大学教育と学生エンゲージメント 第4回 経験的な深い学び 近年、大学には教育の質的向上が求められているが、大 等を講義等で身につけさせること、 「振り返り」の機会を持た 学が教育改善に向けた取り組みを行っても、学生が積極的 せるなどの工夫をしている。 に学びに関わるようにならなければ、学習成果は上がらない。 中でも「振り返り」は、目的やタイミングに応じて、適切 そこでキーワードとなるのが「学生エンゲージメント」である。 に行うことが重要である。代表的な例としては、学生に「経 これは、 「学生の学びの取り組みや関与」という意味で、学 験からどのような原理・一般論を見出せるか」 「経験を講義 習時間や学習意欲、主体性、学習への取り組み方などを包 等で学んだ知識・技能といかに結びつけることができるか」 括した考え方である。このコーナーでは、 「学生エンゲージメ 「活動がうまく行った/行かなかった理由は何か」 「次の活動 ント」に注目して、大学教育の取り組みを紹介する。 に向けて何をするべきか」などを考えさせるものがある。そ 4・5月号の「第1回 学生エンゲージメントとは」では、 して学生は、活動と「振り返り」を繰り返す中で、学習目標 学生エンゲージメントを高める要素として、 「情緒的サポー を立て、学習した内容を意味付け、次の目標を考えていくよ ト」と「経験的な深い学び」の2点が挙がった。11月号では、 うな、主体的に学ぶ力を身につけていくのだ。 「経験的な深い学び」に注目して、大学の取り組みを紹介す 今回は、そうした「経験的な深い学び」の例として、新潟 る。 大学のインターンシップ、国際基督教大学のサービス・ラー 「経験的な学び」とは、アメリカの哲学者ジョン・デューイ ニング、PBL 科目を中心に学部全体で「エンゲージメント・ の「経験学習」などの理論に基づいた学習方法である。具 マネジメント」の実現をめざす淑徳大学コミュニティ政策学 体的には、学生・生徒が具体的な活動や実践をしたり、日 部の取り組みを紹介する。 常生活の問題を解決したりすることを通じて知識・技能、見 方・考え方などを身につけていく。小・中・高等学校で総合 的な学習の時間が導入されたり、アクティブラーニングの重 要性が指摘されたりしているのと同様、大学教育においても 積極的に取り入れられている。 また、経験的な学びの効果を高めるためには、 「深さ」と いう観点も欠かせない。 「経験的な学び」を「深い学び」と するためには、学生が活動するだけでなく、学習内容につい て深く考え、深く理解するとともに、より主体的に学習に関 わることができるように、大学が教育課程や授業計画を構 築する必要がある。 「深い学び」の実現に向けて、各大学では、学習を通じて 身につけさせる資質・能力等の目標を明確にすること、目標 達成のために適切な課題を与えること、必要な知識・技能 72 Kawaijuku Guideline 2016.11 Contents 新潟大学 ����������������� p73 大学での学修行動に好影響を与える 「企業課題探究型 長期・有償型インターンシップ」 国際基督教大学�������������� p76 「行動するリベラルアーツ」をめざして サービス・ラーニングを全学的に展開 淑徳大学コミュニティ政策学部 ����� p79 カリキュラム全体を通じて 「エンゲージメント・マネジメント」実現をめざす 第4回 経験的な深い学び 大学での学修行動に好影響を与える 「企業課題探究型 長期・有償型インターンシップ」 新潟大学 2012 年度、文部科学省の大学間連携共同教育推進事 業「産学協働教育による主体的学修の確立と中核的・中 堅職業人の育成」に採択された新潟大学では、2014 年 度から「企業課題探究型 長期・有償型インターンシッ 西條秀俊准教授 髙澤陽二郎特任助教 プ」を導入した。参加した学生には、短期のインターン シップとは異なる、学修行動の変化が見られるという。 や事前・事後学修を充実させ、大学での学びとの関係性 プログラムの具体的な内容とその効果、今後の方向性な や今後の目標を考えさせる機会を豊富に設けています。 どについて、教育・学生支援機構キャリアセンターの西 また、インターンシップ後の大学生活が長く残っている 條秀俊准教授と、髙澤陽二郎特任助教に伺った。 1・2年生の方が、教育的な効果が大きいと考え、昨年 度までは対象学年を1~3年としていましたが、今年度 座学の学修時間は比較的長いが 協働力や、学外の学びへの積極性に課題 新潟大学で「企業課題探究型 長期・有償型インター は1・2年に変更しました」(髙澤特任助教) 大学と企業を往復し、活動の振り返りを重視 大学での学びと関連付ける ンシップ」を導入した背景には、学生の学びへの姿勢に プログラムの流れを追っていこう<図>。全体で約8 対する問題意識があった。 カ月間のプログラムで、全学部の1・2年生が対象だ。 「学生実態調査の結果を分析したところ、本学の学生 他の学生や受け入れ先の社員と深く関わること、日々の は、座学の学修時間は比較的長いものの、グループで協 活動を振り返って経験から学ぶことを重視して、学修時 力して何かを行ったり、自ら課題を見つけて積極的に学 間や主体的な学修行動の増加といった学生エンゲージメ 外に出かけて学ぶといった経験的な学修が不足している ントの向上につなげる。 