2016年GRESBリアルエステイト評価

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2016 年 GRESBリアルエステイト評価
~不動産投資家が求める
ESG情報の開示ツールとして~
堀江 隆一
CSR デザイン環境投資顧問株式会社
代表取締役社長
高木 智子
CSR デザイン環境投資顧問株式会社
シニア・コンサルタント
1.加速する「脱炭素化 」
とESG 投資
と、国際社会の気候変動問題に対
してパリ協定の年内批准を要求して
する捉え方の大きな違いには隔世
いる。
の感がある。各国は、気候変動問
気候変動問題が投資・金融の分
題のリスクと機会に正面から向き合
野に大きな影響を与える例として、
世界では「 脱炭素化 」に向けた
い、本気で「グリーン経済への大転
「 座礁資産 」
( stranded assets )
の
政治および投資・金融の動きが加速
換」
( market transformation )を
問題がある文1。座礁資産とは、気
している。産業革命前からの気温
図ろうとしているのである。また、
候変動などによって価値が大幅に
上昇を2℃より十分に低く、できれ
パリ協定の早期発効には、投資家
毀損する資産のことを言い、具体的
ば 1.5℃以内に抑えることを世界共
も大きな役割を果たしたことをご存
には石油・天然ガス・石炭といった化
通の目標とする「 パリ協定 」が、本
知だろうか。今年 8月下旬、米国の
石燃料等を指す。英国のカーボン・
年11月4日に発効した。9月の G20
カリフォルニア州職員退職年金基金
トラッカー・イニシアティブの試算に
に向けた米国と中国の批准によって
( CalPERS )などを含む世界で130
よれば、世界が 2℃目標を達成する
発効の流れが固まり、昨年12月の
に上る投資家
(資産残高合計:13 兆
ためには、化石燃料の推定埋蔵量
協定採択からわずか11ヶ月での発
米ドル
( 約1,300 兆 円 、1 米ドル=
の 70 ~ 80%は「 燃やすことができ
効となった。以前の「 京都議定書」
100 円で換算)
)
は、金融当局による
ない資産 」となってしまう。座礁資
の際には、採択から発効まで 7年
企業の気候変動リスクの開示の義
産を保有する企業は、会計上、減損
以上もかかっていることと比較する
務化推進などを求め、G20 諸国に対
処理をしなければならないことにな
November-December 2016
47
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るため、グローバルの投資家・金融
「ブラウン・ディスカウント」の考え方
CASBEE が 2000 年 代 初頭に登場
機関の間では、金融リスクとして認
はあったが、これが座礁資産に相
したが、実物資産ではなく、会社・
識され始めている。
当するのではないか 、という議論に
ファンドへの投資の際に用いるツー
機関投資家などは、
「 座礁資産 」
なった。例えば英国では、省エネ性
ルとしては、GRESBがグローバルス
の問題を受け、対応を始めている。
能が一定よりも低い不動産は、ビル
タンダードの座を築いている。オン
一 つ は、投 資 先 企 業 との 対 話
オーナーが省エネ施策を講じない限
ラインで回答する年次調査であり、
( engagement )
により、そのビジネ
り、原則として賃貸することが違法
無料で参加が可能である。
スを脱炭素の方向に誘導する手法
となるという規制が、新規契約にお
GRESBは元々、
「 既存投資物件
である。化石燃料による発電の比
いては 2018 年 4月から、既存契約
の運用を主業務とする不動産会社・
率が高い電力会社との対話により、
においても2023 年から適用される。
ファンド」を主な対象として始まって
再生可能エネルギーによる発電比
省エネ性能が一定よりも低いとは、
おり、その出自を引く、最も中心とな
率の向上を促すことが例として挙げ
義務化されている省エネ性能評価書
る評価が「 GRESBリアルエステイト
られる。もう一つはこうした企業か
( EPC )における7 段階評価の内、
。本稿で主に紹介
評価」だ
(図表1 )
らの「投資引揚げ」
( divestment )
下2 つのランク
( FまたはG )に入る
するのはこの評価であり、昨年まで
である。特に温室効果への影響が
不動産を指すが、こうした不動産が
は単に「 GRESB 調査 」と呼ばれて
大きい石炭関連産業については、欧
そのまま放置されれば座礁資産と
いたものである。同調査では、新規
米の年金基金、金融機関の間で投
なっていく可能性があるだろう。
開発・大規模改修を主業務とする会
資引揚げの動きが広がっている。
本稿では、こうした世界の脱炭素
社・ファンドも回答しやすいよう、
潘基文国連事務総長の「 投資の脱
化に向けた潮流を踏まえ、ESG 投
段々と設問体系が整備されてきた
炭 素 化 」の 呼 び か け に 応 じ 、
資の観点から、本 年の GRESB 結
が 、本年からはより独立した形で
GRESB の創設にも関わったオラン
果を分析し 、日本の不動産会社・運
「 GRESBディベロッパー評価」とし
ダ公務員年金基金のABP や、英国
用機関とグローバルの不動産会社と
て独自のスコアや順位が出されるよ
の代表的な年金アセットマネジャー
を比較して、今後の課題となる点を
