みずほ日本経済情報 - みずほ総合研究所

みずほ日本経済情報
2016年11月号
◆ トピック
トランプ・ショックと不確実性の増大
米国大統領選挙による金融市場の混乱は短期間で収束し
たが、不透明感に言及する記事数は急増。不確実性の増大
による景気への影響を見極める必要
◆ 景気判断
景気は踊り場を脱しつつある。当面は緩やかに回復
輸出が持ち直しの兆しを見せる中、生産活動は持ち直しつ
つある。天候不順による弱さがみられるものの、雇用・所
得情勢の回復を背景に、個人消費も底打ちしつつある。
1.総
括
日本経済の現状と先行
日本経済は踊り場を脱しつつある。輸出が持ち直しの兆しを見せる中、生
き
産活動は持ち直しつつある。個人消費は天候不順に伴う弱さがみられるもの
の、雇用・所得情勢の堅調な推移を背景に底打ちしつつある。経済の活動水
準は潜在生産量(物価変動に対して中立的とみられる生産量)を引き続き下
回っている。
先行きの日本経済は、IT産業を中心とする輸出の持ち直しや公共投資の
増加、個人消費が底堅く推移することなどにより、緩やかに回復するとみら
れる。ただし、経済活動の水準は、潜在生産量を下回る状態が続くだろう。
米国の大統領選挙はトランプ候補の勝利に終わった。開票当日(日本時間
トピック
11/9)こそ急激な円高と株安が進展したが、翌 10 日の為替相場は大幅な円安
「トランプ・ショックと
となり、日経平均株価も前日の落ち込みを取り戻した。株価の予想変動率を
不確実性の増大」
表す日経平均VIも小幅な上昇にとどまっており(図表 1 上)
、金融市場の動
揺を発端とする景気への深刻な影響は避けられる形となった。
もっとも、
「クリントン候補の勝利→経済政策の方向性の明確化」というシ
ナリオは崩れ、年明けにトランプ新政権が始動するまで不確実性が残存する
状況は続くだろう。景気の不透明感に言及した新聞記事数の割合は 11/10 に
急上昇し、6 月の Brexit 時を大幅に上回っている(図表 1 下)
。定量的にみる
と、金融市場のボラティリティの高まりよりも、こうした報道記事によって
象徴される不確実性の増大の方が、景気への下押し圧力は持続的であるとい
う結果が得られる(図表 2)
。実体経済の下振れリスクが顕在化しないか、も
うしばらく見極める必要がありそうだ。
図表 1 先行き不透明感を表す指数(2016 年)
日経平均VI
50
45
40
35
30
25
20
15
2.5
図表 2 不確実性の景気への影響
BREXIT
0.2
(%)
0.0
大統領選挙
-0.2
-0.4
1月
(%) 2月
3月
4月
5月
6月 7月 8月
新聞記事数
-0.6
9月 10月 11月
-0.8
-1.0
2.0
1.5
1.0
-1.2
ボラティリティ・ショック
-1.4
ニュース・ショック
-1.6
0.5
0
0.0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
6
12
18
24
30
(カ月)
9月 10月 11月
(注) 新聞記事数は「不透明/不確実」と「景気/経済」という言葉が
同時に登場する記事数のシェア(五大紙)
。直近は 11/11 朝刊。
日経平均 VI は投資家が見込んでいる変動率の大きさを表す。
(資料) 日経テレコンより、みずほ総合研究所作成
(注)log(鉱工業生産)、株価のヒストリカル・ボラティリティ、log(株価)、
log(記事数シェア)の 4 変数 VAR モデルを推計し、1 標準偏差分のボ
ラティリティ・ショックと記事数ショックを与えた時の鉱工業生産
への影響を図示(推計期間は 1995/1~2016/9)
。
(資料)みずほ総合研究所試算
1
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
図表 3
景気判断
10月
11月
(現状判断)
(現状判断)
(先行き判断)
総括
経済活動の方向性
踊り場にある
踊り場を脱しつつある
緩やかに回復する
経済活動の水準
潜在生産量を下回っている
潜在生産量を下回っている
潜在生産量を下回る状態が続く
海外経済
緩やかに回復しているものの、力強さを欠いている
緩やかに回復している
緩やかな回復を維持するが、
当面力強さに欠ける状況が続く
対外交易環境
改善幅は徐々に縮小している
改善幅が縮小している
改善幅が縮小する
輸出
横ばい圏で推移している
持ち直しの兆しがみられる
持ち直していく
輸入
底堅く推移している
底堅く推移している
緩やかに回復する
企
業
部
門
生産・サービス活動
持ち直しの兆しがみられる
持ち直しつつある
緩やかに回復する
企業マインド
横ばいで推移している
持ち直しの兆しがみられる
底堅く推移する
設備投資
横ばいで推移している
横ばいで推移している
緩やかに回復する
雇用者所得
回復傾向にある
回復傾向にある
緩やかな回復が続く
家
計
部
門
消費者マインド
改善している
改善している
緩やかな改善が続く
個人消費
底打ちしつつあるが、天候不順による弱さもみられる
天候不順による弱さがみられるものの、
底打ちしつつある
底堅く推移する
住宅着工
増勢が一服している
増勢が一服している
弱含む
公的需要
増加している
緩やかに増加している
緩やかな増加が続く
税収
増勢に鈍化がみられる
弱含んでいる
弱含みが続く
国内企業物価
前年比マイナス幅が縮小している
前年比マイナス幅が縮小している
前年比マイナス幅は縮小していく
消費者物価
前年比マイナスで推移している
前年比マイナスで推移している
前年比マイナスが続く
金融政策
金融緩和を進めている
金融緩和を進めている
新たな金融政策の効果を見極めていく
対
外
部
門
政
府
物
価
(注) 1.矢印の向きは景気の方向性を示している。上向きが拡大局面、横向きが横這い局面、下向きが後退局面を意味する。
2.矢印の色は生産の水準感を示している。白は潜在生産量を上回る、紺は潜在生産量を下回る、白紺の縦縞は潜在生産量程度
の生産量を意味する。
3.先行き判断は、3 カ月程度先の経済の動きに関する判断を示している。
(資料) みずほ総合研究所
図表 4
景気動向指数
CI 先行指数
前期差、Pt
CI 一致指数
CI 遅行指数
DI 先行指数
前期差、Pt
前期差、Pt
国民経済計算
-
-
77.3
65.0
45.0
33.3
40.0
88.9
66.7
75.0
n.a.
n.a.
▲ 1.1
0.9
0.3
0.5
n.a.
38.9
1.0
18.8
0.2
50.0
0.2
40.0
n.a.
n.a.
n.a.
前期比、%
▲ 0.5
▲ 1.1
▲ 1.0
1.4
0.2
0.2
1.1
0.4
n.a.
n.a.