ことがわかりました。本来、座学と経験的な学修は、大 事前学修として、まず、6月下旬から約1カ月半、学 学における学びの両輪であるべきです。そこで、2012 年 生自身の目標設定や、受け入れ企業の研究などを行う。 度に文部科学省の事業に採択されたことを受けて、 『企業 この際、個々に考えさせるだけでなく、相手の目標を 課題探究型 長期・有償型インターンシップ』を導入しま インタビューし合うペアワークや、グループディスカッ した。学外の人々と能動的に関わり、チームで協働でき ションを中心に行う。先述したように、チーム活動が不 る力を高めたいと考えたのです」 (西條准教授) 得手な学生が多いことから、他者と考えを共有する中で 「本プログラムは、就業観の醸成や、キャリア設計だけ 一緒に成長することの意義を感じてほしいという狙いが を目的としたものではありません。このインターンシッ ある。 プはあくまで大学教育の一環であり、大学での学びと関 実習前後の自己評価にあたっては、産学協働教育の学修 連づけることが重要になります。企業で課題を解決する 成果を把握するために作成されたルーブリック評価表(注) ことと大学で学ぶことに共通する問題への『取り組み方』 を利用する。「社会で求められる力の理解」「大学での学 を実感し、大学での学修が社会でどう役立つのか、学生 びと社会との関連づけ」「学び・経験への意欲」「他者と 一人ひとりが自分なりに意味づけることが最大のテーマ の協働」など8つの観点について、5つのレベルが示さ です。そのために、インターンシップの活動の振り返り れている。 (注)新潟大学は、2012 年度文部科学省の大学間連携共同教育推進事業「産学協働教育による主体的学修の確立と中核的・中堅職業人の育成」に、京都産 業大学、成城大学、福岡工業大学とともに採択された。ルーブリックは、4大学が共通で開発したもので、学修成果の評価に用いられている。 Kawaijuku Guideline 2016.11 73 大学教育と学生エンゲージメント <図>「企業課題探究型 長期・有償型インターンシップ」プログラム概要 「日報」と同様だ。週に一度、参加学生 全員が大学で集まり、合同ゼミを開いて インターンシップでの学びを共有するほ か、必要に応じて、担当教員との面談で 各学生の実習での状況を確認し、必要が あれば教員からフォローを行っている。 実習後の1~2月は、約半年間の体験 を振り返り、今後の学びにどうつなげる かを改めて考える。学生はルーブリック に基づく自己評価や振り返りレポートの 作成を行ったのち、他の学生とインター ンシップの経験を共有する。企業の担当 実習は夏休みの3週間(週5日)と、10 〜1月までの 者が記入したアセスメントシートの内容も踏まえて、学 期間中の約3カ月間(週2日程度)の2回に分けて行う。 内での成果報告会を行う。 2016 年度の受け入れ先は、新潟県内の5団体である。受 「こうしたプログラムでは、失敗したことやうまくいか け入れ学生数は1団体2名までとし、学生へのフォロー なかったところにこそ貴重な学びがあります。そこで、事 を手厚くしている。 後学修では、参加した学生全員が集まり、自分の体験を 夏休みの実習中は「日報」の提出が義務だ。 「業務の目 話し、他者と共有することで学びを深める場を設けてい 的と内容」 「自分で意識して行動した点、そこから得られ ます」(西條准教授) たこと」 「自己評価項目と達成度(5段階評価) 」 「業務を 通して気づいたこと、感じたこと」 「次に予定する仕事、 目標」などを記入し、企業の担当者からコメントをもら 企業から与えられたリアルな課題に取り組む 日報、週報を通して問題意識も明確に う。自己評価の観点が明確に示されていることや、企業 一般的なインターンシップでは、学生をゲスト扱いに の担当者からコメントをもらえることもあり、多くの学 して、インターンシップ生専用の仕事が用意されている 生はびっしりと書き込むという。毎日の実習で振り返り ことも少なくないが、「企業課題探究型 長期・有償型イ をさせるとともに、経験や企業の課題の理解度を日々言 ンターンシップ」では、学生を実際に企業が抱える課題 語化することで、自分なりの問題意識が明確になるメリ に関係した業務に関わらせてもらうよう、企業と協議し ットがある。 ながら進めている。 加えて、実習期間中には、担当教員との面談を行い、日 「受け入れ先には、学生を現実的な課題に、社員ととも 報を見ながら実習の状況を確認する。教員が客観的に問 に取り組ませてほしいと要望しました。ある企業では、 いかけ、学生の体験をアウトプットする場を設けること 『人材』『採用』をキーワードにした新規事業の検討が課 で、学生に実習の経験や意義を考えさせるきっかけにな 題・ミッションとして提示されました。学生たちは、同 るという。 社の既存業務である合同企業説明会の運営等を体験しな 3週間の実習を終えた9月下旬には、企業の課題がど がら、市場調査や他社調査を行い、新規事業として就活 こまで達成できたか、その中でどんな気づきが得られた 準備イベントを企画・実施しました。他にも、顧客アン かを振り返り、後半の実習に向けての目標を再設定する。 