うになった
( 5 章で詳述)
。また、今
Hermesなどを含む約 30 の機関は
見ていきたい。
年 、GRESBリアルエステイトの中に
「 ポートフォリオ脱 炭 素 化 連 合」
( PDC )
を形成し 、徐々に投資ポー
2. GRESBとは
ができ、まだ日本からの参加はない
もののグローバルでは約 5 分の1が
トフォリオの脱炭素化を推進するこ
とをコミットしている。
任意回答の
「健康と福祉モジュール」
2.1 GRESBとその拡がり
回答をしている。
それでは、不動産投資における
GRESB
(グローバル不動産サステ
「座礁資産 」
とはどのようなものだろ
ナビリティ・ベンチマーク)
は、不動
本 年 か ら 本 格 的 に 開 始 され た
うか。 筆 者は、本 年9月にシンガ
産セクターの環境・社会・ガバナンス
「 GRESBリアルエステイトデット」
ポールで行われた責任 投 資原則
( ESG )
配慮を測り、投資先の選定
(年金基金、銀行、生命保険会社な
( PRI )の年次総会において、サス
や投資先との対話に用いるための
ど を 対 象 )、今 年 か ら 始 まった
テナブル不動産のパネルに参加し
ベンチマーク評価であり、PRIを主
「 GRESBインフラストラクチャー(
」イ
た。これまでも、
「省エネ・環境性能
導した欧州の主要年金基金グルー
ンフラファンドがファンドレベルまた
が 高い不動産は賃料や価値が 高
プを中心に 2009 年に創設された。
はアセットレベルで回答)
など、評価
い」という「グリーン・プレミアム」の
個別建物の環 境配 慮等を測るグ
の対象を広げ、不動産関連の様々な
議論の対として、
「 環境性能が低い
リーンビル認証等は1990 年代から
アセットクラスでの投資判断に使え
不動産は賃料や価値が低い」
という
グ ローバルに 存 在し 、日本 でも
ることをGRESBは目指している。
他に、昨年試行版として始まり、
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.34
2016 年 GRESB リアルエステイト評価
~不動産投資家が求める ESG 情報の開示ツールとして~
図表1 GRESB 評価の枠組みの広がり
GRESBリアルエステイト:不動産会社・ファンドが対象 (2009年∼)
- 既存物件の運用が主:リアルエステイト評価
- 新規開発が主:ディベロッパー評価
参加者759, 63ヶ国, 保有資産計2.8兆米ドル
GRESBリアルエステイトデット:
銀行・生命保険などが対象
(2015年∼)
参加者18, 債権額計439億米ドル
GRESBインフラストラクチャ―:
インフラファンドなどが対象
2016年より
GRESBリアルエステイトに
健康と福祉モジュールが追加
参加者:174(グローバル)
( 2016年∼)
参加者51ファンド, 134アセット
(出典: GRESB ウェブサイト等から弊社作成 )
図表 2 GRESBリアルエステイト参加者数の推移
( 2010 ~ 2016 年)
2.2 GRESBメンバー
GRESBデ ー タ を 活 用 す る
「 GRESB 投資家・銀行メンバー」は、
昨年の51社から着実に増え、今年9
月時点では 58 社
( 運用資産額:7 兆
6000 億 米ドル
( 約 760 兆円)
)に上
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
グローバル
198
340
455
543
637
707
759
日本
0
20
24
29
31
35
46
J-REIT
0
5
8
14
17
21
30
(出典: 文献 3 )~ 6 )より筆者が作成 )
る。ノルウェー政府年金基金やオラ
ンダのABP、PFZW、米国カリフォ
る。
3. 2016 年評価結果の概要
ルニア州の CalPERSなど、グローバ
評 価 を 受 ける 参 加 者 側 の
ル の 上 位 の 年 金 基 金 の 多くが
「 GRESB 不動産会社・運用機関メ
GRESB の投資家メンバーとなり、
ンバー」も、昨年の 81 社から今年
図表 2 のとおり、毎年 GRESBリ
GRESB 評価結果データの利用を進
は 118 社まで大きく伸びた。ここ
アルエステイトの参加者は増加して
めている。日本からは、日本政策投
一 年 で は 、Morgan Stanley や
おり、2016 年の参加者数は、グロー
資銀行
( DBJ )が 2014 年から加盟
JP. Morgan Asset Management
バルで 759 、日本で46であった注1。
し 、今年 、アジアで初めてGRESB
など金 融 系の運 用会社の加入が
日本の中では上場会社が 33 社で、
のアドバイザリー・ボードのメンバー
目立つ。 日本からの直接の加盟は
その内 J-REITは昨年から9 社増の
ともなった。また、日本では、不動
まだないが、GLP、インベスコ、ラ
30 社となり、参加率は時価総額ベー
産証券化協会
( ARES )と日本サス
サール、プロロジス、UBSなど傘下
ス
( 2016 年9月初め時点 )で 78%に
テ ナブル 建 築 協 会
( JSBC )が 、
にJ-REIT 等の日本ベースのファンド
達した。昨年初参加の日本ビルファ
GRESB の公式な「サポーター」とし
を持つグループも名を連ねている。
