供給過剰・流動性向上に伴う、日本の LNG 調達への影響

更新日:2016/11/17
調査部:田村 康昌
供給過剰・流動性向上に伴う、日本の LNG 調達への影響
(各社ホームページ、各種報道、他)
○日本向け LNG は、2016 年 1~2 月の油価下落を受け、タイムラグを経て 6 月に最安値をつけた。
その後若干の上昇傾向にあるが、原油価格も 45~50 ドル前後で推移しており、OPEC の減産合意
動向・米国シェールオイルの供給にもよるが、大幅な上昇は考えにくい。
○北東アジア向けスポット LNG 市場は、冬場の需要期を前に、韓国・台湾における原発稼動遅れの
影響等もあり上昇傾向(7.3$/MMBtu)にあり、原油連動価格を前提とした日本着価格と同水準とな
っている。
○現在、世界の LNG 生産能力は大幅拡大の局面にあり、現在建設中の 2020 年代初頭までは、供
給過剰の状況が継続する見込み。また、北米・カナダ等を中心に、多数の LNG 液化プロジェクトが
計画されており、将来の需要増・引き取り先の確保を前提に、詳細検討・最終投資決定に移行可能
なプロジェクトは 2 億トン/年を超えると推計される。一方で、中期的な供給過剰、低油価の長期化懸
念から新たな投資決定は少んでいない。想定外の需給逼迫が生じた場合、スポット価格の高騰が
一定期間(投資決定~生産開始までは約 4~5 年間)、顕在化する可能性がある。
○日本企業の LNG 契約は、豪州・米国からの供給増が本格化する 2018 年には約 9,000 万トン弱と
なる見込み。その後、順次既存契約が期限を迎えるが、新たな契約がなくとも震災以前の原発が通
常稼動していた 2010 年の輸入量である 6,900 万トンを下回るのは 2023 年以降となる見通し。
○原発の再稼動、電力・ガス自由化の進展、省エネ・再生可能エネルギーの導入推進等を考慮する
と、新たな長期契約締結は困難かつ国内需要が低迷した際には、世界的な供給過剰の状況下にお
ける転売の検討も必要となる。
○多額の初期投資を必要とする LNG の開発は、石油価格連動・長期契約を前提に発展・拡大を続け
てきた。買主にとって競合燃料(主に石油)との価格優位性が必ずしも販売先の確保につなが
る状況ではなく、より大きな需要変動への対策が必要となっている。売主にとっても、資機材・
人件費・環境配慮等に伴うコスト増、低油価の長期化傾向が収益を圧迫し、供給過剰・買手優
位な状況においても、買主のニーズにあわせた下方柔軟性の提供、価格見直しも容易ではない。
○これまで石油市場が経験してきたブームとバストのサイクルからの脱却という困難な挑戦のため、透
明性・信頼性の高いスポット取引の標準化等業界全体での取り組み、プロジェクトコスト更なる低
減など、市場構造の変革に向けた取り組みが必要。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
1.LNG 市場動向
図 1 世界の天然ガス・原油価格推移
(1) 油価見通しをふまえた日本着 LNG 価格の動向
2016 年 10 月の JLC(全日本着平均 LNG 輸入価格)は 7.1$/MMBtu となり、2005 年以来の安
値水準であった 2016 年 6 月の 5.9$/MMBtu からは若干の上昇傾向にある。
日本向の LNG は依然、長期契約・石油価格連動による価格決定方式が大半を占め、JCC(全日
本平均原油輸入価格)を指標とし、原油価格のレベルに応じた一定の調整要素を加味した上で算出
される。これは、WTI・ブレント原油価格から約 4~5 ヶ月、JCC(全日本平均原油輸入価格)と
比較して約 3~4 ヶ月のタイムラグを経て、日本向け輸入価格に反映されることとなる。
震災以降、スポット・短期の取引割合も増えているものの、3~4 ヶ月前の JCC と JLC の価格
には強い相関がある。このため、油価の動向・見通しを通じ、日本着 LNG 価格の推移・今後の動
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データおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に
関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いませ
ん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
向をみてみたい。2016 年 1 月には、イランに対する制裁解除に伴う同国からの石油供給増加及び
需給緩和に対する市場での観測や、国際通貨基金(IMF)による世界経済成長見通しの下方修正等
により、WTI 原油(終値)は、26.55$/bbl(2016/1/20)・26.21$/bbl(2016/2/11)と 2003 年 5 月