ケートを学生自身が作成し、実施・集計・分析ののち報 全ての企業の担当者と学生全員が一堂に会して行うため、 告書にまとめたものが、営業部の資料として活用された 実習先以外の企業の担当者から、多様な視点でアドバイ 例もあります」(髙澤特任助教) スを受けることができる意義が大きい。 プログラムを有償型にしたのも、学生を責任ある業務 後半の実習期間中は、学生は授業の合間に、原則とし に関わらせてもらうためでもある。賃金が発生する以上、 て週2日程度、前半と同じ企業に勤務する。学生は週に 企業はきちんとしたアウトプットを要求するようになる 一度、 「週報」を提出する。週報の内容は前半の実習の ほか、学生にも責任感が生まれると考えられるからだ。 74 Kawaijuku Guideline 2016.11 第4回 経験的な深い学び 実習で得られた気づきによって 学生の学修行動が変化する ントが多かったのですが、一人で抱え込まずに積極的に 行動したことが実習先で評価され、実習後も、副専攻と して経営学を履修したり、学外のセミナーに参加したり 「企業課題探究型 長期・有償型インターンシップ」の と、自ら積極的に学ぶようになったそうです。このよう 効果は、参加した学生の仕事や学修への姿勢・学修行動 に、長期間大学とは違った環境にも身を置き、異なるも の変化に表れている。 のの見方に触れることで、大学における学び・経験の見 まず、 「行動変化に関する質問紙調査」を実習中(9月 え方が変わり、日々の行動に変化が生まれるのです」 (髙 下旬) 、実習後(1月下旬)に実施している。プログラム 澤特任助教) 中に学生がどのような点を意識して行動したかを聞く調 こういった学生の行動の変化に、主体的な学びへの姿 査で、学生は「報告・連絡・相談」 「目的の意識」 「PDCA 勢、つまり学生エンゲージメントの向上を見ることがで の実践」などの 10 項目について5段階で自己評価する。 きるといえる。 その結果、実習中では「仕事における時間意識」 「報告・ ただし、GPAに関してはプログラム参加前後で必ず 連絡・相談」 「目的の意識」などの項目で大きく上昇した しも上昇していないという。 のに対し、実習後では「自主的な学習・調査」 「他者から 「これは、先ほど副専攻の履修を始めた学生を紹介した の学びと実践」 「テーマ・事業内容への興味関心」などの ように、専門外の新たな学び、あるいはより高度な学び 項目が上昇している。 に挑戦する学生が多いからだと考えています。楽に単位 「当初は日々の仕事をきちんとこなすことを意識してい が取得できそうな科目ではなく、自分の興味・関心に応 ますが、次第に、目標を見据えて行動することや自らア じて、発展的な科目を数多く履修すれば、GPAは下が ンテナを張って情報を取り入れることなどに意識が移っ ってしまう可能性もあるのです」(西條准教授) ていくことがわかります。半年間かけて行うインターン シップだからこそ、こうした長期的な視点が生まれると 考えています」 (髙澤特任助教) さらに、学修時間については、実習前後で週当たりの 参加人数の拡大や評価が課題 知見を活用したインターンシップの展開を予定 このように高い成果を挙げている一方で、いくつかの 「大学の授業関連のレポート・課題・予習・復習の時間」 課題もある。 「興味・関心のあることについて本やインターネットで調 「今年度の参加学生数は8名です。少人数制で学生の べたり、教養のための読書をする時間」について聞いて 満足度や効果も高いため拡充を図りたいのですが、非常 いる。前者で6時間以上と答えた学生は 25%増、後者で に手間がかかるプログラムであるため、その質を維持し 11 時間以上と答えた学生は 37.5%増と増えているほか、 たまま、受け入れ人数の拡充を図るには運営面で課題が 「 学 外 の学 びの場 に参 加 する頻 度 」 も高 まっ ている 残ります。また、2017 年度からは1・2年生向け長期・ (2014 年度参加学生のデータ) 。 有償型(実費支給型含む)インターンシップである『低 また 2015 年度は、プログラム終了後半年経ってから、 学年次向け 長期・企業実践型プログラム』の単位化が決 個別にインタビュー調査も行った。インターンシップで 定しているため、評価方法等の検討も必要です」 (西條准 得た気づきが、普段の大学生活における学修行動に影響 教授) しているかを確認するためだ。 その他にも、新潟大学では、インターンシップの拡充 「インタビューでは、実習で得た気づきによって、行動 を進める見通しだ。2016 年度から経済同友会連携の1・ 規範や学修行動が変化したケースが数多く聞かれました。 2年生向け長期インターンシップを開始した。また、 例えば、ある学生は、企業で与えられた企画提案の課題 2017 年度に新設される、創生学部や工学部の「協創経 を通して、自分一人で考えるだけでなく、他者の意見を 営プログラム」などでのインターンシップの展開を予定 取り入れると成果物の質が向上することを実感し、大学 している。「企業課題探究型 長期・有償型インターンシ に帰ってからもその点を意識して行動するようになった ップ」で培ってきた、学生の学修を促すようなプログラ と語っています。また、ある学生は、自分に自信が持て ムの構成や運営方法、企業との関わり方などの知見を生 ず、日報では不安や焦り、知識不足などを悲観するコメ かしたインターンシップを検討している。 