アンチ・ドーピング体制の構築・強化について

アンチ・ドーピング体制の構築・強化について
~ドーピングのないクリーンなスポーツの実現に向けて~
(報告書)
平成 28 年 11 月8日
アンチ・ドーピング体制の構築・強化に向けたタスクフォース
アンチ・ドーピング体制の構築・強化に向けたタスクフォース
委員名簿
座
長
水落
敏栄
委
員
浅川
伸
井上
惠嗣
文部科学副大臣
公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構専務理事
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技
大会組織委員会大会準備運営第一局長
河野
一郎
ラグビーワールドカップ 2019 組織委員会事務総長代行
境田
正樹
東京大学理事
高谷
吉也
独立行政法人日本スポーツ振興センター理事
木村
徹也
スポーツ庁審議官
今泉
柔剛
スポーツ庁国際課長
≪検討の経過≫
平成28年1月21日
第 1 回タスクフォース会議
平成28年2月22日
第2回タスクフォース会議
平成28年3月17日
第3回タスクフォース会議(ヒアリング)
平成28年3月29日
第4回タスクフォース会議(ヒアリング)
平成28年4月15日
第5回タスクフォース会議
平成28年5月
9日
第6回タスクフォース会議
平成28年5月24日
第7回タスクフォース会議
平成28年7月
6日
ワーキンググループ開催
平成28年8月31日
ワーキンググループ開催
平成28年10月31日 第8回タスクフォース会議
アンチ・ドーピング体制の構築・強化について
報告書
目次
はじめに .........................................................................................................................2
1.タスクフォース設 置 の目 的 及 び検 討 事 項 .......................................................................3
(1)タスクフォース設 置 の経 緯 及 び目 的 ........................................................................................................ 3
(2)タスクフォースにおける検 討 事 項 .............................................................................................................. 3
2.スポーツ界 の共 通 理 念 ...............................................................................................4
3.我 が国 のドーピング防 止 活 動 の成 果 と課 題 ....................................................................4
(1)我 が国 のドーピング防 止 活 動 の成 果 ....................................................................................................... 4
(2)我 が国 の国 際 的 なドーピング防 止 活 動 の課 題 ...................................................................................... 5
4.国 際 的 なドーピング防止 活 動 の主 な課 題 と対 応 等 ..........................................................6
(1)国 際 的 なドーピング防 止 活 動 の主 な課 題 と対 応 ................................................................................... 6
(2)IOC 及 び WADA から我 が国 が求 められていることについて .................................................................. 8
5.我 が国 がドーピング防 止 活 動 において喫 緊 に取 り組 むべき事 項 .........................................8
(1)ドーピング検 査 の実 効 性 の向 上 ................................................................................................................ 9
(2)教 育 活 動 の充 実 ・強 化 .............................................................................................................................. 9
(3)研 究 活 動 の充 実 ・強 化 ............................................................................................................................ 10
(4)組 織 的 なドーピングに対する国 際 的 な対 応 への関 与 ......................................................................... 11
6.特 に RWC2019 及 び 2020 年 東 京 大 会 に向 けたアンチ・ドーピング体 制 の整 備 ................ 11
(1)RWC2019 において必 要 な体 制 ............................................................................................................ 11
(2)2020 年 東 京 大 会 において必 要 な体 制 ............................................................................................... 12
(3)両 大 会 におけるドーピング検 査 ・分 析 体 制 の課 題 ............................................................................... 13
7.法 的 措 置 に係 る検 討 事 項 ......................................................................................... 14
(1)法 的 措 置 検 討 にあたっての基 本 的 考 え方 等 ...................................................................................... 14
(2)アンチ・ドーピングに係 る現 行 の法 的 枠 組 み ......................................................................................... 15
(3)法 的 措 置 の検 討 が必 要 と思 われるもの ................................................................................................ 17
(4)さらなる協 議 及 び検 討 が必 要 と思 われるもの ....................................................................................... 20
(5)法 的 措 置 を要 しないと思われるもの ....................................................................................................... 22
(6)法 改 正 項 目 の施 行 時 期 ......................................................................................................................... 23
1
はじめに
スポーツは世 界 共 通 の人 類 の文 化 であり、スポーツを通 じて幸 福 で豊かな生 活 を
営むことは、全 ての人 々の権 利である。そして、全ての人々が自 発 的 に、安 全 かつ公
正な環 境 の下 でスポーツに親しみ、又はスポーツを支える活 動に参 画 することができ
る機 会を確 保することは、スポーツ基本法が求める基本理念である。
その上で、スポーツ界 の透明 性や公平性・公正性を向上させることは、全ての人々
が安 全 かつ公正 な環境 の下でスポーツを行うことができる機会 を充実させるための基
盤 である。また、スポーツの公 平 性 ・公 正 性 を守 ることは、次 代 を担 う青 少 年 が、ス
ポーツを通 じて他 者 を尊 重 し、協 同 する精 神 や公 正 さと規 律 を尊 ぶ態 度 を養 うため
にも重 要なことである。
ドーピングは、日々競 技 力 向上 に励むアスリートの努力 を踏みにじるものであり、ドー
ピングを行った又 は知 らずに投与 されたアスリートに重 大な健 康 被 害 をもたらすもので
あり、公 正な環 境 の下 でスポーツが行われていると信じる社 会 の信 頼を裏 切 るもので
あり、公 正 さと規 律 を尊 ぶ態 度 や克 己 心 を養 う必 要 がある青 少 年 にとって悪 影 響 を
及ぼすものであり、社 会 の発 展 に多 様 な形 で貢献 するスポーツの価 値を損なうもので
あるため、絶対に許されるものではない。
これまで、スポーツにおけるドーピングの撲 滅に向けて国 内 外 で様々な取 組 が進 め
られている。我 が国 も、ユネスコの「スポーツにおけるドーピング防 止 に関 する国 際 規
約 」、スポーツ基 本 法 、スポーツ基 本 計 画 及 びスポーツにおけるドーピングの防 止 に
関 するガイドライン等 に基 づき、世 界 ドーピング防 止 機 構 (以 下 、「WADA」)、公 益 財
団 法 人 日 本 アンチ・ドーピング機 構 (以 下 、「JADA」)及 び独 立 行 政 法 人 日 本 スポー
ツ振 興 センター(以 下 、「JSC」)等 の関 係 機 関 と連 携 しながら、ドーピング防 止 に向け
て教 育 ・啓 発活 動、研究 開発 活動及 び国際 連携 活動等の各種施 策に取り組んでき