ンド投資法人に続き、今年は業界
て日本国内での普及に協力してい
3.1 参加者数の推移
第二位のジャパンリアルエステイト
注1
なお、新規開発のみに従事する参加者は、GRESB リアルエステイトのうちの「ディベロッパー評価」の対象となるため、本稿 3 章以降の結果分析における
母数(グローバル:733、日本:44、J-REIT:30)には含まれない。
November-December 2016
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投資法人などが初めて参加されて
。MPは会社の方針や
れる
( 図表 4 )
参 加 者 の2 割 程 度 、2014 年 に は
いる。私募ファンドは毎年若干入れ
体制整備を、IMは実際の取組みや
36%であったことを鑑みると、急速
替わるが 、今 年は13ファンド
( 10
データ計測等を評価する。
に業界全体の取組みが進んだこと
社)が参加した。今後、私募リート
の参加も増えそうな気配がある。
MP、IMの 両 軸 とも ス コ ア が
を表しており、喜ばしいことである。
50/100を超える好評価を受けた参
ただ、GRESBは元々、投資判断
今年 、GRESBが結果発表等でよ
加者は「グリーンスター」と称され 、
に用いるための「 ベンチマーク」で
く用いているスライドとして図表 3 が
これまで参加者は「グリーンスター」
あるため、
「 グリーンスター」の中で
ある。投資家が所有する賃貸用不
を目標にESG の取組みを進めてき
の相対比較が必然的に求められ始
注2
。その結果、昨年はグローバ
動産 7 兆 6,000 億米ドル
( 約 760 兆
た
円)
のうち、GRESB へ参加している
ル平均が「 グリーンスター」となり、
「 GRESBレーティング」が 導入さ
のは 2 兆 8,000 億 米ドル
( 約 280 兆
今年も6 割以上が「 グリーンスター」
れ 、総合スコアによるグローバルの
円)であり、参加者はその成績にか
を獲得している。2013 年までは全
順位に基づいて、上位 20%が「 5ス
めた。そこで、本 年から5 段階の
かわらず、参加していることによっ
て「 競 争上の 差 別 化 が 図れ 、優
図表 3 投資家所有の賃貸用不動産のうちでの GRESB 参加者の割合
位性を保っている
( Competitive
Differentiation & Advantage )」
として いる。 非 参 加 者 のESG パ
フォーマンスは見えづらく、
「 リスク
と不 確 実 性 が あ る
( Risk &
Uncertainty )
」との理由からであ
る。確かに、GRESBは投資家の興
味に沿った内容で構成された詳細
な開示資料として機能する。投資
家は参加者である各会社・ファンド
が各設問にどう回答したかを知るこ
とができ、また投資先の各ファンド
(出典: GRESB2016 結果発表時のプレゼンテーション資料 )
図表 4 GRESB の評価方式
(
「 GRESBレーティング」と「グリーンスター」
)
のスコアを比較したり、ファンドごと
の経年変化を見るなどして投資判
断とモニタリングに活用することが
できる。
3.2 評価形態の進化
GRESB の評価は総合スコアに加
え、
「 マネジメントと方針
( MP )
」、
「実行と計測
( IM )
」の2 軸による4
象限の中での位置付けによって表さ
(出典: 文献 2 )等より筆者が作成 )
注2
GRESB の評価区分として、「グリーンスター」は残っているものの、以前使用していた「グリーンウォーク」、「グリーントーク」、「グリーンスターター」
の 3 区分は使われなくなっている。
50
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.34
2016 年 GRESB リアルエステイト評価
~不動産投資家が求める ESG 情報の開示ツールとして~
ター」、次に上位40%までが「 4 ス
ル平均には届かなかった。また、
でいる。
「 ステークホルダーとの関
ター」というような相対的な格付が
「 モニタリングと環境管理システム」
係構築」は全体としてはグローバル
や「 リスクと機会」では、設問構成
と同 水 準だが 、テナント関 係
(グ
の変更や GRESBによる検 証の厳
リーンリースなど)では遅れている
格化等により、日本のスコアは昨年
項目もある。それ以外の3 分野は、
より低下し 、グローバルとほぼ並ん
去年から順調にスコアも伸び、グ
導入された。
3.3 日本参加者のスコア概要
図表 5 のとおり、日本の参加者の
平均スコアは、毎年着実に伸
びている。2013 年にはグロー
図表 5 日本とグローバルのスコア推移
( 2013 ~ 2016 年)
が、2014 年で追いつき、2015
年以降はグローバル平均を
上回った。今年の日本平均
は、3スターの中でも比較的
上位の位置にある。図示は
しないが、J-REIT でもその
傾向は同様であり、各参加
マネジメント と方針
( MP)
バルとかなりの差があった
グローバル平均
201 6
また、他のアジア参加者と
2015
2014
2013
2013
実行と計測
( IM )
(出典: 文献 3 )~ 6 )より筆者が作成 )
図表 6 日本・J-REITとアジアのスコア分布
( 2016 年)
比較すると、アジア平均はグ
