リサーチ TODAY 2016 年 11 月 21 日 日銀のETF購入は強力だが限界もある 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 日銀によるETFの大量購入は、株式需給を支えることで株式市場を安定化させ、家計や企業の心理を支 え、国内投資家を中心に日本株への投資選好を高め、リスク許容度を底上げさせるメリットをもつ。一方、株 式市場の価格形成や流動性に与える影響、さらに日銀の純資産に与える影響等、懸念される面もある。流 動性の低下は、将来的な日銀のETF買入れの限界も示唆するものである。みずほ総合研究所は、日銀の ETF購入の影響に注目したリポートを発表している1。下記の図表は、日銀のETFの保有残高と上限の目安 を示したものだ。日銀によるETFの買入れは、ETFのほか国債やCP、J-REIT等の資産買入れのための基金 を創設した2010年10月の金融緩和を契機に始まった。黒田総裁就任直後の2013年4月の緩和で、ETFが年 間約1兆円ペースで購入されることになり、それまでと比べ約2倍のペースとなった。その後、2014年10月の ハロウィン緩和で年間3兆円の買入れとなり、さらに2016年7月に6兆円までの増加ペースとなった。 ■図表:日銀のETF保有残高と上限目安 20.0 18.0 (兆円) ETF保有残高 ETF保有残高上限目安 16.0 買入れペース約2倍の 6兆円に 14.0 設備投資・人材投資 積極企業支援枠 0.3兆円設定 12.0 10.0 8.0 6.0 ETFの純資産総額 15.8兆円 東証1部の株式時価総額 492兆円 買入れペース3倍の 3兆円に 量的・質的金融緩和導入 4.0 2.0 (年/月) 0.0 11/1 11/7 12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 (注)保有残高は 2016 年 10 月末時点。 (資料)日銀より、みずほ総合研究所作成 日銀の保有するETFの金額は、2016年10月時点で簿価ベースで10兆円を超える状況にあり、東証1部 上場企業の時価総額の約2.0%を占めるに至っている。次ページの図表は日銀によるETFの買入れの度 合いを示すものだが、2015年の買い越しの主体別状況をみると、日銀が最大の主体となっている。しかも、 今年7月以降、その買い越しペースが倍になるので、日銀が圧倒的な存在感を示すことになる。2013年か 1 リサーチTODAY 2016 年 11 月 21 日 ら2015年までのアベノミクス相場のなかでの海外投資家の買い越しも年平均では5兆円程度であったこと から、この影響度の大きさがわかる。 ■図表:日銀によるETFの買入れ (兆円) 株式ネット買い越し額 (マイナスは売り越し) 日銀の ETF 買入れ額 個 人 事業法人 金融機関 海外投資家 2013~2015 年累計 5.4 -17 4.7 -0.1 15.7 2015 年 3.1 -5.0 3.0 2.0 -0.3 年平均 5.2 兆円 年間約 6 兆円に倍増 (資料)日本銀行よりみずほ総合研究所作成 下記の図表は日銀が引当金を計上せざるを得なくなる日経平均株価の水準を試算した結果を示すもの だ。図表の脚注に示した前提の下では、2017年3月末時点で、今年9月末から9%株価が下落していると、 日銀では引当金の計上が必要になる。日銀のETF保有が10兆円を超えるなか、日銀の純資産4兆円と比 較した変動幅は大きい。以上から、日銀が今後の政策追加オプションとしてETFの積み増しをすることは、 次第にハードルが高くなってきたと考えるべきだろう。 ■図表:日銀が引当金を計上する日経平均株価の水準試算 (%) (円) 16,000 0.0 -1.0 -2.0 15,500 -3.0 -4.0 15,000 -5.0 -6.0 -7.0 下落率(2016年9月末比) 日経平均株価(右目盛) -8.0 14,500 -9.0 14,000 -10.0 17/3 17/9 18/3 18/9 19/3 19/9 20/3 20/9 21/3 (年/月) (注)2016 年 9 月末の株価水準で年間 6 兆円のペースで買入れた場合。 (資料)日本銀行、Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 1 大塚理恵子 「日銀の ETF 大量購入への考察」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 10 月 25 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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