た。また、公 益 財 団 法 人 日 本 オリンピック委 員 会 (JOC)、公 益 財 団 法 人 日 本 障 がい
者スポーツ協会、公益 財団法 人 日 本体 育協 会及び各中央 競 技団 体(NF)等におい
ても、JADA と協力しながら、ドーピング防止に向けた各種取組を推進してきた。
その一 方 、国 際 的 には、昨 今 、ロシアにおける組 織 的 ドーピングの発 覚 やより悪 質
化・巧 妙 化するドーピングの増 加をはじめとしてドーピング防止活 動 に対する世界 的 な
努 力を脅かすような事態が生じていることも事実である。
このような国際情勢の中、我が国においては、ラグビーワールドカップ 2019(以下 、
「RWC2019」)及び 2020 年東 京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「2020
年 東京 大 会」)等 の世 界 的 に注目 を集める大 規模 国 際 競技 大 会 を迎えることになる
が、我 が国 で開 催 するこれらの大 会 がドーピングのないクリーンな大 会 となるよう、ドー
ピング防 止活 動において万全の準備を図ることが必要となっている。
本 タスクフォースは、以 上 のような状 況 下 で、2020 年 東 京 大 会 等 に向 けて法 的
措 置 の必 要 性を含 め、ソフト面・ハード面のドーピング防止 活 動 の体 制 強 化を行うこと
を目指して、昨年 12 月に冨岡 前文部科学副 大臣の下に設置され、本年 8 月より水
落 文 部 科 学 副 大 臣 の下 で、具 体 的 な対 応 方 策 を審 議 してきた。本 報 告 書 は、その
審 議結 果をまとめたものである。
2
1.タスクフォース設置 の目的 及び検 討事項
(1)タスクフォース設置 の経緯 及び目的
我が国は、2020 年東 京大会の招致活動において、我が国のスポーツがクリーンで
あることが高 い評 価 を受 けたところであり、国 際 オリンピック委 員 会 (以 下 、「IOC」)や
WADA 等の国際 機関からも、同 大会に対して強い期待が寄せられている。
また、昨今 のロシアにおける組 織 的なドーピング疑 惑やより悪 質化 ・巧 妙 化するドー
ピング等 に対 抗 するため、国 際 的 なアンチ・ドーピング体 制 の強 化 に向 けて、国 際 機
関 及び各 国政府の連携・協力が強く要請されている。
そのような中 、2020 年東 京大会 等をドーピングのないクリーンな大会 にするべく、国
内のアンチ・ドーピング体制を構築・強化するとともに、2020 年東京 大会の開催国とし
て、スポーツ・インテグリティ(健 全 性 ・高 潔 性 )の保 護 に向 けた万 全 な体 制 整 備 を進
めるため、以 下(2)の項 目について、法 的 措 置の必要 性を含め、課 題 を整 理すること
を目的として、本タスクフォースは設置された。
本タスクフォースは、昨年 12 月に冨岡 前文部科学 副大臣の下に設置され、本年
8 月 2 日に中間まとめを公表した。その後 、内閣改造を経て、本年 8 月より水落文部
科 学 副 大 臣 の下 で検 討 を進 めてきた。同 検 討 に当 たっては、小 松 裕 衆 議 院 議 員 の
オブザーバー参 加 を得 るとともに、JSC、JADA、2020 年 東 京 大 会 組 織 委 員 会 及 び
RWC2019 組織 委員会 等の関係 機 関の代表、法学者 等の専門家をメンバーとし、医
師 、薬 剤 師 等 の協 力 も得 ながら、これまでワーキンググループの審 議 を含 めて計 10
回 開催してきており、本報告 書は、その審議結果をまとめたものである。
検 討 の過 程において、アスリート、アントラージュ 1 、NF、JOC 並びに日 本パラリンピッ
ク委 員 会 (以 下、「JPC」)等の関 係 者、プロスポーツ団体 関 係 者、薬学 関 係 者 及びメ
ディア関 係 者へのヒアリングを実施した。
今 回 、本 タスクフォースにおける検 討 にあたっては、スポーツ界 の基 本 的 な共 通 認
識である「スポーツの自 主 性 」、「スポーツに係 る差 別 的 取 扱いの禁 止 」、「アスリート・
ファースト」、「スポーツ団 体 の自 治 ・自 立 性 ・自 律 性 」、「スポーツの多 様 性 」等 に留
意してきた。それは当該ヒアリングを通じてアスリート等から強く要望されたことに端を発
し、本 報 告書に記載したドーピング防止活 動の今後の在り方について、スポーツ界から
支 持を得るためには、これらの共通認識を押さえる必要があるためである。
今 後 は、本 報 告 書 に基 づき、幅 広く政 官 民 の関 係 者の意 見 を聴 取 するとともに関
係 省 庁 と協 議を行いながら、具 体 的な施 策の実施に向けて取り組みを進める予定 で
ある。
(2)タスクフォースにおける検討 事項
本 タスクフォースにおいては、以下の項目 について、法的措置の必要 性を含め、課
題を整 理し、万全な体制 整備に向けた検討を進めてきた。
1
アントラージュ:JOC のホームページによると「『アントラージュ』とはフランス語 で取 り巻 き、環 境 と
いう意 味 で、競 技 環 境 を整 備 し、アスリートがパフォーマンスを最 大 限 発 揮 できるように連 携 協 力
する関 係 者 」と定 義 している。また、世 界 ドーピング防 止 規 程 では、サポートスタッフを「競 技 会 に
参 加 し、又 は、そのための準 備 を行 うアスリートと共 に行 動 し、治 療 を行 い、又 は、支 援 を行 う指
導 者 、トレーナー、監 督 、代 理 人 、チームスタッフ、職 員 、医 療 従 事 者 、親 又 はその他 の人 をいう」
と定 義 している。
3
【検 討 項 目】
○国 内アンチ・ドーピング体 制の整 備の在り方
○特に RWC2019 及 び 2020 年 東 京 大 会 に向けた国 内アンチ・ドーピング
体 制 整 備の在り方
○国 際アンチ・ドーピング体 制 強 化に向けた貢 献の在り方
2.スポーツ界 の共 通 理 念
スポーツ界 においては、「スポーツのインテグリティ(健 全 性 ・高 潔 性 )」や「フェアネ
ス」に関するものの他 、「スポーツの自 主 性 」、「スポーツに係る差 別 的 取 扱いの禁 止 」、
「アスリート・ファースト」、「スポーツ団 体 の自 治 ・自 律 性 」及 び「スポーツの多 様 性 」等
の基 本 的 な共 通 理 念 が存 在 する。これらの共 通 理 念 を根 底 に置 いて議 論 することに
ついては、本 タスクフォースが行 ったアスリートやスポーツ団 体 等 に対 するヒアリングに
おいて、彼 らから強 く求 められたことでもあった。このため、今 回 のドーピング防 止 活 動
の推 進 に向 けた検 討 においても、これらの共 通 理 念 に留 意 しつつ、種 々の制 度 設 計
等を検 討してきた。また、スポーツの価 値の最 大 化を図るためにも、今 後とも、このよう
なスポーツ界の共 通 理 念を尊 重する必 要 がある。
3.我 が国 のドーピング防 止 活 動 の成 果 と課 題
(1)我が国のドーピング防 止 活 動の成 果
まず、我 が国 のドーピング防 止 活 動 の今 後 の在 り方 を検 討 する上 において、これま
での我 が国のドーピング防 止 活 動における成 果 とその課 題を整 理する必 要がある。
我 が国 は、毎 年 数 件 のドーピング防 止 規 則 違 反 は存 在 するものの、ドーピング防 止
規 則 違 反 確 定 率は 0.16%(2015 年 実 績)であり、国際 的に見ても圧 倒 的に低い状
態(米や豪の 1/4、英 の 1/3、中 国の 1/2、露の 1/12、トルコの 1/94、クウェートの
1/99)であって、この違 反 確 定 率 の低 さ(*検 査 件 数 は世 界 上 位 )はドイツと並 んで
世 界 一 である。このことは、JADA を中 心 とした国 内 のドーピング防 止 活 動 が、世 界
ドーピング防 止 規 程 2 (World Anti-Doping Code:以 下、「世 界 AD 規 程」)に基 づき、
確 実 に取 り組 まれている上 、教 育 活 動 が比 較 的 進 んでいること及 び我 が国 の伝 統 的
な社 会 的 価 値観 や学 校 教 育 等における成 果 といえるものである。
また、我 が国 の国 際 的 な活 動 としては、WADA 創 設 当 時 から一 貫 してアジアを代
表する常 任 理 事 国 及 び理 事 国であるとともに、WADA に対して年に約 1.5 百 万 US ド
ル(約 1.5 億 円)を拠 出(=WADA の年 間の政 府 側 拠 出 金の 11%=アジア地 域 拠
出 金 の 53%)するなど、国 際 的 なドーピング防 止 活 動 において中 心 的 な役 割 を担 う
国の1つとなっている。
さらに、アジア・オセアニア地 域 のドーピング防 止 活 動 の発 展 においても、上 述 のと
お り 、 WADA の 常 任 理 事 国 及 び 理 事 国 と し て ア ジ ア の 意 見 を 代 表 す る と と も に 、
WADA のアジア・オセアニア事 務 所(所 長は日 本 人)を我 が国に置 き、毎 年アジア・オ
2
世 界 ドーピング防 止 規 程 :スポーツにおける世 界 ドーピング防 止 プログラムの基 礎 となる世 界 共
通 のルールであり、WADA、IOC、IPC、IF、国 内 オリンピック委 員 会 、国 内 パラリンピック委 員 会 、
主 要 競 技 大 会 機 関 、国 内 アンチ・ドーピング機 関 等 が署 名 し、受 諾 している。本 規 程 は、2004
年 に発 効 し、これまで 2009 年 、2015 年 と 2 回 改 訂 されてきた。本 規 程 のもとには 5 つの国 際
基 準 (禁 止 表 国 際 基 準 、検 査 及 び調 査 に関 する国 際 基 準 、治 療 使 用 特 例 に関 する国 際 基 準 、
プライバシー及 び国 際 情 報 の保 護 に関 する国 際 基 準 、分 析 機 関 に関 する国 際 基 準 )が設 けら
れている。
4
セアニア地 域 のセミナーを開 催 して地 域 全 体 のキャパシティ・ビルディングに貢 献 する
など、地 域 のドーピング防 止 活 動 に対 しても積 極 的 な支 援 を行 ってきている。その成
果 が、我 が国 が常 任 理 事 国 であり続 けることを各 国 から支 持 される要 因 の1つとなっ
ている。
以 上 のように、我 が国 は国 内 のドーピング防 止 活 動 において成 果 を上 げ、アジアの
リーダーとしてアジア地 域 のドーピング防 止 活 動 を牽 引 する努 力 をしてきており、
WADA を中 心 とした世 界 的 活 動 においてもリーダー国 の1つとして活 動 し、そのことが
国 際 的に高い評 価を受けており、これらのことがこれまでの取 組の成 果である。
(2)我が国の国 際 的なドーピング防 止 活 動の課 題
一 方 、課 題 として、我 が国 の国 際 的 なドーピング防 止 活 動 に対 する評 価 は高 い反
面 、現 状 の国 内 のドーピング防 止 活 動 は、十 分 な体 制 整 備 及 びリソースの配 分 がな
されている中で実 施されているわけでは必ずしもなく、JADA を中 心 とした一 部 の関 係