2.3
0.7
▲ 0.4
0.3
1.3
0.0
0.0
▲ 0.1
n.a.
n.a.
前期比、%
▲ 3.5
1.2
2.0
1.6
n.a.
0.1
1.3
0.0
n.a.
n.a.
前期比、%
▲ 0.9
-
0.8
-
0.2
0.7
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
▲ 1.5
▲ 0.1
0.6
0.2
0.3
0.1
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
0.6
489.6
0.1
500.5
▲ 0.3
505.4
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
%
前期比、%
実質GDP
2016/06 2016/07 2016/08 2016/09 2016/10
0.8
▲ 0.6
0.9
▲ 0.4
n.a.
1.7
0.1
▲ 0.2
0.2
n.a.
1.1
▲ 0.8
0.0
0.2
n.a.
-
前期比、%
第3次産業
建設業
2016Q2 2016Q3 2016Q4
-
-
%
全産業活動指数 全産業
鉱工業
FY2014 FY2015
-
%
DI 一致指数
DI 遅行指数
景気の全体観を示す主要統計
前期比年率、%
民需
寄与度、%Pt
公需
外需
寄与度、%Pt
寄与度、%Pt
名目GDP
年率、兆円
前期比、%
1.5
2.2
0.3
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
GDPデフレーター
前年比、%
2.4
2.1
1.4
▲ 0.2
0.7
▲ 0.7
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
内需デフレーター
前年比、%
(注) 1.全産業活動指数の産業別内訳のうち、鉱工業は鉱工業指数、第 3 次産業は第 3 次産業活動指数の値。
2.実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。
3.2016 年 9 月の値が発表されていない指標の 2016 年 7~9 月期の前期比は、7・8 月平均の 4~6 月期に対する変化率。
(資料)内閣府「景気動向指数」、「四半期別GDP速報」、経済産業省「全産業活動指数」、「鉱工業指数」、「第 3 次産業活動指数」
2
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
2.対外部門
海外経済
海外経済は緩やかに回復している。米国では 10 月の製造業ISM指数が目
安となる 50 を 2 カ月連続で上回った(図表 1)
。非製造業ISM指数は前月か
らやや下落したものの、目安の 50 は上回った(図表 2)
。ユーロ圏PMI指数
は製造業、非製造業ともに前月をやや上回り、底堅く推移している。中国に
ついては製造業が幾分持ち直しつつある。
今後の海外経済は、緩やかな回復を維持するが、当面力強さに欠ける状況
が続く見込みである。米国は、設備投資や輸出が伸び悩むものの、個人消費
が景気を下支えするだろう。一方、ユーロ圏については、Brexit 決定に伴う
先行き不透明感が設備投資などの下押し要因となり、回復は緩やかなものに
とどまりそうだ。中国経済は財政出動による下支えが期待されるものの、資
本ストック調整が重石となり、減速が続くだろう。
対外交易環境
対外交易環境は、改善幅が縮小している。10 月は原油価格の持ち直しなど
から輸入物価のマイナス幅が縮小し、交易条件の改善幅は先月から低下した
(9 月同+7.3%⇒10 月同+5.3%)
。
輸入物価のマイナス幅は今後も縮小するとみられ、前年比でみた対外交易
条件は改善幅が縮小する見通しである。
輸出
輸出は持ち直しの兆しがみられる。9 月の輸出数量指数(※)は前月比 1.5%
(8 月同+0.2%)と、2 カ月連続で上昇した。米国向け輸出が持ち直したほか、
EU向けも底堅く推移した
(図表 3)
。
アジア全体への輸出は弱含んだものの、
中国向け輸出は増加した。財別では、食料品が持ち直したほか、輸送用機器
や一般機械も輸出全体の上昇要因として働いた。輸出の先行指標の一つであ
る台湾の電子部品・出荷在庫バランスは改善傾向にあることなどから
(図表 4)
、
輸出は当面持ち直していくだろう。
輸入
輸入は底堅く推移している。9 月の輸入数量指数(※)は前月比▲0.1%(8
月同▲1.6%)とほぼ横ばいとなった。鉱物性燃料や食料品の輸入が弱含んだ
ものの、原料品がやや持ち直した。
先行きについては、国内の生産活動の持ち直しに伴い、緩やかに回復する
見通しである。
(※)みずほ総合研究所の季節調整値
経常収支
経常収支(季節調整値)は、高めの黒字が続いている。9 月の経常黒字は
17.7 兆円(年率換算値)と前月(23.7 兆円の黒字)から縮小した。第一次所
得収支黒字の前月からの縮小が主因たが、前月は大手通信会社の配当金受取
により一時的に黒字幅が拡大しており、均してみれば第一次所得収支は高い
水準を維持している。
貿易収支は、原油価格の持ち直しを受けて輸入物価のマイナス幅縮小が見
込まれるものの、電子部品などを中心に輸出数量が持ち直すことから、黒字
を維持する見通しだ。一方で、第一次所得収支の黒字幅は、円高の影響から
縮小していくだろう。その結果、経常収支の黒字幅は、高水準ながらも徐々
に縮小する見通しである。
3
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
図表 1
60
米欧中の景況感(製造業)
図表 2 米欧中の景況感(非製造業)
(指数)
60
(指数)
米国製造業ISM
ユーロ圏製造業PMI
中国製造業PMI
55
55
50
50
45
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
米国非製造業ISM
ユーロ圏非製造業PMI
中国非製造業PMI
45
16/7
14/1
(年/月)
14/7
15/1
15/7
16/1
16/7
(年/月)
(注)指数が 50 以上で景況感の回復、50 未満で景況感の悪化を示唆。
(注)指数が 50 以上で景況感の回復、50 未満で景況感の悪化を示唆。
(資料)米サプライマネジメント協会、Markit、中国物流購買連合会より、 (資料)米サプライマネジメント協会、Markit、中国物流購買連合会より、
みずほ総合研究所作成
みずほ総合研究所作成
図表 3
輸出数量指数(地域別)
図表 4
(2010年=100)
120
110
輸出の先行指標
(前年比、%)
20
実質輸出
世界
米国
EU
アジア
(前年比、%)
50
台湾・電子部品・出荷在庫バランス(4カ月先行、右目盛)
中国
10
25
0
0
100
90
80
▲ 10
▲ 25
70
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
16/7
▲ 20
2012
(年/月)
(注) みずほ総合研究所による季節調整値。
(資料) 財務省「貿易統計」より、みずほ総合研究所作成
2013
2014
2015
2016
▲ 50
(年)
(資料)財務省「貿易統計」
、Ministry of Economic Affairs より、
みずほ総合研究所作成
図表 5 対外部門の主要統計
海外経済
CPB生産指数
米国
ユーロ圏
アジア
製造業の業況
米国(ISM)
ユーロ圏(PMI)
中国(PMI)「国家統計局版」
対外交易環境 対外交易条件
輸出物価
輸入物価
実質実効為替レート
輸出
輸出数量
米国向け
欧州向け
中国向け
中国を除くアジア向け
実質輸出
輸入
輸入数量
実質輸入
対外収支
経常収支
貿易・サービス収支
第一次所得収支
前期比、%
前期比、%
前期比、%
前期比、%
DI
DI
DI
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前期比、%
前期比、%
前期比、%
前期比、%
前期比、%
前期比、%
前期比、%
前期比、%
年率、兆円
年率、兆円
年率、兆円
FY2014 FY2015
2.2
1.1
3.1
▲ 0.7
0.8
1.4
4.3
2.7
2.8
2.9
0.2
▲ 4.9
1.3
0.1
3.4
▲ 2.3
1.9
2.8
▲ 2.0
▲ 0.7
8.7
▲ 9.3
20.0
2016Q2 2016Q3 2016Q4
0.3
0.2
n.a.
