小 児 耳V◎1.14,No.1,1993 原 著 ALTEを 生 じた 小 児 の 睡 眠 時 無 呼 吸 症 候 群 の5症 例 渋谷真理子 ・工藤 典代 (千葉 県 こ ど も病 院 耳 鼻 咽 喉科) Sleep apnea syndrome Mariko with Shibuya ALTE and Fumiyo in children Kodoh Division of Oto-rhino-laryngologyChiba Children's Hospital It is generally agreed that sleep apnea in children, resulting from obstruction of the upper airway associated with adenoids and hypertophic tonsils, causes maldevelopment and pulmonary heart disease. In addition, it is considered that sleep apnea, obstruction of the airway and dysfunction of the respiratory center are important causes of sudden infant death syndrome (SIDS). From 1989 through 1992, five children with an apparent lifethreatening event (ALTE) probably associated with sleep apnea were treated in Chiba Children's Hospital. All patients had adenoids and hypertrophic tonsils. The trigger causing sleep apnea was infection in the upper respiratory tracts in 4 of the cases, who fell in an ALTE and required emergency treatment. Three of the cases had a chromosome aberration. They received tracheostomy and two were free from tracheal intubation after removal of the adenoids and tonsils. We emphasize the importance of early removal of the adenoids and tonsils, when they are associated with obstructive sleep apnea. は じめ に ア デ ノ イ ド ・扁 桃 肥 大 に よ る上 気 道 閉 塞 が も た らす 睡 眠 時 呼 吸 障 害 は,小 児 では発 育障害 や こで は,症 例2と3に つ き呈 示 す る。 症 例2:2歳6ヵ 月,女 主 訴:気 道 の狭 胎38週,鉗 家 族 歴 ・既 往 歴:特 記 す べ き こ とな し。 現 病 歴:生 し,生 か ら1992年 の3年 候 群,濟 ヘ ル ニ ア,両 外 反 扁 平 足 。 ひ き お こす 原 因 の一 つ と して 重 要 で あ る と考 え られ て い る2)。 わ れ わ れ は 今 回,1989年 子 分 娩 。 出生 時 体 重 3635g。 合 併 症:Hallermann-Streich症 窄 と呼 吸 中 枢 の 機i能異 常 が,SIDS(SuddenInfantDeathSyndrome)を 管切 開孔 管理 依頼 。 出 生 歴;在 肺 性 心 の原 因 とな る こ とは広 く知 られ て い る1)。 乳 幼 児 で は睡 眠 中 の無 呼 吸 発 作 や,気 児。 