者 の努 力 によって、これまでの成 果 が成 し遂 げられてきているものであることに留 意 す
る必 要がある。
また、これまで国 内 の取 組 やアジア地 域 のドーピング防 止 活 動 の支 援 を行 ってきて
いたとしても、現 実 的 には、過 去 の成 果 に甘 んじることができる状 態 では決 してない。
具 体 的 には、ドーピング防 止 規 則 違 反 確 定 率 が世 界 一 低 いとはいえ、現に毎 年 数 件
のドーピング防 止 規 則 違 反 が発 生 している状 況 は看 過 すべきではない。また、我 が国
の違 反は、全てドーピング検 査 等を通じて捕 捉 しているものであり、世 界 AD 規 程にお
けるドーピング防 止 規 則 違 反 行 為 (下 表 参 照 )の全 ての項 目 について監 視 できている
わけではない。
(参 考) 世 界 AD 規 程が定めるドーピング防 止 規 則 違 反 要 件
※ドーピング検 査 等 で捕 捉 できる違 反 は、2.1、2.2、2.3、2.4 及 び 2.6 の違 反 にとどまる。
特に、同 規 程 2.5 及 び 2.7~2.10 の違 反 行 為に関しては、関 係 機 関 等との情 報
(インテリジェンス)共 有 が必 要 となるが、そのような仕 組 みが必 ずしも構 築 できていな
いことが課 題 である。そのため、関 係 機 関 との情 報 共 有 をはじめとしたドーピング検 査
以 外の各 種モニタリングシステムの構 築 が急 務である。
さらに、我 が国 では、ドーピング検 査 員 等 の専 門 人 材 はある程 度 存 在 するが、大 規
5
模 国 際 競 技 大 会に対 応 し、マネジメントができる人 材 が不 足 しており、今 後、よほどの
計 画的な人材育成に係るテコ入れをしなければ、RWC2019 及び 2020 年東京 大会
をはじめとした大 規 模 国 際 競 技 大 会 の成 功 に向 けた体 制 整 備 がおぼつかない状 態
であることも肝に銘じる必要がある。
このような国 際 的 なドーピング防 止 活 動 ができる人 材 が不 足 していることは、ロシア
で起こったような事態に対してゼロから国全体 のアンチ・ドーピング体制を立て直すとい
うような大 規 模 な支 援 活 動 を実 施 したり、WADA の役 員 等 のポストを獲 得できるよう
な人 材が不足していることにもつながる課題である。
しかも、我 が国においては、ドーピング防 止 規 則 違 反 件 数 が少 ないため、ドーピング
に関 する国 際 的 な課 題 への危 機 感 が、スポーツ界 を含 め社 会 全 体 で実 感 として薄
い状 態 となっている。その状 況 下 で、今 後 、我 が国 で実 施 する国 際 競 技 大 会 には世
界 各 国 から多 くのアスリートが参 加 することになるため、国 際 的 な課 題 を踏まえ、それ
に対応した取組を着実に準備していく必要がある。
そのような中 、本 タスクフォースにおいては、これまでの国 内 のドーピング防 止 活 動
の課 題を解決しつつ、我が国のドーピング防止活動にも重要な影響をもたらす国際的
な課 題(以下4(1))及 び IOC と WADA からの要請(以下4(2))に対して適切に対応
することができるようにするため、今後、我 が国 が優先 的に取組を強化 しなければなら
ない対 応 方 策 を検 討 してきたところであり、その喫 緊 に取り組 むべき具 体 的 な内 容 は、
以 下5のとおりである。
4.国 際的 なドーピング防止 活動の主 な課題 と対応等
(1)国 際的なドーピング防止 活動の主な課題と対応
我 が国 を含 めた国 際 的 なドーピング防 止 活 動 においては、主に以 下 の①~④のよ
うな課 題が見られ、その対応が求められている。
① 【課 題 1】 ドーピング検査 や世界 AD 規程に基づくモニタリングシステムがある一
方 、巧 妙 なドーピング手 法 によって、それをすり抜 けようとする者 がいる中 、既 存 の
ドーピング検査だけでは対応しきれない状態になっている。
(対 応) 上 記のような進 化 し巧 妙 化するドーピングに対 応するためには、ドーピング防
止 におけるモニタリング機能 の実 効 性を高めるような以下 の取 組が必要になってい
る。
ア:「競 技会外 検 査の重視」
(→ドーピングをしながら競技 会時には閾値を超えないように調整 してすり抜けよう
とする事例に対し、競技 会外での検査が必要であるため)
イ:「血液検 査の重視」
(→尿 検査のみでは検出できない禁止物 質があるため)
ウ:「アスリート生体パスポート(ABP)の活用」
(→ドーピング検査 時 に閾値 を超えないように調整する者がいることから、アスリー
トの標 準 状態を継続して測定するため)
エ:「アンチ・ドーピング情報 管理システム(ADAMS)の活用」
(→ドーピング検 査 や調 査 を逃 れようとする者 がいることから、世 界 各 国 ・地 域 で
行 われているドーピング防止 活 動の情報(ドーピング検査 結 果やアスリートの居場
所 情 報 等 を含 む)を共 有 し、有 効 な検 査 計 画 の立 案 や調 査 に活 用できるように
するため)
6
オ:「関 係機 関とのインテリジェンス共有体 制の整備」
(→ドーピング検査のみでは、世界 AD 規程に定めるドーピング行為の全てを監視
することができないことから、関係機 関との情報共 有 によって、ドーピング行為 のう
ちドーピング検査では捕捉できない事案に対処できるようにするため)
※p5の表参 照
② 【課 題 2】 ドーピングに対 しては、ドーピング防 止やスポーツのインテグリティの保
護 等 のスポーツ界の国 際 的な共 通 理 念 を守 ることの重 要 性 に関する理 解不 足 や
そもそもの考え方 の違 い、また医 師や薬 剤 師 等 の関係 者の知 識 不 足があったりす
るため、国 内 外 において、アスリート等 に限 らないより幅 広 い教 育 ・研 修 活 動 が必
要である。
(対 応 ) 国 際 的 に基 本 的 な考 え方 については共 通 理 解 が図 られるようにするため、
以 下のような対応を行う必要 がある。
ア:「国 際的な教育ツールの開発 及び教育活 動の実施」
(→スポーツの価 値 やドーピング防 止 に関 する国 際 的 な共 通 理 解 を徹 底 する必
要があるため)
イ:「医師や薬剤 師等 の医療 関係者への教育・啓発活 動の促進」
(→医 師や薬剤 師のドーピング防止活動への理解促進を図る必要があるため)
③ 【課 題 3】 巧 妙 化 するドーピングを検出 する検 査 方 法の開 発が必 要 であること
や、既 存 の検 査 方 法 ではアスリートへの心 身 へのストレスが大 きいため、より負 担
の少ない検査 方法の開発が必要である。
(対 応) 研究開発に関しては、以下のような対応が行われている。
ア:「新たなドーピング検査 手法の研究開 発 」
(→ドーピング検査 をすり抜 けるため新 たなドーピングを開発する者 に対抗して、そ
れらのすり抜けを発見 できるような研究開発 を行うため)
イ:「特別研 究 基金の設置」
(→ドーピング検 査 のすり抜 けを行 おうとする者 を防 止 する研 究 開 発 とともに、既
存 の尿検査 や血 液 検 査では、アスリートに対する心のダメージやストレス、身体へ
の悪 影 響や障 害の危 険 性 等があるため、アスリートに負 担をかけないが、検 査の
実 効 性は確保できるような研究開発を行うため)
④ 【課 題 4】 これまでの国際 的なドーピング防止活動は、各国の国内アンチ・ドーピ
ング機 関(National Anti-Doping Organization:以下 、「NADO」)等 に対する信 頼
を基 盤 として構 築 されたものである一 方 、ロシアに見 られるような組 織 的 なドーピン
グが行われた場合には、各国 NADO 等への信頼に基づく既存のモニタリングシステ
ムだけでは対応しきれない事態 が生じている。
(対 応) 上記のような NADO を含めた組織的 なドーピングに対抗するため、以下のよ
うな取 組が必要になっている。
ア:「独 立調査 委 員会 の設置・調査活動」
(→国 内の違反 行為を監視すべき NADO 自身が違反行 為をすると不正を調査
することが困難になる。その一方、WADA の役割は個別 の調査を行 うものではな
いことから、WADA から独立した調査委 員会を設置し調査する必要 があるため)
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イ:「独立検 査 機関の設置の検討」
(→ドー ピン グ検 査 の 実 施 主 体 である大 会 主 催 者 やドー ピン グ検 査 を 請 け 負 う
NADO が組 織 的に違 反 行為をすると防ぎようがないので、予めドーピング検査 権
限 をスポーツ団 体 や大 会 主 催 者 等 から独 立 させて検 査 を専 門 に行 う機 関 の設
置の在り方を検討する必要があるため)
ウ:「内 部通報システムと内部通報 者保護システムの開発」
(→組 織ぐるみの不正 が行 われた場 合、外 部 からでは違 反 行 為に気 づきにくいこ
とから、内部からの告発をしやすい状態にする必要があるため)
(2)IOC 及び WADA から我が国が求められていることについて
我が国 が、今後、2020 年東 京大会の準備を実施していく上において、上記(1)の
ようなドーピング防止 活 動 に関 する国 際的な課 題への対 応が求められていることに加
えて、2020 年東 京大 会の実施に向けて IOC 及び WADA から求められていることとし
て、「ドーピングに係るインテリジェンス共有体制の整備」がある。
(参 考 1)
「各 国 政 府 は、本 規 程 の定 めに従 い、アンチ・ドーピング機 関 との協 力 及 び
情 報 共 有 並 びにアンチ・ドーピング機 関 の間 のデータ共 有 のために、法 令 、規
制、政策又は行政 手続を定める」(世界 AD 規程第 22.2 条)
IOC は、2020 年東 京大会に向けて、ドーピング防止 活動においてインテリジェンス
共 有を行 うことができる体制の整備を 2020 年東京大 会組織委員 会に要請しており、
日 本政 府 及 び JSC がそのための法律や方法 を調査することを推奨している。
さらに IOC は、ドーピング防止 規則違反者を、オリンピック・パラリンピックに出場させ
ることなく、水際で摘発 する必要 性を強調している。
(参 考 2) IOC「プロジェクトレビューフォローアップレター」
「日 本 のスポーツは過 去に亘 り非 常 にクリーンである。アンチ・ドーピングの分
野では、我々は、オーストラリアや英国が導入している、世界 AD 規程 5.8 条
(アンチ・ドーピング機 関によるドーピング調査 及 びインテリジェンス収 集 )に必要
なドーピング調査 及 びインテリジェンス収集に関する法律や手続きを、JSC 及び
日 本政 府が調査することを推 奨する。」(2014 年 4 月 22 日ジョン・コーツ IOC
調 整委 員会委 員 長から 2020 年東京 大会組織委 員会に対する書簡)
本 件 について、本 タスクフォースにおいては、我 が国 が喫 緊 に行 わなければいけな
いことの1つとして認識しており、そのための措置を検討する必要があると考えている。
