リン回収で地産地消に貢献

リン回収で地産地消に貢献
~「LOTUS Project」下水汚泥焼却灰からのリン回収技術~
岐阜市・北部プラント
共同研究者:日本ガイシ㈱(現メタウォーター㈱)
・岐阜市上下水道事業部
研究期間:平成15 ~ 18年度
下水に含まれるリンは富栄養化の原因の一つであ
り,高度処理によって汚泥に蓄えられ処分されていま
事業当初からの画期的な取り組み
すが,その一方で肥料の三大要素として植物の生育に
必要不可欠なものです。日本では全量を輸入に頼って
岐阜市は昭和9年7月に旧市街地の中部処理区を対
おり,さらに世界でも資源の枯渇が懸念されていま
象に全国初の分流式下水道に着手した都市です。分流
す。そのような中で岐阜市では下水処理場で発生する
式が全国に広まったのは,昭和45年の下水道法の一部
下水汚泥焼却灰から灰アルカリ抽出法でリンを回収す
改正からなので,当時としてはかなり画期的なことで
る技術が,平成18年度にLOTUSプロジェクトの技術
した。画期的な取り組みはその後も続いていきまし
評価を受けました。その後,事業採択を受け,リン
た。
回収施設を建設し,平成22年度から稼働しています。
戦時中から昭和27年頃まで,消化で発生したガスを
稼働してから約6年が経過し,肥料のニーズや維持管
市内のバスやトラックの燃料として利用しました。平
理手法を岐阜市上下水道事業部施設課の方々にお伺い
成6年度には焼却灰全量から焼成レンガの製造を始め
しました。
ました。しかし,公共事業の減少に伴うレンガの需要
の減少と,施設の老朽化のため,それに代わる汚泥利
用策として,リン回収技術の研究を進めていきまし
た。
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リン回収システム原理とフロー
リンの回収フロー
リンは肥料3大要素の一つで植物の生育に必要では
ありますが,原料であるリン鉱石は海外からの輸入に
製造されたリンと処理灰は
それぞれフレコンバッグに入れて保管される
リンの製造過程
頼らざるを得ず,値段が高騰していたため,安定的に
リンが回収できれば需要が大きいと見込まれていまし
岐阜市・北部プラントでは,リン酸カルシウム(粒
た。
状・粉状)とリンを抽出した後に残った処理灰が作ら
平成15年度から日本ガイシ㈱(現メタウォーター
れています。
㈱)とリン回収技術の共同研究を開始。平成18年度に
下水汚泥を焼却し減量した灰は抽出槽でアルカリ溶
下水道技術開発プロジェクト(SPIRIT21)の第2の
液(苛性ソーダ)を加え,リンを抽出します。固液分
課題,下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト
離した液体状のリンはリン酸塩析出反応槽で消石灰
(LOTUSプロジェクト)の技術評価を受け,平成20年
(水酸化カルシウム)と反応させ,リン酸塩を析出し
度からりん回収施設の建設に着手し,平成21年度に完
ます。リン酸塩に含まれる重金属類を洗浄し,ベルト
成しました。回収されるリン酸塩は副産りん酸肥料
濃縮機で脱水,乾燥を経てリン酸カルシウムが生産さ
「岐阜の大地」として肥料登録を行い,平成22年度か
ら地元のJAで販売を始めました。
れます。
リンを抽出し終わった残渣は,洗浄を行って重金属
類を低減し,乾燥させて処理灰となります。
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資源の活用方法
み』と言われています。その強みを理解していただけ
たことはありがたいです(同)」。
作って終わりではなく,販路を見出し,消費者の手
平成26年度は市内の処理場で発生した約600tの焼却
元に届くことで資源循環のモデルが実現されていま
灰から,リン酸カルシウムを約230t生産し,うち約
す。
220tを販売しています。処理灰は約700t(湿灰)生産
しています。
日本の農業に貢献へ
リン酸カルシウムは無機質で白色,下水臭がしない
ことが特徴で,重金属類も基準以下を示しています。
「りん酸肥料と処理灰は洗浄を行い,含有する重金
長期にわたって緩やかな効き目があるく溶性で,作
属類などは基準値以下の数値を示していますが,下水
物の根から徐々に栄養分が吸収されていきます。「岐
阜の大地」は20kgの袋詰めにし,地元のJAに納入し,
販売されています。粉状の「岐阜の大地」は複合肥料
の原料として肥料メーカーへ販売しています。
処理灰は無機質で褐色,リン酸カルシウムと同様下
水臭がせず,重金属類を洗浄し低減しているため,土
壌環境基準をクリアしています。法面の吹付材といっ
た建設資材の原料として,地元建設業者に販売してい
ます。
維持管理と事業の継続
焼却灰からのリン回収事業は全国で岐阜市含め2地
方公共団体で行われています。まだ普及していないこ
ともあり,設備の部品の値段が高いことに加え,リン
回収後の残渣による機器の損耗が大きく,焼却灰の埋
立処分や,セメント化などの有効利用と比較して維持
管理費が高額となっていることが課題です。岐阜市で
は費用抑制のためにも,毎日,直営で職員がメンテナ
ンスをしています。「稼働して6年経過したので,今
までの経験を踏まえて運転管理や薬剤の投入方法を変
えたり,メンテナンスを早めに行い部品交換のコスト
を低減させています(岐阜市上下水道事業部施設課)」。
またもう一つの課題として販路の確保がありまし
た。施設ができた当初は粒状の肥料のみを製造してい
て余ることもあったそうです。それは,施肥に手間が
かかる単肥はあまり使用されないという理由からでし
た。肥料メーカーへも販売活動をし,粉状にして複合
肥料の原料として利用することが検討されました。そ
して平成25年度には肥料メーカーの買い取りが始ま
り,販売先が安定してきました。「肥料メーカーから
は『安定した量を安定した価格で販売できるのが強
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製造されるりん酸肥料(粉状・粒状)と処理灰
施設内は機器が多く毎日メンテナンスが行われている
かつ低価格で重金属類を取り除く技術ができれば,り
ん回収のコストも軽減され,リン回収を導入する地
方公共団体が増えることにより下水道由来の肥料は
安全だと認知され,販路も拡大するかもしれません。
(同)」。
地元で排出されたものを地元で生かす地産地消モデ
粒状の肥料は「岐阜の大地」として地元に愛されている
ルを進め,農業に貢献していただければ下水道に対す
る認知度も高まります。まさにBISTRO下水道の一例
ともいえる,取組みを今後もぜひすすめていただきた
道由来の肥料はちょっとという声を聞きます(同)」
いですね。
と語るように,下水道由来の肥料ということで,懸念
最後になりましたが,取材の際にご協力いただきま
されているのはやはり重金属類が多く含まれているの
した岐阜市上下水道事業部施設課の皆様に誌面を借り
ではないかというイメージです。「焼却灰から効率的
て御礼申し上げます。
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