あり、日本・J-REIT が優位に
。ただし 、アジ
ある
( 図表 6 )
アの中には、セクターリー
ダーを取得しているようなシ
ンガポールの参加者など、さ
らに上位の参加者もおり、ま
J- REIT
平均
マネジメント と方針
( MP)
ローバルを少し下回る位置で
3.4 日本参加者の
分野別スコア概要
GRESBリアルエステイト
評 価の 7分野での結果を図
表 7 に示す。
「 グリーンビル
認 証 」分 野 で は 、日 本・
J-REITとも昨年より伸びた
ものの、省エネルギー格付の
普及の違いにより、グローバ
グローバル
平均
日本
平均
アジア
平均
アジア
日本
( J- REIT )
日本
(非 J- REIT )
実行と計測
(IM )
だ日本の伸び代はありそうで
ある。
2015
2014
者の継続的な努力がうかが
える。
日本平均
201 6
(出典: 文献 3 )より筆者が作成 )
図表 7 グローバル・日本・J-REITのスコア比較
( 2015 ~ 2016 年)
総合スコア
- マネジメントと方針(MP)
- 実行と計測(IM)
分野別
1. マネジメント
2. ポリシーと開示
3. リスクと機会
4. モニタリングと環境管理システム
5. パフォーマンス指標
6. グリーンビル認証
7. ステークホルダーとの関係構築
(出典: 文献 3 )、4 )より筆者が作成 )
グローバル
平均
60 (56)
68 (63)
57 (52)
日本
平均
65 (61)
70 (65)
62 (60)
84 (77)
71 (66)
64 (67)
66 (59)
48 (39)
44 (34)
64 (57)
92 (86)
79 (68)
65 (77)
65 (69)
58 (54)
42 (32)
66 (60)
J-REIT
平均
65 (62)
73 (67)
62 (60)
94 (90)
84 (73)
66 (80)
63 (66)
59 (53)
38 (30)
65 (60)
() 内は 2015 年スコア
November-December 2016
51
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ローバルを上回っている。
何らかのESG目標を設定してい
。
社が目標を回答している
( 図表10 )
もう少し長いスパンで日本参加者
る参加者の割合は年々増加し 、今
目標の開示まで行う参加者も、日本
のスコアの変化を見ると
( 図表 8 )、
年はグローバルで 97%、日本では全
で は、2013 年 の24%から 本 年 は
2013 年にはほぼ全分野でグローバ
ル平均に届かなかったが、その後
図表 8 分野別スコアの推移
( 2013 年・2016 年)
大きく伸びてグローバルに並び、追
1. マネジメント
い越す位置まで来たことが分かる。
図表 5 で示した MP、IM ス
これが、
100
80
7. ステークホルダー
との関係構築
40
コアの上昇となって現れている。
ま た、図 表 9 で は 、早 く か ら
GRESBに参加しているほど、平均
スコアが高いことが示されている。
2. ポリシーと
開示
60
20
0
6. グリーンビル
認証
将来の参加を考えているのであれ
3. リスクと
機会
5. パフォーマンス
指標
ば、早目からの参加が推奨されると
4. モニタリングと
環境管理システム
いうデータ上の裏付である。他方、
グローバル(2013)
日本(2016)
参加回数が少ない場合はスコアが
グローバル(2016)
日本(2016)
相対的に低くても致し方なく、投資
(出典: 文献 3 )、6 )より筆者が作成 )
家の 視 点からは「 take a journey
together 」として中長期的な目線で
図表 9 GRESB への連続参加回数と総合スコア
( 2010 ~ 2016 年)
共にESG 配 慮を進めていけば良
い、ということでもある。
4. 分野別に見た課題
ここからは、7つの分野それぞれ
に、今年の結果から見えた課題を
述べる。紙面の都合もあり、特筆す
(出典: 文献 2 ))
べきところだけ結果を掲載してい
冒頭に位置するこの分野では、
ESGに関する設問の設定・開示、サ
ステナビリティ委員会の設置、CEO
等への報告プロセス、従業員の年
間業績目標へのサステナビリティ要
素の組込みなどが問われるが、ここ
グローバル
4.1 マネジメント
図表10 サステナビリティ目標の設定・開示状況の推移
( 2013・2016 年)
日本
く。
2013
44%
2016
78%
2013
24%
20%
目標あり・開示
52
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.34
(出典: 文献 3 )、6 )より筆者が作成 )
40%
3%
28%
84%
0%
20%
19%
48%
2016
では ESG目標の設定・開示のみを取
り上げる。
36%
16%
60%
目標あり・非開示
80%
100%
目標なし
2016 年 GRESB リアルエステイト評価
~不動産投資家が求める ESG 情報の開示ツールとして~
84%まで大幅に増加した。ただし 、
図表11 アニュアル・レポートでの ESG 実績の開示と第三者レビュー( 2014・2016 年)
投資家が重視するエネルギーや温
第三者レビュー 開示
あり
あり