以来の低水準に達した。その後、OPEC 産油国による原油生産凍結に関する協議、ナイジェリアで
の武装勢力による石油生産関連施設への攻撃に伴う石油供給途絶懸念の増大、カナダおける山火事
の発生に伴うオイルサンドの生産減等による上昇があったが、油価が 50$/bbl を超過した段階で米
国でのシェールオイル生産が回復するとの見方が市場で広がりうることから、概ね 40$/bbl~
50$/bbl 前後で推移してきた。
今後も、2016 年 11 月末の OPEC 総会における原油生産調整方策決定に対する市場の期待から
油価の下支えもしくは上昇傾向を示すことはありうるものの、それでも米国でのシェールオイルの
開発・生産活動が活発になるような原油価格水準には、仮に到達したとしても長期間持続する可能
性は低いと考えられる。米 EIA 短期エネルギー見通し(STEO: Short Term Energy Outlook、
2016 年 11 月 8 日公表)においても、ブレント原油価格は 2017 年平均で$50.91$/bbl、WTI 原油
価格は 49.91$/bbl と予測されている。
今後、JCC が 40~60$/bbl で推移するとすれば、2015 年 1 月の油価下落以降の JCC-JLC 相関
を前提に JLC は 6.8~9.4$/MMBtu 程度と推定される。
(2)スポット価格動向
2016 年 10 月の日本向けスポット LNG 価格(経済産業省公表の 2016 年 10 月契約ベース)は、
6.1$/MMBtu となり、2016 年 5 月の最安値(4.1$/MMBtu)から上昇傾向にある。また、足元の
北東アジア向けスポット LNG 価格は 7.3$/MMBtu とさらに上昇している。冬場の需要期を前に
した季節的な要因は大きいものの、足元の石油価格が低位(約 45$/bbl)で推移していることもあ
り油価格連動・長期契約を前提とした日本着 LNG 価格と同水準となっている。
韓国・台湾の原発再稼動遅延、気温要因等により足元では上昇基調にあるものの、中期的には、
豪州・米国・マレーシア等における新規 LNG プロジェクトの稼動開始、再稼動したアンゴラプロ
ジェクトの安定稼動等により、需要の増加を上回る LNG 供給増が想定され、油価連動の LNG 価
格に対して、スポット LNG 価格が相対的に安値で推移する可能性は高い。
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データおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に
関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いませ
ん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
2.中長期需給
(1)LNG 需要推移と見通し
新興国の増大するエネルギー需要に対応し、他の化石燃料に比べて環境性に優れ、産出地域の偏
在も少ない天然ガス・LNG の需要は今後も中長期的に増大することが見込まれる。
2020 年時点では年間の需要として 3 億トンから 3.9 億トン、2030 年時点では 4 億 1 千万トン
から 5 億 8 千万トン程度の見通しとなっている。(図 2)
出所:IEA Natural Gas Information, GIIGNL 資源エネルギー庁委託調査「アジア・太平洋市場の天然ガス需給動向調査報告
書(2014 年 3 月)」等をもとに JOGEMC 作成
図 2 世界の LNG 需要推移と見通し
また、2015 年 12 月に開催された気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)に先立ち各国から
約束草案(INDC:Intended Nationally Determined Contibution)が提出されている。法的義務は
ないものの、各国が目標実施・達成の進捗を評価し、更なる削減を求めていくプロセスの中で、天
然ガス・LNG の利用促進も図られるものと考えられる。
一方、COP21 にて採択されたパリ協定第 4 条「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸
収のバランスを達成」に向けて、超長期的にはさらなる革新的技術開発が必要となる可能性が高い。
2020 年の提出が求められる各国の長期的な低炭素政略の策定ともあわせて、その影響・方向性に
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より、需要減要因として留意する必要がある。
表 1 主要国の温室効果ガス削減目標