Kawaijuku Guideline 2016.11 75 大学教育と学生エンゲージメント 「行動するリベラルアーツ」をめざして サービス・ラーニングを全学的に展開 国際基督教大学 黒沼敦子先生 国際基督教大学では、創立 50 周年を迎えた 1990 年 代から、日本の大学でいち早くサービス・ラーニングを ラーニングの先進国であるアメリカの大学で教育を受け 導入した。学生エンゲージメントを高める上で大きな効 た教員が多く、同様の教育プログラムの経験者が多かっ 果を挙げている。サービス・ラーニング・センター講師 たことも、問題なく導入できた一因でしょう」 (コーディネーター)の黒沼敦子先生に、プログラムの特 色と意義を伺った。 現在では、2~4年次での履修が可能で、毎年約 60 名、 学年の約1割にあたる学生がサービス・ラーニングを 行っている。夏休み中の実習『コミュニティ・サービ 社会実践と理論知のリンクを重視する点が ボランティア活動との違い ス・ラーニング』『国際サービス・ラーニング』(各3単 位)と、事前・事後学習として、実習前の春学期に『サー ビス・ラーニング入門』(2単位)と『サービス・ラーニ サービス・ラーニングは、1970 年代にアメリカの大学 ングの実習準備』 (1単位)を、実習後の秋学期に『サー で始まった教育プログラムだ。ボランティア活動や、無 ビス経験の共有と評価』 (1単位)を履修する<図表1>。 償の奉仕活動などを行って社会に貢献し、その経験を学 びにつなげる体験学習的な教育手法である。国際基督教 大学では、開発学を学ぶ学生が途上国の貧しい村で活動 全てをお膳立てするわけではない 学生が自発的な行動を起こすことが重要 を行うことなどが代表的な例で、学生は、それまで知識 サービス・ラーニングの中核を成すのが、夏休みに約 として学んできたことを実際のサービス体験に生かし、 30 日間行われる実習であり、 『コミュニティ・サービス・ また実際のサービス体験からその後の大学での学びや進 ラーニング』 『国際サービス・ラーニング』の2つに分か 路について新たな視野を得る。ボランティア活動との違 れる。 いは、社会実践と理論知の関連付けに重きが置かれてい 国内で行われる『コミュニティ・サービス・ラーニン るところにある。 グ』は、学生が興味を持ったNPO、NGO、公的機関 国際基督教大学がいち早くサービス・ラーニングを導 などに、自分で交渉して受け入れてもらうのが原則だ。例 入した背景を、黒沼先生は次のように語る。 年、参加人数は10 ~ 15 名で、そのうち数名は自主的に 「本学のミッションと密接な関係があります。国際基 新規受け入れ先を開拓している。もちろん、これまでの実 督教大学は、キリスト教の精神に基づき、 『神と人とに奉 績から、先輩学生の実習先を参考にすることもある。例え 仕する有為の人材』の養成を献学の使命としています。 ば、 「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)協会」や さらに、1990 年代の創立 50 周年の際に、新たな使命と WWF(世界自然保護基金)ジャパンの「サンゴ礁保護研 して『行動するリベラルアーツ』を掲げました。変化の 究センター」 (沖縄・石垣島)などでは、毎年のように実 激しい社会では、学問を机上の理論として学ぶだけでは 習を経験する学生がいる。 不十分で、現実社会の中で実践し行動を起こすことが重 海外で実習を実施する『国際サービス・ラーニング』 要です。こうした使命を具現化する教育プログラムの1 は、大学のサービス・ラーニングプログラムの提携先で つとして、サービス・ラーニングを導入しました。本学 ある7カ国・地域の9大学から受け入れ先を選ぶ。以前 では、1970 年代から平和研究や社会貢献をテーマとする は学生が探してきた受け入れ先を認めていたが、近年の 海外研修を開催するなど、多彩な社会貢献活動を行って 海外情勢や治安を配慮して受け入れ先を限定している。 おり、導入の素地があったといえます。また、サービス・ 参加人数は毎年 50 名程度で、現地大学の学生や教職員と 76 Kawaijuku Guideline 2016.11 第4回 経験的な深い学び <図表1>サービス・ラーニングの流れ 春学期 秋学期 <夏休み中> 『サービス・ラーニング入門』 サービス・ラーニング実習 (30日間 ) + 『サービス・ラーニングの 実習準備』 ※「実習」とは、後に履修する『コ ミュニティ・サービス・ラーニン グ』又は、 『国際サービス・ラー ニング』の一環 『サービス経験の 共有と評価』 + 『コミュニティ・サービス・ ラーニング』又は 『国際サービス・ラーニング』 一緒に、地域コミュニティに入り、水路、道路、老朽化し につなげるかが非常に重要だ。そのためには、リフレク た学校などの補修や、子どもたちへの英語教育、歯磨き ション(振り返り)が欠かせないと、黒沼先生は語る。 などの衛生教育、日本文化の紹介といった活動に取り組む。 「単に実習を経験しただけでは、ボランティア活動に参 現地大学の学生だけでなく、さまざまな国籍の学生ととも 加するのと変わりがありません。大学の教育プログラムと に活動することもある。 