農中総研 調査と情報2016年11月号

〈レポート〉農漁協・森組
JAと生協の連携を通じた地域農業振興
─ JAしまね・島根おおち地区本部によるハーブ米の取組み ─
研究員 山田祐樹久
高齢化や人口減少に直面するなか、JAしま
その栽培過程は厳格に管理されている。生
ね・島根おおち地区本部(以下「島根おおち地区
産者はエコファーマーの認定を受けるととも
本部」
)
は生協ひろしまとの協同組合間連携を通
に、JAとの協定と契約を毎年結んでいる。ま
じ、
「ハーブ米」の取組みを活発化させること
た、ハーブ米に特化した生産履歴の導入や、ハ
で、地域農業の振興に大きく貢献している。
ーブの生育に応じた施肥指導、肥料・農薬の
(注2)
使用基準に関する説明会などを通じ、JAは管
1 ハーブ米生産の契機と展開
理を徹底している。その成果として、11年度
島根おおち地区本部は、邑智郡邑南町・川
より環境保全型農業直接支払交付金の対象と
本町・美郷町、江津市桜江町を管内としている。
なっている。また、09年には「石見高原ハー
管内は高原地帯に位置し、昼夜の寒暖差に由
ブ米®」として商標登録を取得し、15年の「第
来する良食味米の産地であるとともに、ハーブ
12回お米日本一コンテスト in しずおか」では
や有機農産物の栽培も盛んに行われてきた。
最終審査に進むなど、食味が高く評価されて
このような地域的特徴を組み合わせる形で、
2003年度からハーブ米の栽培が始まった。ハ
いる。
慣行栽培と比べ、ハーブ米の単収はおおむ
(注1)
ーブ米とは、稲刈り後の圃場にハーブを播種
ね1割程度低下する。それにもかかわらず、作
し、田植え前にすき込んで緑肥とすることで、
付面積は03年度(開始時点)から15年度にかけ
慣行栽培と比べ化学肥料を99%、農薬を50%
て、6.6haから169haへと飛躍的に拡大した(第
以上カットした特別栽培米である。
1図)
。なお14年度以降、作付面積は縮小に転
第1図 ハーブ米作付面積の推移
(ha)
250
198
200
180.5
169
150
豪雨被害発生
100
50
6.6
0
田植え前のハーブ米圃場
(画像提供:島根おおち地区本部)
4
03年度
06
09
12
15 16
資料 島根おおち地区本部提供資料
(注) 16年度は計画。
農中総研 調査と情報 2016.11(第57号)
農林中金総合研究所
http://www.nochuri.co.jp/
じているが、これは豪雨災害で作付けできな
くなった圃場があるためであり、16年度は回
復が見込まれている。
作付面積の拡大を支えてきたのは販路の確
保である。出荷量全体のうち約8割が生協ひ
ろしま向けであり、さらに現状以上の出荷を
同生協から要望されている。その背景には食
味の良さに加え、長年続けられてきた協同組
合間連携の取組みが挙げられる。
田植え交流会の様子
2 生協ひろしまとの連携の深化
(画像提供:島根おおち地区本部)
広島市は県をまたいでいるものの、管内か
ら最もアクセスが良い消費地であり、80年代
調査などが行われている。参加者の主体は生
に野菜産直を中心として、生協ひろしまとの
協ひろしまの組合員の親子であり、1回の交
連携が始まった。後には、生産者と消費者を
流会につき、総勢60∼80名程度の参加がある。
含む産直学習会や田植え・稲刈り交流会が開
交流会は食農教育の場となるだけでなく、ハ
催されるなど、産消連携が深まっていく。
ーブ米に親しんでもらうことで、産地をアピ
近年では、09年に「環境を守る農業宣言」を
ールする重要な機会ともなっている。
両組合名(当時)で公表し、13年には「協同組
08年からは、生協ひろしまの有志職員で「石
合間の『協同』と『提携』に関する協定書」を
見米づくりの会」が結成され、年間を通じハ
交わすなど、連携内容の高度化に継続的に取
ーブ米栽培の体験に取り組んでいる。同会員
り組んでいる。宣言や協定書では、環境に配
は、交流会のコアメンバーとなっており、協
慮して生産された農産物の取引拡大や、生協
同組合間の人的な結びつきも強まっている。
職員・組合員を対象とする農業体験の推進が
標榜されており、ハーブ米の取組みはその主
役に位置付けられている。
3 協同組合間連携による地域農業振興
生協ひろしまとの多角的な連携を通じたハ
水田での農業体験・交流会は95年から毎年
ーブ米生産の拡大は、農業者の所得増大とと
開催されてきた。ハーブ米生産の導入以降は
もに、環境保全にも効果を発揮している。先
ハーブ米圃場で開催されており、現在は島根
の交流会の生き物調査では、数・種類ともに
おおち地区本部が管理する「生協ふれあい田」
生物が豊富に存在していることが確認されて
にて田植えや草刈り、稲刈りの体験、生き物
いる。協同組合間連携の深化のもと、地域農
業が持続的な発展を遂げている事例と言えよ
(注 1 )使用されるハーブの種類は、レッドクローバ
ーもしくはクリムソンクローバーである。
(注 2 )ハーブの生育が良いほど、施肥量を削減する
ことができる。
う。
農中総研 調査と情報 2016.11(第57号)
(やまだ ゆきひさ)
農林中金総合研究所 5
http://www.nochuri.co.jp/