景気見通しの下方修正は収まりつつある 調査レポート 2016 年 11 月 7 日 経済部 チーフエコノミスト 本間 隆行 各国の 16 年第 3 四半期の経済指標の多くが出揃ったが大きなトレンド変化は見られず、緩やかな景気回 復が続いている。各機関が公表している 17 年以降の経済成長見通しでも下方修正の幅は徐々に小さくなっ ており、過去数年に渡って支配してきた先行きに対する過度な悲観論は後退した。期待ほどではないにせ よ成長は続いており、供給削減が過ぎた一部の市場では需給バランスが崩れ需要超過に転化。また、17 年 も緩やかな成長が続くとの期待から一部のコモディティーには投機資金が流入し、価格は上昇している。 米国の利上げについては織り込まれてきているのでもはやリスクではなく既定路線。むしろ「現状維持」 とされる方が米国経済や米国に成長依存している国の経済への下押しリスクが意識されることになるので はないか。目先のリスクは「もしトラ」、 「OPEC 総会での合意内容」 「イタリア国民投票」 。 新興国GDP成長率予測の変化 先進国GDP成長率予測の変化 2016 2015 2014 2013 2012 2016 2011 (前年比%) 6 10 4 2015 2014 2013 2012 2011 (前年比%) 8 2 6 0 4 -2 2 -4 2000 2005 2010 2015 2000 2020 2005 2010 2015 2020 (注:各年10月時点の見通し、2011年は9月時点の見通し) (出所:IMF,WEOより住友商事グローバルリサーチ作成) (注:各年10月時点の見通し、2011年は9月時点の見通し) (出所:IMF,WEOより住友商事グローバルリサーチ作成) ◇米国経済 減速が続いていたが 16 年 Q3 の実質経済成長は前年比(+1.5%) 、前期比(+0.7%)、前期比年率換算 値は+2.9%と比較的高い成長となった。成長寄与度からその構造を見ると消費+1.47%、国内民間投資+ 0.52%、純輸出+0.83%、政府支出・投資+0.09%(計 2.91%)。 更に詳細をたどるといくつか不安な点が浮上する。まず、消費の寄与度の内訳は財(モノ)消費 0.48%、 サービス(コト)消費 0.99%。モノ消費では自動車など耐久財消費が 0.69%と好調が維持された一方で非 耐久財は 12 年 Q4 以来のマイナス寄与。その落ち込み幅(▲0.21%)は 09 年 Q2(▲0.43%)以来の大き さとなっている。次に国内民間投資は+0.52%と 15 年 Q3 以来のプラス寄与となっている。これは非農業 部門のおける在庫品増加(+0.6%)によるもので設備投資(▲0.09%)は 4 四半期連続のマイナス寄与、 住宅(▲0.24%)も 2 四半期続けてのマイナス寄与となった。純輸出の成長寄与度は+0.83%、特に財輸出 (+1.08%)がドル高にも関わらず成長を下支える要因となった。財輸出は前期比+14.5%でも高い伸びと なっているがその背景は農産品輸出によるもので季節や価格の影響を受けるため持続的な輸出増につなが り難い。投資と輸出を除くと前期比では 1%前半の成長にとどまっている点には留意すべきだ。 米国の経済成長は持ち直しの兆し、 持続的な成長につながるか注目。 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 前年比 (%) 6.0 季調済前期比 1.5 (%) 輸出の寄与度が0.83%と高水準、 農産品輸出がけん引したとされる。 政府消費支出・総投資 4.0 輸入 2.0 輸出 0.0 国内民間総投資 -2.0 消費(サービス) 0.7 消費(財) -4.0 2012 2013 2014 2015 2016 (出所:米国経済分析局より住友商事グローバルリサーチ作成) 2012 2013 2014 2015 2016 (出所:米国経済分析局より住友商事グローバルリサーチ作成) 本資料は、信頼できると思われる情報ソースから入手した情報・データに基づき作成していますが、当社はその正確性、完全性、信頼性等を 保証するものではありません。本資料は、執筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一的な見解を示す ものではありません。本資料のご利用により、直接的あるいは間接的な不利益・損害が発生したとしても、当社及び住友商事グループは一切 責任を負いません。本資料は、著作物であり、著作権法に基づき保護されています。 (1 / 2) 景気見通しの下方修正は収まりつつある ◇中国 実質経済成長は年初来前年比 6.7%、前期比では 1.8%と 16 年 Q2 と同程度の成長ペースを維持している がこれは政策支援による押し上げ効果が大きい。中央政府の歳出は前年比約 12%増で、この増加分だけで 15 年の名目 GDP 比 2%以上となっているように景気下支え効果を発揮している。重点的に投資されている 交通インフラ関連では 16 年 2.6 兆元の投資が予定され、7 月までにそのうち 1.4 兆元が実行され、8 月以 降 1.2 兆元執行される。年末にかけて予算消化が順調に進むことを念頭に置くと実体経済の落ち込みは回避 され、16 年の成長目標は達成されるだろう。実体経済における注目点は今後考えられる不動産業の成長鈍 化の影響と元安進行にも関わらず成長に寄与していない純輸出の行方。 前年比12%以上のペースで歳出が増加。 名目GDP2%以上に相当。 16年に入り6.7%成長が続く。 財政支出による景気下支え。 8.0 7.8 7.6 7.4 7.2 7.0 6.8 6.6 (%) 年初来前年比 季調済前期比(右) (%) 1.9 1.8 1.2 6.7 2013 2014 2015 2016 2015 差額累積 2016 実績 (十億元) 3,000 2.2 2.0 2,500 1.8 2,000 1.6 1,500 1.4 1,000 1.2 1.0 500 0 0.8 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec (出所:中国国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成) (出所:中国国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成) ◇日本 消費や生産活動は引き続き低調だが政府支出増により 16 年度の成長率は潜在成長率を上回る 1%前後に なるだろう。低金利と相続税対策を背景に貸家を中心とした住宅着工が好調で 16 年 Q3 でもこの傾向は継 続している。しかし、空き家率の上昇や家賃下落が消費者物価の抑制要因になっているように供給過剰が 指摘され始めている。総務省が 5 年に一度公表している住宅・土地統計調査によると平成 25 年(2013 年) 10 月の空き家率は 13.5%と平成 20 年(2008 年)調査から 0.4%ポイント上昇し、今後も増加が見込まれ ている。住宅投資を下支えしてきた貸家建設だが空き家率の上昇や家賃(収入)の伸び悩みは住宅建設の 抑制要因になることから楽観的な見方は後退している。 堅調な住宅着工は貸家建築が水準を押し上げ。 空き家率の上昇が懸念される。 貸 100,000 家 持 家 分譲住宅 前年同期比(右) (戸) (%) 12 80,000 8 60,000 4 40,000 0 20,000 -4 0 -8 15/9 15/12 16/3 16/6 16/9 (出所:国土交通省より住友商事グローバルリサーチ作成) ◇欧州 英国の EU 離脱に関しては、17 年 3 月までに離脱が宣言され、実務交渉に入ると見られていたが英高等 法院が離脱には議会承認が必要との判断を下したことで宣言が遅れる可能性が出てきている(英政府は上 訴) 。離脱ショックによる景気鈍化を防ぐために利下げした BOE は年内追加利下げに否定的なコメントを 出している。輸出を中心に景気は堅調、また物価が上昇基調となっていることから追加金融緩和策は当面 見送りとなった。 欧州の実体経済は堅調。リスクは実体経済もより金融(債務)問題で、ドイツ、イタリアの民間銀行や ギリシャ等南欧諸国の動向に引き続き注目が集まる。 以上 本資料は、信頼できると思われる情報ソースから入手した情報・データに基づき作成していますが、当社はその正確性、完全性、信頼性等を 保証するものではありません。本資料は、執筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一的な見解を示す ものではありません。本資料のご利用により、直接的あるいは間接的な不利益・損害が発生したとしても、当社及び住友商事グループは一切 責任を負いません。本資料は、著作物であり、著作権法に基づき保護されています。 (2 / 2)
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