して実施する以上、実習を振り返り、言語化することで、 実習にあたってとりわけ重要になるのが、学生の自発的 その後の学びにつなげることが不可欠です。実習でどん な意志だと黒沼先生は語る。学生自らが問題意識を持ち、 な活動をしたかだけではなく、その活動を客観的に振り返 解決すべき課題を発見し、コミュニティに分け入り、社会 り、どのような社会的影響を与えることができたのか。そ 貢献と奉仕の意欲を持ってこそ、プログラムの効果が出る こからどんな課題を得て、今後どう学んで解決していきた という。 いのか。こういったことを学生に客観的に認知させるこ 「学生それぞれの興味・関心に基づき、自ら関わり、行 とで、さらに主体的な学びにつなげる、つまり学生エン 動を起こすことが、学生エンゲージメントを高めること ゲージメントを高めることにつながります」 につながります。海外での実習は安全面を考慮してある そこで、事前学習・実習中・事後学習の中で、さまざま 程度の枠組みは設けていますが、大学が 30日間のプログ なリフレクションの機会を設けている<図表2>。 ラムを全て決めているわけではありません。そこで、学生 実習前には、 『サービス・ラーニング入門』と『サービ たちには自発的にさまざまな行動を始めてほしいのです。 ス・ラーニングの実習準備』を履修する。 『サービス・ プログラムの空き時間に地域にどんなニーズがあるかを調 ラーニング入門』では、サービス・ラーニングを支える (注1) のプロジェク 「体験学習」(注2)の理論のほか、サービスやコミュニティ トを立ち上げた学生もいます。また、ある学生は子どもた などの概念、歴史などを学ぶ。学生にサービス・ラーニ ちへの教育支援を希望してインドネシアのプログラムに ングの目的や理論を意識させ、取り組みの効果を高める 参加したものの、実際現地に行ってみるとその機会が用意 ためだ。 「サービスとは何か」といったテーマでディス されておらず困惑したそうですが、自分がやりたいことを カッションも行い、議論を通して多様な考え方に触れ、自 現地の人々に提案し、希望を実現した例もあります。自発 分のサービス観を深める。 的に行動した結果として、自信が生まれ、達成感が得ら 『サービス・ラーニングの実習準備』では、ジャーナル 査して、帰国後、ファンドレイジング れる効果は絶大です。 一方で、自発的な行動に移せず、後悔する学生もいま (日誌)の書き方など、「経験」を「学び」につなげるス キルを身につけるほか、 「自分の “ 常識 ” で決めつけない」 す。けれども、それも貴重な学びになります。帰国後に 「学生としての分をわきまえる」など、地域の人々と接す 他の学生の成功体験を聞き、同様の状況を打開しようとし る際の心構えなどを学ぶ。インターンシップではないの なかった自分を内省し、次の行動につなげようという意欲 で、ビジネスマナーを教える場ではない。 を見せる学生も少なくありません」 (黒沼先生) 他にも、同じ実習先に行く学生同士で現地の事情や問 経験を学びにつなげるために 言語化を伴う「リフレクション」が不可欠 サービス・ラーニングを行う上では、実習をいかに学び 題意識を共有する勉強会を行う。 実習中は、ジャーナルをつけ、日々の出来事を振り返る。 リフレクションの中でも、特に重視しているものだ。 「実習先の子どもに無視されて、嫌な気持ちになったと (注1)ファンドレイジング…民間非営利団体(NPO)が、活動のための資金を個人、法人、政府などから集めること。寄付、会費、助成金・補助金などを指すことが 多い。 (注2)体験学習…アメリカの教育学者J・デューイが唱えた、知識の伝達のみでなく、体験を通して獲得する学びにこそ真の教育があるとする理論。 Kawaijuku Guideline 2016.11 77 大学教育と学生エンゲージメント <図表2>サービス・ラーニングにおけるリフレクション いった感想に止めず、なぜその子どもはそんな行動をと ったのか、自分はどう対応すればよかったのかまで考え ます。そうすることで、次の行動の指針を考えていくこ とにつながります。そのためには、子どもの様子をしっ かり観察することや、現地の人々に積極的に話しかけて、 現地の事情や社会背景などを知る努力が求められます。ジ ャーナルは数日後に読み返し、考えたことを書き加えなが ら、考察を深めます」 (黒沼先生) 事前 サービス中 事後 個人 1対1 グループ エッセイ SL アドバイザ面接 勉強会 ジャーナル スーパーバイザ指導 E メール指導 反省会 ML プレゼン準備 ペーパー 面接 プレゼンテーション ディスカッション リフレクション領域 サービス / プロジェクト実現(人間関係、ロジスティックス、etc.) テーマ / トピック理解 (開発、貧困、老人問題、etc.) 個人の内面・成長 (自己の感情、変化 etc.) 実習終了後は『サービス経験の共有と評価』の授業を 履修する。1日間の集中ワークショップを実施。4人ず 次にさまざまな学問に触れる中で、開発学に興味を持った つのグループに分かれて、それぞれの活動と学びを共有 が、開発の現場に行ったことがないので、実習を通して体 し、改めて「サービスとは何か」 「サービス活動を大学の 感したい。そんな思いで参加する学生が数多くみられます。 