相場展望レポート (2016 年 12 月) 2016.11.30 志摩 力男 氏 12 月相場展望 ドル円 110.00 - 116.00 ユーロドル 1.0200 - 1.0800 ユーロ円 117.00 - 123.00 豪ドル円 82.00 - 87.00 トランプ大統領誕生 いつもであれば、最初に前⽉のマーケットを振り返り、その流れを受けて、今⽉のマーケットがどうなるの か?というステップで述べていました。しかし今回は、トランプ⼤統領誕⽣という、⼤きなイベントがあり ました。トランプ⼤統領の政策は、マーケットを根本から変える⼤きな⼒を持っていると思います。その分 析から始めたいと思います。 トランプ氏の経済政策 トランプ当選の場合、その⼈種差別的な発⾔や、保護貿易主義的考え⽅から、マーケットはリスクオフにな ると考えられてきました。ところが、その瞬間はリスクオフにはなりましたが、トランプ⽒の経済政策が⻑ 期的には⼤きなドル上昇につながるとの認識が広がり、ドル円は 101.20 円前後を付けた後、急激に切り返 し、一気に選挙開票前の 105 円台前半を抜けて上昇していきました。その後は、ドルはほぼ一直線に上昇し ています。ドルはユーロやアジア等の新興国通貨に対しても上昇しました。米国株始め主要先進国株価は上 昇、そして何より米⻑期⾦利が⼼理的節目である 2.00%を抜け、現状 2.4%ぐらいまで急騰しています。 トランプ⽒は、(1)法⼈税を現状の 35%から 15%へと減税する、(2)所得税減税をする、(3)インフラ投 資を増やす(クリントン⽒以上のインフラ投資をすると⾔明)、 (4)企業が海外で儲けた利益に対して、一回 限りにおいて 10%の税⾦で国内に戻すことができる、と選挙期間中表明していました。 しかしながらトランプ⽒は、選挙期間中、共和党の上層部と軋轢を起こしており、実際に⼤統領になったと しても、共和党の上層部はトランプ⽒の政策に対して「Yes」とは⾔わないのではないかと懸念されてきまし た。 1 相場展望レポート (2016 年 12 月) 2016.11.30 ところが、実際に⼤統領に選ばれた瞬間、トランプ⽒は「分裂でなく融和」 「一⼈ひとりみんなの⼤統領にな る」と、⼤きくそのイメージを変えてきました。全面廃止と⾔っていたオバマケアについても、オバマ⼤統 領との会談後、一部有益な部分は残すと妥協、同性愛者、同性婚についても現状追認の姿勢に転じています。 それが安⼼感に繋がったのでしょうか。トランプ⽒の⼤統領らしい振る舞いに、市場は「トランプラリー」 とも⾔える反応となっています。 トランプ⽒の経済政策のうち、インフラ投資の部分については、共和党は元来「小さな政府」を志向します ので、早急な実現は難しいかもしれません。しかし、法⼈税減税については実現の可能性は⼤きいと思われ ます。個⼈の所得税減税に関しても、税率はともかく、実現する可能性のほうが⾼そうです。その場合、35% から 15%へと一気に税率が下がるため、米国景気は間違いなく加熱します。所得税減税が同時に⾏われれば その効果は絶⼤でしょう。 これまで、2016 年 12 ⽉の FOMC において、利上げはあるが、それ以降の利上げペースについては「非常 に緩慢」になると⾒られてきました。年 2 回というのが市場の予想ですが、2016 年が 12 ⽉利上げして漸く 1 回目ということを考えると、2 回も怪しいというのがこれまでのマーケットの⾒⽅でした。クリントン⽒ が当選した場合は、そうだったでしょう。おそらく、デフレ的な状況が続く、重い沈滞したムードが市場を 覆っていたと思います。 デフレからインフレへ大転換 ところが、トランプ⽒の政策が実現した場合、米国経済は過熱します。年 2 回ではなく、3 回も視野に入っ てくるでしょう。インフラ投資も実現した場合、4 回?も可能になってくると、個⼈的には思います。 12 ⽉ 14 日の FOMC においては、FRB 理事達の経済予測が注目を浴びますが、彼らの考える将来の⾦利、 いわゆる「ドット」のカーブが上振れするかどうか、ここが注目です。もちろん、トランプ⽒が⼤統領にな るのは来年 1 ⽉ 20 日からです。政策の実現は、そのもっと後ということになりますが、それを加味してド ットを考えると 2017 年末や 2018 年末の⾦利は上がってくる可能性があります。要注意でしょう(それま で、ドルが上がりすぎている場合、ドル⾼牽制の意味で、ドットを敢えて抑えてくる可能性もあります)。 米経済は失業率 4.9%、決して悪くありませんが、そこから⼤きくアクセルを吹かすことになります。 FRB は、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」となりかねません。各地の不動産は⾼騰し(トランプ⽒が⼤ 統領になる以上、不動産は下がらないでしょう)、雇⽤は⼤きく増え、賃⾦は上がります。すなわち、米国経 済はデフレという状況ではなく、インフレへとシフトして⾏きます。 同時に、トランプ⽒の経済政策を実現する財源は何かと⾔うと、米国債による借⾦となります。米国債は供 給過剰となり、インフレ期待の上昇と相まって、猛烈な売り圧⼒が米国債を直撃することになります。 2 相場展望レポート (2016 年 12 月) 2016.11.30 米⻑期⾦利は上がります。現状の 2.35%を超えてくると、1980 年来の、⻑期⾦利のダウントレンドが終わ るように⾒えます。おそらく、ダウントレンドラインを突破し、2.7%辺りまで⻑期⾦利はオーバーシュート するのではないでしょうか。 日本の⾦利は「⻑短⾦利操作つき、量的質的緩和」により短期-0.1%、⻑期 0%に固定されています。 すなわち、米⾦利が上がれば上がるほど、ドル円も上がって⾏くということになります。仮に 2.5%ぐらい に上昇すれば、ドル円は 115 円、2.7%ならば 118 から 120 円ということになるのではないでしょうか。 