行えない期間が設けられていることや、1回の換金(解約)金額に 制限が設けられている場合がありま す。 - 分配金の額は、投資信託の運用状況等により委託会社が決定するものであり、将来分配金の額が減額されることや、 分配金が支払われないことがあります。 ◆ファンドの諸費用について 投資信託では、一般的に以下のような手数料がかかります。手数料率はファンドによって異なり、下記以外の手数料がかかること、または、一部の手数料がかからな い場合もあるため、詳細は各ファンドの販売会社へお問い合わせいただくか、各ファンドの投資信託説明書(交付目論見書)をご覧ください。 投資信託の購入時:購入時手数料(上限3.78%(税抜3.5%))、信託財産留保額 投資信託の換金時:換金(解約)手数料、信託財産留保額(上限0.5%) 投資信託の保有時:運用管理費用(信託報酬)(上限年率2.052%(税抜1.9%)) *費用の料率につきましては、JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が設定・運用するすべての公募投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の 料率を記載しています。その他、有価証券の取引等にかかる費用、外貨建資産の保管費用、信託財産における租税等の実費(または一部みなし額)および監査 費用のみなし額がかかります(投資先ファンドを含みます)。また、一定の条件のもと目論見書の印刷に要する費用の実費相当額またはみなし額がかかります。 J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスのブランドです。 Market Insightsプログラムは、 以下のグループ会社により発行されたものです。 • ブラジル: バンコ・J.P.モルガンS.A. (ブラジル) • 英国: JPモルガン・アセット・マネジメント (UK) リミテッド • 英国以外のEU諸国: JPモルガン・アセット・マネジメント (ヨーロッパ) S.à r.l. • スイス: J.P.モルガン (スイス) SA • 香港: JFアセット・マネジメント・リミテッド、JPモルガン・ファンズ (アジア) リミテッド、JPモルガン・アセット・マネジメント・リアル・アセット (アジア) リミテッド • インド: JPモルガン・アセット・マネジメント・インディア・プライベート・リミテッド • シンガポール: JPモルガン・アセット・マネジメント (シンガポール) リミテッド、JPモルガン・アセット・マネジメント・リアル・アセット (シンガポール) プライベート・リミテッド • 台湾: JPモルガン・アセット・マネジメント (タイワン) リミテッド、JPモルガン・ファンズ (タイワン) リミテッド • 日本: JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社 (金融商品取引業者 関東財務局長 (金商) 第330号 加入協会: 日本証券業協会、一般社団法人投資信 託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会) • 韓国: JPモルガン・アセット・マネジメント (コリア) カンパニー・リミテッド • オーストラリア: JPモルガン・アセット・マネジメント (オーストラリア) リミテッド (ABN 55143832080) (AFSL 376919) (Corporation Act 2001 (Cth) 第761A条および第761G条で 定義される販売会社に配布が限定されます) • カナダ (機関投資家限定) : J.P.モルガン・アセット・マネジメント (カナダ) インク • 米国: JPモルガン・ディストリビューション・サービシズ・インク (FINRA/SIPC会員) 、J.P.モルガン・インベストメント・マネージメント・インク Market Insightsプログラムは、アジア太平洋地域において、香港、台湾、日本およびシンガポールで配布されます。 アジア太平洋地域の他の国では、受取人の使用に限ります。 Copyright 2016 JPMorgan Chase & Co. 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