各国の削減目標
日本
2030 年度に 2013 年度比-26.0%(2005 年度比-25.4%)
米国
2025 年に-26%~-28%(2005 年比)。28%削減に向けて最大限取
り組む。
EU
2030 年に少なくとも-40%(1990 年比)
ロシア
2030 年に-25~-30%(1990 年比)が長期目標となり得る
カナダ
2030 年に-30%(2005 年比)
オーストラリア
2030 年までに-26~28%(2005 年比)
スイス
2030 年に-50%(1990 年比)
ノルウェー
2030 年に少なくとも-40%(1990 年比)
ニュージーランド 2030 年に-30%(2005 年比)
中国
2030 年までに GDP 当たり CO2 排出量-60~-65%(2005 年比) 。
2030 年前後に CO2 排出量のピーク
インド
2030 年までに GDP 当たり排出量-33~-35%(2005 年比)。
インドネシア
2030 年までに-29%(BAU 比)
ブラジル
2025 年までに-37%(2005 年比)、2030 年までに-43%(2005 年
比)
韓国
2030 年までに-37%(BAU 比)
出所:環境省
※ BAU: Bussiness as usual、現状の対策を継続
(2)LNG 生産能力推移と見通し
世界では LNG 生産能力は豪州・米国を中心に大幅拡大の局面を迎えており、2016 年以降に操
業開始が予定される建設中のプロジェクトの合計は、約 1.4 億トンとなる見込み。(表 2)
表 2 2016 年以降操業開始済み・稼動が予定される主な LNG プロジェクト
プロジェクト名
AP LNG
Gorgon LNG
Sabine Pass LNG
(train1・2)
Sabine Pass LNG
(train3~5)
MLNG Train9
Petronas
Floating
LNG
国
オーストラリア
オーストラリア
FID
2011
2009
生産開始予定
2016
2016
2016
生産能力(万 t/y)
900
1,560
アメリカ
2012
アメリカ
2013・15
2017~2019(予定)
1,350
マレーシア
2013
2016 予定
360
マレーシア
2012
2017 予定
120
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900
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Wheatstone LNG
オーストラリア
2011
2017 予定
890
Ichthys LNG
CovePoint LNG
Yamal LNG
Prelude FLNG
Cameron LNG
Freeport LNG
Corpus Christi LNG
オーストラリア
アメリカ
ロシア
オーストラリア
アメリカ
アメリカ
アメリカ
2012
2014
2013
2011
2014
2014
2015
2017 予定
2017 予定
2017 予定
2018 予定
2018 予定
2018 予定
2018 予定
840
525
1650
360
1350
1530
900
Tangguh LNG(拡張)
インドネシア
2016
2020 予定
380
カナダ
2016
2020 予定(2017 年
着工予定)
210
Woodfibre LNG
1.4 億トン
合計
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
一方で、中国の経済減速・サービス産業の増加等により、天然ガス需要は伸び悩み等もあり、建
設段階における遅延等が生じる可能性はあるものの、多くプロジェクトが稼動開始を計画する
2018 年には、需給ギャップが約 6,000 万トンを超える可能性がある。一方、新たな最終投資決定
がなされなければ、2023 年以降に需要が供給を上回ることとなり、建設期間を考慮しながら適切
なタイミングで供給増のための投資が必要となる。(図 3)
出所:IEA Natural Gas Information, GIIGNL 資源エネルギー庁委託調査「アジア・太平洋市場の天然ガス需給動向調査報告書(2014
年 3 月)」等をもとに JOGEMC 作成。2023 年~2020 年にかけては計画段階の 2 億トン/年が順次投資決定・稼動と仮定。
図 3 世界の LNG 生産能力推移と見通し
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(3)今後の投資決定の見通し
北米・カナダ等を中心に、多数の LNG 液化プロジェクトが計画されており、将来の需要増、引
