見通し改訂、「3低」の「現実」VS トランプノミクスへの

リサーチ TODAY
2016 年 11 月 16 日
見通し改訂、「3低」の「現実」VS トランプノミクスへの「期待」
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は四半期毎に発表している『内外経済見通し』の改訂を行った1。2016年を振り返ると、
6月の英国のEU離脱に伴う世界経済の変動を受け年半ばに緊急改訂を行ったが2、今回はBrexitを上回る
サプライズであるトランプ新大統領の誕生による影響をどう考えるかが大きな課題になる。下記の図表は今
回の見通し総括表だが、2016年の見通しはやや改善するものの、2017年についてはほぼ前回の見通しを
踏襲した。2016年を通じたメッセージは、①世界的な不確実性の高まり、②「3低(3L):低成長、・低インフ
レ・低金利」が長期化する新たな状況である「新常態」の可能性、③政策対応の手詰まりだ。今回のトランプ
新大統領の誕生は、このような世界の閉塞感があるからこそ生じた現象ともいえる。従って、今日の世界経
済の実相は「3L」継続の新常態と引き続き認識するが、トランプ新大統領の掲げる大幅減税を中心とした
政策は、世界の新たな潮流となりつつある財政重視の流れを加速しやすい。また、トランプ新大統領の政
策が、1980年代前半のレーガノミクスの再来とも言える大きな経済のブームのきっかけ、ゲームチェンジャ
ーとなる可能性も念頭に置く必要がある。あくまでも期待先行だが、当面は市場がドル高・円安により株高
のリスクオンとなることも展望する必要がある。今回の見通しの難しさは、まさに「現実」の「3低(3L)」か、
「期待」のトランプノミクスに軸足を置くかの選択にある。
■図表:みずほ総合研究所の世界経済予測総括表(2016年11月)
(前年比、%)
暦年
2014年
2015年
2016年
2017年
(実績)
(実績)
(予測)
(予測)
(%ポイント)
2016年
2017年
(9月予測)
2016年
2017年
(9月予測からの修正幅)
3.6
3.4
3.3
3.6
3.2
3.6
0.1
-
日米ユーロ圏
1.6
2.1
1.4
1.6
1.3
1.6
0.1
-
米国
2.4
2.6
1.5
2.1
1.4
2.2
0.1
▲ 0.1
ユーロ圏
1.2
2.0
1.6
1.1
1.5
1.1
0.1
-
予測対象地域計
日本
アジア
▲ 0.0
0.6
0.7
1.0
0.5
0.7
0.2
0.3
6.4
6.1
6.1
6.0
6.0
6.0
0.1
-
中国
7.3
6.9
6.7
6.5
6.6
6.5
0.1
-
NIEs
3.4
1.9
1.9
2.1
1.9
2.2
-
▲ 0.1
ASEAN5
4.6
4.8
4.8
4.6
4.8
4.6
-
-
インド
7.0
7.2
7.6
7.5
7.6
7.5
-
-
オーストラリア
2.7
2.4
2.8
2.5
2.8
2.5
-
-
ブラジル
0.1
▲ 3.8
▲ 3.2
1.2
▲ 3.2
1.0
-
0.2
ロシア
0.7
▲ 3.7
▲ 0.7
1.0
▲ 1.2
1.0
0.5
-
日本(年度)
▲ 0.9
0.9
0.9
1.0
0.6
0.9
0.3
0.1
93
49
43
55
42
45
1
10
原油価格(WTI,$/bbl)
(注)予測対象地域計は IMF による 2014 年 GDP シェア(PPP)により計算。
(資料)IMF、各国統計よりみずほ総合研究所作成
1
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2016 年 11 月 16 日
下記の図表は先進国と新興国の合成PMIの推移である。昨年来、新興国は停滞の不安を抱え、さらに
年初来米国を先頭に先進国も停滞し、先述の「3L」という長期停滞の罠への不安が生じていた。ただし、年
後半に企業の景況感(製造業)が先進国、新興国ともに改善傾向にあり、とくに先進国は2015年前半の水
準まで回復している。また、新興国では年初来、安心感が生じていた。中国経済の底堅さや原油価格が底
入れしたことが景況感を支えた。こうした状況下、先述のトランプ新大統領の登場による転換期待が一層景
況感を底上げする可能性がある。
■図表:先進国と新興国の製造業PMI
56
(Pt)
世界
先進国
新興国
拡張
54
持ち直し
減速
← 景気
52
50
→縮小
減速
停滞
48
2014
2015
2016
(年)
(資料)Markit よりみずほ総合研究所作成
振り返れば、今年11月の市場には丁度4年前の2012年11月の日本に類似する面がある。当時、日本で
はアベノミクス相場として円安・株高を期待した海外ファンド主導で大きな潮流が生じた。ただし、当時の実
体経済への見通しは世界貿易の停滞を中心に悲観的なものが多く、2012年11月に世界各地域の分析を
行って発表した当社の見通しでは、2013年の先行き見通しを更に下方修正した。一方、市場では同じ時期
にアベノミクス相場が「実態を伴わない」とされながらも「期待先行」で進行し、結果として2013年の経済は
当初の見通しから大幅に上方修正されるに至った。
同様に、2017年を現段階で展望しても改善要因は限定的だ。ただし、期待先行とされつつあるなか、世
界的な閉塞感の下で、金融政策の限界の意識が財政への潮流を作り出すのではないかとの期待はある。
こうした動きは、既に今年5月の伊勢志摩サミットで安倍政権が打ち出したシナリオにあったが、欧州の緊
縮に阻まれ、全く日の目を見なかった。米国にも、当時は財政重視に傾くモーメンタムがなかった。しかし、
世界的にバランスシート調整の後遺症が経済の長期停滞をもたらすなか、処方箋としてトランプ氏が掲げる
財政重視の政策に市場が飛びつこうとするのも無理はない。今回も、市場の期待先行はメインシナリオに
は至っていないが、大きな潮流の変化が生じうることを想定する必要があると認識している。
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「2016・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 11 月 15 日)
「2016・17 年度内外経済見通し(2016 年 7 月緊急改訂)」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 7 月 8 日)
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