▲ 0.2
0.5
n.a.
▲ 0.2
0.4
n.a.
1.4
0.5
n.a.
14.5
▲ 1.5
▲ 13.7
▲ 3.1
▲ 2.7
▲ 4.6
4.7
▲ 2.7
▲ 1.7
0.7
▲ 2.1
1.2
18.0
▲ 0.6
20.6
12.0
▲ 11.8
▲ 21.3
14.5
▲ 0.5
▲ 1.4
▲ 2.0
▲ 0.0
1.5
1.1
▲ 0.0
▲ 1.4
18.5
3.3
17.3
8.9
▲ 13.5
▲ 20.5
19.1
1.3
0.5
0.9
0.6
0.8
0.7
0.4
0.6
19.6
4.6
17.6
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
2016/06 2016/07 2016/08 2016/09 2016/10
0.8
▲ 0.6
0.9
n.a.
n.a.
0.5
0.5
▲ 0.5
n.a.
n.a.
0.8
▲ 0.9
2.5
n.a.
n.a.
1.0
▲ 0.7
0.4
n.a.
n.a.
53.2
52.8
50.0
11.7
▲ 14.5
▲ 23.4
20.0
1.3
3.7
3.7
▲ 0.2
▲ 0.2
4.2
1.1
0.5
19.9
3.1
18.3
52.6
52.0
49.9
9.8
▲ 14.1
▲ 21.8
20.4
▲ 0.9
2.9
0.2
2.8
0.5
▲ 3.2
▲ 0.2
▲ 1.2
17.4
3.1
16.5
49.4
51.7
50.4
9.6
▲ 14.6
▲ 22.1
20.8
0.2
▲ 10.8
▲ 0.8
▲ 3.4
0.4
1.3
▲ 1.6
▲ 0.7
23.7
6.4
19.8
51.5
52.6
50.4
7.3
▲ 11.6
▲ 17.6
16.2
1.5
9.1
1.0
1.6
▲ 1.5
1.0
▲ 0.1
1.1
17.7
4.2
16.6
51.9
53.5
51.2
5.3
▲ 9.8
▲ 14.4
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
(注) 1.実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。
2.2016 年 7~9 月期の前期比は、9 月実績が出ていない場合、7・8 月平均の 4~6 月期に対する変化率を指す。
3.輸出数量及び輸入数量はみずほ総合研究所による季節調整値。中国を除くアジア向け輸出数量は 2010 年輸出金額ウェイトにより算出。
4.対外交易条件=輸出物価指数÷輸入物価指数。
(資料) 財務省「貿易統計」
、日本銀行「実質輸出入」
、
「国際収支統計」
、
「企業物価指数」
、
「外国為替相場」
、
CPB Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis
4
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
3.企業部門
生産・サービス活動
生産・サービス活動は、持ち直しつつある。9 月の鉱工業生産は、前月比
0.0%と横ばいだった(図表 1)
。輸出が増加したとみられる、はん用・生産用・
業務用および輸送機械工業が増産となった一方で、前月急増した情報通信機
械工業の反動減が出たほか、電子部品・デバイス工業の生産拡大が一服した。
7~9 月期は 2 四半期連続プラスとなり、伸び率も加速した。9 月の第 3 次産
業活動指数は、企業の情報システム投資一巡などにより、前月からやや低下
した。もっとも、均してみれば持ち直しつつあると評価している。
先行きについては、緩やかに回復するとみている。製造業は、電子部品・
デバイス工業を中心に、10~11 月にかけて増産計画となっている。ただし、
円高などによる輸出回復力の弱さや、新型スマートフォン販売開始による押
し上げ効果の反動により、増産テンポはそれほど高まらないとみられる。一
方、サービス活動は、個人消費の底堅さを受けて、緩やかに回復しよう。
企業収益・財務
企業収益は、弱含んでいる。上場企業の決算情報(連結ベース)をみると、
7~9 月期の経常利益の前年比は、4~6 月期からマイナス幅が縮小しているも
のの、製造業を中心に弱含みが続いている(図表 2)
。
先行きについては、当面弱含むだろう。日銀短観では、想定為替レートが
実勢レート対比で依然として円安であるため、経常利益が下振れるリスクが
ある。また、原油など資源価格が底打ちしつつあり、先行きも緩やかに上昇
する見込みであることも、収益の下押し要因になる可能性がある。
企業マインド
企業マインドは、持ち直しの兆しがみられる。日銀短観の 7~9 月期の業況
判断DIは横ばいで推移したが、10 月の景気ウォッチャー調査をみると、円
高懸念の後退などから、
現状判断DIは 4 カ月連続で改善している
(図表 3)
。
今後の企業マインドは、底堅く推移するだろう。景気ウォッチャー調査の
先行き判断DIからは、改善が示唆される。しかし、海外経済の回復力が弱
いことなどを背景に、景気下振れへの警戒感は根強く、景況感の大きな改善
は当面、期待しづらい状況である。米国大統領選挙の結果を受けて、金融市
場の不安定性などが高まってマインドを下押しするリスクもある。
設備投資
設備投資は、横ばいで推移している。9 月の資本財出荷(除く輸送機械)は
4 カ月連続の小幅上昇となったが、均してみれば横ばい圏内で推移している
(図表 4)
。
先行指標である機械受注(船舶、電力除く民需)および建築着工(民間非
居住用)は、底堅く推移している。企業は、昨年までの好業績を円安などに
よる一時的なものと慎重に捉えていた可能性が高く、今後それらの追い風が
弱まったとしても、輸出や個人消費が悪化しない限り、設備投資が底割れす
ることは避けられよう。また、日銀短観のソフトウェア投資計画などをみる
限り、無形資産投資への関心も引き続き高い。先行きの設備投資は緩やかに
回復する見通しである。
5
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
図表 1 鉱工業生産、第 3 次産業活動指数
(2010=100)
図表 2 上場企業の経常利益(連結ベース)
(2010=100)
(前年比、%)
106
115
鉱工業生産指数
非製造業
40
105
110
製造業
50
第3次産業活動指数(右目盛)
30
104
105
20
予測指数
10
103
100
0
102
▲ 10
95
90
13/1 13/4 13/7 13/10 14/1 14/4 14/7 14/10 15/1 15/4 15/7 15/10 16/1 16/4 16/7 16/10
101
▲ 20
100
▲ 30
(年/月)
2014
(資料) 経済産業省「鉱工業指数」
、
「第 3 次産業活動指数」より、みずほ総合
総合研究所作成
2015
(注)11 月 9 日時点で 20 四半期連続でデータを入手することが可能な企業に
サンプルを絞っており、データが存在する企業の前年比を計算。
(資料)日経 NEEDS より、みずほ総合研究所作成
図表 3 景気ウォッチャー調査
(DI、%ポイント)
65
現状判断DI
(年)
2016
図表 4 設備投資関連指標
(2010=100)
先行き判断DI
実質機械受注・民需(除く船電)
民間非居住用建築着工床面積
135
資本財出荷(除く輸送機械)
60
130
55
125
50
120
45
115
40
110
35
105
30
100
13/1
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
16/7 (年/月)
13/1
(資料)内閣府「景気ウォッチャー調査」より、みずほ総合研究所作成
図表 5
活動
15/7
16/1
16/7
(年/月)
企業部門の主要統計
FY2015
2016Q2
2016Q3
2016Q4
2016/06
2016/07
2016/08
2016/09
2016/10
▲ 1.0
0.2
1.1
n.a.