取先の確保を前提に、詳細検討・最終投資決定に移行可能なプロジェクトの合計は、2 億トン/年を
超えると推計される。
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
図 4 今後 FID が予定される LNG 液化プロジェクト
需要についてはエジプト、インド、パキスタン等の新興国の急速なエネルギー需要の増大に応え
るため、初期投資が少なく、短期間での稼動を開始できる FSRU による LNG 利用も拡大してい
る。しかしながら、中長期的には国内のガス生産や、他国からのパイプライン等による供給も視野
に入れた計画もあり、長期の販売先の確保を前提として巨額の設備投資が必要な従来型・大規模な
プロジェクトの投資決定がますます困難となってきている。
欧州は需要・受入れインフラの両面から追加的な LNG の受け入れ先になりうるが、パイプライ
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ん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
ンを通じた天然ガス供給を行うロシア・ノルウェーと、価格もしくは市場シェアをめぐる競合が避
けられない。また、需要が増加した場合でも、当面は低稼働が想定される北米の液化基地の稼働率
の上昇での対応が図られ、原料ガスの調達(米国 HH 価格×115%)+変動コスト(輸送費等 0.5
~1 ドル/MMbtu)を下限として、スポット価格の下方圧力が進むことも考えられる。新規に計画
中のプロジェクトにおいて、LNG スポット価格の下限値として想定される 4$/MMBtu 台を前提
としての最終投資決定は、相当なコストダウンを図ったとしたとしても困難であろう。
北米液化基地における液化加工委託費がサンクコストとしてしか評価されない市場環境は中長
期的に続けられるものではない。中期的には供給過剰が想定されるが、想定外の需給要因により、
バランスする時期が早期化することも考えられる。今後、適切なタイミングでの投資が進まなけれ
ば、時期を特定することは困難であるが、投資決定から稼動開始までに必要とされる約 4~5 年の
リードタイム間は、スポット市場からの LNG 調達における価格高騰リスクに備える必要があると
考えられる。
3.市場の流動性向上が与える影響
(1)日本企業の LNG 契約推移
日本企業が有する LNG 契約の推移は、豪州・米国からの新規プロジェクトの供給開始が本格化
する 2018 年~2019 年には約 9,000 万トンとなる見込み。これは、日本の全原発が停止していた
2014 年の LNG 輸入量(8,900 万トン)と同水準といえる。
今後、既存の長期契約の期限に応じて契約数量が減少するが、震災以前の原発が通常稼動してい
た 2010 年の輸入量である 6,900 万トンを下回るのは 2023 年以降となり、原発の再稼動、電力・
ガス自由化の進展、省エネ・再生可能エネルギーの導入推進による需要の不確実性を考慮すると、
現状では、新たな長期契約締結は困難な状況ともいえる。
なお、2015 年 7 月に発表された長期エネルギー需給において、2030 年には、原子力は一次エネ
ルギー供給の 11~10%程度、総発電電力量の 22~20%、天然ガスは一次エネルギー供給の 19%程
度(約 6500 万トン/年)、総発電量の 27%程度とされている。仮に原子力発電の電力量をすべて
LNG 火力で賄うとすると、追加的に約 3000 万トン/年が必要となると推計され、再生可能エネル
ギーの進展にもよるが日本の LNG 需要としては、6500~9500 万トン/年を視野に入れた検討が必
要であろう。
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出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
図 5 日本の LNG 契約量推移
(2)日本にとっての流動性向上の影響
これまでの一般的なLNGの事業形態(上流権益保有者が探鉱・開発・輸送・販売する)と異な
り、北米ではフィードガスを調達した企業が液化事業者(上流権益保有者以外)に液化サービスを
委託する形式となる。仕向け地の制約も基本的には課されておらず、特に、供給過剰が顕著となる、
2018 年以降、短期・スポット市場に多くのカーゴが流入してくることが想定される。
一方、前述のとおり、日本買主全体では長期の契約等により既に需要見通しを満たす数量を確保
しており、スポットカーゴを買主として調達する機会は限定的なものに留まるであろう。
北米産 LNG のうち、日本企業(電力・ガス・メーカー)が予定する引取量は約 1,400 万トンと
なるが、日本国内需要の低迷といった状況であれば、売主ポジションとしての、スポット市場での