日銀の「長短金利操作つき、量的質的緩和」が持つ 2 面性 日銀が 9 ⽉に導入した「超短⾦利操作つき、量的質的緩和」は、当初「実質的なテーパリング」という⾒⽅ が⼤勢を占めていました。実際、そういう面はあります。デフレ環境下では、特に日銀が市場を買い支えな くても(極端なことを⾔えば 1 円も使わなくても) 、日本国債 10 年⾦利はゼロ%から⼤きく動かないでしょ うし、状況次第ではもっと⾦利が下がる可能性もあります。すなわち、このデフレ状況下では「量」は出ま せん。⾦融緩和は進まないことになります。 ところが、インフレ環境下では違ってきます。米国同様、日本のインフレ率も上がるという⾒通しが出てく ると、市場の参加者は JGB を売ろうとします。それを日銀が「指値オペ」で買い支えることになりますが、 インフレ⾒通しが⾼まれば⾼まるほど日銀が購入しなければならない JGB の⾦額は膨れ上がることになりま す。つまり「量」が出て、⾦融緩和が進むことになります。 「⻑短⾦利操作付き、量的質的緩和」を決定したとき、日銀は同時に「オーバーシュート型コミットメント」 すなわち、2%のインフレ目標を実現するのみならず、安定的に 2%を実現するために必要なだけ⾦融緩和を 継続すると約束しました。通常、インフレ率 2%程度の世界では、⻑期⾦利は 3%前後ぐらいかもしれませ ん。それを日銀がゼロ%で買うと約束しているわけですから、日本中の投資家が日銀に殺到することになり ます。最終的に殆どの JGB を日銀が購入することになり、その時、年間の目標である「80 兆円」どころか、 もっと⼤きな⾦額を購入せざるを得なくなるわけで、とてつもない「量」がでることになります。通常、出 ⼝を考えるべきときに、⾦融緩和が加速することになります。 そうなると、ドル円の上昇は止まらなくなります。⿊⽥総裁就任以降、日銀は 2%の目標を実現することは 出来ていません。しかし、トランプ⽒の政策により、その可能性が⾼まっています。125 円のときでも CPI2% を実現できなかったわけですから、2%を実現するためには 130 円以上に⾏くことになります。また、そこ で⾦融引締めに転じることは出来ず、 「オーバーシュート型コミットメント」故にもっと⾦融緩和が進むこと になります。その時、ドル円はもっともっと上がっていることになります。 3 相場展望レポート (2016 年 12 月) 2016.11.30 もちろん、その通りことが進むかどうか、わかりません。トランプ⽒のもう一つの側面、 「保護貿易主義」的 面が何時出てくるかわからないところもあります。しかしながら、⻑期的には、米⾦利が上昇するという経 済のファンダメンタルズが最終的には勝つでしょう。将来の超円安シナリオが⾒えてきているだけに、投資 家は焦ってポートフォリオシフトを進めることになります。 ドル円 トランプ⽒当選で、全く違う世界になってきました。執筆時点で 113 円台後半まで来ています。上昇が速す ぎたので、少し時間調整が欲しい感じがします。しかし、110 円辺りで底を確認し、米⾦利の上昇に合わせ てドル上昇継続を予想します。 110.00-116.00 ユーロドル ⼤きなトライアングルを下抜けしそう。ドル⾦利上昇のみならず、12 ⽉ 4 日のイタリア国⺠投票等、欧州圏 を揺さぶるようなイベントが続くことになる。将来的にはパリティをテストしそう。 1.0200-1.0800 ユーロ円 下向きの⼤きな三角持ち合いを上抜けしてきた。底が入った形になっている。117 円前後をサポートに 123 -4 円レベルを目指すか。 117.00-123.00 豪ドル円 豪ドルに関しては、鉄鉱石価格、銅価格との連動性という、新しい動きが出てきた。これまで同様の単純な トレードは出来ない。鉄鉱石価格の上昇は、トランプ⽒当選による米国におけるインフラ投資期待の⾼まり があるが、それは少し過剰に織り込み過ぎに⾒える。しかし、相対的に堅調か。 82.00-84.00 4 相場展望レポート (2016 年 12 月) 2016.11.30 ■ 志摩 力男 氏 氏プロフィール 慶應義塾大学経済学部卒 1988 年~1995 年 ゴールドマン・サックス証券会社 2006 年~2008 年 ドイツ証券等 大手金融機関にてプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任、 その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。 世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。 ■ ご留意いただきたい事項 マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証す るものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の 取引を推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を 提供することはありません。 本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわす ものではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されること がございます。 当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判 断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。 当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資に 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