中国国家税務総局 による事前確認制 度の管理に関する 新たな

中国国家税務総局
による事前確認制
度の管理に関する
新たなガイドライン
の公布
国家税務総局は≪事前確認制度の管理の最適化に関
わる事項に関する公告≫国家税務総局公告2016年第
16号(以下、「64号公告」)を2016年10月18日に一般に
公布した。64号公告は2016年12月1日から施行され、中
国の事前確認制度の管理にかかる新たなガイドラインと
なる。64号公告により、≪特別納税調整実施弁法(試
行)≫(国税発[2009]2号)(以下、「2号通達」)の第6章
が差し替えられる。なお、中国における事前確認制度に
は、将来の関連者間取引にかかる価格設定原則と計算
方法について、納税者と1つ或いは複数の税務機関が合
意する契約形式が採られている。
64号公告には、事前確認制度にかかる業務を一層、堅
実に行なうという国家税務総局の意思のみならず、経済
協力開発機構(以下、「OECD」)の主導する「税源侵食
と利益移転」(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting、
以下、BEPS」)プロジェクトを推進し、国際租税にかかる
グローバルな協調に沿った対応を講じる中国の姿勢が
示された。同時に、当該公告は、中国が注目している特
定の移転価格問題であるバリューチェーン分析と地域性
特殊要因への重視がさらに強調されている。
中国における事前確認制度のおさらい
これまでの歴史を振り返ると、中国税務機関は1998年に初
めて国内事前確認事案を締結し、2005年に事前確認制度
にかかる業務を正式に開始した。国家税務総局が公布した
最新の事前確認制度アニュアルレポートには、2005年から
2014年までの事前確認制度にかかる業務状況が記載され
ている。
2005年から2014年までの間に、中国は合計で113件の事
前確認(そのうち、国内事前確認は70件、二国間事前確認
は43件)を締結している。二国間事前確認に係わる国家と
地域は16に達した。2014年12月31日までに、正式申請の
受理前の段階にある事案は90件あり、さらに、39件が正式
申請は受理されたものの審査や協議中となっている。毎年、
相当な件数の新たな申請がある。2005年から2014年まで
の期間で、2013年の締結件数が最多で19件となっており、
2014年は9件のみが締結された。
特に、移転価格課税についての予測可能性を確保すると同
時に二重課税のリスクを回避することを目的とする二国間
事前確認の申請件数には勢いがあり、正式申請が未受理と
なっている90件のうち、83件は二国間事前確認にかかる申
請であり、国内事前確認は7件のみとなっている。
中国国家税務総局による事前確認制度の管理に関する新たなガイドラインの公布
1
BEPSに対する業務の実施
事前確認制度のプロセス
BEPSプロジェクトは、20か国財務相・中央銀行総裁会議
(以下、「G20」)がBEPSの問題に国際協力を通じて対応
することに同意し、これに対応するために、2013年に
OECDより行動計画が発表された経緯を持つ。中国は
G20の加盟国である。OECDの主導の下、BEPSプロジェ
クトの15のアクションプランは、国際租税の切迫した問題
の解決を目指している。これらのアクションプランのうち、
特定の対応措置等については、「新たなミニマム・スタン
ダードの導入」としてレベル付けがなされており、BEPSプ
ロジェクトに参加するすべての国、地域による実施が約定
されている。
64号公告第4条により、事前確認申請の一般的な要件として、
企業の過去3年間の毎年の関連者間取引の金額が4,000万
人民元以上であることが示された。この点については、現行
規定である2号通達と比べより厳格となった。2号通達におい
ても4,000万人民元の条件はあったものの、連続3年間の要
求は明確に規定されていなかった。
G20及びOECDの加盟国以外にも、BEPSプロジェクトの
「包括的な枠組み」への参加を表明している国、地域があ
り、これらも「新たなミニマム・スタンダードの導入」を約定
している。2016年9月5日までに、85の国、地域がBEPS
プロジェクトの「包括的な枠組み」に参加しており、さらに、
19の国、地域が2016年12月までの参加を承諾している。
BEPSプロジェクトのアクションプラン14は、条約に関する
紛争を定められた期間内に解決するメカニズムに係わる。
紛争解決の主な手段には、租税管轄区域となる国、地域
の間で締結された租税協定に基づく相互協議プロセスが
含まれる。相互協議プロセスでは、各締約国の主管税務