2.3
▲ 0.4
1.3
0.0
n.a.
鉱工業出荷指数
前期比、%
▲ 1.2
▲ 1.2
0.2
0.5
n.a.
1.7
0.7
▲ 1.1
1.1
n.a.
鉱工業在庫指数
前期比、%
6.1
1.8
▲ 1.3
▲ 2.4
n.a.
0.0
▲ 2.4
0.3
▲ 0.4
n.a.
%Pt
▲ 7.3
▲ 3.0
▲ 2.0
▲ 1.7
n.a.
▲ 1.7
▲ 2.2
3.2
1.9
n.a.
製造工業設備稼働率指数
前期比、%
0.6
▲ 2.6
▲ 2.0
n.a.
n.a.
1.5
0.6
2.6
n.a.
n.a.
第3次産業活動指数
前期比、%
建設業活動指数
売上高
▲ 1.1
▲ 3.5
1.4
1.2
0.2
2.0
0.4
1.6
n.a.
n.a.
0.7
2.1
0.3
2.7
0.0
1.9
▲ 0.1
n.a.
n.a.
n.a.
前年比、%
1.4
▲ 1.3
▲ 3.5
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
製造業
前年比、%
▲ 0.7
▲ 0.7
▲ 5.3
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
非製造業
前年比、%
2.4
5.9
▲ 1.5
4.9
▲ 2.8
▲ 10.0
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
前期比、%
前年比、%
前期比、%
5.9
n.a.
4.8
n.a.
n.a.
-
-
-
-
製造業
前年比、%
6.3
▲ 4.6
▲ 22.4
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
非製造業
前年比、%
5.6
10.3
▲ 3.1
n.a.
n.a.
-
-
-
-
-
前年比、%
▲ 10.5
-
▲ 7.0
-
▲ 8.0
12
1.0
12
n.a.
n.a.
▲ 4.1
-
▲ 7.5
-
10.1
-
2.1
-
▲ 4.2
-
企業倒産件数
大企業業況判断DI
製造業
非製造業
中小企業景況判断指数
景気ウォッチャー調査DI
設備投資
15/1
▲ 0.5
経常利益
マインド
14/7
前期比、%
出荷・在庫バランス
収益・財務
14/1
(注) 1. 機械受注は企業物価指数の資本財で実質化。
2. みずほ総合研究所による季節調整値の 3 カ月後方移動平均値。
。
(資料)内閣府「機械受注統計」
、国土交通省「建築着工」
、経済産業省「鉱工業
指数」
、日本銀行「企業物価指数」より、みずほ総合研究所作成
FY2014
生産・サービス 鉱工業生産指数
13/7
%Pt
%Pt
-
-
6
6
n.a.
-
-
-
-
-
%Pt
-
-
19
18
n.a.
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
46.5
47.8
46.3
47.7
48.3
%Pt
-
-
-
-
-
39.8
43.2
45.7
46.3
49.3
機械受注(船舶・電力除く民需)
前期比、%
0.8
4.1
▲ 9.2
7.3
n.a.
8.3
4.9
▲ 2.2
▲ 3.3
n.a.
建築物着工床面積(非居住用)
前期比、%
資本財出荷(除く輸送機械)
ソフトウェア受注額
前期比、%
▲ 6.7
4.4
▲ 4.6
▲ 2.3
8.3
3.4
▲ 2.5
1.0
n.a.
n.a.
▲ 17.1
1.0
▲ 16.8
0.6
33.6
0.2
▲ 9.4
0.2
n.a.
n.a.
前年比、%
3.6
1.3
1.5
0.4
n.a.
▲ 0.2
▲ 0.6
2.9
▲ 0.4
n.a.