下 時 よ り吸 気 性 呼 吸 困 難 が 出 現 後40日 頃 か ら上 気 道 炎 の た び に 睡 眠 中 間 に 当 院 で 経 験 した ア デ ノ イ ド ・扁 桃 肥 大 に よ の 呼 吸 停 止 を お こ し,気 管 内 挿 管 に よ る呼 吸 管 る睡 眠 時 呼 吸 障 害 が 主 原 因 とな り,ALTE(ap- 理 を 繰 り返 して い た 。 生 後7ヵ parentlife・threateningevent)を 生 じた5症 例 を 報 告 す る、 1.症 ALTEを 右 心 不 全,心 年6月 例 生 じた5症 生 後9ヵ け た 。89年3月 月 頃,肺 性 心, 室 性 期 外 収 縮 が 出 現 し た た め87 月 目に耳 鼻科 で気 管 切 開 を 受 気 管 切 開 孔 管 理 目的 に て 当 科 を 紹 介 され 受 診 とな った 。 例 を 表1に 示 した 、 こ 一69一 初 診 時 所 見 二身 長84.5cm体 重10.Okg。 ア 小 児 耳Vo1.14,No.1,1993 表lALTE5症 例 の ま とめ デ ノ イ ド高 度 肥 大 ・扁 桃 皿度 肥 大(マ ッ ケ ン ジ ー 分 類) ,気 管 切 開 施 行 例 。 上 咽 頭 高 圧 撮 影, 上 気 道MRI施 ろ,ア 行 し,内 視 鏡 等 で 確 認 した と こ デ ノ イ ドお よび 両 側 口蓋 扁 桃 が 高 度 に 肥 大 して お り,さ ら に ワル ダイ エ ル 扁 桃 輪 特 に 舌 根 周 囲 に リ ンパ 様 組 織 の 増 殖 が 認 め られ た 。 視 診 上 は 口腔 内,口 峡部 に は扁桃様 組織 が充満 し て お り,左 右 の扁 桃 の 境 界 は 不 明 で あ った,写 真 に 示 す よ うに,上 咽 頭 は 高 度 に肥 大 した ア デ ノ イ ドに よ り閉 塞 して い た(図1)。 的 小 さ い がX-p上 舌 は 比較 は ア デ ノ イ ドの 下 端 と扁 桃 の上端 の境界 が不 明瞭 であ った。 経 過:89年4月 ア デ ノ イ ド切 除 術,扁 桃摘 出術 を 施 行 し,再 び 内視 鏡 で 気 道 を確 認 した 後, 6月 気 管 カ ニ ュー レが 抜 去 で きた 。 症 例3:2歳9ヵ 主 訴:睡 月,男 眠 中 の 呼 吸 停 止,い 出 生 歴:在 胎38週,正 図1症 児。 び き。 常 分 娩。 出生 時 体 重 りairspaceが 家 族 歴 ・既 往 歴:特 現 病 歴:1歳 記 す べ き こ とな し。 経 過:91年12月 頃 か ら い び き が 出 現 し,睡 眠 中 病 院 で 酸 素 吸 入 等 の 緊 急 処 置 を 受 け て い た 。91 上 気 道 炎 に 罹 患 した 後 口 呼 吸 が 増 え, 長98.5cm体 重18,5kgア ノイ ド高 度 肥 大 ・扁 桃 皿度 肥 大(マ 分 類),胸 で は,上 郭 変 形 あ り。 術 前,上 咽 頭 も肥 ア デ ノ イ ド切 除 術 ・両 側 口 蓋 扁 桃 摘 出 術 を 施 行 した 。 術 後,夜 間睡眠中 の 呼 吸 は 安 定 し,無 呼 吸 は ほ ぼ 消 失 した た め 退 院 と な っ た 。 術 後 は 図2の うに 上 咽 頭 に 約8mmの い び きが 増 強 した 為 当 科 紹 介 とな っ た 。 初 診 時 所 見:身 ほ と ん どみ ら れ ず,中 大 した扁 桃 に よ り狭 小 化 し て い た(図2a)。 神 発達遅 滞。 呼 吸 が 停 止 しチ ア ノ ー ゼ が 生 じ た た め3回 年1月 閉塞 して お り,中 咽 頭 に は 扁 桃(**) 3400g. 合 併 症:精 例2の 術 前 の上 咽 頭 高 圧撮 影。 上 咽頭 は増 殖 した ア デ ノイ ド(*)で 上 咽頭 高 圧撮 影 の よ 間 隙 を 認 め た(図 2b)。 デ ッケ ン ジ ー 咽頭 高 圧撮 影 咽 頭 は 高 度 に 増 殖 した ア デ ノイ ドに よ 一70-一 今 回 呈 示 し た5症 例 で は,ALTE発 は 生 後40日 か ら1歳11ヵ 症年齢 月 で あ った 。 出 生 歴 生 下 時 仮 死 が 存 在 し,未 熟 児 は 1例 の み で あ った 。 