当局が、協議により、二重課税の問題の解決を図る。二
国間事前確認においては、権限のある主管税務当局が
相互協議のプロセスを通じて合意を目指すこととなる。
BEPSプロジェクトのアクションプラン14において、BEPS
プロジェクトの参加国、地域は、「新たなミニマム・スタンダ
ードの導入」および関連する相互審査(ピア レビュー)モ
ニタリングプロセスに合意した。国、地域の相互協議プロ
セスの効率は、他の租税管轄区域に審査されることとな
る。つまり、中国も、相互協議と事前確認制度のプロセス
への重視に同意していることになる。これに対応するよう
に、国家税務総局は、近々、国際税務部門にある反租税
回避部門に、新たな部署を増設する予定である。当該部
署には多くの移転価格専門家が招聘され、2017年年末
までに、その人員数は既存の2部署の合計の2倍に達す
るよう予定されている。そして、当該新設部署の主な業務
の1つには、相互協議及び事前確認プロセスにかかる業
務が含まれる可能性がある。
また、BEPSプロジェクトのアクションプラン5は、有害税制
への対抗に係わる。その「新たなミニマム・スタンダードの
導入」として、BEPSプロジェクトに参加する国、地域は、
特定のルーリングについての自発的情報交換に合意した。
BEPSプロジェクトの参加国、地域は、他の租税管轄区域
に対して定期的に情報を開示する。情報交換の対象には、
クロスボーダー関連者間取引に係わる国内事前確認に
ついての情報が含まれている。64号公告第20条におい
ても、締結済みの国内事前確認の本文がBEPSプロジェ
クトアクションプラン5により情報交換されることが告知さ
れている。
事前確認制度の協議、締結と実施については、予備会談、締
結意向、分析評価、正式申請、協議締結と実施管理の6段階
を踏むこととなった。2号通達では、規定上、匿名ベースによ
る予備会談の実施と各段階におけるタイムスケジュールが設
けられていたが、64号公告ではこれらの規定はなくなってい
る。
特に留意すべき点は、事前確認申請が税務機関に正式に受
理される前に、税務機関と比較的長期にわたる広範囲な事項
についてのやりとりと交渉が企業に要求されることである。こ
の過程において、企業は、多くの分析を準備し、広範囲にわ
たる資料を提出する必要がある。
概括すると、上記の6段階は次の内容を含む。
►
予備会談の段階:事前確認申請を検討する企業は、まず
予備会談を行う。予備会談は匿名ベースで実施すること
はできない。
►
締結意向の段階:税務機関と企業が予備会談で見解が一
致した場合、企業は締結意向と事前確認申請ドラフトを提
出する。税務機関は、企業の締結意向を拒否するか、企
業の締結意向を受け入れて申請ドラフトに対する分析評
価を実施するかを検討する。
►
分析評価の段階:税務機関は申請受理を検討するため、
企業の申請ドラフトについて協議し、実地インタビューを行
なう。
►
正式申請の段階:税務機関が企業による申請ドラフトに同
意する場合、正式な事前確認申請の提出への同意を企業
に通知する。税務機関は、企業の申請を拒否するか、企
業の申請を受理して事前確認について企業と協議するか
を検討する。
►
協議締結の段階:国内事前確認の場合、税務機関は、事
前確認の最終条項につき、企業と協議する。二国間事前
確認の場合、国家税務総局が一方の主管税務当局との
間で協議を実施する。協議が合意された後、各主管税務
当局は、企業との間で合意内容に基づき事前確認協議を
締結する。なお、日本においては、相互協議の合意につき
企業に通知する形式が採られている。
►
実施管理の段階:事前確認の実施期間中、企業は税務機
関に対して年度報告書を提出する。税務機関は事前確認
の実施状況をモニタリングする。企業の業務運営に重大な
変化があった場合、税務機関は当該事前確認を改定又は
中止する。締結後、実施が中止された事前確認について、
税務機関は企業と再協議を行なうこともできる。
中国国家税務総局による事前確認制度の管理に関する新たなガイドラインの公布
2
バリューチェーン分析と地域性特殊要因
国家税務総局による優先受理要件
64号公告は、複数の条項でバリューチェーン分析とコスト
セービングやマーケットプレミアム等を含む地域性特殊要
因の分析に言及している。これらは、国家税務総局が
2016年6月29日付けで公布した《関連申告及び同時文書
管理の規範化に係る事項に関する公告》(国家税務総局
公告2016年第42号)における同時文書の要求と基本的
に一致している。
中国には未受理、未締結となっている事前確認事案が滞留し
ている。この点を踏まえると、国家税務総局が示す事前確認