(注)1. 実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。
2. 2016 年 9 月の値が発表されていない指標の場合、7~9 月期の前期比は 7・8 月平均の 4~6 月期に対する変化率。
(資料) 経済産業省「鉱工業指数」
、
「第 3 次産業活動指数」
、
「全産業活動指数」
、
「特定サービス産業動態統計調査」
、財務省「法人企業統計」
、日本銀行「全国企業
短期経済観測調査」
、帝国データバンク「全国企業倒産集計」
、商工組合中央金庫「中小企業月次景況観測」
、内閣府「景気ウォッチャー調査」
、
「機械受注
統計調査報告」
、国土交通省「建築着工統計調査報告」
6
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
4.家計部門
雇用者所得
雇用者所得は回復傾向にある。9 月の失業率は 3.0%と前月から 0.1%ポイ
ント低下した。もっとも、労働参加率が低下したことが要因であり、男性正
規雇用者を中心に就業者数は 2 カ月連続で減少した。有効求人倍率は、1.38
倍(8 月 1.37 倍)と 3 カ月ぶりに上昇した。9 月の名目賃金は、前年比+0.2%
と前月から伸びが拡大した。振れの大きい特別給与が下押しに寄与したもの
の、所定内給与が下支えした格好となった。物価調整後の実質雇用者所得(常
用雇用×実質賃金(※)
)は、同+2.4%と堅調に推移している(図表 1)
。
今後も、雇用者所得は緩やかな回復が続くだろう。中小企業を中心に人手
不足感は依然として強いものの、新規求人数の増勢が鈍化(図表 2)している
ことから、雇用情勢の改善ペースは今後緩やかになりそうだ。名目賃金は、
円高の影響などにより企業収益は弱含むものの、タイトな労働需給を背景に、
所定内給与を中心に緩やかな回復が続く見通しである。
(※)消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)を用いて実質化。
消費者マインド
消費者マインドは改善している。10 月の消費者態度指数は 42.3 と 3 カ月ぶ
りに前月を下回った(図表 2)
。指数を構成する意識指標すべてが前月比で低
下したが、水準でみるといずれも 7~9 月期を上回っている。消費者マインド
は緩やかな改善が続く見込みである。
個人消費
個人消費は天候不順による弱さがみられるものの、底打ちしつつある。9
月の消費関連指標は、実質消費支出(二人以上世帯)が前月比+2.8%と 2 カ
月ぶりに増加した。天候不順による販売不振もあって、消費活動指数(旅行
収支調整済)は前月比+0.0%と横ばいであったが、7~9 月期でみると前期比
+0.4%の増加となった(図表 3)
。足元については、10 月の百貨店売上高は
大手 5 社すべてが減収となった一方、熊本地震や軽自動車の燃費不正問題を
背景に落ち込んでいた新車販売台数は、年央以降、増加トレンドが続いてい
る。
先行きの個人消費は、生鮮食品価格の上昇が下押し圧力となる可能性はあ
るものの、耐久消費財のストック調整が徐々に緩和に向かうことなどから、
底堅く推移すると予測する。
住宅着工
新設住宅着工戸数は増勢が一服している。9 月の着工戸数(季調済み年率)
は 2 カ月ぶりに増加したが、7~9 月期平均では 98.2 万戸(4~6 月期:100.5
万戸)と、3 四半期ぶりの減少となった。利用関係別にみると、9 月は分譲住
宅(前月比+24.1%)のうち、前月大幅に減少したマンション(同+48.5%)
が反発した。一方、持家(同▲4.6%)は、すでに生じていた消費増税前の駆
け込み需要がはく落し始めたとみられる。貸家(同+0.4%)については、相
続税対策の追い風もあり、高水準を維持している(図表 4)
。
先行きの住宅着工は、駆け込み需要のはく落を受け、持家を中心に弱含む
見込みである。
7
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
図表 1
実質雇用者所得
図表 2
(前年比、%)
4.0
3.5
新規求人数の推移
(2015年=100)
108
物価要因
名目賃金要因
雇用者数要因
実質雇用者所得
106
3.0
104
2.5
2.0
102
1.5
100
1.0
98
0.5
96
0.0
94
1
▲ 0.5
2
15/11
16/01
16/03
16/05
16/07
4
1
2014年
▲ 1.0
15/09
3
16/09
2
3
4
1
2
2015年
2016年
(年/四半期)
(年/月)
(資料)厚生労働省「毎月勤労統計」より、みずほ総合研究所作成
図表 3
(資料) 厚生労働省「一般職業紹介状況」より、みずほ総合研究所作成
消費活動指数の推移
図表 4 利用関係別着工の推移
(2010=100)
(年率、万戸)
消費活動指数(旅行収支調整済)
110
50
108
持家
貸家
分譲住宅
(年率、万戸)
一戸建
18
16
40
104
マンション
20
45
106
14
35
12
102
30
100
10
25
98
就業者数
有効求人倍率
マインド
個人消費
住宅着工
前期差、万人
倍
14
15
13
16
14
15
16
(年)
(年)
(注)マンションおよび一戸建ては、みずほ総合研究所による季節調整値。
(資料)国土交通省「建築着工統計」より、みずほ総合研究所作成
図表 5
%
6
13
(資料)日本銀行「消費活動指数」より、みずほ総合研究所作成
雇用・所得 完全失業率
8
20
96
12/10 13/04 13/10 14/04 14/10 15/04 15/10 16/04
(注) 1.
2.
3.
4.
5.
(資料)
3
家計部門の主要統計
FY2014 FY2015
3.5
3.3
2016Q2
3.2
2016Q3
2016Q4
2016/06
2016/07
n.a.
n.a.
n.a.
3.1
47
1.37
3.0
20
1.37
2016/08
2016/09
2016/10
38
1.12
28
1.24
9
1.36
3.0
39
1.37
3.1
▲ 12
3.0
▲ 15
n.a.
n.a.
1.37
1.38
n.a.
4.2
▲ 1.4
2.7
0.4
n.a.
▲ 2.3
1.4
▲ 0.8
0.9
n.a.
0.0
▲ 0.2
n.a.
1.4
▲ 0.9
▲ 0.8
1.9
n.a.
新規求人数
所定外労働時間
前期比、%
前期比、%
3.6
2.0
名目賃金
前年比、%
0.5
0.2
0.6
6.8
n.a.
1.4
1.2
0.0
0.2
n.a.
実質賃金
前年比、%
▲ 2.9
▲ 0.2
1.1
7.6
n.a.
2.0
1.8
0.6
0.9
n.a.
名目雇用者所得(雇用者数×名目賃金)
前年比、%
1.3
n.a.
2.2
2.1
n.a.
2.7
2.8
1.5
1.7
n.a.
実質雇用者所得(雇用者数×実質賃金)
前年比、%
▲ 2.2
n.a.
2.7
2.7
n.a.
3.3
3.4
2.1
2.4
n.a.
%
▲ 2.5
▲ 2.2
▲ 5.0
0.1
0.1
0.0
0.1
▲ 0.1
0.4
▲ 1.6
▲ 0.2
▲ 0.5
n.a.
n.a.
n.a.
41.8
0.0
▲ 0.5
▲ 1.3
41.3
0.5
1.1
2.5
42.0
▲ 1.2
▲ 0.6
▲ 3.7
43.0
n.a.
0.0
2.8
42.3
n.a.
n.a.
n.a.
▲ 4.6
445.3
0.5
411.5
▲ 0.1
414.3
0.9
416.1
n.a.
419.5
▲ 0.7
407.3
2.2
406.1
▲ 1.0
427.9
▲ 0.1
414.3
92.1
28.4
38.4
100.5
29.8
42.8
98.2
29.8
44.9
n.a.
n.a.
n.a.
100.4
30.5
42.3
100.5
30.9
45.1
95.6
29.9
44.6
98.4
28.5
44.8
n.a.
419.5
n.a.
24.7
27.1
23.7
n.a.