競争が求められることとなる。既に、JERA、関西電力では欧州向けを念頭に、通常時は、北米-欧
州間と北米-日本とのカーゴスワップによる輸送距離低減によるコスト低減といった効果に加え、
需要増減にあわせて必要量を確保・販売できるような柔軟性を高める取り組みの検討も進めている。
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また、北米産 LNG に限らず、従来からの北東アジア向けの契約においても仕向地条項の撤廃・
流動性向上に向けた動きも見られるが、余剰時には市場価格と競合しなければならないことを大前
提とし、価格競争力を高めることが必要であろう。仕向地条項にとどまらず、継続的なプライスレ
ビューを通じた様々な調達条件の改善が望まれる。
表 3 日本企業の米国産 LNG の調達
液化加工契約保持者(売主)
(基地事業者とは異なる)
LNG 引取者(買主)
大阪ガス 220 万 t/年(2018 年から 20 年)
中部電力 220 万 t/年(2018 年から 20 年)
Freeport LNG
東芝 220 万 t/年(2019 年から 20 年)
BP 440 万トン/年
東京電力 120 万 t/年(ポートフォリオ供給)
関西電力 50 万 t/年(ポートフォリオ供給)
東京電力 80 万 t/年(2018 年から 20 年)
三菱商事 400 万 t/年
(2018 年から 20 年)
東北電力 30 万 t/年(2022 年から 16 年)
東京ガス 20 万 t/年(2022 年から 16 年)
東邦ガス 20 万 t/年(2019 年から 19 年)
東京電力 40 万 t/年(2018 年から 20 年)
Cameron LNG
三井物産 400 万 t/年
(2018 年から 20 年)
東邦ガス 30 万 t/年(2018 年から 20 年)
関西電力 40 万 t/年(2018 年から 20 年)
東京ガス 52 万 t/年(2020 年から 20 年)
Cove
LNG
Engie 400 万 t/年(2018 年か
東北電力 27 万 t(2018 年から 20 年)
ら 20 年)
住友商事・東京ガス 230 万 t/ 東京ガス 140 万 t/年(2017 年から 20 年)
Point
年
関西電力 80 万 t/年(2017 年から 20 年)
(2017 年から 20 年)
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
○ JERA から EDF Trading(欧州 LNG 基地向け)に LNG の販売
・ 2018 年 6 月~2 年半、最大 150 万 t/年、欧州ガス価格連動
・ EDF Trading が指定する欧州域内の LNG 基地での受渡し
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・ 販売数量は、売主(JERA)の裁量で調整可能
○ 関西電力と仏 ENGIE(旧 GDF スエズ)との協力協定
・ 関西電力が北米から購入する LNG を、Engie 社に販売し、原則同量分の LNG を関西
電力が購入。
・ 2019 年から原則最低 160 万トン/年(双方合意で増量可)
(3)長期契約を前提とした LNG 産業発展からの市場環境の変化
多額の初期投資を必要とする LNG の開発は、主に石油等の競合する燃料にリンクした価格決定
方式と売主と買主の長期契約を前提に発展・拡大を続けてきたといえる。
買主にとっては、競合する燃料とガスとの価格競争力が担保されることにより、安定した需要の
拡大を進めることができ、売主にとっては、長期間・一定量の販売先を確保することにより、探鉱・
開発・生産・輸送に必要な大規模な投資を可能とするといった効果があったといえよう。20 年を
越える長期の契約期間において、市場環境の変化を踏まえ、経済的なバランスを改善するため価格
を含めた諸条件の見直しも行われ、売買主の協力関係に基づき LNG 産業が安定的に発展してきた
といえる。
表 4 長期・石油価格連動による LNG 開発
意義
リスク(義務)
買主
売主
・ 競合燃料(主に石油)との ・ 長期間、一定量の販売
競争力を確保
先を確保
・ 安定した需要拡大
・ 探鉱、開発、生産、輸送
に必要な大規模な投資
・ 販売先(発電用途において ・ 投資、開発コストの上
は使用量)の確保に関する
昇
量的なリスク
・ 油価下落
しかしながら、現在の日本における市場環境をみれば、電力・ガス自由化の進展・原発の稼動停
止等に伴い、これまでの、主に石油を想定した競合燃料との価格優位性が必ずしも販売先の確保に
つながる状況ではなくなってきている。これら需要の不確実性に対処、テイクオアペイの回避のた