申請の優先受理要件は比較的重要であろう。国家税務総局
は64号公告第16条において、事前確認申請の優先受理要件
を掲げている。上述したとおり、企業の申請資料のうち、バリ
ューチェーン分析と地域性特殊要因の分析の質は要件の1つ
とされている。実務上、弊社の経験からも、国家税務総局は、
従来からよく用いられてきた移転価格分析による申請と比べ、
バリューチェーン分析と地域性特殊要因の分析の係わる事案
に興味を示し、その申請を優先的に受理する可能性が高い。
64号公告の規定によると、地域性特殊要因の存在の有
無は予備会談の議題の1つとされている。さらに、締結意
向の前に提出する申請ドラフトにおいても、バリュー
チェーン分析と地域性特殊要因の考慮が要求されている。
第16条においては、バリューチェーン分析が明晰で、地
域性特殊要因が十分に考慮されている申請であるかが、
国家税務総局が企業の事前確認申請を優先的に受理す
るか否かを判断する要件の1つとされている。
ただし、国家税務総局は、現時点において、バリュー
チェーンの定義やバリューチェーンとサプライチェーンの
区別については明確に示していない。また、バリュー
チェーン分析の方法についても、具体的なガイドラインを
提供していない。それにもかかわらず、国家税務総局が、
各関連者がどの程度の利益を獲得したかなど、バリュー
チェーンに関与する関連者間の利益配分に係わる情報
の入手を切望していることは明らかである。
地域性特殊要因の分析は、挑戦的な側面を持っている。
国連が取り纏めた2012年10月4日 付けの≪発展途上
国のための移転価格マニュアル(ドラフト)≫においても、
国家税務総局は、中国のコストセービングを反映させる
ための調整方法として、6ステップによる計算の枠組み例
を示している。
また、優先受理要件として、事前確認を申請する企業の納税
信用ランクがA級であることも挙げられた。納税信用ランクは、
国家税務総局がデータベースに基づき開発したシステムによ
り、納税者の納税申告義務の遵守状況や税務調査における
協力状況などの複数の指標と情報に基づき納税者を等級分
けするものである。ここ数年、当該システムは税務調査対象
の選定にも用いられている。
その他の優先受理要件には次が含まれる。
►
企業の関連申告及び同時文書が完備され合理的であり、
かつ十分な開示がなされていること
►
税務機関がすでに企業に特別納税調査を実施し、かつす
でに終結していること
►
締結された事前確認の実施期間が満了し、企業が継続申
請を申請し、かつ、事前確認に記載された事実と事業環境
に実質的な変化が生じていないこと
►
企業が積極的に税務機関の事前確認の協議締結業務に
協力すること
►
二国間或いは多国間事前確認申請について、事案に関わ
る租税協定の締約相手の税務主管当局の締結意欲が強
く、かつ事前確認に対する重視の程度が高いこと
複数の地域の係わる国内事前確認
64号公告第17条により、1つの管轄区(省、自治区、直轄市な
ど)のみが係わる事案ではなく、中国国内の複数の管轄区に
跨り利益配分がなされる国内事前確認申請については、国
家税務総局が事案対応のアレンジをすることがより明確に規
定された。
中国国家税務総局による事前確認制度の管理に関する新たなガイドラインの公布
3
四分位レンジの使用と中位値までの調
整
64号公告第12条は、事前確認において四分位レンジが
採用された場合にも、最終的には中位値まで調整される
可能性が高いことが示された。企業の経営結果が四分
位レンジを外れる場合、実際の経営結果を四分位の中
位値まで調整しなければならない。これに反して、中国と
租税協定を締結したいくつかの締約国、地域においては、
四分位レンジの最も近いエッジまでの調整がなされるこ
とがある。また、第12条は、事前確認対象年度を通じた
企業の各年度の経営結果の加重平均値がレンジの中位
値を下回り、かつ、中位値まで調整していない場合、税
務機関は継続締結申請を受理しないと規定している。当
該条項によると、租税条約の一方の締約国、地域におい
ても中位値までの調整が同意されなければ、二重課税
が生じる余地が残されてしまう。
まとめ
64号公告は、中国における事前確認プロセスのガイドライン
を改定すると共に、租税条約の一方の締約国、地域との間で
の紛争解決プロセスに努力する中国の意思を示した。また、
バリューチェーン分析と中国の地域性特殊要因への考慮を重
視する国家税務総局の姿勢が堅持されている点にも留意を
要する。
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