5.我 が国がドーピング防止 活動 において喫緊に取り組むべき事項
上 記3及び4のような我が国の現状と課題、国際的な課題及び IOC 及び WADA か
ら要 請 されていることへの対 応 を考 慮 すれば、以 下 の①~④が、我 が国 が優 先 的 か
つ喫 緊に行う必要がある対応 方策である。
これら優 先的に対処すべき事項を行うにあたっては、法的措置を要すると考えられ
るものと法 的 措置を要しないがガイドラインや予算措 置等で対応するものとがある。
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そのうち、法 的 措 置 を要 すると考 えられるもの等 については、本 タスクフォースでは後
述 の7のように考 えている。また、法 的 措 置 を要 しないものについては、財 政 的 措 置
(ドーピング防 止 活 動 に関 する補 助 金 返 還 の仕 組 みを含 む)、人 的 措 置 、制 度 的 措
置 (ガイドラインの見 直 しを含 む)及 び国 際 的 対 応 への関 与 等 を通 じて実 施 される必
要 がある。特にアンチ・ドーピングの体 制 整 備 全 体 にかかる財 政 基 盤 の強 化について
は、官 民における多様な財源 確保の在 り方に関する検討を行う必要がある。
(1)ドーピング検査の実効 性の向上
→(対 応 方 策 ) ドーピング検 査 の実 効 性 を向 上 させるとともに、ドーピング防 止 活
動 の強 化 を図 るために、ドーピング検 査 の量 の確 保 (そのための施 設 設 備 整 備
及 びドーピング検 査 人 員の確 保)、ドーピング検 査の質 の向 上 (特に競 技 会 外 検
査 =抜 き打ち検査 及 び血液 検 査の強化)、分析機 関の強化及 び関係機 関との
情 報(インテリジェンス)共有 体制の整備等の取組を行うことが必要である。
→(具 体 的な対応方 策)
1)特に 2020 年東 京大 会等に向けて行うべきこと
ア.ドーピング検 査 室 責 任 者 、シャペロン 3 リーダー、ドーピング検 査 員 、採 血 者 、
シャペロンの計画的な人材 確保
※具体的な人数・役割等は、6(2)を参照
イ.大会組織 委 員会内のコマンドセンターの体制整備
ウ.競技 会外検査 及 び血液 検査の充実
エ.分析 機関の整備(24 時間体 制・3 シフト制が実施できるような人材確 保及
び施設・設備 整備)
2)国 内 のインテリジェンス共 有 体 制 を整 備 (*インテリジェンス共 有 に係 る関 係 機
関 の役 割の明 確 化 や個 人 情 報の取 扱い)するための法 的 措 置 の検 討 、及びイン
テリジェンス共有 体制 の整備と関係省庁間の調整など実施方 法の具体化
※そのための具体的方 策については、7(3)①参照
3)JSC 及び JADA の体制 整備及び機能の一層の強化
(2)教 育活 動の充実・強化
→(対 応 方 策 ) ドーピング検 査 専 門 人 材 (ドーピング検 査 運 営 員 及 びドーピング検
査 員 )並 びにシャペロンの育成 及び確保、医 師 ・薬剤師 に対 する教 育 ・研修、アス
リート・アントラージュに対 する教 育 ・研 修 、学 校 教 育 等 における幅 広 い教 育 啓 発
活 動 、他 国 におけるドーピング防 止 活 動 に係 る教 育 活 動 等 を行 うことが必 要 であ
る。
→(具 体 的な対応方策)
1)特に 2020 年東 京大会 等に向けて行うべきこと
上 記 (1)1)ア.に示した人 材 に対 する国 際 レベルのドーピング検 査 を行 うための
教 育 ・研 修 の実 施 (*業 務 によっては多 言 語 対 応 が必 要 となるため、言 語 に関 す
る教 育・研 修も含む)
2)幅 広 い教 育 ・啓 発 活 動の展 開のための学 校 教 育 におけるベストプラクティスや教
材の共 有の促進(モデル校制 度の導入検 討等)
3)教 育活 動の推進に関する法規 定の充実 についての検討
3
シャペロン:ドーピング検 査 の補 助 者 であり、アスリートへの検 査 の通 告 から、検 査 会 場 までの案
内 ・同 行 等 を行 う。
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4)国 外 の教 育 活 動 に関 し、スポーツ・フォー・トゥモロー 4 における教 育 パッケージの
開 発 及び WADA 等と連携した世 界展開
(*我 が国 の教 材 や教 授 手 法 の開 発 等 の教 育 活 動 の推 進 は、国 際 的 にも高 く
評 価されており、我が国が 2020 年東京 大会に向けて実施しているレガシープロ
ジェクトであるスポーツ・フォー・トゥモロー事業を通じて、教材、素材、教授方法な
どを含 めて制 作 した教 育 パッケージの各 国 への導 入 支 援 を行 う予 定 。そのため
に、今 後、WADA、ユネスコ、IOC などと協力しながら、ドーピング防止教育が未だ
活 発 でない国 ・地 域 の教 育 水 準 の向 上 を図 る観 点 から、順 次 ニーズのある国 ・
地 域へ展開していくこととしている。)
5)スポーツ・ファーマシスト 5 の活用及び実践事例の他国への提供及び導入支援
(*JADA が 2009 年 1 月より開始しているスポーツ・ファーマシスト制度は、最
新 のドーピング防 止 規 則 に関 する正 確 な情 報 ・知 識 を有 し、スポーツ愛 好 家 等
に対 して、薬 の正 しい使 い方 の指 導 、薬 に関 する健 康 教 育 などの普 及 ・啓 発 を
行える薬剤 師の育成を図るものであり、既に約 6 千人のスポーツ・ファーマシスト
が存 在 する。この制度 は、世界 に先 駆けて我 が国が導 入したものである。今後と
も、スポーツ・フォー・トゥモローの一 環として、各 国の状 況 ・制 度にカスタマイズし
たスポーツ・ファーマシストの導入支 援を行っていく予定である。)
6)国 際的なドーピング防止 活動において WADA 等の国際コミュニティの中で活躍
できる人材の育成
(3)研 究活 動の充実・強化
→(対 応 方 策 ) 巧 妙 化 する検 査 のすり抜 けを防 止 するための研 究 開 発 及 びアス
リートの心身の負担 軽減のための検査方法等の研究開 発が必要 であり、WADA に
おける国 際 的 な研 究 開 発 活 動 に協 力 しつつ、我 が国 が国 際 的 に進 んでいる分 野
における研究 開発を推進する。
→(具 体 的な対応方 策)
1)WADA の特別 研究基 金への財政的/人的 支援
(*近 年の巧妙 化するドーピングに対し、WADA から各国政 府に対し、革新的な
ドーピング検 査 手 法 の研 究 開 発 のための新 研 究 基 金 の設 置 に向 けた拠 出 が要
請され、計 13 億円(相当)の基金が創設された。新研究基 金の助成プロジェクト
は、WADA 医事・健康 ・研究 委 員 会においてテーマの設定がされ、自己 血輸 血
をテーマとする研究 開発が行われることになった。)
2)WADA 及 び JADA と連携した我が国が国際的に進んでいる研究開 発の実施に
向けた措置
(*我 が国 が有 する世 界 最 先 端 の医 療 研 究 や技 術 (微 量 分 析 等 )をドーピング
分 野 に応 用 することなどにより、効 果 的 かつ効 率 的 に巧 妙 化 するドーピングを検
4
スポーツ・フォー・トゥモロー:2020 年 東 京 大 会 が開 催 される 2020 年 に向 け、世 界 のよりよい
未 来 のために、あらゆる世 代 の人 々にスポーツの価 値 とオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを
広 げていく、スポーツ団 体 、民 間 団 体 、日 本 政 府 等 がオールジャパンで推 進 しているプロジェクト
であり、2014 年 から 2020 年 までの 7 年 間 で、100 以 上 の国 ・地 域 において,1000 万 人 以 上
を対 象 とすることを目 標 としている。
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スポーツ・ファーマシスト制 度 :JADA が 2009 年 に開 始 した、最 新 のドーピング防 止 規 則 に関 す
る正 確 な情 報 ・知 識 を持 ち、アスリートを含 むスポーツ愛 好 家 等 に対 し、薬 の正 しい使 い方 の指
導 、薬 に関 する健 康 教 育 などの普 及 ・啓 発 を行 える薬 剤 師 の育 成 を図 るための認 定 プログラム
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出 でき、ドーピング検査 によるアスリートへの精 神的 身体 的ストレスを軽減 すること
ができるドーピング検 査 の開 発 を促 進 していく必 要 がある。また、我 が国で開 発 し
たドーピング検 査 手 法 を国際 的に展 開するために、WADA 等の関 係機 関に対 し
て、情 報 共有し、働きかけていく予定。)
3)研 究 開発 活動の推進に関する法規定の充実についての検討
(4)組 織的なドーピングに対する国際 的な対応への関与
→(対 応方策) 政府 や NADO が絡んだ組織的なドーピングに対しては、各国 政府及
び NADO 等に対する信頼を基盤として構築 された既存のモニタリングシステムでは
対 応 しきれないものであり、世 界 のドーピング防 止 活 動 の根 本 に関 わる問 題 である。
このような国 際 的 なドーピング防 止 活 動 の実 効 性 の確 保 に向 けた取 組 に対 し、我
が国 は 2020 年東 京 大会 等 のホスト国の立 場から、国 際 的な活動 (特 に独立 調
査 委員 会や独立 検査 機関設 置の検討活動)へ関与していくことが重要である。
→(具 体 的な対応方 策)
1)「独 立 検 査 機関の検 討 」に対 しては、WADA 等 からの要 請に応 じ、同検 討を行
う技 術的 グループに JADA から代表 者の派遣を行うとともに、政策グループに我
が国の政府から代表 者を派遣する。
(*国 際競 技 大 会 主 催 者 及 び国際 競 技 連 盟(以 下 「IF」)が有しているドーピング
検 査権 限について、独 立性 ・公 平 性等を強化するため、その検査権限 を引き継
ぐ国 際 的な独 立 検 査 機 関の設 置の必 要 性 がオリンピックサミットから提 案された。
これを踏まえ、WADA において検討した結果、「検査計 画から結果の管理を扱 う
独 立 検 査 機 関 を設 置 すべき」ということになった。我 が国 は、アジアを代 表 する
常 任理 事国並びに理事 国であること及び独立検 査機関の設置 が 2020 年東京
大 会 等 におけるアンチ・ドーピング体 制に大 きな影 響 を与えることから、その意 志
決 定に関与できるよう、我が国から関係者を派遣する。)
2)「独 立調査委 員 会への対応」に対し、WADA から、ロシア陸上界 の組織的ドーピ
ングを調査するために設置された独立調 査委員会の対象拡大 (国や競技)に向
け、「特別 調査 基 金」を設置することが提案 され、設置された。今後とも、我が国
は、WADA の情報やノウハウを収得しながら、インテリジェンス調査活 動の基盤を