室効果ガスの具体的な削減目標ま
実質的な課題として残されている。
また、その目標がビジネス戦略に
2014
グローバル
でを開示する参加者はまだ少なく、
2016
組み込まれているか、財務目標とど
も説明が求められる。こちらもグ
回答し 、約 8 割が「完全に組み込ま
れている」と回答している。
59%
71%
14%
2016
18%
ローバル・日本を問わずほとんどの
GRESB 参加者が 何らかの関連を
49%
35%
2014
日本
の程度統合されているのかについて
27%
0%
75%
20%
40%
60%
80%
100%
(出典: 文献 3 )、5 )より筆者が作成 )
図表12 省エネ診断等の技術的評価の有無
( 2016 年)
4.2 ポリシーと開示
85%
グローバル
39%
75%
この分野では、ESGに関する実
80%
績の開示と、環境ポリシー、ガバナ
日本
ンスポリシー、ステークホルダー・エ
ンゲージメントポリシーなどの「ポリ
0%
シー」の制定状況が問われる。グ
ローバルとの差が特に見られるのは
開示に関する第三者レビュー
(保証・
検証・確認)
の有無で、例えばアニュ
評価あり
39%
20%
52%
40%
60%
うち、社内評価
80%
100%
うち、外部評価
(出典: 文献 3 )より筆者が作成 ) アル・レポートについては
(図表11 )、
重視するため、今後の益々の普及が
シンガポール等では数年に一度、第
日本では開示の実 施率自体 はグ
期待される。
三 者 など に よる「 省 エ ネ 診 断」
( energy audit )を義務化している
ローバルをしのぐものの、レビュー
を受けているのはそのうち2 割程度
に留まっている
( グローバルでは開
4.3 リスクと機会
この分野では、ガバナンスリスク
ところも多いことも背景にあるだろ
う。
示の 6 割程度が「 レビューあり」
)
。
評価、物件に関する環境・社会リス
海外では、一般に、省エネ診断を
これは、ひとつには、グローバルで
ク評価 、省エネルギー診断等の物
受けた後に実際に改修にとりかかる
の回答はディベロッパーや資産運用
件の技術的評価 、改修や設備更新
ことが多いが、日本では省エネ診断
会社レベルでの回答が多い一方、日
などの省エネ施策・節水施策等が評
は根づいていないものの、省エネ改
本ではJ-REIT 参加者が多く「 資産
価される。
修はグローバルに劣らず実施されて
運用報告書」などによる回答が多い
リスク評価については、日本の参
いる。
「 省エネ診断」は、より効率
ためとも考えられる。そうした開示
加者は全般的に水準が高いようで
的な運用や改修の機会を見出すた
資料における非財務情報の「 第三
ある。一方、省エネ診断などの技術
めに重要であり、政府・自治体等に
者確認 」も日本では徐々に広まりつ
的評価の実施率は、社内評価はグ
よる制度的な枠組みの後押しも期
つあるが、投資家は情報の正確性・
ローバルとほぼ同率だが、外部評価
待したいところである。 信頼性の観点から第三者レビューを
。欧州、米国 、
は少ない
( 図表12 )
November-December 2016
53
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4.4 モニタリングと環境管理システム
をも上回っている。
ている。日本の参加者はJ-REIT が
「環境管理システム
( EMS )
」の有
その一方、ここでも第三者性は課
多 く、そ の 従 業 員 規 模 で は
無 、エネルギー消費量データ等の
。最も有名
題となっている
(図表13 )
ISO14001認証は荷が重過ぎると思
「データ管理システム」の有無 、それ
なEMSは ISO14001で、そ の 認 証
われるが、環境省が推進する「エコ
らデータの収集手法
( 自動計測メー
取得にはかなりの労力がかかるもの
アクション21」等 、今後、比較的小
ター・請求書・テナントからの情報提
であるが、グローバルでは「 何らか
規模な組織でも対応が可能なシス
供など)について報告する分野であ
の認証を持つEMS の導入 」は参加
テムへの準拠事例が増えることが
る。
者の21%であり、認証はなくても
期待される。
特に、EMSは、GRESBが問う環
「 ISOなど何かしらの既存のEMS
境側面での取組みの集大成のよう
体系に準拠している」との回答 24%
な位置付けである。今年から裏付
と合 わ せると、第 三 者 性を 伴う
本分野は、エネルギー・温室効果
資料の内容によって採点されるよう
EMS の導入が全体の5 割近くに上
ガス
( GHG )・水・廃棄物という4 種
になり、エネルギー・水消費等に関
る。他方、
日本では「認証あり」
・
「準
類のKPI
( 主要なパフォーマンス指
するポリシーや数値目標に従って、
拠あり」は 7%、5%に留まり、大多
標)に関して、データ把握率 、消費
日常の管理や省エネ・節水施策等を
数が客観的な体系に基づかない自
量等の経年比較、データの第三者レ
実施し 、消費量の実績をモニタリン
主的なPDCAサイクルの実施となっ
ビュー、削減目標などが問われる。
4.5 パフォーマンス指標
グし 、目標達成の成否に対するマネ
ジメント・レビューにより次期への改
図表13 環境管理システム
( EMS )
と準拠・認証の有無
( 2016 年)
善策を策定するという「 PDCAサイ
