統計的手法による下水管渠の耐用年数及び将来改築

土木技術資料 50-3(2008)
報文
統計的手法による下水管渠の耐用年数及び将来改築量の推計
藤生和也 *
1.はじめに 1
2.研究方法
下水道事業など社会資本整備事業においては固
2.1 データ収集方法
定資産、とりわけ耐用年数の長いコンクリート構
下水道事業を実施している全ての地方公共団体
造物などの固定資産の割合が大きいので、その維
に 対 し て 2006 年 7 ~ 8 月 に 調 書 調 査 を 実 施 し 、
持修繕、改築更新の適否が事業全体の効率性を大
1,554団体から回答を得た。項目は次のとおり。
きく左右すると考えられる。そこで近年、全国的
a)管齢 t別(t=0,1,2,・・・[単位:年])の2005年
な下水道資産量の増大とともにストックマネジメ
度末時点での供用延長(P 2005 (t))
ントないしアセットマネジメントと呼ばれる手法
b ) 管 齢 t 別 の 2005 年 度 実 施 工 事 で の 改 築 延 長
( Q 2005 (t) )( 注 : 改 築 後 は t=0 と す る 。 つ ま り
の導入研究が活発化している。
ストックマネジメントにおいてライフサイクル
コスト検討及び将来改築量推計は非常に重要な柱
P 2005 (0) に は Σ Q 2005 (t) が 含 ま れ て い る 。 ま た
Q 2005 (0)=0とした。)
である。徴税上及び会計処理上の耐用年数は、減
価 償 却 資 産 の 耐 用 年 数 等 に 関 す る 省 令 ( 昭 和 40
2.2 解析方法
年 大 蔵 省 令 第 15号 ) や 地 方 公 営 企 業 法 施 行 規 則
実 態 調 査 デ ー タ か ら 得 ら れ る P 2005 (t), Q 2005 (t)
( 昭 和 27年 9月 29日 総 理 府 令 第 73号 ) に 具 体 的 数
を 使い 、 2005年 度に おける 管齢 tのも のにつ いて
字が定められている。しかし、ストックマネジメ
供 用 延 長 に 対 す る 改 築 延 長 の 割 合 (λ 2005 (t))を 次
ントでは会計上のものではなく現場実績に即した
式で算出する。
耐用年数ないし耐用年数確率分布が強く必要とさ
λ2005 (t ) =
れる。
そこで、本稿では国土交通省が全国の地方公共
Q2005 (t )
P2005 (t ) + Q2005 (t )
(1)
団 体 を 対 象 と し て 行 っ た 2005年 度 改 築 実 態 調 査
2005年 度 に おける 管齢tの 管渠 につ いて、 敷設
( 以 下 、「実 態 調査 」 という 。) の結 果 をも と に、
時すなわち(2005-t)年度から2005年度まで改築さ
耐用年数確率分布を統計的に近似推計する方法を
れずに供用し続ける割合(R(t))は次式で示され
示す。また、その分布を用いて管渠の全国単位で
る。
の将来改築量推計を行う。
R(t ) = (1 −λ2005−t (0) ) ⋅ (1 −λ2005−t +1 (1) )
なお、本稿の耐用年数は現場実態的なものであ
る。実態調査結果は老朽化の場合だけでなく、下
⋅ ⋅ ⋅ (1 −λ2004 (t − 1) ) ⋅ (1 −λ2005 (t ) )
(2)
水道計画の変更の場合や、道路改良、区画整理な
こ こ で 、 λ 2005-i (t-i) : (2005-i) 年 度 に お け る
ど他事業からの移設要請を受けた場合や、維持修
管齢(t-i)の管について供用延長に対する改築
繕実行スタンスの積極・消極度による場合や、予
延長の割合
算事情での改築の前倒し・先送りによる場合をも
日 本 の 人口 の 簡 易生 命表 で は 、「 死亡 状 況 が今
含んでおり、必ずしも管材性能、敷設技術だけで
後 変 化 し ない と 仮 定 」、す な わ ち 将来 各 年 各齢 の
改築時期が決められていないと考えられるからで
死亡率を現在各齢と同じと仮定して平均寿命など
ある。
を 算 出 す る 。 こ れ に な ら い 、 (2)式 の λ の 項 を 実
態 調 査 デ ー タ か ら 算 出 さ れ る 2005年 度 値 の λ の
項で全て代用し、R(t)を次式で算出する。
────────────────────────
Statistical Life Data Analysis of Sewers and Prediction
of Future Rehabilitation Needs
- 32 -
土木技術資料 50-3(2008)
R(t ) = (1 −λ2005 (0) ) ⋅ (1 −λ2005 (1) )
での平均経過年数、すなわち平均耐用年数μ及び
(3)
⋅ ⋅ ⋅ (1 −λ2005 (t − 1) ) ⋅ (1 −λ2005 (t ) )
分散σ 2 は解析的に次式で算出される。


