EU Trends フランス共和党予備選で波乱 発表日:2016年11月21日(月) ~読めなくなったフランス大統領選~ 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理 03-5221-4527 ◇ 20日のフランス共和党の大統領選・予備選はダークホースのフィヨン元首相が首位となり、本命候補 と目されてきたジュペ元首相とともに27日の決戦投票に進出する。決選投票ではサルコジ前大統領の 支持票がフィヨン候補に流れるとみられ、同候補がこのまま逃げ切る可能性が高い。 ◇ 今回の予備選の結果により、来年4・5月の大統領選挙で、極右・国民戦線のルペン候補が上位2名 の決選投票に進出することがほぼ確実となった。残り1枠を共和党のフィヨン候補と、若手・改革派 で国民的な人気を誇るマクロン候補が争うことになりそうだ。 ◇ 世論調査はどちらの候補が決選投票に進出してもルペン候補を破ることを示唆している。だが、これ まで両候補に関する世論調査はほとんど発表されていない。さらに英国民投票や米大統領選など、世 論調査の結果が疑われる大逆転劇が相次いでいる。ルペン・ショックに身構える必要がありそうだ。 20日に行われたフランス共和党の大統領予備選の初回投票では、事前の世論調査で3位につけていたフ ィヨン元首相が44%の票を得て首位に、本命候補のジュペ元首相が28%で第2位に、サルコジ前大統領が 21%で第3位となった模様(開票率約80%段階のBloomberg速報)。投票直前のテレビ討論会の評価が高か ったフィヨン候補が、そのままの勢いで初回投票を制した。共和党の予備選は、2ユーロを支払い、共和 党の価値観を共有すると署名した有権者が投票できる。共和党の支持者以外もかなりの数が投票したとさ れる。フィヨン候補がこのまま50%未満の獲得票率にとどまった場合、同氏とジュペ氏の上位2候補が27 日の決選投票で共和党大統領候補の座をかけて戦う。保守的な価値観を重んじるフィヨン候補は、政策面 ではジュペ候補よりもサルコジ候補に近い。決選投票ではサルコジ候補の支持層がフィヨン候補に流れ、 このまま逃げ切る可能性が高い。これで来年4・5月の大統領選挙の行方は益々読みにくくなった。今回 の共和党予備選の結果も、事前の世論調査と実際の投票結果が大きく食い違った。フランス大統領選挙で も、起こらない筈のことが起こった6月の英国民投票と先の米大統領選挙のショック再来が不安視される。 フィヨン氏を共和党の大統領候補とする世論調査の数は少ないが、共和党予備選での今回の伸長を受け、 本選でも過去の世論調査以上の票を獲得する可能性がある(図・上段)。ただ、過去の調査結果でのリー ドを考えれば、極右・国民戦線のルペン候補の本選での決選投票への進出はほぼ間違いない。決選投票へ の残り1枠を、最近出馬を表明した若手・改革派で国民的な人気を誇るマクロン候補と共和党のフィヨン 候補が争うことになりそうだ。マクロン候補とフィヨン候補を同時に調査した世論調査はこれまでない。 マクロン候補の出馬が噂された以降の世論調査で、共和党内の立ち居地がフィヨン候補に近いサルコジ候 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 補への支持が低下している。フィヨン候補も初回投票でマクロン候補に票を奪われる可能性がある。 どちらの候補が決選投票に進出した場合も、決選投票ではルペン候補を破る可能性が高い(図・下段)。 ただ、両候補とルペン候補を比較した決選投票の世論調査は過去にほとんどなく、今年の4・5月以降は 発表されていない。決選投票では極右の大統領誕生を阻止するため、対立候補に支持が集まるとの見方が 今のところ支配的で、筆者もそうした見方を維持している。とは言え、対抗馬となりそうなフィヨン候補 やマクロン候補を大統領候補とする世論調査がほとんどないうえ、その信頼性が高くないとすれば、大統 領選挙前の金融市場はルペン・ショックに身構える必要がありそうだ。 (図)フランス大統領選挙の世論調査 【初回投票:共和党候補がフィヨン元首相の場合】 (%) 40 メランション(左翼党) 30 オランド(社会党) 2016/9 2016/5 2016/4③ ルペン(国民戦線) 2016/4① 0 2016/1 フィヨン(共和党) 2014/10 10 2014/4 バイル(民主運動) 前回選挙 20 【決選投票:フィヨン/マクロン対ルペン】 (%) 80 20 20 0 0 2016/1 2016/5 40 2016/4② 40 2016/4① 60 2014/9 60 2016/4 (%) 80 マクロン(アン・マルシュ) ルペン(国民戦線) フィヨン(共和党) ルペン(国民戦線) 出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成 以上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2
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