認証あり 準拠あり 準拠・認証なし
クル」を証憑によって明確に示さね
グローバル
ばならなくなった。どのような社内
体制が整備され 、実際に運用され
21%
24%
17%
日本 7%5%
でのEMS 重視も背景となり、日本
でも2014 年の 43%から2016 年には
47%
41%
EMSあり
75%へと回答率が増え、その伸びは
(出典: 文献 3 )より筆者が作成 )
グローバル
( 46%から67%へ上昇)
図表14 エネルギー・水消費量データの把握率
(直接的な管理が及ぶ物件における床面積ベース、2016 年)
図表15 エネルギー・水消費量データの第三者レビュー
(参加者数ベース、2014・2016 年)
38%
77%
エネルギー
96%
32%
71%
50%
29%
81%
水
0%
20%
40%
グローバル( 2016 )
60%
水
94%
80%
100%
日本( 2016 )
(出典: 文献 3 )
より筆者が作成 )
54
38%
認 証・準 拠 あ り
ているかが見られている。GRESB
エネルギー
EMSなし
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.34
21%
0%
20%
63%
34%
40%
60%
80%
100%
グローバル(2014)
グローバル(2016)
日本(2014)
日本(2016)
(出典: 文献 3 )、5 )より筆者が作成 )
2016 年 GRESB リアルエステイト評価
~不動産投資家が求める ESG 情報の開示ツールとして~
タの把握率は高い。これは、省エ
ネ法の定期報告などの法令遵守の
ための取組みが後押しをしていると
考えられる。図表14 に示したエネル
図表16 省エネ格付の取得率の変化
( 2014~ 2016 年)
グローバル
グローバルと比べ 、日本ではデー
ギー・水のみでなく、GHG や廃棄物
回っている。
一方で、それらのデータの第三者
レビューでは、やはりグローバルに
及ばない状況が続いている。図表
67%
2015
2016 データなし
2014
日本
についても日本がグローバルを上
65%
2014
11%
36%
2015
41%*
2016
0%
20%
40%
60%
80%
100%
* GRESBデータがないため、弊社推計による
(出典: 文献 3 )~ 5 )より筆者が作成 )
15 で経年変化を見ても、エネルギー
消費量のデータレビューのある参加
既存ビル版のグリーンビル認証の
キングが義務化されている地域が
者 は、2014 年 に は グ ローバル で
取得率
( ポートフォリオの中に1件で
多いため、ポートフォリオの100%近
38%、日本で32%とそれほど大きな
も認証を取得した物件があるか)
くに取得しているとの回答も多い。
差が無かったのに対し 、今年はグ
は、日本
( 昨年70%、本年 87%)が
日本でも今春に建築物省エネ法が
ローバル 71%、日本 50%と20ポイン
グローバル
( 昨年 33%)を大きく上
施行されて省エネ性能表示の努力
トも差が開いた。おそらく、CSRレ
回る注4。CASBEE- 不 動産やDBJ
義務が始まっている。その制度上
ポート等でエネルギー消費データな
Green Building認証の普及がその
は必ずしも第三者認証は必要ない
どを開示し 、そのデータに関して第
駆動力であろう。ただし 、その床
ものの、BELS普及のための補助事
三者保証報告書が付くような例が
面積カバー率は、日本平均は 31%
業もあり、今後、取得が大きく伸び
グローバルでは多いのであろう。
と、昨年のグローバル平均の36%よ
ることが期待される。
りもやや低く、さらなる普及の余地
4.6 グリーンビル認証
がありそうである。
グローバルでは、物件の環境性
能をテナント等に示す客観的な基
この分野は、唯一、日本の平均ス
一方、省エネ格付については、日
準としてグリーンビル認証や省エネ
コアがグローバル平均を上回ったこ
本・J-REIT でもこの2 年間で取得の
格付を重視し 、またそれが物件の
との無い分 野である。ここでは、
動きが出始めたものの、グローバル
経済的価値向上につながると考え
CASBEE 等の総合的なグリーンビ
。また、
には遠く及ばない
(図表16 )
る投資家・不動産会社が多い。例え
ル認証
( 新築版・既存ビル版 )と、
床面積カバー率の差も大きそうであ
ばGRESB 評価でも毎年トップクラ
BELS のようなエネルギー性能に特
る。日本では 9%に留まる一方、グ
スの評価を受ける北米の不動産会
化した省エネルギー格付について、
ローバルでは、以 前から米 国 の
社
( Bentall Kennedy社)
は、ポート
ポートフォリオでの床面積カバー率
ENERGY STAR、欧州でのEPC 、
フォリオの約 6 割に認証を受けてお
豪州のNABERSなど、ベンチマー
り、認証物件は非認証物件よりも賃
注3
が問われる 。
注3
GRESB のグリーンビル認証分野は第三者性が重視されるため、建築確認の際に届け出る自治体版 CASBEE による自己評価等、行政によって確認がなされて
いても第三者レビューが明確に位置づけられていないものは回答ができないルールである。
注4
「グリーンビル認証」分野については、本年は GRESB データが得られなかったため、2016 年の値は弊社推計による。