26.2
24.0
21.1
26.1
消費者態度指数
消費総合指数
前期比、%
消費活動指数(実質・旅行収支調整済)
実質消費支出(二人以上の全世帯)
前期比、%
実質小売業販売額
新車販売台数(乗用車)
前期比、%
合計
年率、万戸
前期比、%
年率、万台
持家
貸家
年率、万戸
88.0
27.8
35.8
分譲住宅
年率、万戸
23.6
年率、万戸
n.a.
n.a.
n.a.
実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。
2016 年 11・12 月の値が発表されていない指標の 2016 年 7~9 月期の前期比・前期差は、10 月の 7~9 月期に対する変化・変化率。
消費総合指数は四半期系列、月次系列ごとに季節調整がかけられるため、月次平均と四半期値は一致しない。
実質小売業販売額は、みずほ総合研究所による計算値。
新車販売台数はみずほ総合研究所による季節調整値。
総務省「労働力調査」
「家計調査」
、厚生労働省「一般職業紹介状況」「毎月勤労統計」、内閣府「消費動向調査」「消費総合指数」、
経済産業省「商業動態統計」、国土交通省「建築着工統計」、日本銀行「消費活動指数」、日本自動車販売協会連合会等
8
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
5.政府部門
公的需要
公的需要は緩やかに増加している。
8 月の公共工事出来高は、
前月比▲1.6%
と 2 カ月連続で減少した(図表 1)
。建設技能労働者の不足が続いていること
などを背景に(図表 2)
、公共投資の増勢は一服しているようだ。一方、政府
消費は増加が続いているとみられる。先行きについてみると、先行指標であ
る 10 月の公共工事請負金額は、前月比▲18.6%と大幅に減少した。第二次補
正予算などの経済対策が進捗することから、公共投資は緩やかな増加基調を
維持するとみられるが、一時的に弱含む可能性がある。政府消費は、社会保
障給付の拡大により増加傾向が続き、公的需要全体では緩やかな増加が続く
見込みである。
税収
税収は弱含んでいる。9 月の国税収入は、前年比▲7.3%となった。配当に
かかる所得税収が減少したことが主な要因である(図表 3)
。2016 年度 9 月分
までの累積進捗率は 27.7%と、前年度同期(29.7%)から下振れて推移して
いる。雇用者所得の増加などが続く一方、企業収益の弱含みを受けて法人税
収は減少するとみられる。今後の税収は弱含みが続くだろう。
経済政策
国会では、年金改革関連法案が審議されている。現役世代の負担が高まっ
ている状況を見直すことが論点である。具体的には、①現役世代の負担能力
に応じて年金額を変動させることと、②マクロ経済スライドの調整率につい
て、未調整分を物価・賃金の回復期に繰越して適用できるようにすることだ。
①については、これまでは物価が上昇し賃金が低下した場合、年金額の改定
は据え置かれていた。現在議論されている新ルールでは、賃金に合わせて年
金を引き下げられるようになる。また、物価と賃金がともに下がった場合に
は、引き下げ幅の大きい方が適用される。現役世代の負担能力に応じた仕組
みと言える。②のマクロ経済スライドとは、少子高齢化の進行度や平均寿命
の伸びなどに応じて年金支給額を抑制する仕組みである。現行制度では、2015
年度に発動されたのみで、未調整分が現役世代の負担増につながっている。
新ルールでは、景気の悪化時に支給額の引き下げを避ける仕組みを維持しつ
つ、その未調整分を年金の引き上げ時(物価・賃金の上昇時)に繰り越して
支給額を抑えることで、現役世代の負担を軽減する。いずれの仕組みも、与
野党間で対立が深まっているが、持続可能な社会保障制度を確立する上で、
支給額をある程度抑制することは避けられないだろう。
2016 年度上半期の国税収入は 15 兆 9,525 億円と、前年を 4.8%下回る水準
となった。企業収益の弱含みをうけて、法人税収が大幅に落ち込んだことが
主な要因である。また、消費税収入の減少もマイナスに寄与した。過去 5 年
間のトレンドを踏まえると、最終的な着地点は 16 年度の政府の税収見込み
(57.6 兆円)から約 3 兆円下振れする計算となる(図表 4)
。アベノミクス
では、税収の上振れ分が経済対策に充てられてきたが、今後は国債発行なし
に追加的な景気浮揚策をとることが難しくなる。また、政府は、20 年度に税
収が 69 兆円まで増えることを前提に財政健全化計画を立てているが、税収
の伸びが鈍れば財政再建の道筋も一層不透明となるだろう。
9
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
図表 1
(兆円)
公共工事出来高・請負金額の推移
(兆円)
1.6
公共工事出来高
2.0
図表 2
公共工事請負金額(右目盛)
建設技能労働者過不足率の推移
(過不足率、%)
3.0
建設技能労働者不足率
(8職種計)
1.5
1.9
8月
2.0
1.4
1.8
1.3
1.7
1.2
1.0
1.1
1.6
0.0
1.0
7~9月平均
過
剰
0.9
1.5
13/1
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
▲ 1.0
12
16/7
13
14
15
(年/月)
(注)過不足率の定義は以下の通り。
(確保できなった労働者数-過剰となった労働者数)/(確保している労働
者数+確保できなかった労働者数)×100
(資料)国土交通省「建設労働需給調査結果」より、みずほ総合研究所作成
(注) みずほ総合研究所による季節調整値。
(資料) 国土交通省「建設総合統計」
、保証事業会社 3 社「公共工事前払金
保証統計」より、みずほ総合研究所作成
図表 3
16
(年/四半期)
国税収入の寄与度分解
図表 4
2016 年度税収進捗率の見込み
(%)
(前年比、%)
15
120
税収計
10
所得税
100
その他
5
80
0
60
消費税
▲ 5
40
法人税
▲ 10
2016年度
20
過去5年間の平均進捗率
▲ 15
0
▲ 20
16/1
16/3
16/5
16/7
6
16/9
(年/月)
9
10
11
12
1
2
3
4
5
(注) 1.進捗率は、当年度補正予算に対する当月の累積国税収入割合。
2. 2016 年度 10 月以降は、みずほ総合研究所による予測値。
(資料)財務省より、みずほ総合研究所作成
政府部門の主要統計
FY2014
公的需要
8
(月)
(注)出納整理期間を含むベース。
(資料)財務省「租税及び印紙収入、収入額調」より、みずほ総合研究所作成
図表 5
7
FY2015
2016Q2
2016Q3
2016Q4
2016/06
2016/07
2016/08
2016/09
2016/10
公共工事出来高
前期比、%
5.0
▲ 2.0
1.8
▲ 0.5
n.a.
1.2
▲ 0.6
▲ 1.6
n.a.
n.a.