学びにつなげる」などのテーマでディスカッションする。 もちろん、実習を通して、事前に持っていた興味・関心 その後の学期中の授業では、1人 30 分、全員の前でプレ がさらに高まるとは限りませんが、価値観や観点が変化し ゼンテーションを行い、さらに約1万字のレポートを作成 たことによる学びの方向性の変化もまた、成長だと感じて する。 います。発展途上国で性産業に従事する人々の支援をし 「ジャーナル、プレゼンテーション、レポートなど、言 たいと考えていた学生は、現実にそういった人々と接する 語化の作業を数多く課しているのも、それが客観的な認知 中で、自分の精神的、肉体的な強さの不足を痛感しました。 のために必要だからです。経験したこと、観察したことを、 それでも、何らかの支援をしたいという思いは揺らがず、 きちんと言語化して記述することによって、考察が始まる もっと専門知識を深めて、日本で支援活動を行いたいとい のです。新たな問題意識も生まれるでしょう」 (黒沼先生) う方向性を見つけました。押しつけられたものではなく、 なお、プログラムに参加する学生には、サービス・ラー 自分自身の経験を通した学びへの動機付けができること ニング・センターの教職員と、専任教員であるアドバイザ は、その後の学修意欲の維持に大きな意義があります」 がつく。事前学習・実習中・事後学習を通して、学生の活 (黒沼先生) 動の手助けのほか、リフレクションを共に行う。教職員が 近年では、教育プログラムとしてのサービス・ラーニ その時々に適切な問いかけを行い、学生の成長を促す。 ングから、大学は社会や地域コミュニティに積極的に関 「個々の学生の成長に寄り添ったアドバイスをすること わり、社会の課題を解決する主体であるという「シビッ が非常に重要です。アメリカでの研究も参考にしながら、 ク・エンゲージメント(Civic Engagement)」の観点が 教職員の接し方について検討しています」 (黒沼先生) 生まれつつある。学生が得る教育効果はもちろん、その 経験を通して学びへの動機付けが 生まれるところに意義がある 活動を通して、大学がいかに地域に対し影響をもたらした かを重視する必要も生まれてきた。 「提携を結んでいる海外の大学から、学生を日本での サービス・ラーニングに参加した学生は、その経験をそ サービス・ラーニングに参加させたいという声があり、今 の後の学びに着実に反映させている。国際基督教大学で 年度から受け入れ人数を拡大しています。今年は長野県 は、2008 年度から2年次終了時に自分が深く学ぶメジャ 天龍村の集落での農作業や、三鷹市の高齢者施設での支 ーを選ぶ制度を採用しているため、サービス・ラーニン 援活動や公立小学校での教育支援などを経験しました。 グをメジャー決定の参考にしようと考える学生もいると 日本人学生にとっても自分の生活や価値観を見直す上で いう。このことは、サービス・ラーニングが2~4年次の 大いに刺激になったようですし、実習で訪れた地域の方々 配当科目ながら、2年次に履修する学生が9割を占めてい にとっても、地域課題への向き合い方や地域の魅力など、 ることからもうかがえる。 新たな気づきにつながっているようでした。大学の社会や 「大学の教室で学んだ理論だけでは、自分が本当に学び 地域への貢献という意味でも、サービス・ラーニングはま たい分野が明確にならないこともあります。例えば、1年 すます重要になっていくでしょう」 (黒沼先生) 78 Kawaijuku Guideline 2016.11 第4回 経験的な深い学び カリキュラム全体を通じて 「エンゲージメント・マネジメント」実現をめざす 淑徳大学コミュニティ政策学部 矢尾板俊平准教授 淑徳大学では、主体的に考え行動できる力を持ち、予 測困難な時代に対応できる人材を育成するため、「エン また、授業間で重複する内容を調整し、順次性にも配 ゲージメント・マネジメント」を意識した教育改善を進 慮することで、カリキュラム全体を通じて、学習成果を めている。講義で知識を獲得し、学生同士のディスカッ 高められるような工夫もなされている。例えば、政策学 ションや教室外での活動を行い、さらに振り返りを行う 分野の科目は<図>のように体系的に整理されている。 といった授業を低年次から体系的に配置することで、学 1年次後期の『政策学概論』で政策とは何かを学び、2 生が経験的な深い学びを行うことをめざしている。具体 年次前期の『政策過程論』で政策作成のプロセスを学ん 的な取り組み内容について、矢尾板俊平准教授に伺った。 だ上で、2年次後期以降の展開科目で、政策の立案・形 成・分析・評価といった過程それぞれについて、具体的 アウトカムベースの教育を意識し カリキュラム全体を見直す に学んでいく。 低年次から学生参加型の授業を展開し 段階的に学生エンゲージメントを高める 淑徳大学が、 「学生エンゲージメント」に着目した教 育改善を始めたのは、2012 年に関西国際大学、北陸学院 学生エンゲージメントについても、4年間を通じて段 大学、くらしき作陽大学とともに、文部科学省大学間連 階的に高められるように設計されている。 携共同教育推進事業「主体的な学びのための教学マネジ 「例えば、学生が主体的に関わる授業を実現しようとす メントシステムの構築」に採択されたことがきっかけで ると、低年次から難しい課題を与え、グループで取り組 ある。 