強 化していく予定。
6.特に RWC2019 及び 2020 年東 京 大会 に向けたアンチ・ドーピング体制 の整備
上 記 5のとおり、我 が国 において喫 緊 に取 り組 むべきアンチ・ドーピング体 制 の整 備
事 項があるが、それらに加えて、特に RWC2019 及び 2020 年東京大 会に向けて取り
組むべきものは以下のとおりである。
(1)RWC2019 において必要な体制
RWC2019 において必 要と考えられるアンチ・ドーピング体 制については、以 下 の4
項 目が挙げられる。
①準 備 :各 会 場 におけるドーピング検 査 室 を新 設 又 は改 築 ・改 修 によって確 実 に設
置 するとともに、大 会 を統 括 するワールドラグビー(以 下 、「WR」)の検 査 実 施 計 画
(検 体 数 、分 析 メニュー、スケジュール等 )を踏 まえた上 で、検 査 関 連 備 品 、消 耗
品の確 保を大会 3 か月前までに完了すること。
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②検 体 採 取 人 材 育 成 :検 体 採 取 には、ドーピング検 査 室 責 任 者 、ドーピング検 査 員
(シャペロンリーダー及 び検 体 採 取 スタッフ)とシャペロンが必 要 。大 会 期 間 中 の競
技 会検 査 及 び競 技 会 外検 査の実施に必要 な人数 、適切なシフトを確定するととも
に必要な研修を行うこと。
③ラボ(分 析 機 関 ):開 催 前 年 度 中 に、大 会 期 間 中 に行 われる競 技 会 検 査 及 び競
技 会外 検 査の分析を行うことができる分析機 関との契約を完了すること。
④教 育:対アスリート用の教育 教材を開発し、大会期 間中に WR と連携したアウトリー
チ活 動等を展開すること。
(2)2020 年東 京大 会において必要な体制
2020 年東 京大会においては、例年実施している約 5000~6000 件のドーピング
検 査 のほかに、大 会 期 間 中 だけで同 等 またはそれ以 上 の検 査 を実 施 する必 要 があ
るため、人 的 ・物 的 拡 充 が不 可 欠 となる。大 会 に向 けて必 要 とされるアンチ・ドーピン
グ体 制については、以下の 4 項目が挙げられる。
①準 備 :各 会 場 におけるドーピング検 査 室 を新 設または改 設で確 実 に設 置するととも
に、大 会を統括 する IOC、国際パラリンピック委員会 (以下、「IPC」)の検査実 施計
画 (検 体数、分 析メニュー、スケジュール等)を踏まえた上で検査 関 連 備 品、消 耗
品の確 保を大会1年前までに完了すること。
②検 体 採 取 人 材 育 成 :検 体 採 取には、ドーピング検 査 員 (マネジメントスタッフと検 査
スタッフ)及びシャペロンが必要。大 会期 間 中の競技 会 検 査及び競技 会外 検査の
実 施 に必 要 な人数、適切 なシフトを確 定 するとともに、必 要な研修 を行うこと。なお、
最 近のオリンピック・パラリンピック競技大会 等におけるアンチ・ドーピング体制を踏ま
え、現 時点で必要とされている人 員は以下のとおり。
ア.ドーピング検査 室責任 者:150 名程度
(業 務内 容 ) 各 会 場ドーピング検査 室の責任 者であり、組織 委 員 会 コマンドセン
ターからの指示を現場 で実施。会場内における他の部署との連携・調整
イ.ドーピング検査 員(シャペロンリーダー):150 名程度
(業 務 内 容 ) 各 会 場 で活動 するシャペロンの管理 責 任 者であり、シャペロンに対
し業 務指導、業務 指示を実施
ウ.ドーピング検査 員:200 名程 度
(業 務内容) ドーピング検査 室 責任者からの指示に基づき、検体採取 業務を実
施 するとともに、シャペロンリーダーの指 示 に基 づきシャペロンへの業 務 サポートも
実施
エ.採 血者:200 名程 度
(業 務内 容) 血液 検査の際に採血業務を実施(医師もしくは看護師)
オ.シャペロン(ボランティア):400 名 程度
(業 務内 容) ドーピング検査の対象者に対して通告を行い、検査に同行
③ラボ(分 析 機 関 ):2020 年 東 京 大 会 においては、前 述 した膨 大 な検 体 の分 析 を
24 時 間以内に行わなければならない(通常は 10 日以内)ことになっており、現在
の WADA 認定ラボ(LSI メディエンス)の規模 では対応しきれないことから、サテライ
トラボを設置すること。サテライトラボの設置に必要な業務は大きく 3 つあり、ラボの
工 事 に向 けた各 種 手 続 き及 び工 事 、必 要 な人 員 の確 保 、分 析 機 器 の整 備 が挙
げられる。
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④教 育:対アスリート用 の教 育 教 材を開 発し、テストイベントが開 催される前年 度を中
心にアウトリーチ 6 活動等 を展開すること。
(3)両 大会におけるドーピング検査・分析体制の課題
RWC2019、2020 年 東 京 大 会のいずれにおいても万全のドーピング検査 ・分 析体
制 を整 備 する必 要 がある。RWC2019 については、各 会 場 における検 査 室 を新 設 ま
たは改 設で確実に設置することが重要な課題となる。また、2020 年東京 大会に向け
ては、特に以下のとおりの課題が挙げられる。
①検 体採 取人材の確保:
ア.ドーピング検査 室責任 者 及びシャペロンリーダーについて
上 記 (2)②に記 載 した必 要 な人 材 のうち、ドーピング検 査 室 責 任 者 とシャペロン
リーダーについては、特 に高 い経 験 値 と調 整 力 が求 められ、現 時 点 で対 応 可 能 と
考えられる国内のドーピング検査 員はドーピング検査室責 任者が 15~20 名程度、
シャペロンリーダーが 50 名程 度となっている。このうち業務に必要な語学力(特に
英 語)を有する人材となるとドーピング検査室責 任者が 5~10 名程度、シャペロン
リーダーが 10~15 名 程度であり、必要な人数に比して大幅に不足している。
今 後 、大 会 までに有 資 格 者 に対 する実 効 性 のある研 修 の実 施 と合 わせ、有 能
な新 規 資 格 取 得 者 を増 やす取り組みが不 可 欠 となるが、研 修 会の実 施 や資 格 取
得にかかる業務を担 う JADA の職員についても人数的に余裕 がない状況である。
加 えて、ドーピング検 査 員 の資 格 を保 有 している場 合 でも語 学 力 の向 上 は必 須 で
あり、専 門 家 の協 力 を得た研 修 や海 外 で実 施 される検 査 の経 験 などに取 り組 まな
ければならない。これら検 査 員 の資 質 向 上 に必 要 な研 修 にかかる費 用 については、
現 在 も国として予 算 を確 保 しているところであるが、対 象となる人 数 が膨 大になるこ
とから、予 算の拡充が求められる。
イ.採 血 者について
現 在、血液 検査は年間 約 300 件実施されているが、過去のオリパラ大会 の実
績を考 慮すると、2020 年東 京大 会時は約 1300 件を行わなければならない。(2)
②に記載した人数に対し、現時 点で確保できている採血者は約 10 名であり、医師
もしくは看 護 師 で必 要 人 数 を確 保 するためには、府 省 庁を含 めた関 係 機 関 に対す
る協 力依 頼など早急な対策が必要である。
②組 織委 員会内コマンドセンターの体制整 備
大 会 時 に は、組 織 委 員 会 内 に 司 令 塔 と な るコマン ドセン ターを 設 置 す ること に
なっているが、高い専門 性と調整 力が求 められる上、JADA から派遣できる人員に
は限りがあることから、2020 年東 京大会組織委員 会が、2020 年東京 大会のオー
ガナイザーとして主体 的に人材 確保に取り組まなければならない。
③人 材確 保を含めたラボの整備
ラボの整 備 のうち、最 大 の課 題 となっているのが人 材 の確 保 である。現 在 のラボ
は 15 人 体制で年間 7000 検体の分析を行 っているが、大会 期間中は(2)③に記
載した事 情から、約 200 名が 8 時 間ごとのシフトを組んで 3 交代制 で分析にあたる
必 要 がある。このため、必 要 人 員を確 保(雇 用)するとともに、能 力 面 ・費 用 面 等 に
ついて更なる検討が求められる。ラボの工事に係る業務については、WADA の認定
6
アウトリーチ活 動 :競 技 会 等 においてブースなどを設 置 し、競 技 会 への参 加 者 に対 し、アンチ・
ドーピングに関 する教 育 ・啓 発 活 動 を行 うこと
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を受けなければならないことから開催 2 年前には工事 完了となるよう計画的に手続
きを進める必 要 がある。分 析 機 器 の整 備に係 る業 務 については、最 新 のドーピング
に対応するため最新の機器を導入する必要 があり、大会直 前まで WADA の要請に
応じて機器を購入することも想定しなければならず、財源 や購入時期 について綿密
な計 画を立案する必要がある。
④教 育・啓 発活 動の展開
両 大 会 においてドーピング防 止 規 則 違 反 者 を出 さないためにも、教 育 ・啓 発 活
動 は重 要 であり、効 果 的 な教 育 教 材 の開 発 を計 画 的 に進 め、アウトリーチ活 動 を
含 めアスリートへの周 知 が徹 底 される取 組 を幅 広 く展 開 する必 要 がある。ユネスコ
国 際 規 約 において、ドーピング防 止 教 育 は国 の責 務 となっていることから、両 大 会
に参 加 するアスリートに対 する教 育 ・啓 発 活 動 について、国において予 算 的 措 置を
行う必 要がある。
7.法 的措 置に係る検 討 事項
上 記5及び6のような我が国 が喫 緊に取り組むべき事項及び 2020 年東京大 会等
に向 けて特に取り組むべき事項がある中で、2020 年東京 大 会 等がドーピングのない
クリーンな大 会 となるよう、アンチ・ドーピング体 制 の万 全 の準 備 を行 うに当 たっては、
法 的 措 置 が必 要 なものとそれ以 外 の方 法 で対 応できるものとがある。そのうち特に前
者に関 しては、以下の事項 について、今後 さらに具体的 な法的措 置の方法等を検討
することが必要であるとの結論に達した。その際には、本報告書に基づき、幅広く政官
民の関 係者 の意 見を聴取 するとともに関係 省庁と協 議を行いながら、具 体的 な内 容
の検 討を行 う予定である。
(1)法 的措 置検討にあたっての基本的考え方等
法 的 措 置 を行 う場 合 の基 本 的 理 念 及 び目 的 としては、国 民 の健 康 増 進 や社 会 ・
経 済 発 展 等 に寄 与 しうるスポーツの価 値 を守 るために、ドーピング防 止 活 動 を通 じて
スポーツのインテグリティ等 を保 護 するとともに、決 められたルールの下 で公 正 ・公 平
に競技 力 向 上に努めるアスリートを守るためのものとなる必要がある。
また、特に、RWC2019 及び 2020 年東京 大会等の大規模 国際競技大 会がドーピ