November-December 2016
55
Business
Trend
料が 3.7%、不動産価値が 8 ~ 10%
図表17 北米不動産会社
( Bentall Kennedy 社 )
によるグリーンビルの経済性分析 高いとの分析結果を公表している
。
(図表17 )
4.7 ステークホルダーとの関係構築
この分野では、
「 従業員」、
「 テナ
ント」、
「 サプライヤー」、
「 コミュニ
ティ」の 4 種類のステークホルダーと
どのように関係構築
(=エンゲージメ
ント)を行っているかを報告する。
「従業員」では、研修や満足度調査
の実施 、労働安全衛生に関する調
査など。
「 テナント」では、サステナ
ビリティに関する協議会等のプログ
ラム、満足度調査、テナント専用部
(出典: 文献 7 )に筆者加筆 )
の改装・改修に関する最低基準の設
定、グリーンリース契約の導入状況
など。
「サプライヤー」では、外部の
PM・サプライヤー等の選定時のサス
テナビリティ要件の設定とそのモニ
図表18 グリーンリースを導入している参加者
( 2014~ 2016 年)
2014
2015
36%
タリング方法。
「コミュニティ」では、
チャリティ支援や災害時の協定など
のコミュニティ関与プログラム等が
設問に含まれる。
「 従業員」、
「 コミュニティ」はグ
ローバルに引けを取らない回答水準
であり、
「サプライヤー」についても、
56
43%
14%
2016
60%
55%
0%
20%
40%
グローバル
60%
73%
80%
100%
日本
(出典: 文献 3 )~ 5 )より筆者が作成 )
日本では、ここ1~ 2 年で急速にグ
る。海外では 2005 年頃から豪州、
リーン調達ポリシーを策定する参加
欧州、米国などで始まり、日本で
GRESB 参加者の中でも、グロー
者が増えている。そこで、本稿では
も、今年2月に国土交通省から「 グ
バル・日本ともに徐々に回答率が上
文8
投資家に重視されている。
特に、
「テナント」
を対象に、
「グリー
リーンリース・ガイド」 が出されて、
がり、今年 、グローバルでは実に4
ンリース」と呼ばれる取組みについ
環境省等や東京都でも補助金など
分の3 が何らかのグリーンリースを
て述べる。
が始まるなど、普及に向けた動きが
回答している。日本でも、2014 年に
グリーンリースとは、
「 ビルオー
広がっている。テナントビルの環境
は14%であったものが、今年は 55%
ナーとテナントが協働し 、不動産の
性能の向上にはテナントの協力が
まで上昇し 、2 年前のグローバルの
省エネなどの環境負荷の低減や執
不可欠なため、グリーンリースは、
。グリー
水準を上回った
( 図表18 )
務環境の改善について契約や覚書
物件の環境性能の向上に積極的に
ンリースは、実はそれほど特別な内
等によって自主的に取り決め、取り
働きかける「エンゲージメント」の手
容ではない。例えば、
「電気・ガス・
文8
決め内容を実 践すること」 であ
法として、省エネ改修などと並んで
水等の消費量データの共有」や「建
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.34
2016 年 GRESB リアルエステイト評価
~不動産投資家が求める ESG 情報の開示ツールとして~
物の環境性能に悪影響を与える行
図表19 グリーンリース条項の内容
( 2016 年)
為をしない義務」、
「 テナント工事に
消費量データの共有
おけるエネルギー効率や環境配慮
に関する要件」などを明文化して契
悪影響を与える行為をしない義務
約・覚書等に落とし込めば良いので
テナント工事の要件
ある。グローバルでは、特にこのよ
認証のための情報共有
うなソフトな形でのグリーンリース
。一方、日
が進んでいる
( 図表19 )
建物の運用実績に関する基準
本では、省エネ改修を伴うハードな
省エネ改修コストの分担
形の「 グリーンリース」の事例から
消費量の目標値の共有
始まっており、
「 省エネ改修コストの
グリーン調達への協力
テナントによる分担条項 」は既にグ
0%
ローバルの実施率と並ぶ。テナント
グローバル
との金銭的な取り決めが必要なため
「 グリーンリースは難しい」とのイ
分母:全参加者
20% 40% 60% 80% 100%
日本
(出典: 文献 3 )より筆者が作成 )
メ ー ジ が 先 行 し た。 し か し 、
GRESB 参加者からは「 こういった
ソフトな内容の取り決めは、いまま
5. GRESBディベロッパー
評価
で明文化していないだけで、既に実
施している」との声も多く聞かれ 、
新規開発・大規模改修を主業務と
最近の東京都の調査結果を見ても、
する不動産会社・ファンドを対象とし
グリーンリースは
「可能である」、
「条
て、今 年から、より独立した形で
件による」との回答が 8 割に上る
(図
「 GRESBディベロッパー評価」が始
表 20 )
。その中では、日本でのこれ
まった。今年の参加者は 26で、日
までの実例の多い「 分担条項 」が
本からも2ファンドが参加している。
可能との回答が最も多いものの、
参加時期や方法、評価手法等は
「リ
「 消費量データの共有」なども少な
くない。今後、日本でもグリーンリー
スの普及が期待できるであろう。た
図表 20 市場関係者から見た
グリーンリース契約の可能性
グリーンリース契約は可能ですか?