で は 症 例2に 小 児 耳VoL14,No.1,1993 a術 図2症 3.考 b術 前 例3の 上 咽 頭 高 圧 撮 影。 術 前 は アデ ノイ ド(*)に よ り上 咽 頭 に は ほ とん ど airspaceが 認 め られ な か った が,術 後 は 十 分 に 気道 が 確 保 で きた(扁 桃 は**) 表2ALTEを 察 ALTE(apparentlife・threateningevent)は れ た 用 語 で あ る 。ALTEの 1988年A.Kahnら3)は,自 例 を 検 討 し,ALTE症 原 因 に つ い て, 験 例 を 含 め て2779 例 中61%に 何 らか の 原 因 が 特 定 され た と 報 告 し た(表2)。 の 表 に よ る と,ALTEの 症 例 は 全 体 の10.4%と ま た,こ 原因が呼吸に関す る わ ず か で あ っ た が, 無 呼 吸 と の 関 連 に つ い て は1972年, Steinschneider4)が 初 め て 報 告 して か ら 度 々 報 告 され て い る。 1989年J.Milerad等5)は,ALTE症 常 児,SIDSの 同 胞 を 比 較 し,ALTE例 生 じた 乳 幼 児2779例 の 臨 床 診 断 (1983-1987) (文献3よ り) SIDSと そ の 未 然 例 と され る症 例 が 必 ず し も同 一 の 疾 患 で は な い と も言 わ れ る こ とか ら提 唱 さ ALTEと 後 例 と正 では 低 酸 素 ・高 二 酸 化 炭 素 刺 激 に 対 し て,覚 醒 反 射 が 明 らか に 低 下 して い る こ と を報 告 して い る。 これ ら よ り,睡 眠 時 の 呼 吸 障 害 はALTEの 原 因 と して 重 要 で あ る と考 え た。 睡 眠 時 呼 吸 障 害 は 一 般 に 上 気 道 炎 ・肺 疾 患 ・ 心 疾 患 ・内 分 泌 疾 患 ・神 経 筋 疾 患 ・肥 満 ・高 齢 ・薬 物 等 の 因 子 に よ り増 悪 す る と い わ れ る。 乳 幼 児 で は 特 に,気 道 感 染 や 先 天 性 の 成 因 に よ る 一71一 小 児 耳VoL14,No.1,1993 気 道 狭 窄 が 増 悪 の原 因 とな る と思 わ れ る。 今 回 報 告 した5症 例 のALTE発 を ま とめ る と,症 例1は 形 成 が あ り,症 症 時 の状 況 呼 吸 停 止 が 起 こ っ た 。 症 例5で 傾 向 が あ っ た が,入 道 の解 剖 学 的 な条 件 と,呼 吸 調 節 機 構 の 未 熟 性 生 下時 す に よ る 無 呼 吸 の遷 延 化 が 加 わ る と,正 常 児 に 比 べ,覚 間 は 日 中 も傾 眠 ま 1.上 管 に よ る 呼 吸 管 理 を く りか え して い た 、 症 例 と め 気 道 狭 窄 に よ る睡 眠 時 呼 吸 障 害 が 主 な 原 因 と考 え られ たALTE5症 先 天 性 の 合 併 症 が あ り,気 管 切 開 を 必 要 と した が,ア 生 ず る と考 え られ る。 4、 除 きいず れ も 上 気 道 炎 罹 患 時 に 発 症 し,酸 素 吸 入 あ るい は挿 2,4は 醒 反 応 も低 下 して い る た め 容 易 に ALTEを 浴 中 突 然 呼 吸 が 停 止 し,チ ア ノ ー ゼ を 起 こ した 。 症 例5を 2.5例 デ ノ イ ド切 除 術 ・扁 桃 摘 出 術 施 行 中4例 は 上気 道 炎罹 患 時呼 吸状 態 が 3.各 症 例 と も発 症 は 生 後40日 か ら1歳11カ を 閉 鎖 す る事 が で きた 。 術 後 全 症 例 で 呼 吸 状 態 月 と,SIDSやALTEの が 改 善 した 。 った。 これ らを 検 討 す る と,4例 が上気 道炎 罹患 時 起 こ して い る の は,ア 4.5例 デ ノ イ ド扁 中3例 発 症 が 多 い年 齢 で あ に染 色 体異 常等 の合併 症 が存 在 し,こ れ らの3例 桃 肥 大 に よ る上 気 道 狭 窄 が 上 気 道 炎 に よ りさ ら 5.