公共工事請負金額
前期比、%
▲ 0.3
▲ 3.8
7.0
▲ 4.4
▲ 14.8
0.7
▲ 9.9
17.9
▲ 0.9
▲ 18.6
兆円
▲ 23.3
▲ 19.7
▲ 11.0
4.8
▲ 5.1
▲ 3.8
3.1
▲ 0.6
2.3
▲ 5.1
前年差、兆円
15.3
3.6
2.1
4.0
0.1
0.7
1.6
0.8
1.5
▲ 0.8
財政フロー 財政資金対民間収支(一般+特別)
一般会計租税・印紙収入
兆円
-
-
2.9
15.9
n.a.
2.1
5.8
4.1
3.1
n.a.
会計年度累計、兆円
54.0
56.3
2.9
16.0
n.a.
2.9
8.8
12.9
16.0
n.a.
n.a.
%
-
-
5.1
27.7
n.a.
5.1
15.2
22.3
27.7
前年度差、%
-
-
0.0
▲ 1.3
n.a.
0.0
▲ 1.3
▲ 1.5
▲ 2.0
n.a.
所得税収入
会計年度累計、前年差、兆円
1.3
1.0
0.1
▲ 0.3
n.a.
0.1
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.3
n.a.
法人税収入
会計年度累計、前年差、兆円
0.5
▲ 0.2
0.1
▲ 0.3
n.a.
0.1
▲ 0.2
▲ 0.3
▲ 0.3
n.a.
消費税収入
会計年度累計、前年差、兆円
5.2
1.5
▲ 0.2
▲ 0.3
n.a.
▲ 0.2
▲ 0.3
▲ 0.3
▲ 0.3
n.a.
進捗率
兆円
1,053.4
1,049.4
1,053.5
1,053.5
n.a.
1,053.5
1,061.4
1,070.6
n.a.
n.a.
前年差、兆円
28.4
▲ 4.0
▲ 3.8
▲ 1.0
n.a.
▲ 3.8
1.4
6.1
n.a.
n.a.
内国債
兆円
843.7
874.6
882.7
882.7
n.a.
882.7
889.9
898.2
n.a.
n.a.
国庫短期証券
兆円
154.7
119.9
118.0
118.0
n.a.
118.0
119.0
119.8
n.a.
n.a.
借入金
兆円
55.0
54.8
32.2
32.2
n.a.
32.2
28.9
23.7
n.a.
n.a.
10億ドル
1,245.3
1,262.1
1,265.4
1,260.1
n.a.
1,265.4
1,264.8
1,256.1
1,260.1
n.a.
財政ストック 政府債務残高
外貨準備高
(注)1.公共工事出来高、公共工事請負金額はみずほ総合研究所による季節調整値。
2. 公共工事出来高の 7~9 月期平均は、2016 年 4~6 月期に対する 2016 年 7・8 月平均の変化率。
3. 公共工事請負金額の 10~12 月期平均は、2016 年 7~9 月期に対する 2016 年 10 月の変化率。
(資料)財務省「租税及び印紙収入、収入額調」
、
「財政資金対民間収支」
、国土交通省「建設総合統計」
、保証事業会社「公共工事前払金保証統計」
10
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
6.物価
国内企業物価
国内企業物価は前年比マイナス幅が縮小している。10 月の国内企業物価指
数は前年比▲2.7%(9 月同▲3.2%)と 5 カ月連続で前月からマイナス幅が縮
小した(図表 1)
。原油価格の持ち直しを受けた石油・石炭価格のマイナス幅
縮小などが寄与した。
先行きを展望すると、引き続き円高が下押し圧力となるものの、原油価格
の持ち直しが今後もエネルギー価格に反映されていくと想定されることから、
国内企業物価指数の前年比マイナス幅は縮小していく見通しである。
消費者物価
消費者物価は前年比マイナスで推移している。
9 月の生鮮食品を除く総合指
数(コアCPI)は前年比▲0.5%(8 月同▲0.5%)と、前月から横ばいで推
移した(図表 2)
。また、食料(酒類除く)
・エネルギーを除く総合指数(米国
基準コアCPI)の伸びは同+0.0%(8 月同+0.2%)と前月から鈍化した。
円高の影響によりテレビなどの教養娯楽用耐久財のマイナス幅が拡大したほ
か(8 月同▲2.4%→9 月同▲7.8%)
、外国パック旅行費(8 月同+6.9%→9
月同+1.7%)の伸びが縮小したことが寄与した。そのほか家具・家事用品や
被服及び履物など幅広い品目で伸びの鈍化がみられた。
10 月の東京都区部コアCPIは、前年比▲0.4%(9 月同▲0.5%)と前月か
らマイナス幅が若干縮小した。エネルギー価格のマイナス幅が縮小したほか、
家庭用耐久財が前月からやや持ち直した。米国基準コアCPIの伸びは同+
0.1%(9 月同▲0.1%)と 2 カ月ぶりにプラスに転じた。
エネルギー価格は今後緩やかに持ち直すとみられるが、円高の影響や家計
の節約志向が下押し圧力となり、全国コアCPIは前年比マイナスが続く見
通しである。
金融政策
日銀は 2%の物価安定目標の実現を目指し、2016 年 9 月の金融政策決定会
合において導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に即して金融
緩和を進めている。日銀は当面は 10 年国債利回りの目標水準をゼロ近傍とす
るなど、
「金利」を目標に据えて国債買い入れ額を調整していくとみられる。
政策導入後、10 年国債利回りは 0%~▲0.1%のレンジで推移しており、概ね
目標水準を維持している。
また 11 月 1 日に公表された「経済・物価情勢の展望」において、日銀は物
価達成目標の見通し時期を2017 年度中から 2018 年度頃に先送りした
(図表3)
。
見通し変更の背景として、足元の物価低迷に伴う予想物価上昇率の低下、新
興国経済の減速に伴うマクロ的な需給バランス改善の遅れ、円高や原油安に
伴う輸入物価の低迷の 3 点を挙げた。
日銀が重視する生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は 9 月に前年比
+0.2%と伸びが鈍化したほか、刈込平均値は同▲0.1%と約 3 年ぶりに前年
比マイナスに転じた(図表 4)
。円高などを背景に、今後も当面鈍化傾向が続
くと予想されるものの、日銀は、当面は新たな金融政策の効果を見極めてい
くものとみられる。
11
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
図表 1
国内企業物価指数
図表 2
(前年比、%)
3
生鮮食品を除く総合CPI
(前年比、%)
1.5
2
1.0
1
0.5
0
0.0
▲1
その他
非鉄金属
鉄鋼
石油・石炭製品
食料品
国内企業物価
▲2
▲3
▲4
▲ 0.5
▲ 1.5
▲5
13/01
13/07
14/01
14/07
15/01
15/07
16/01
13/1
16/07
(注) 消費税率引き上げの影響を除くベース。
(資料) 日本銀行「企業物価指数」より、みずほ総合研究所作成
図表 3
エネルギー
食料(生鮮・酒類除く)
食料(生鮮・酒類除く)・エネルギー除く総合
生鮮食品を除く総合(コアCPI)
▲ 1.0
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