ませようとしがちですが、課題の取り組み方を知らなけ 「事業でめざしたのは、 『何を学ぶか』ではなく『何が れば、学生はどう取り組んでいいのか困惑してしまいま できるようになるか』を意識したアウトカムベースの教 す。すると、学習意欲があってもうまく取り組めず挫折 育への転換です。本学では以前から、講義形式の授業だ するなど、学生エンゲージメントからは程遠い学びに けでなく、アクティブラーニング(以下、AL)に取り組 なってしまいます。まずは易しい課題に取り組む中で、 むとともに、インターンシップやサービスラーニングな 資料やデータを読み取る力、現場で起きていることを観 ど、学生が主体的に学ぶ教室外体験学習プログラムを充 察する力、コミュニケーション力といった、主体的な学 実させてきましたが、これらは導入するだけで効果が上 びに必要なスキルを身につけるとともに、小さな成功体 がるものではありません。事業への採択を機に、それら 験を積み上げていくことが重要なのです」(矢尾板准教 の『経験的な学び』をさらに充実させるとともに、学生 授) が修得した知識を活用し、自分なりの知識・スキルに高 コミュニティ政策学部では、学部開設時から、1年次 めていく『深い学び』も実現できるように、AL の導入や 前期に『コミュニティ研究Ⅰ(動機づけ、現状認識) 』 教室外プロジェクトとの有機的な連携など、授業デザイ 『同Ⅱ(現地調査、情報収集)』を置いている。これらの ンの工夫に取り組んでいます」 (矢尾板准教授) 科目の目的は、地域が抱えている現実の課題について、現 シラバスでは、ディプロマポリシー、カリキュラムポ 地を訪れ、直接的に観察し、聞き取り調査やアンケート リシーに基づいて、個々の授業で修得する知識、技能、態 調査など、基礎的な調査技法を修得していくことである。 度の到達目標を明確に記載している。 また、参与観察(注)、実践活動などのサービスラーニング (注)参与観察…調査者自身が調査対象の社会や集団に加わり、長期間、生活をともにしながら観察する方法。社会学や文化人類学などの研究で用いられる。 Kawaijuku Guideline 2016.11 79 大学教育と学生エンゲージメント を通じて、コミュニティ政策に対する興味や関心を涵養 する。125 名の1年生が7クラスに分かれ、1 クラスを 教員が 2 名ずつ担当し、プロジェクトに取り組む。例え ば、矢尾板准教授のクラスでは、町内会や地元の高校生 とも連携して、地域のイベント活動などを企画立案し、 <図>政策学分野の科目の体系 導入科目 基幹科目 展開科目 政策学 政策 政策 政策 概論 過程論 立案論 分析論 当日の運営も学生たちで行っている。 「私が担当する『政策立案論』 (後述)では、学生が答 政策 政策 形成論 評価論 えのない課題に挑み、最適解を考えるグループディス カッションを行いますが、1 年生の頃から、さまざまな るようにしている。 AL を経験していくことにより、学生が上級学年において 「プロジェクトは地元の自治体や企業、NPOと連携 も、より主体的に議論に参加するようになったと感じて して実施します。そのため、相応の成果が要求されます います。 『主体的な学び』を実現するには、できるだけ早 から、当初は学生の活動に私もかなり介入していました。 い時期から取り組むことが必要なのです。そして、そこ しかし、それでは学生が私の指示を待つようになり、主 で身につけた主体性を、 『政策過程論』→『政策立案論』 体的な学びにつながりません。学生が成長することが第 と、徐々に高めていけるよう、意識的に取り組むように 一の目的ですので、近年は成果が先方からの要求水準に しています。このように、カリキュラム全体を通じて 完全には到達しなかったとしても、学生の活動を見守る 『エンゲージメント・マネジメント』を構築することが極 ように心掛けています。ただし、そのためには連携先の めて重要になると考えています」 (矢尾板准教授) 理解を得ることが不可欠です」(矢尾板准教授) 関連知識や思考法を学ぶことで 解決策の提案に説得力が生まれる 実社会に関わるプロジェクトに取り組み 学習意欲を高める 個々の授業において学生エンゲージメントを高める取 プロジェクトのテーマは、学生の興味・関心に応じて り組みを、矢尾板准教授が担当する『政策立案論』(2・ 毎年変更している。今年度は、「地方創生」と「18 歳選 3年次後期配当)を例に見ていこう。 『政策立案論』は、 挙権」の2つを設定している。 地域活性化に向けたプロジェクトを企画する中で、公共 「地方創生」は、近年、 「DMO(Destination Management 政策や企業戦略の立案に必要な理論、知識、考え方を学 Organization) 」による観光協会や農家などが連携して地 ぶことを目的とした、PBL 型の科目である。 域産品をブランド化するなどの取り組みが盛んになって 各回の授業は、前半は講義形式で知識をインプットし、 いることから、3年連続でテーマとした。2014 年は東金 後半のグループワークで思考をアウトプットする構成と 市のゆず、2015 年は山武市のイチゴと、例年、千葉県内 し、必要な知識・スキルを段階的に身につけながら、学 の自治体の農作物を使った商品開発を行っている。