気 は,ア デ ノ イ ド ・扁 桃 肥 大 とい っ た 小 児特 有 の特 徴 に レが 抜 去 で き た。 デ ノ イ ド ・扁 桃 肥 大 に よ る 上 気 道 狭 窄 し,さ ら に 上 気 道 炎 に 罹 患 して い る と,気 道 の に よ る睡 眠 時 無 呼 吸 症 候 群 で,全 分 泌 物 は 増 加 し,粘 膜 の浮 腫 や 扁 桃 組 織 の 腫 脹 を 伴 う場 合 は,早 な ど で,気 i摘出術 が 必 要 で あ る。 道 は よ り狭 くな り,無 呼 吸 が 生 じや 例 の うち2例 デ ノ イ ド切 除 ・扁 摘 に よ り,気 管 カ ニ ュ 6.ア 眠 時 の 姿 勢 等 に よ り気 道 が 狭 小 化 に 気 管 切 開 が 施 行 され た 。 管 切 開 を 施 行 し た3症 増 悪 した こ とに よ る と考 え られ た。 す な わ ち ア 加 え て,睡 例 を報 告 した。 増 悪 し,無 呼 吸 発 作 が 生 じた 。 後 は 不 要 と な りカ ニ ュ ー レを 抜 去 で き,気 管 孔 にALTEを 緊 デ ノイ ド ・扁 桃 肥 大 が 存 在 す る うえ に これ ら気 喘 鳴 が 続 い て お り,上 気 道 炎 罹 患 時 午 睡 後,呼 ぐか ら呼 吸 障 害 が あ り,上 気 道 炎 罹 患 時,夜 膜 下 口蓋 裂,筋 張 の 低 下 が 認 め られ た 。 睡 眠 中 に お い て は,ア 生 後 す ぐ よ りい び き, 吸 停 止 状 態 で 発 見 さ れ た 。 症 例4は 例4は,粘 す くな る こ とが 考 え ら れ る。 身的 な合併症 期 に ア デ ノイ ド切 除 術 ・扁 桃 参 考文 献 乳 児 に は 生 理 的 な 無 呼 吸 が 出 現 す る こ とは よ 1)工藤典代:Sleep apnea.JOHNS,8(4):613-621, く知 られ て お り,上 記 の よ うな 過 程 で 無 呼 吸 が 1992. 遷 延 化 す る こ とが 考 え られ る。 ま た,症 例1,2,4の 2)水 3) よ うに 染 色 体 異 常 や 先 天 奇 形 が 存 在 す る と,呼 吸 状 態 を 増 悪 させ る因 子 は 他 に も 存 在 す る 。 症 例1はDown症 に 特 有 な 巨 舌 以 外 に,筋 候群 緊 張 の 低 下 に と もな う 舌 根 沈 下 や 反 回 神 経 麻 痺,喉 頭 軟 化 症,声 門下 狭 窄 が あ り,ア デ ノイ ド切 除 と扁 桃 摘 出 術 の み で は 呼 吸 状 態 は 改 善 せ ず,気 っ た 。 症 例2は 主 症 状 の1つ 田 隆 三:SIDS。 小 児 内 科,21:357-361,1989. A. Kahn, E. Rebuffat, M. Sottiaux, and D. Blum: Management of an Infant with an Apparent LifeThreatening Event. Pediatrician, 15: 204-211, 1988. 4) Steinschneider A: Prolonged apnea and sudden infant death syndrome: Clinical and laboratory observations. Pediatrics 50: 646-654, 1972. 5) J. Milerad, T. Hertzberg, G. Wennergren, and H. Lagercrantz. Respiratory and arousal responses to hypoxia in apnoeic infants reinvestigated. Eur J Pediatr 148: 565-570, 1989. 管 切開 が必要 で あ と して下 顎 の低 72
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