m = ηΓ1 +
この方法では時代とともに進む管材品質や施工
技術の向上による長寿命化を織り込めないので過
小推定側となると考えられる。
これらデータから算出されるR(t)プロット群に
ワ イ ブ ル 分 布 を 近 似 す る 。 ワ イ ブ ル 分 布 は 式 (4)
1

m
 
 
σ 2 = η 2 Γ1 +
(7)
2
1 
2
 − Γ 1 +  
m
 m 
(8)
~(6)で表され、本稿ではγ=0と置いたワイブル
ここで,Γ( )は,ガンマ関数である。算出には
分 布 の 信 頼 度 関 数 Rw(t)を 最 小 二 乗 法 に よ り R(t)
Microsoft Excelの ガ ン マ 関 数 の 自 然 対 数 の 値 を
プロット群に近似し、係数m、ηを定める。さら
返すGAMMALN(x)という関数を用いた。
最 後 に 、 P(t)と Rw(t)か ら 全 国 将 来 改 築 量 の 推
に、それら係数を使って、確率密度関数と呼ばれ、
寿命分布を表すfw(t)を 定める。なお、λw(t)は
計 を 行 う 。近 似 で 得ら れた Rw(t)を 用 い て 全 国将
ハ ザ ー ド関 数と 呼 ばれ 、λ 2005 (t)の デ ー タ に 対応
来 改 築 量 の 推 計 を 2005 年 度 の 200年 後 の 2205年
する。
度まで行う。手順は次のとおり。
a) 近 似 的 な 過 年 度 敷 設 延 長 P 2005-t (0)
(4)
d (1 − Rw(t ) ) m  t − γ 

= ⋅ 
η  η 
dt
fw(t ) m  t − γ
λw(t ) =
= ⋅
Rw(t ) η  η



m −1
⋅e
 t −γ
−
 η
(t=1,2,・・・,100)を次式により算出する。



P2005−t (0) = P2005 (t ) Rw(t )
m
(9)
b ) (10) 式 に よ り 2005+i 年 度 に お け る 改 築 延 長
(5)
Y2005+i を 算 出 し 、 こ れ を 用 い て (11) 式 に よ り
2005+i年 度 末 時 点 で の 前 年 度 継 続 以 外 の 供 用 延
m −1
長 P 2005+i (0) を 算 出 す る 。 さ ら に こ れ を 用 い れ ば 、
(6)
iを 繰 り 上 げ た (10)式 が 計 算 可 能 と な る 。 同 様 に
ワイブル分布は物体の脆弱破壊の確率を統計的
に記述する際に広く用いられる。敷設から改築ま
し て 、 i を 1 か ら 200 ま で 順 次 繰 り 上 げ な が ら
Y 2005+i 、 P 2005+i (0) (i=1,2,・・・,200)を算出する。
16000
供用延長
(km)
14000
32
28
供用延長(左軸)
改築または廃止延長(右軸)
12000
24
10000
20
8000
16
6000
12
4000
8
2000
4
0
1905
1915
1925
図-1
1935
1945
1955
1965
1975
1985
2005年度における敷設年度別の供用延長と改築延長
- 33 -
1995
0
2005
(km)
fw(t ) =