今年 期を通じて取り組む基本テーマ(プロジェクト)の企画 度は地元スーパーと連携し、名産品を使った惣菜やス 立案を進めていく。 イーツのメニューを提案した。11 月には、近隣の農家を 「授業では、プロジェクトに関する政策理論を教えるだ 集めた朝市の開催も予定されている。 けでなく、KJ法やマトリックスなどの問題発見法、ツ 「18 歳選挙権」では、今年夏の参議院選挙で、千葉県 リー構造などの問題を構造化する方法、明確になった問 の大学として初めてキャンパス内に期日前投票所を設置 題点を解決するためのストーリーの考え方といった思考 した。学生の投票率アップをめざして、ポスターを作成 フレームも身につけさせるようにしています。どんなに し広報・啓発活動に力を入れたほか、当日は一部の学生 良いアイデアであっても、単なる思いつきでは、外部の が、千葉市中央区選挙管理委員会と連携し、スタッフと 方々を説得することはできません。専門知識の理論的な して運営に携わった。絶対にミスは許されないので、緊 裏付けがあり、論理的な思考を経た提案であることが不 張感に満ちた活動になった。 可欠になるのです」 (矢尾板准教授) 授業では、大学生の投票率を向上させる方策について 活動に当たっては、できるだけ学生の主体性を尊重す ディスカッションを行った。すると、 「学生は住民票を移 80 Kawaijuku Guideline 2016.11 第4回 経験的な深い学び していないことが多く、キャンパスで投票できない」 「政 令指定都市の千葉市は区ごとに選挙管理委員会があり、 キャンパスと同じ区に住んでいない学生は投票できない」 など、さまざまな問題点が挙がり、柔軟な選挙制度設計 や法改正の必要性などの提言がまとめられた。学生は、 ポスター作成や、投票所の運営といった実践的な活動を 行うだけでなく、その過程でさまざまな問題意識を持ち、 政策の課題について深く追究するようになるのだ。 「いずれのプロジェクトも、授業中に検討したアイデア を、学外の機関に提案したり、学生の手で実現したりし ていきます。そして、その結果、社会にどのようなイン パクトを与えるのかを意識することで、学生は学習意欲 を高め、緊張感を持ってグループワークを行い、政策に ついての理解も深めていくのです」 (矢尾板准教授) 自己効力感を生むために 学生同士の振り返りも重要 プロジェクトを完了した後は、成功・失敗の要因を分 析し、自分はどう貢献できたのか、社会に対してインパ クトのある提案ができたかといった観点から、 「自己評 以降のゼミナールでも、活動の中心となる学生が多いか 価」 「教員との個別ディスカッション」 「学生同士のディ らである。中には、 「地方創生」プロジェクトに取り組ん スカッション」の3種類の「振り返り」を行う。 だテーマをさらに追究し、大学院に進学し、現在は『政 「プロジェクトから何を学んだのか自己評価することは 策立案論』の活動をサポートしている学生もいるそうだ。 非常に重要です。しかし、客観的な評価にはなりません 一方で、学生の負担も相応の重さとなり、他の科目と から、冷静な第三者の評価が必要になりますが、教員は の負担のバランスが、今後、検討していかなければなら つい厳しい指摘を並べてしまいがちです。学生同士の ない課題であると感じている。 ディスカッションの意義は、本音で話し合う中で、不足 「複数の科目で、授業外での活動が多くなれば、学生の していた部分に自分たちで気づくだけでなく、うまくい 負担もかなり重くなってしまいます。そこでカリキュラ かなかったところをお互いに優しくフォローし合えるこ ム全体で負荷の量を考えていかなければなりません。そ とです。一方で、成功したことについては、お互いに褒 のためには、授業間連携をさらに進めていく必要があり め合います。そうすることで、自己効力感が生まれ、次 ます。例えば、科目間で『地方創生』という同一テーマ の主体的な学びにつながっていくと考えています。なお、 について、一方は福祉から、他方は経済からと、視点を 学生同士で振り返る際には、連携先の企業や自治体の担 変えながら扱う、教室外での活動を科目間での共通の活 当者にも参加してもらうようにしています」 (矢尾板准教 動にするといったことが考えられます。また、大学の学 授) びは各科目でさまざまな知識を断片的に扱い、学びの全 また、授業の最後には「最終課題」を課し、到達度を 体像を掴みにくいという課題がありますが、授業間連携 測定する。プロジェクトに関連するデータやキーワード を進めることで、それが解消され、学習内容について学 が提示され、学習内容を振り返りながら、自分なりの政 生がより深く理解できるという効果も期待できます。今 策を考えるテストである。成績評価は、主にこの「最終 後は、学生エンゲージメントをさらに高めるためにも、 課題」によって行う。 深い学びを実現するためにも、カリキュラム全体を通じ 矢尾板准教授は、 『政策立案論』の成果に手応えを感 たマネジメントの在り方について、さらに検討していき じている。受講者の授業への満足度が高いほか、3年次 たいと考えています」(矢尾板准教授) Kawaijuku Guideline 2016.11 81
© Copyright 2024 ExpyDoc