16/7 (年/月)
(注) 消費税率引き上げの影響を除くベース。
(資料) 総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所作成
日銀政策委員・物価見通し(コアCPI)
図表 4
今回見通し
(11月時点)
前回見通し
(7月時点)
2016年度
▲0.3% ~ ▲0.1%
<▲0.1%>
0.0% ~ +0.3%
<+0.1%>
1.0
2017年度
+0.6% ~ +1.6%
<+1.5%>
+0.8% ~ +1.8%
<+1.7%>
0.0
2018年度
+0.9% ~ +1.9%
<+1.7%>
+1.0% ~ +2.0%
<+1.9%>
▲ 1.0
(前年比、%)
日銀・基調的なインフレ率
総合CPI(除く生鮮・エネルギー)(2010年基準)
総合CPI(除く生鮮・エネルギー)(2015年基準)
刈込平均値(上下10%控除)(2010年基準)
刈込平均値(上下10%控除)(2015年基準)
2.0
13/1
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
16/7
(年/月)
(注)前年度比。 <>は中央値。
(資料) 日本銀行より、みずほ総合研究所作成
(資料) 日本銀行「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」より、
みずほ総合研究所作成
図表 5
商品市況
日本銀行国際商品指数
国内企業物価 総平均
(消費増税の影響を除く)
素原材料
中間財
最終財
企業向け
総平均
サービス価格 (消費増税の影響を除く)
国際運輸を除く
金融・保険
不動産
運輸
情報通信
広告
リース・レンタル
諸サービス
消費者物価 総合
生鮮食品を除く
金融政策
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
物価の主要統計
FY2014 FY2015
▲ 18.8
▲ 35.3
2.7
▲ 3.2
▲ 0.0
▲ 3.3
▲ 3.4
▲ 6.1
0.5
▲ 4.8
▲ 0.5
▲ 0.7
3.3
0.4
0.6
0.4
3.3
0.5
3.7
0.3
3.0
0.3
3.6
▲ 0.2
2.5
▲ 0.2
3.2
0.1
4.1
0.1
3.8
1.2
3.0
0.2
2.8
0.0
2016Q2 2016Q3 2016Q4
▲ 18.7
▲ 4.7
n.a.
▲ 4.4
▲ 3.6
n.a.
▲ 4.3
▲ 3.5
n.a.
▲ 1.3
▲ 1.0
n.a.
▲ 6.5
▲ 5.3
n.a.
▲ 1.2
▲ 1.2
n.a.
0.1
0.3
n.a.
0.1
0.2
n.a.
0.3
0.5
n.a.
▲ 0.4
▲ 0.7
n.a.
1.3
1.2
n.a.
▲ 1.2
▲ 1.0
n.a.
0.4
0.4
n.a.
1.2
2.6
n.a.
▲ 2.3
▲ 3.0
n.a.
0.9
0.9
n.a.
▲ 0.4
▲ 0.5
n.a.
▲ 0.4
▲ 0.5
n.a.
2016/06 2016/07 2016/08 2016/09 2016/10
▲ 15.3
▲ 15.0
▲ 2.6
4.8
14.2
▲ 4.3
▲ 4.0
▲ 3.6
▲ 3.2
▲ 2.7
▲ 4.3
▲ 3.9
▲ 3.6
▲ 3.1
▲ 2.6
▲ 2.4
▲ 2.6
▲ 2.1
1.4
2.2
▲ 6.4
▲ 5.8
▲ 5.2
▲ 4.8
▲ 4.0
▲ 1.3
▲ 1.2
▲ 1.3
▲ 1.1
▲ 1.0
0.1
0.3
0.2
0.3
n.a.
0.1
0.3
0.1
0.3
n.a.
0.3
0.5
0.4
0.4
n.a.
▲ 0.5
▲ 0.6
▲ 0.7
▲ 0.6
n.a.
1.4
1.3
1.1
1.3
n.a.
▲ 1.3
▲ 1.2
▲ 0.9
▲ 1.0
n.a.
0.4
0.4
0.4
0.5
n.a.
0.9
3.2
1.9
2.6
n.a.
▲ 2.8
▲ 2.6
▲ 3.3
▲ 3.1
n.a.
0.9
0.9
0.8
0.9
n.a.
▲ 0.4
▲ 0.4
▲ 0.5
▲ 0.5
n.a.
▲ 0.4
▲ 0.5
▲ 0.5
▲ 0.5
n.a.
0.8
2.2
0.6
0.6
0.2
n.a.
0.5
0.3
0.2
0.0
n.a.
前年比、%
0.5
3.3
3.5
4.4
1.3
3.2
1.6
1.8
▲ 0.6
0.4
0.7
0.4
2.0
▲ 2.1
0.2
0.8
▲ 1.8
1.7
▲ 1.7
0.1
0.7
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
0.0
1.8
▲ 1.9
0.2
0.8
▲ 1.0
1.8
▲ 1.7
0.1
0.8
▲ 1.3
1.8
▲ 1.8
0.1
0.6
▲ 3.1
1.3
▲ 1.4
0.1
0.7
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
%
0.02
▲ 0.00
▲ 0.06
▲ 0.06
▲ 0.10
▲ 0.06
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.06
▲ 0.05
(消費増税の影響を除く※当社推計値)
酒類を除く食品・エネルギーを除く
前年比、%
(消費増税の影響を除く※当社推計値)
耐久消費財
半耐久消費財
非耐久消費財
一般サービス
公共サービス
無担保コール翌日物金利(末値)
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
前年比、%
(注) 実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。
(資料) 日本銀行「企業物価指数」、「企業向けサービス価格指数」、「日本銀行国際商品指数」「金融経済統計月報」、総務省「消費者物価指数」
12
みずほ日本経済情報(2016 年 11 月号)
2 01 6年 11 月 11 日
発行
[執筆担当]
市川雄介(総括)
03-3591-1289
yusuke.ichikawa@m iz uho-ri.co.jp
有田賢太郎(外需・物価)
03-3591-1419
kentaro.arita@miz uh o-ri.co.jp
大野晴香(個人消費)
03-3591-1243
haruka.ono@mizuho -r i.co.jp
宮嶋貴之(企業)
03-3591-1434
takayuki.miyajima @m izuho-ri.co.jp
上里 啓(雇用・政府)
03-3591-1284
hiromu.uezato@miz uh o-ri.co.jp
高瀬美帆(住宅)
03-3591-1416
miho.takase@mizuh o- ri.co.jp
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではあり
ません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正
確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更され
ることもあります