改築延長
Rw(t ) = e
 t −γ
−
 η
m
土木技術資料 50-3(2008)
以 上 に よ り 、 将 来 改 築 量 Y 2005+i が 推 計 さ れ る 。 な
る 程 度の 改築 が実 施さ れて い るこ とが 読み 取れ る。
お 、 本 稿 で は X2005+i 、 Z 2005+i と も 見 込 ま ず 、 零 と
地 方 公 共 団体 を ヒ アリ ング し た 結 果、 こ れ ら早
置いた。
Y2005+i =
め の 改 築の 老朽 化 ・損 傷以 外 の 理由 とし て 、道 路
i +100
∑P
j =1
2005 + i − j
改 良 、 区画 整理 な どに 時期 を 合 わせ た移 設 や、 流
(0) ⋅ (Rw( j − 1) − Rw( j ) )
下能力増強のための再構築があることが判った。
3.2 解析考察
(1) 耐用年数推計
(10)
P2005+i (0) = X 2005+i + Y2005+i − Z 2005+i
管 齢 98年 の供用延 長、改築 延長のデ ータがな い
(11)
た め 、 R(97)ま で を 解 析 対 象 と し た 。 近 似 に 用 い
ここで、
た デ ー タの ケー ス 分け 及び 解 析 結果 の近 似 ワイ ブ
X 2005+i :2005+i年度における新規敷設延長
ル 係 数 等 を 表 -1 に 示 す 。 ケ ー ス 1 で は 実 態 調 査
Z 2005+i :2005+i年度における廃止延長
デ ー タ をそ のま ま 最小 二乗 法 近 似し たワ イ ブル 分
ま た 、 実 態調 査 で 敷設 年度 が 不 明 だっ た 供 用延
布 を 、 ケ ー ス 2で は 神 田 下 水 及 び 神 戸 外 国 人 居 留
長 ( 判 明 し て い る 延 長 に 対 し て 6.81%) は 各 敷 設
地 下 水 のプ ロッ ト の中 点を 通 り 実態 調査 デ ータ を
年度の供用延長割合で按分し加算した。
最小二乗法近似したワイブル分布を算出した。
表 -1
3.集計結果と解析考察
ケース設定及び近似ワイブル係数等
1
2
全国
全国
97
97
特別に加え
たデータ
-
神田下水と神
戸下水の中点
97%に あ た り 、 実 態 調 査 の 回 収 率 は 非 常 に 高 い 。
係数 m
2.87
3.34
改築延長は、第二次世界大戦前に1934年度5kmを
係数η
104
99.4
ピ ー ク と し 、 戦 後 に 1970年 度 11kmを ピ ー ク と し
平均μ
92.8
89.2
て 以 後 、減 少傾 向 とな って い る 。管 齢が 会 計上 の
分散σ
35.1
29.5
ケース
3.1 実態調査の集計結果
地域
使用データ
範囲の最高
管齢
2005年度における管齢別の供用延長分布及び改
築延長プロットを図-1に示す。2004年度末時点の
管 路 延 長 合 計 は 372,940kmと 算 出 さ れ 、 下 水 道統
計 に 記 載 さ れ て い る 全 国 供 用 延 長 383,833km の
耐用 年数として 用いられる 50年に達す る前にも あ
ケース1 Rw(t) (m=2.87,η=104)
R(t)
ケース2 Rw(t) (m=3.34,η=99.4)
ケース1 fw(t) (μ=93,σ=35)
ケース2 fw(t) (μ=89,σ=30)
100%
1.5%
90%
1.2%
80%
0.9%
60%
50%
0.6%
40%
30%
0.3%
20%
神田下水
10%
神戸外国人居留地下水
0%
0.0%
0
30
60
90
図-2 R(t)、Rw (t)、fw (t)
- 34 -
120
150