ングのないクリーンな大 会 となるよう、ドーピング防 止 活 動 において万 全 の準 備 を図 る
ために、法 的 措置 を含 めてドーピング検査 活 動のソフト面・ハード面 の体制強化 を行う
ことを目 的とすることとなる。
留 意 点 としては、法 的 措 置 によってドーピング防 止 活 動 の強 化 を図 る際 には、その
ことがスポーツを行 う者に対する行き過ぎた締め付けの強化になってはならず、①アス
リート・ファーストであり、その基 本 的 人 権 の制 限 には抑 制 的 であること、②スポーツの
振 興 の目 的に沿 ったものに限 定 するものであること、③スポーツの自 発 性 及 びスポー
ツ団 体の自律 性等を尊重することなどに留意する必要がある。
また、ドーピング防 止 活 動に係 る法 的 措 置 を行 う際には、オリンピック憲 章において
スポーツを行 う上 でのいかなる差 別 も認 めていないこと、並 びにスポーツ基 本 法 にお
いて「スポーツは世界 共通 の人類 の文化であること」及び「スポーツを通じて幸福で豊
かな生 活 を営むことは全ての人々の権 利であること」等と規 定 されていることにも留 意
する必 要がある。
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(2)アンチ・ドーピングに係る現行の法 的枠組 み
①我が国 及び諸外 国の法律 等の状況
我 が国においては、スポーツ基本 法において、公正なスポーツの観点から、ドーピン
グ防 止 活 動 の重 要 性 に対する国 民 の認 識 の深 化 及 び国 のドーピング防 止 活 動 にお
ける役 割 (*ドーピングの検 査 、ドーピングの防 止 に関 する教 育 及 び啓 発 、その他 の
ドーピングの防 止 活 動 の実 施 に係 る体 制 の整 備 及 び国 際 的 なドーピングの防 止 に関
する機 関等への支援)が規定されている。
(参 考1) スポーツ基本 法
第 二 条 (基 本 理 念 )八 スポーツは、スポーツを行 う者 に対 し、不 当 に差 別 的
取扱いをせず、また、スポーツに関するあらゆる活動を公正かつ適切に実施
することを旨 として、ドーピングの防 止 の重 要 性 に対 する国 民 の認 識 を深 め
るなど、スポーツに対 する国 民 の幅 広 い理 解 及 び支 援 が得 られるよう推 進
されなければならない。
第 二 十 九 条 (ドーピング防 止 活 動 の推 進 ) 国 は、スポーツにおけるドーピング
の防 止 に関 する国 際 規 約 に従 ってドーピングの防 止 活 動 を実 施 するため公
益財 団 法人 日 本アンチ・ドーピング機構 (平 成十三 年九 月十 六 日 に財団法
人日 本アンチ・ドーピング機 構という名称で設立された法人をいう。)と連携を
図 りつつ、ドーピングの検 査、ドーピングの防 止に関する教育 及 び啓 発その他
のドーピングの防止 活 動の実施 に係る体制 の整備 、国際 的なドーピングの防
止に関する機関 等への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
また、ユネスコの「スポーツにおけるドーピング防 止に関する国 際 規 約 」の国 内 適用
を図るため、文部 科学 省 において「スポーツにおけるドーピング防止 に関するガイドライ
ン」(大臣 決 定)を策定 し、我が国における国内ドーピング防止機 関として JADA を指
定するとともに、国内におけるドーピング防止活 動の推進体制 等を規定している。
さらに、独 立 行 政 法 人 日 本 スポーツ振 興 セ ンター法 において、スポーツにおける
ドーピングの防止 活 動 の推進 に関する業務 及びスポーツに関する活動 が公正 かつ適
切に実 施されるようにするため必要な業務を JSC の業務としている。
(参 考2) 独立 行政法 人 日本スポーツ振興センター法
第 十 五 条 (業 務 の範 囲)六 スポーツを行 う者の権 利 利 益 の保 護 、心 身の健
康 の保 持 増 進 及 び安 全 の確 保 に関 する業 務 、スポーツにおけるドーピング
の防 止 活 動 の推 進 に関 する業 務 その他 のスポーツに関 する活 動 が公 正 か
つ適切に実施されるようにするため必要な業務を行 うこと。
なお、JADA については、公 益 財 団 法 人であるため特 段の法 的 規 定 はないが、上
記のガイドラインにおいて、国内 ドーピング防止機関に指定されている。
JADA においては、世界 AD 規程を日本国内に適用させるため、世界 AD 規程及
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び 国 際 基 準 に 完 全 に 適 合 さ せ る 形 で 日 本 ア ン チ ・ ド ー ピ ン グ 規 程 ( Japan
Anti-Doping Code:以下、「日本 AD 規程」)を策定している。我が国は、世界 AD 規
程の国 内適 用に関し、日本 AD 規程において「国内競技 団体は、日本 AD 規程を受
諾し、自 己の規約 等の中に日本 AD 規程の内容を直接又は引用することにより組み
込むこと(同規 程 1.2)」とあることによって、各 NF に所属するアスリート等は所属団 体
の規 約を遵守することを通じて日本 AD 規程 (ひいては世界 AD 規程)を遵守する仕
組みとなっている。このため、世界 AD 規程の改訂等が生じたとしても日本 AD 規程の
改 訂によって国内 適用の変更を行うことが可能であるという柔軟性 をもっている。
②オーストラリア及び英国のアンチ・ドーピングに関する法律
上 記4(2)のとおり、IOC からは、ジョン・コーツ IOC 調整委員会委員 長から 2020
年 東京 大 会 組 織 委員 会に対する書簡の中で、「オーストラリアや英国が導入している、
世 界 AD 規程 5.8 条(アンチ・ドーピング機関 によるドーピング調査及 びインテリジェンス
収 集 )に必 要 なドーピング調 査 及 びインテリジェンス収 集 に関 する法 律 や手 続 きを、
JSC 及 び日本政府 が調査することを推奨する」旨の要請が来ている。
オーストラリアと英国の法律 又は政策等の概要は以下のとおりであり、必ずしも法的
措 置で対 応されているわけではなく、英国のように「政策」として実施 している場合 もあ
る。両 国 以外の国々においても各国の事情に応じて多様な取組が見られる。
英国
◆法 律
アンチ・ドーピング特 有 の法 律としては、英 国 アンチ・ドーピング機 構 (UKAD)
の設 置及び政策 目的を規定する法律「UK National Anti-Doping Policy」があ
るが、アンチ・ドーピング活動そのものについての法律は存在しない。英国では、
国 会承認を経た「政策 」という形でドーピング防止活動を実施している。
また、インテリジェンス活 動 については、警 察 当 局による情 報 開 示 条 件を規
定している「Serious Organized Crime and Police Act 2005」に開示先として
2010 年に UKAD を追加した。なおドーピングは刑罰化されていない。
◆運 用
UKAD のインテリジェンス部 門長に警察 OB を採用し、さらに 2014 年 10
月に警察 当局と UKAD が覚書を更新し、警察当局との連携を強化した。他、
税 関、医薬 品庁とも了解 事項覚書を締結。
(参考)
・UKAD(UK Anti-Doping)は公的機 関
・英国では、1996 年ステロイド剤など運動能 力向上を目的とした物質が、
薬物 不正使 用 禁止法の規制対 象に指定され、製造・供給、所持、供
給を目的とした所持に対し刑事罰 が課される(但し摘発は少ない)。
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オーストラリア
◆法 律
連 邦制 定法「Australian Sports Anti-Doping Authority Act2006」に
より、行政機関の一つとして、オーストラリアアンチ・ドーピング機構(以下、
「ASADA」)が設立され、同法律により、ASADA の CEO が税関からの情報
を入手 可能である旨規 定されている。
なお、ドーピングは刑罰 化されていないが、アスリートが CEO からのヒアリ
ングのための召還 指示に従わない場合は、行政罰(過料)が課される。
◆運 用
ASADA の CEO は、スポーツ担当大臣から任命され、現 CEO は警察官
僚であり、警察 当局との連携、及び、捜査ノウハウの継承がなされている。
(3)法 的措 置の検討が必要と思われるもの
以 上 、(1)及 び(2)を踏 まえた上 で、今 後 の具 体 的 な法 的 措 置 の検 討 が必 要 と
思われるものは以下のとおり。
①「関 係機関との情報 (インテリジェンス)共有体制の整備」に関する規定
ドーピング防 止 活 動 における関 係 機 関 とのインテリジェンス共 有 の仕 組 みを設 ける
ことは、IOC からの推奨もあり、RWC2019 及び 2020 年東京 大会等 のホスト国として、
我が国において取り組 むことが求められている事項である。
この点 に関 し、先 進 事 例として英 国 やオーストラリアの例 があり、いずれも警 察 や税
関 等 との連 携に基 づいたインテリジェンス共 有 体 制 が構 築され、検 体 分 析 によらない
ドーピング防 止 規 則 違 反 の捕 捉 事 例 を積 み上 げている。今 後 、これらの先 進 事 例 を
参 考 にしながら、RWC2019、2020 年 東 京 大 会を控える我が国においても、関 係 省
庁との連 携 強 化、国 内 関 係 機 関 間の連 携 強 化 、さらに国 際 機 関 との連 携 強 化 に基
づく、検 体分析によらないドーピング防 止体制の構築について検討する必要がある。
我 が国においては、現行 法においても「行政 機 関の保有する個人情報 の保護に関
する法 律 」及 び「独 立 行 政 法 人 等 の保 有 する個 人 情 報 の保 護 に関 する法 律 」を活
用することによって、アスリート等の個人 情 報 について行政機 関から JSC を経由して
JADA 等 関 係 機 関 へ情 報 提 供 を行 うことが可 能 である。しかし、行 政 機 関 から独 立
行 政法 人である JSC への情報 提供は、「法令に基 づく場合」、「本人同 意」、当該個
人 情 報 を保 有 する行 政 機 関 の長 が「相 当 な理 由 」があると判 断 した場 合 に限 られる。
また、独 立行政 法 人である JSC から公益財団 法人である JADA への情報提供は、
利 用 目 的 の範 囲 内 での提 供 、「法 令 に基 づく場 合 」、「本 人 同 意 」、及 び「特 別 の理
由」のある場 合に限られる。そのため、2020 年 東 京 大 会 等 のような限られた期 間に
多 量 のドーピングに関 する情 報 を処 理しなければならない状 況 下 で、個 別に「本 人 同
意」や行 政 機関 の長の判断 を求めることではドーピング防止 活 動に支 障が生じる恐れ
がある。
このため、確 実 に情 報 提 供 を受 けることができるような仕 組 み作 りが必 要 であり、
そのための特 別な法的 措置の検討が必要になると考えられる。