1 契約している
2%
4 出来ない
18%
2 可能である
15%
3 条件による
65%
アルエステイト評価」と同様であり、
「お試し参加 」も可能、GRESBレー
(出典: 文献 9 )より筆者が作成 ) ティングが与えられる。
だし 、協力するテナントに対しても
「 リアルエステイト評価 」との差
何らかのインセンティブがあると良
は、回答する設問である。
「 リアル
い。一例としては、米国省エネル
エステイト評価 」のうち、既存物件
ギー省
( DOE )によるグリーンリー
の運用に関わる設問がなく、例え
ス・リーダーズ賞
(グリーンリースの普
ば、物件のエネルギー消費量などは
及に貢献したビルオーナー・仲介業
問われない。
のも一案であろう。
6. おわりに
今年の GRESBリアルエステイト
評価では、グローバルの3 分の2 以
者・テナントを表彰)
など、テナント
日本のディベロッパーは一般に既
上の参加者が「 グリーンスター」の
の協力体制を表彰する国や自治体
存物件の運用も行っているが、新規
好評価を得ており、不動産セクター
等の制度も有効であろう。
開発が主業であるという解釈から、
におけるサステナビリティの取組み
「 ディベロッパー評価 」に参加する
進展を現している。日本の結果は
November-December 2016
57
Business
Trend
概ねグローバルを上回るパフォーマ
また、省エネ診断、省エネ格付、
Index文 10 に お いて 、日 本 は 初 め
ンスを示しているが、まだいくつか
グリーンリースに関するものなど、環
て 4 段 階 中 最 上 位 の「Highly
課題も残る。
境不動産を推進する政策の後押し
Transparent 」に分類された。そこ
一つは、エネルギー・温室効果ガ
も重要である。海外では誘導策の
には、37カ国中 4カ国しか格付けら
スなどの目標値・実績値の開示と、
みならず、義務化を含めた制度構築
れておらず、快挙と言えよう。高評
開示情報等の信頼性である。これ
がなされている地域も多く、当然に
価の理由としては BELSなどの省エ
らはグローバルの投資家が求めるも
取組みの水準が高い。日本でも、
ネ格付やグリーンリースの普及策が
のであり、第三者によるレビューや、
それらへの政策的なサポートが始
言及されているが、制度の実施は始
開示内容の GRI
(グローバル・レポー
まっており、実例も増えてきている。
まったばかりであり、今後の期待が
ティング・イニシアティブ)、IIRC
(国
今年 、Jones Lang Lasalle 社によ
込められている印象もある。これか
際統合報告委員会)フレームワーク
る Real Estate Environmental
らも、市場関係者全体の益々の取
などへの準拠などが期待される。
Susta inability Tra nspa rency
組み推進が期待される。
参考文献
1)Quick ESG 研究所「座礁資産 」
: http://sustainablejapan.jp/2016/05/22/strandedasset/18377
2)2016 GRESB Snapshot (Real Estate): https://gresb.com/2016/global
3)2016 年 GRESB リアルエステイト評価日本市場データ(非公開 )
4)2015 年 GRESB 調査日本市場データ(非公開 )
5)2014 年 GRESB 調査日本市場データ(非公開 )
6)2013 年 GRESB 調査日本市場データ(非公開 )
: http://cr.bentallkennedy.com/Environment/BuildingCertifications 7)Bentall Kennedy 社「 building certifications 」
8)国土交通省「グリーンリース・ガイド」
: http://tochi.mlit.go.jp/kankyo/greenlease 9)東京都「テナントビルの低炭素化・省エネ化に向けた普及促進セミナー アンケート集計結果 」
10)Jones Lang LaSalle 社「 Global Real Estate Transparency Index 2016 – Real Estate Environmental Sustainability 」
: http://www.jll.com/greti/transparency/sustainability
58
ほりえ りゅういち
たかぎ ともこ
不動産投資運用の環境・サステナビリティ配慮に係る助言や環境不動産に
関する公的な調査業務を行う CSR デザイン環境投資顧問株式会社の代表取
締役社長。以前は日本興業銀行、メリルリンチ証券、ドイツ証券に合計 22
年間勤務し、ドイツ証券ではマネージング・ディレクターとして再生可能
エネルギーファンド等を含むストラクチャード・ファイナンス業務を統括。
東京大学法学部卒、カリフォルニア大学バークレー校 MBA、LEED AP、
CASBEE 不動産評価員、桜美林大学大学院非常勤講師、国土交通省「環境
不動産普及促進検討委員会」委員・WG 長、国連環境計画・金融イニシアティ
ブ(UNEP FI)不動産 WG 顧問、責任投資原則 (PRI) 日本ネットワーク不動
産 WG 議長など。
CSR デザイン環境投資顧問株式会社 コンサルタント。2007 年より国土交
通省国土技術政策総合研究所にて建築環境政策の分析等に従事。2013 年、
CSR デザイン環境投資顧問株式会社に入社し、環境不動産の国内外制度や
GRESB 調査に関するコンサルティングなどを行う。東京大学大学院
(建築学)
およびロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(都市計画学)にて修士号取得。
博士(工学、東京大学大学院)
。LEED Green Associate、CASBEE 不動産
評価員。一般社団法人グリーンビルディングジャパン「運営委員会」委員。
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.34