2005年までの経過年数
fw(t)
R(t)とRw(t)
70%
土木技術資料 50-3(2008)
ケース1について管齢97年までのR(t)プロット群、
あ る と 考え られ る が、 概ね 折 れ 線を 包み 込 んで お
これに最小二乗近似して係数m、ηを定めた
り 、 近 似的 な過 年 度敷 設延 長 の 算出 は適 当 であ ろ
Rw(t)曲 線 、 そ の 係 数 m 、 η を 使 用 し た fw(t)曲 線
うと考えられる。
を 図 -2に 示 す 。 Rw(t)曲 線 は 両 下 水 プ ロ ッ ト に 近
推 計 の 結 果 、 将 来 改 築 量 の ピ ー ク は 2093 年 で
接 し て おり 、推 計 は適 当で あ ろ うと 考え ら れる 。
4,653kmと な っ た 。 過 去 の 敷 設 延 長 曲 線 で の 鋭 い
平均耐用年数は92.8年と推計された。
ピ ー ク に比 べ、 将 来改 築量 曲 線 では 極め て なだ ら
ケ ー ス 2の 、 神 田 下 水 、 神 戸 外 国 人 居 留 地 下 水
の 両 デ ー タ の 中 点 を 通 る Rw(t)曲 線 及 び そ の 係 数
を使ったfw(t)曲線も図-2中に示す。このケースで
かな起伏となっている。
4.おわりに
下 水 道 施 設は 大 別 して 管渠 と 処 理 場に 分 か れ、
は平均耐用年数が89.2年と推計された。
(2) 将来改築量推計
処 理 場 は土 木建 築 と機 械電 気 に 分か れる 。 土木 建
ケ ー ス 1を 使 っ た 推 計 結 果 を 図 -3に 示 す 。 参 考
築 で は 管渠 と同 様 、コ ンク リ ー トが 多用 さ れて お
に 毎 年 度の 下水 道 統計 の全 国 供 用延 長の 差 分よ り
り 、 機 械電 気で は 品目 が多 種 多 様に わた り 、金 属
過年度敷設延長を算出したプロットを示す。
が多用され、耐用年数が20年程度以下と短い。
ま た 、 按 分 加 算 さ れ た P 2005 (t)を Rw(t)で 除 し て
下 水 道 施 設全 体 の スト ック マ ネ ジ メン ト 実 施の
得 ら れ る近 似的 な 過年 度敷 設 延 長も 図中 に 折れ 線
た め に は、 処理 場 施設 の耐 用 年 数及 び将 来 改築 量
で 示 す 。こ のプ ロ ット のば ら つ きは 下水 道 統計 自
を 推 計で きる よう さら に研 究 を進 める 必要 があ る。
体 の デ ータ の捕 捉 範囲 や収 集 集 計の 仕方 の ため で
18000
16000
近似的な過年度敷設延長
下水道統計による過年度敷設延長
14000
改築延長
改築1回目
改築2回目
延長(km)
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
1905
1925
1945
1965
1985
2005
図-3
2025
2045
2065
2085
2105
2125
2145
2165
将来改築必要量の予測(km)
参考文献
藤生 和也,宮内千 里:統計的手 法による下水 管渠の耐
用年 数確率分布推 定及び将来改 築必要量予測 ,建設マ
ネ ジ メ ン ト 研 究 論 文 集 ,( 社 ) 土 木 学 会 , Vol.14 ,
pp.65-72,2007; 関連HP
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0404pdf/ks0
404009.pdf
西暦
藤生和也 *
国土交通省国土技術政策総
合研究所下水道研究部下水
道研究官
Kazuya FUJIU
- 35 -
2185
2205