失明した患者さんに再び光を ~ポリエチレンフィルムを利用した

<記者用説明文>
失明した患者さんに再び光を ~ポリエチレンフィルムを利用した人工網膜の実用化に向けた医工連携研究~
岡山大学大学院自然科学研究科
学会発表番号
内田哲也、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
松尾俊彦
1PA02
<研究成果のポイント>
●ポリエチレンシートと光電変換色素を
使用した電気を使わない全く新しいタイ
プの人工網膜であり、安価で優れた特性
が期待される。
●大学内の医工連携で開発を進め、専用
製造設備を大学敷地内に構築するなど、
治験に向けた準備を進めている。
健常者
網膜色素変性症
神
経
節
細
胞
網膜
双
極
細
胞
視
細
胞
他の細胞は健常に
機能を果たす
人工網膜による視覚の回復
視
細
胞
人工網膜
(色素固定薄膜)
光
刺激の伝達(脳へ)
<研究成果の概要>
網膜中の視細胞に障害があると、視力の
低下、最悪の場合失明を引き起こす。視
細胞は、目が光を受けたとき脳に伝える
電気信号の起点になっている。厳密には、
光を受けて視細胞膜面の電位変化を生
じ、その刺激を双極細胞に伝えることが、
視細胞の役割である。この機能と生体適
合性をもつ人工の薄膜(人工網膜)を大
学内の医工連携で開発している。
図1
刺激の伝達
刺激の伝達(脳へ)
網膜色素変性症と本研究の人工網膜の使用法
<研究成果解説文>
ポリエチレンフィルムを基板とした光電変換色素固定薄膜型人工網膜の実用化に向けた医工連携研究
第 25 回ポリマー材料フォーラム
予稿集
P34
著者名: 内田哲也 1*、山下功一郎 1、伍賀由伎 2、
松尾俊彦 3
著者所属
1. 岡山大学大学院自然科学研究科
2. 岡山大学工学部
3. 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
* E-mail: [email protected]
網膜中の視細胞は目に入った光を受けて電位変化を生
定する方法を開発した。現在までに視細胞の疾患で失明
じ、視覚の起点となっている。視細胞に欠陥があると視
したラットにこの色素固定薄膜を挿入すると視力が回復
力の低下、最悪の場合失明を引き起こす(Fig.1)。我々は
することが分かっており、人への治験を目指して有効性、
視細胞の機能と生体適合性を持つ人工の薄膜(人工網膜)
安全性の確認を医薬品医療機器総合機構(PMDA)への対
の開発を目的とし、光を吸収し分子内で電位差を生じる
面助言を重ねながら実施している。また、品質管理を目
光電変換色素をポリエチレン(PE)薄膜に化学固定した色
的として専用のクリーンルーム製造設備も構築した。本
素固定薄膜の作製を検討してきた。PE は化学的に安定な
報告では、それらの活動および人工網膜表面で生じる光
物質であるため薄膜表面の化学修飾が困難であった。そ
誘起表面電位を定量的にとらえ、さらに光に対する応答
こで我々は PE 板状晶の分子鎖折りたたみ部分(fold 部)
性などを検討した結果を報告する(下記参照)。
に選択的にカルボキシル基を導入して光電変換色素を固
健常者
網膜
神
経
節
細
胞
網膜色素変性症
双
極
細
胞
視
細
胞
他の細胞は健常に
機能を果たす
人工網膜による視覚の回復
視
細
胞
人工網膜
(色素固定薄膜)
光
刺激の伝達(脳へ)
図1
刺激の伝達
網膜色素変性症と本研究の人工網膜の使用法
刺激の伝達(脳へ)