また、JADA 等 がアスリート等のドーピングに係る個人情報を取り扱 う場合、個人情
報 保護 法 において、利用 目的 による制限及び第三者提 供の制限等 の諸義務が課さ
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れている。同法に則 り、利用 目的の特 定及 び本人への通知 又 は公 表 を行 うとともに、
個 人 データの第 三 者 への提 供 を認 める旨 の本 人 の同 意 をあらかじめ取 得 することで、
大 半 のアスリート等 に係る個 人 情 報 を国 際 関 係機 関に提 供 することが可能であり、ま
た、それ以 外 の場 合 であっても、限 られた場 合においては当 該 制 限 の例 外 措 置 を取
ることも可 能ではあるが、2020 年東 京大会 等のように限られた期間に多量のドーピン
グ情 報を処理しなければならない状 況で、ドーピング防止活動に支障 が生じないよう、
ドーピングに関する個人 情報の関係 機関間 での連携を円滑かつ確実に実施するため
には、特 別な法的措置 の検討も必要になると考えられる。
あわせて、ドーピング禁止 物質の管理強化について、現行制 度の枠内で達成しよう
とすると、「合法 」であるドーピング禁止 物質の取り扱 いに課題が残 り、しかも、それらが
一 般 人 であれば治療 目的 ・健 康 増進 目 的で使用されうるものであること及び「トップア
スリート又 はアントラージュ(以下 、「トップアスリート等 」)の特定 化」が法実務 的 に困難
であることに鑑みれば、現行 制度の枠 内では非常に困難であると考えている。
特 に、各 関 係 機 関 においてアンチ・ドーピングに係る情報を収 集するにあたり、警察
においては、基 本 的 に違 法 行 為 に係 る情 報 のみを保 有 しており、現 行 の法 令 上 の規
定 で「合 法 」であるドーピングに関 して必 ずしも情 報 を持 っているわけではないことに留
意する必 要 がある。仮 に、ドーピング検査以外 の方法によってドーピング禁止行 為をモ
ニタリングするために関 係 機関の協力を仰ごうとするのであれば、ドーピング行為 を「違
法 行 為 」とする必 要 がある。その際 、ドーピング行 為 を「違 法 行 為 」とする場 合 の保 護
法 益 と 対 象 者 を明 確 にすることは不 可 欠 である。特 に、対 象 者 に ついては、現 在 、
ドーピング禁 止 物 質 の多 くが「合 法 」であり、トップアスリート以 外 の人 々にとっては、健
康 増 進 目 的 や治 療 目 的で使 用 されているものもあるため、一 般 の人々まで含めた形
で「違 法 」とすることは適 切 ではないことから、ドーピング行 為 のみを「違 法 」とするため
には、「トップアスリート等 」に対 象 を限 定 する必 要 がある。しかし、「トップアスリート等 」
については、身 分 が常 に変 動 しうるため特 定 化 が困 難 であるとともに、治 療 目 的 等 と
区 別することなどを考慮し、違法となるドーピング行為の特定化も必要であることから、
対 象者・対象行為 等 の特定 化についてさらなる検討が必要である。
ひるがえって、今回の制度 設計を行う目的 が、RWC2019・2020 年東京 大会等に
向 けてドーピングのないクリーンな大 会 にするためのものであることに鑑 みれば、「時 限
措 置」として両 大 会に限定 して、これらの大 会に参加する選 手 及 びコーチ等に対象を
限 定することができ、それであれば、目的 に照らして論理的な方策になると考えている。
また、保 護 法益についても「両大 会をドーピングのないクリーンな大会にして成功に導く
ため」及 び「両 大 会 に参 加 するクリーンなアスリートを保 護 するため」ということで設 定し
うる。さらに、その方法 であれば、取 締りを行 う対 象・取締 りの場 所及 び機 会の特 定 化
がある程 度 可 能 となるため、スポーツ界 や執 行 機 関 等 の関 係 者 からの理 解 ・協 力 も
得やすいと考えられる。
②「組 織の業務及び役割 分担」に関する規定
ドーピング防 止 活 動 については、ア:今 後 、関 係 機 関 とのインテリジェンス共 有 の仕
組 みを設 ける必 要 があること、イ:その際 に関 係 機 関 間 の役 割 分 担 と責 務 を明 確 化
する必 要 があること、ウ:各 関 係 機 関 の個 人 情 報 の取 扱 いの仕 組 み等について明 確
化が必 要 であることなどから、法 令 改 正も含 め講ずべき措 置 を検 討することが必要で
ある。
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このため、本 タスクフォースにおいて、ドーピング防 止 活 動 の法 的 位 置 付 け及 び国
内のドーピング防止 活動の中心 的役割を果たす JSC 及び JADA の業務の在り方等に
ついて検 討 した。その際 、本 タスクフォースにおいては、改 めて、ドーピング防 止 活 動
全 体の在 り方 について検討 を行い、ドーピング防止 活 動は、全ての競技において実 施
することが望 ましいが、その具 体 的 な防 止 活 動 の在 り方 については、スポーツの多 様
性に鑑 み、各 競 技 やスポーツ団 体 が抱えるその特殊 性 や背 景(プロ・アマの違い等 も
含む)等を考慮する必要があり、一律の義務化は難しいとの結論に至った。
同 時 に、JADA 非加 盟 のスポーツ団 体についてもドーピング防 止 活 動 の水 準 向 上
を求めていくことが必要 であると考えた。この点 に関連して、JADA が、国内 唯 一の指
定 ドーピング防 止 機 関 である一 方 で、公 益 財 団 法 人 として民 間 機 関 であることから、
各スポーツ団体は各自の判断で JADA に加盟しており、JADA 非加盟のスポーツ団
体 のドーピング防 止 活 動 に対 してアプローチしきれないことが課 題 であるため、その課
題 解消のための仕組 みをいかに構築するかの検討を行った。
その結 果 、本タスクフォースとしては、JADA の法 的位 置 付けは変 更 しないこと(*
JADA の法的 位置付 けの変更の可 能性も検討したが、JADA が行うドーピング検査を
公 的 活 動 とするメリットは見 当 たらない一 方 、民 間 機 関としての自 律 的かつ柔 軟 な取
組 や活 動 が可 能 であり続 けることのメリットを考 慮 して法 的 位 置 付 けの変 更 は不 要 と
考えた)とするが、JADA と JSC が連 携して JADA 加盟団体及 び JADA 非加盟 団体
を含めて総括 的にドーピング防止 活動を推進することとする(JADA は引き続き現状ど
おりの加 盟 団体のドーピング防止 活動を行う一方で JADA 非加盟 団体のドーピング防
止 活動は JSC と JADA が連携して推進するイメージ)ことで、国内 の全体的なドーピン
グ防 止 活 動 を 推 進 す るこ とと す るこ と が適 当 であ ると 考 え た 。これ によ り、国 内 の ス
ポーツ団 体 に対 して、JADA 加 盟・非 加 盟の区 別なく、ドーピング防 止 活 動の促 進 を
図ることを期待している。
また、ロシアにおける組 織 的 ドーピングのような事 態 が起こらないようにするためには、
JADA の自律 性を認めつつ、チェック機能を働かせることが必要であり、そのためには、
自 律的なアンチ・ドーピング機関である JADA と JSC とを分け、独立行 政法人である
JSC に主 としてインテリジェンス活 動 を担 わせる仕 組 みが考 えられる。また、これまで
以 上に JSC のインテリジェンス活動における役割を期待したのは、
・JSC にはインテグリティ・ユニットが存在してアンチ・ドーピングを含む情報 収集活動
を行っていること
・JSC が所管する第三 者相談・調査制 度相談窓口の運営に係る知見の活用が図
られること
・ハイパフォーマンスセンターが有 する競 技 者 ・コーチ等 のネットワークを通 じて得 る
ことが期 待できるインテリジェンス情報との照合 ができること
・スポーツ団体 等によるドーピング防止規 程 等 の遵守を要件とするスポーツ振興 助
成 制度と一体 的なアンチ・ドーピング活動の推進が期待できること
等が挙げられる。
以 上 の 論 点 及 び最 近 のインテ グリティ 全 体 に 対 する対 応 強 化 の 要 請 も 踏 まえ 、
ドーピングに係るインテリジェンスの収 集・分析 機 能(インテリジェンス共 有体 制 の中 枢
を担 う調 整 機 能 )、ドーピング防 止 に係 る相 談 窓 口 や内 部 通 報 窓 口 設 置 等 の情 報
集 約機 能の充実が必要であり、JSCの取り組みの充実が期待される。
また、スポーツ庁、JSC 及び JADA の役割分担と連携を明確化し、法的措置 以外
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のドーピング防止 活 動 強化 策の導入を検討 するため、現行 ガイドラインの改訂 の検 討
が必 要との結論に達した。
さらに、アスリートやアントラージュによるドーピング防止規則 違反 を防 ぐためには、継
続 的 にドーピング防 止 活 動全 体 に対するモニタリングができる体 制を整 備する必 要 が
ある。その点について、JADA 加盟 団体については、基本的に世界 AD 規程・日本 AD
規 程に基 づくドーピング防止 活動を行うため、調査や報告等によるモニタリングの仕組
みを整 備していくことは可能といえる。今後は、JADA 非加盟の団体についても JSC 及
び JADA との連携の下、教育・啓発活 動や検査等に対する支援を提供することで当
該 団体 のドーピング防 止 対策に関する定期的な報告を受けるなどのモニタリング活動
が実 施できるか検討する必要がある。
なお、サプリメントに関し、JADA はサプリメント認証制 度を実施しているが、民間機
関としての仕組 みであることから、本報告書 の対象外 である。但し、サプリメントに関し
ては、無 数に存在 するサプリメントの完全 な安 全性 を確保 することが非常に困難であ
り、WADA もサプリメントの摂取 自体を推奨していないことから、その取り扱いには十分
に注意する必要 がある。
このため、今 後 、サプリメントの安 全 管 理 及 び認 証 の在 り方 については、JADA が
行 っているプログラムの活 用 及 び見 直 し(*実 施 の是 非 ・検 査 費 用 ・実 施 方 法 ・検
査 方 法等)等を含め、さらに検討を進める必要がある。
③その他
ドーピング防 止 に関 する教 育 ・研 修 推 進 体 制 、巧 妙 化 するドーピングを見 分 ける検
査 方 法 の開 発 やドーピング検 査 によるアスリートへの心 身 への負 担 の軽 減を図るため
の研 究 開発の推進 、RWC2019 及び 2020 年東京 大会等の大規模 国際競技大 会
のホスト国として万全の準備を行 うための国際的なドーピング防止活 動の体制整備 な
どに関しても、規定の充実 化を図るなど、法的措置の検討を進める必要がある。
(4)さらなる協議 及び検討が必要と思われるもの
①「ドーピングに対する刑罰 化」に関する規定
