〈レポート〉農漁協・森組 JAと生協の連携を通じた地域農業振興 ─ JAしまね・島根おおち地区本部によるハーブ米の取組み ─ 研究員 山田祐樹久 高齢化や人口減少に直面するなか、JAしま その栽培過程は厳格に管理されている。生 ね・島根おおち地区本部(以下「島根おおち地区 産者はエコファーマーの認定を受けるととも 本部」 ) は生協ひろしまとの協同組合間連携を通 に、JAとの協定と契約を毎年結んでいる。ま じ、 「ハーブ米」の取組みを活発化させること た、ハーブ米に特化した生産履歴の導入や、ハ で、地域農業の振興に大きく貢献している。 ーブの生育に応じた施肥指導、肥料・農薬の (注2) 使用基準に関する説明会などを通じ、JAは管 1 ハーブ米生産の契機と展開 理を徹底している。その成果として、11年度 島根おおち地区本部は、邑智郡邑南町・川 より環境保全型農業直接支払交付金の対象と 本町・美郷町、江津市桜江町を管内としている。 なっている。また、09年には「石見高原ハー 管内は高原地帯に位置し、昼夜の寒暖差に由 ブ米®」として商標登録を取得し、15年の「第 来する良食味米の産地であるとともに、ハーブ 12回お米日本一コンテスト in しずおか」では や有機農産物の栽培も盛んに行われてきた。 最終審査に進むなど、食味が高く評価されて このような地域的特徴を組み合わせる形で、 2003年度からハーブ米の栽培が始まった。ハ いる。 慣行栽培と比べ、ハーブ米の単収はおおむ (注1) ーブ米とは、稲刈り後の圃場にハーブを播種 ね1割程度低下する。それにもかかわらず、作 し、田植え前にすき込んで緑肥とすることで、 付面積は03年度(開始時点)から15年度にかけ 慣行栽培と比べ化学肥料を99%、農薬を50% て、6.6haから169haへと飛躍的に拡大した(第 以上カットした特別栽培米である。 1図) 。なお14年度以降、作付面積は縮小に転 第1図 ハーブ米作付面積の推移 (ha) 250 198 200 180.5 169 150 豪雨被害発生 100 50 6.6 0 田植え前のハーブ米圃場 (画像提供:島根おおち地区本部) 4 03年度 06 09 12 15 16 資料 島根おおち地区本部提供資料 (注) 16年度は計画。 農中総研 調査と情報 2016.11(第57号) 農林中金総合研究所 http://www.nochuri.co.jp/ じているが、これは豪雨災害で作付けできな くなった圃場があるためであり、16年度は回 復が見込まれている。 作付面積の拡大を支えてきたのは販路の確 保である。出荷量全体のうち約8割が生協ひ ろしま向けであり、さらに現状以上の出荷を 同生協から要望されている。その背景には食 味の良さに加え、長年続けられてきた協同組 合間連携の取組みが挙げられる。 田植え交流会の様子 2 生協ひろしまとの連携の深化 (画像提供:島根おおち地区本部) 広島市は県をまたいでいるものの、管内か ら最もアクセスが良い消費地であり、80年代 調査などが行われている。参加者の主体は生 に野菜産直を中心として、生協ひろしまとの 協ひろしまの組合員の親子であり、1回の交 連携が始まった。後には、生産者と消費者を 流会につき、総勢60∼80名程度の参加がある。 含む産直学習会や田植え・稲刈り交流会が開 交流会は食農教育の場となるだけでなく、ハ 催されるなど、産消連携が深まっていく。 ーブ米に親しんでもらうことで、産地をアピ 近年では、09年に「環境を守る農業宣言」を ールする重要な機会ともなっている。 両組合名(当時)で公表し、13年には「協同組 08年からは、生協ひろしまの有志職員で「石 合間の『協同』と『提携』に関する協定書」を 見米づくりの会」が結成され、年間を通じハ 交わすなど、連携内容の高度化に継続的に取 ーブ米栽培の体験に取り組んでいる。同会員 り組んでいる。宣言や協定書では、環境に配 は、交流会のコアメンバーとなっており、協 慮して生産された農産物の取引拡大や、生協 同組合間の人的な結びつきも強まっている。 職員・組合員を対象とする農業体験の推進が 標榜されており、ハーブ米の取組みはその主 役に位置付けられている。 3 協同組合間連携による地域農業振興 生協ひろしまとの多角的な連携を通じたハ 水田での農業体験・交流会は95年から毎年 ーブ米生産の拡大は、農業者の所得増大とと 開催されてきた。ハーブ米生産の導入以降は もに、環境保全にも効果を発揮している。先 ハーブ米圃場で開催されており、現在は島根 の交流会の生き物調査では、数・種類ともに おおち地区本部が管理する「生協ふれあい田」 生物が豊富に存在していることが確認されて にて田植えや草刈り、稲刈りの体験、生き物 いる。協同組合間連携の深化のもと、地域農 業が持続的な発展を遂げている事例と言えよ (注 1 )使用されるハーブの種類は、レッドクローバ ーもしくはクリムソンクローバーである。 (注 2 )ハーブの生育が良いほど、施肥量を削減する ことができる。 う。 農中総研 調査と情報 2016.11(第57号) (やまだ ゆきひさ) 農林中金総合研究所 5 http://www.nochuri.co.jp/
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