めには、量の柔軟性、仕向地条項の撤廃を前提とした市場での販売検討も必要となる。従来の主に
油を想定した競合燃料との価格優位性に加え、他の天然ガス・LNG 供給者との価格競争力が収支
– 11 –
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれる
データおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に
関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いませ
ん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
に大きな影響を及ぼすこととなる。
また、資機材・人件費・環境配慮等に伴う開発コスト増、最近の低油価の長期化傾向は売主の有
していたリスクを顕在化させることとなり、供給過剰・買手優位な状況においても、買主のニーズ
にあわせた下方柔軟性の提供、価格見直しも容易ではない。
4.まとめ
LNG 市場は、中期的には供給過剰が継続し、仕向地条項のない北米産 LNG の市場への流入に
より、これまで以上に流動性向上するものと考えられる。しかしながら、LNG の液化設備の建設
には多額の初期投資が生じるにもかかわらず、個々の需要見通しの不確実性から長期契約が困難な
状況にあり、新たな新規投資が進まない状況が続いている。2023 年以降には需要が供給を上回る
ことも想定され、また、想定外の需給要因により、その時期の早期化・スポット価格高騰リスクに
も対処が必要であろう。
こういった、LNG 市場・取引に関する環境変化をふまえ、経済産業省から 2016 年 5 月に発表
された LNG 市場戦略において流動性の高い LNG 市場の実現による、書い手、売り手にとっての
意義として、以下のとおり整理されている。
○ 買い手にとっての意義
スポット取引や転売取引の拡大による高度な流動性と、原油連動から独立した LNG
そのものの需給を反映した価格形成が実現することで、買い手は、いつでも安定的に合理
的かつ透明性の高い価格で売買が可能となり、需給安定化にもつなげることができる。ま
た、市場の創出の結果、調達先・供給源の多角化による供給セキュリティ向上にも資する。
○ 売り手にとっての意義
需要家の調達行動が変化し、短期契約やスポット取引が増加していく中、売り手にとっ
ても継続的に合理的な利益を得ることが可能となる。加えて、LNG 市場がより発展し流
動性が高まることで、いわゆるボリュームリスクが減少していけば、上流事業への投資が
継続的に行われ、結果として持続的に LNG を市場に販売していくことが可能となる。ま
た、第三者アクセス等によりインフラへのアクセスが可能となれば、売り手が LNG の販
売を市場メカニズムの活用により更に拡大していくことも可能となり得る。加えて、短期
と長期の価格形成の透明性・合理性が確保されることで、LNG のエネルギーとしての魅
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれる
データおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に
関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いませ
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力が高まり、LNG への燃料転換や、新規の LNG 需要の創出を促す効果もある。
買い手にとっては安定的に・合理的かつ透明性の高い価格での調達・需給安定化は、非常に
メリットとなりうるが、売り手にとっては、これまでの長期契約を前提としたプロジェクト投
資・資金調達からは大きな変革となる。
石油市場が経験してきたブームとバストのサイクルからの脱却、持続可能な投資環境を確
保するという困難な挑戦のため、個別企業の取り組み(プロジェクトコストの継続低減、需要
開発、リスクに応じた柔軟な資金提供スキーム)、業界全体での取り組み(透明性・信頼性の
高いスポット取引の標準、インフラ整備)それぞれに継続的な改善・改革が必要であろう。
以上
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データおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に
関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いませ
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