国 際 的 には、組 織 的 なドーピングをはじめとして、ドーピングがスポーツの価 値を脅
かす深 刻な問 題 となっている。このように、国 際 的 なドーピング事 例 に見 られるような
ことを 2020 年東 京 大会 等 において生じさせてはならず、それを事前に防止 する方
法が必 要であることは論を待たない。
そのような防 止 方 法について、「抑 止 力 」としてドーピングに対する刑 罰 化 を行うか
又 はそれ以 外 の方 法 で担 保 すべきなのかについては、法 実 務 的 な整 理 を踏 まえた
上 で検 討 する必 要 がある。この点に関し、タスクフォースとしては、以 下のような法 実
務 的な観 点に照らして、ドーピングに係る刑罰化については、国際的 なスポーツ制裁
も存 在 している中 で課 題 が多 く、実 効 性 に関 する課 題 もあり、法 的 に難 しい論 点 が
多 々あると考えている。また、アスリートに対する負担への配慮も必要であるとの指摘
もある。
他 方、我が国は RWC2019、2020 年東京大会を控え、世界各 国から多くのアス
リートの来 日 が見 込 まれることから、「(なんらかの)抑 止 力 が必 要 」という意 見 もある
ことにも留 意している。
以 上 を踏 まえ、刑 罰 化 が、憲 法 が保 障 する国 民 の権 利 への制 限 に関 わるもので
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あることに鑑み、「罪刑 法定主 義」に基づき、国民の代表によって政策的見 地から判
断される必要 があると考えている。
【ワーキンググループにおける法実務的な整理】
1) 「立 法事 実 」:刑罰 化を行うに当たっては、立 法事 実 の存在 が不可欠 であるが、
現 状では、我 が国は、国際 的にもドーピング防止規 則違反 確定 率 が低いとともに、
その違 反 の全 てがアスリートに関 するもの(*コーチ・支 援 者 等 に関 する違 反 行
為 はゼロ)であり、かつスポーツ制 裁の対 象であるため、スポーツ制 裁とは別に刑
罰 化を設ける必要 性に乏しい状 態にある。
2) 「刑 罰 の補 充 性 」:ドーピング防 止 規 則 違 反 が確 定 した際 のスポーツ制 裁 は、
国 際 的 に統 一 されたルールであるとともに、既 に実 質 的 に選 手 生 命 を断 つに等
しい厳 罰 である。この点に関 し、「刑 罰の補 充 性 」の観 点に立てば、厳 しいスポー
ツ制 裁 が存 在 する上でさらにスポーツ制 裁 の対 象となるアスリートや支 援 者 等 に
関 して刑 罰 化 を設 けることは課 題 があると考 えている。この点 に関 しては、むしろ、
重 いスポーツ制裁 を承 知 の上でドーピングを犯す者の理 由 を考えれば、それは、
ドーピングを行う者達 が、ドーピング検査の緩さがあったり、ドーピング検査をすり抜
けられると考える「根拠 」を持 っていたりするためであり、ドーピング検 査の質・量の
向 上を図り、ドーピング検査 の実 効性 を向 上 させることこそが重要 であり、ドーピン
グ検 査 が「すり抜けられる状 態 」であれば、刑 罰 化の仕 組 みを設 けてもドーピング
は減 少 しないと考えている。さらに、この点については、選 手 生 命 を絶 つほどに厳
しいスポーツ制 裁 がある中 ドーピングを行 う者 に対して、スポーツ制 裁 よりも軽 度
の刑 罰 を科しても「抑 止 効 果 」は期 待 できない。その一 方 、他 の刑 罰と比 較 する
と、ドーピングのみ厳しい罰 とすることは、他の違 法 行 為との比較で均 衡を失 いか
ねない。ドーピングを行 う者 への「抑 止 力 」という観 点 では、上 記 のようなドーピン
グ検 査 の実 効 性 を高 め、それを国 際 的 に知 らしめることこそ必 要 であると考 えて
いる。
3) 「刑 罰化の対象」:ドーピングに用いられる物質には疾病治療に有用なものがあ
り、刑 罰 化 の対 象 を明 確 に限 定 できなければ、「刑 罰 法 規 の適 正 (*無 害 な行
為を処 罰し、又は著しく広範な処罰を求める罰則の禁止)」の観点 から問題が大
きい。したがって、主体 をトップアスリートやその支援 者に限定する必 要があるが、
そのような者 については、医 師 や弁 護 士 等 のような登 録 制 度 等 があるわけでは
なく、また、トップアスリート等 である者 が事 情 の変 化 (参 加 する競 技 大 会 及 びそ
の成 績 等 )でトップアスリート等 でなくなることもあり得 るため、身 分 の明 確 化 が困
難であり、「刑罰 法規の適正(=明確性の原則)」から問題がある。
この点については、今回の目 的からすれば、RWC2019 や 2020 年東京 大会
等において世界 各国から多くのアスリートが来日することへの対応である。このこと
を考慮すれば、2020 年東 京大会等の特定場 面に限定して当該大 会に参加す
る選 手 及 び登 録 してある支 援 者 を対 象 とすれば、刑 罰 化 の対 象 を限 定 すること
が可 能 になる。その一 方 、そのような時 限 的 な形 で対 象 を特 定 化 して刑 罰 の仕
組 みを設 けることは不 適 切 であるとともに、スポーツを行 う者 に対 する差 別 的 取
扱いを禁止しているスポーツ基 本法 2 条 8 項の精神に反しかねず、スポーツ振
興にとって逆ベクトルとなりかねないという懸念が生じる。
4) 「刑 罰の実効 性」: 仮にドーピングに関する刑罰化の仕組みを設けるにしても、
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我 が国国 内のドーピング事 案 は全てスポーツ制 裁で罰することができる状態であ
る。一 方 、国 際 的 なドーピングの現 状 を見 れば、刑 罰 化 を通 じて「抑 止 力 」を効
かせたいケースが存在 するが、このようなドーピング防止規則 違反者が外国人選
手 ・コーチ等である場 合、彼らが国外に出国 してしまうと、取締り等の実効性が担
保 できず、また、ドーピングは、テロ等 とは異なり犯罪引 き渡しを要請 するような重
篤 な反 社 会 的 行 為とも言 えないことなどから、たとえ刑 罰 化の仕 組 みを設けたと
しても実 効性のある形 で「抑止力」としての効果を見込むことは期待 できない。
(5)法 的措 置を要しないと思われるもの
①「ドーピング防止 活動 の位置 付け」に関する規定
我が国のドーピング防止 活動の仕組みは、各 NF に対して JOC 及 び JPC の加盟条
件に JADA 加盟が義務づけられており、各 NF の規程において日本 AD 規程を引用す
ることが決められていて、そのことを通じて世界 AD 規程の内容が日本 AD 規程を経
由して各 NF 規程に反映され、所属するアスリート及びアントラージュ等に適用されると
いう柔 軟な仕組みとなっている。
このようなドーピング防止 活動は、民間機関である JADA を中心とした関係団体の
合 意 ベースの取 組であって、JADA 加盟か否 かの別、競 技 種 目の別 などによって取
扱いが異なっている。
(注)プロを含めてアンチ・ドーピング体制及び対応方 法は様々(ア:世界 AD 規程の
適 用 (例 :オリンピック及 びパラリンピック競 技 )、イ:各 競 技 独 自 の国 際 ルールの適
用(例:ゴルフ)、ウ:労使 間交 渉の必要性(例:プロスポーツ)等)である。
このようなドーピング防 止 活 動 の在 り方 について、義 務 化 すべきか否 かに関 し、ス
ポーツ界の共 通 理 念 である、「アスリート・ファースト」、「スポーツ団体 の自治・自律 性 」
及び「スポーツの多様 性」等を考慮しながら検討を行った。
その結 果 、本タスクフォースにおいては、ドーピング防 止 活 動 はスポーツ・インテグリ
ティの保 護のために必要なことであり、その推進は全てのスポーツにおいて実施すべき
ものであり、その推 進 方 策 等 については、主 として公 的 機 関 が担 うことが望 ましいと考
える一 方 で、その具 体 的 な防 止 活 動 の在 り方 については、スポーツの多 様 性 に鑑 み、
各 競 技 の特 殊 性 や背 景 等 を考 慮 する必 要 があり、一 律 的 なルールの適 用 を求 める
ことは必 ずしも競 技 の発 展 に寄 与 するとは限 らないことから、各 大 会 の参 加 に求 めら
れるドーピング防止 水 準(世界 AD 規程 等)も踏まえつつ、スポーツ団体の自律性に
基 づい て、当 該 競 技 の 特 殊 性 等 に 合 致 し た形 で 実 施 す べきもの であるとの 結 論 に
至った。なお、以上のことは、RWC2019 や 2020 年東京 大会等をはじめ今後 日本で
開 催が予 定 されている大規 模国 際 競技 大会 に出場する競技 に関しては、JOC 及び
JPC の加盟 NF であり、JADA に加盟しているため、世界 AD 規程を準用する日本 AD
規 程 の統 一 適 用 を受 けていることから、法 的 措 置 を取 らずとも特 段 の問 題 は生 じな
い。
②「ドーピング防止 活動 の行動 計画」に関する規定
オリンピック憲章においても「スポーツ団体は自律の権利と義務を持つ」とされており、
各 スポーツ団 体 の個 別 のドーピング防 止 活 動 の実 施 は、それぞれ固 有 の背 景 や事
情 に基 づいて自 律 的 に判 断 すべき事 項 であり、法 令 上 の規 定 を設 けて統 一 的 に実
施する必 要 が乏しい上、統一 的に行動計画を規定した場合に、逆に各スポーツ団体
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が抱える個別の事情や背景 等への対応が困難となる恐れがあると思われる。
③「民 間のドーピング防止 機関への現 役国家公務 員の派遣」に関する規定
現 状 において、JADA に対 して現 役 の国 家 公 務 員 を派 遣 しなくともドーピング防 止
活 動 の実 施 には支 障 が生 じておらず、今 後 も退 職 者 や転 職 者 等 の活 用 によって対
応 することが十 分 に可 能 であり、必 ずしも現 役 の職 員 派 遣 が不 可 欠 な状 態 ではない
ことから、法令 上の規定を設ける必要性に乏しいと思われる。
④「ドーピング防止 規則 違反に関する規律パネル」に関する規定
規 律 パネルについては、制 裁 措 置 の在 り方 と表 裏 一 体 である。ただし、仮に、制 裁
措 置について刑罰の仕組みを設けずにスポーツ制裁のままとするのであれば、規律パ
ネルも現 行 と同 様 に民 の仕 組 みとして実 施 すればよいこととなり、仮 に、制 裁 措 置 に
ついて刑 罰の仕 組 みを設けることとした場合 、刑 事 手続きは既 存の刑 事 訴訟 法の法
的 枠 組 みに従 って実 施 される。刑 罰 化 される場 合 、規 律 パネルについて、既 存 の刑
事 訴訟 法 に基づく手続 きの他に新 たに特別な手続き規定を設ける必 要性は乏 しいと
思われる。
(6)法 改正項目の施行 時期
施 行時 期は、RWC2019 に間に合わせることを考えれば、遅くとも 2019 年 4 月 1
日 施行を目 指す必要 がある。
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