自由論題 3 「東南アジアの経済・国際関係」 報告 3 國本康寿(梅光学院大学) 「産官学協力型の技術移転によるタイの人的資源開発-泰日工業大学を事例として―」 Thai Human Resources Development as a Systematic Technology Transfer in the Cooperation Type of Industry -Government-University: as a Case of Thai-Nichi Institute of Technology 本報告の目的はどのような産官学協力による組織的技術移転が互恵的持続可能な人的資 源開発の汎用性をもたらすのかについて、タイの日系企業がタイ経済の発展のみならず教 育にも影響を与え、さらにその教育の土壌から自らが受容する新たな質の労働力を獲得す るというスパイラルな関係をタイ・バンコクの泰日工業大学をその実証の対象として明ら かにしていくことを目指す。 泰日工業大学は 2007 年にタイ側の「泰日経済技術振興協会(TPA:1973 年 1 月設立) 」 と日本側の「日・タイ経済協力協会(JTECS:1972 年 7 月設立)」が中心となって設立さ れた。なぜ両法人が大学設立を目指したのか。それは両法人の設立目的に由来する。TPA は元日本留学生・研修生が中心になってタイ産業界に日本からの技術移転や人材育成を行 うことなどを設立目的とし、一方、JTECS は TPA との協力事業を通じて日タイ両国の人 的ネットワークを基にタイ産業界の人材育成活動を支援することなどを設立目的とした。 そして TPA が 2003 年の創立 30 周年を機に「タイにおける日本型モノづくり実践教育」を 中核とするタイ産業界への人材供給につながる大学設立を目指し、泰日工業大学が誕生し た。 折しも、2000 年代のタイを取り巻く経済環境は 1997 年アジア通貨危機を経験するもの のインドシナ半島の非 ASEAN 諸国が ASEAN に加盟し、東南アジアの国々が ASEAN と いう協力関係を作り上げていく重要な時期であった。2001 年 2 月に発足したタクシン政権 は 2003 年初頭に長期発展戦略「ビジョン 2020」を発表し、戦略産業として自動車産業、 食品産業、ファッション産業、観光産業、ソフトウェア産業を選出し、実現に向けて当該 産業の育成に寄与する外資誘致政策をとった。こうして東アジアの生産拠点の産業集積地 となりつつあったタイでは、産業発展を担う現地の中核人材が必要とされていった。 2007 年に開学した泰日工業大学は 2011 年に第 1 期学部卒業生を輩出し、昨年 2015 年 11 月に第 5 期学部卒業生を迎えた。来年(2017 年)開学 10 周年を迎える記念すべき年と なる。タイの経済環境変化の中で、泰日工業大学は卒業生の半数近くを日系企業あるいは 日系企業と取引のある企業への就職につなげている。在タイ日系企業が人的資源開発現場 への質的インパクトを与えている。
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