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≪地域の貧困を考える No. 1≫
2016 年 11 月 8 日
No.2016-029
地域により異なる貧困の様相
ワーキングプアにみる地域差の背景
調査部 副主任研究員 星 貴子
《要 点》
 深刻度を増す勤労世帯の貧困
近年、貧困、とりわけ働いているにもかかわらず生活が困窮している世帯(ワーキン
グプア世帯)が増加し、社会問題となっている。生産年齢人口の減少が進むなか、現役
世代に貧困が広がることは、子供や高齢者にも影響が及び、社会全体の活力低下につな
がることが危惧されるためである。ワーキングプア対策は、わが国にとって焦眉の急と
いえる。
 地理的に偏在・固定化する貧困
ワーキングプア問題は全国的に深刻化しているものの、都道府県別にみると、その状
況は一様ではなく、地理的な偏在や固定化がみられる。ワーキングプア率は、北日本、
近畿、中国、四国、九州で高く、関東、北陸、中部・東海で低い。そのうえ、高率の道
府県、低率の県は、固定化する傾向がみられる。
 背景に雇用や世帯を取り巻く環境の違い
地理的偏在の背景としては、雇用や世帯を取り巻く環境の差異が挙げられる。ワーキ
ングプア率の高い道府県では、低率の県に比べ、最低賃金の水準や正規雇用者の割合が
低いほか、核家族や母子世帯の割合が高く、介護や子育てといった扶養負担が大きい世
帯が多い。収入の多寡と同時に、扶養負担等によって働きたくてもそれを阻む要因を抱
える世帯が多いことに注目する必要がある。
 労働者の経済的自立に向け、地域の実情に応じた環境整備が重要
ワーキングプアを低減するには、労働者が経済的に自立できるように、中長期的視点
に立脚した地域経済の活性化といった抜本的な対策を講じていくのはもちろんのこと、
雇用や介護・子育てを取り巻く環境の整備などを進めることが求められる。
環境整備の具体的なメニューとして、雇用に関しては、①最低賃金の見直し、②裁量
労働や在宅勤務など勤務形態の多様化、③非正規雇用の正規雇用への転換の促進、④離
職者や非正規労働者向け職業訓練の拡充、介護や子育ての支援については、⑤介護・子
育て支援拠点の見直し、⑥複合的なサービスの 24 時間・365 日の提供体制の構築、⑦ICT・
AI など先端技術の活用などがある。
こうした政策メニューを各地域の特性にあわせ、施策に軽重を付けたり、優先順位を
適切に判断するなど、メリハリを効かせて組み合わせることが重要となる。
1
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本件に関するご照会は、調査部・星貴子宛にお願いいたします。
Tel:03-6833-1666
E-Mail:[email protected]
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1.はじめに
近年、貧困、とりわけ働いているにもかかわらず生活が困窮している世帯(以降、
「 ワ ーキ ン グ プ ア 世 帯 1 」と 記 す)が 増 加 し、社 会 問題 と な っ て い る 。生 産 年 齢 人 口の
減 少 が進 む な か 、 現 役 世 代 に貧 困 が 広 が る こ と は 、 子 供 や 高 齢 者 に も 影 響が 及 び 、社
会 全 体の 活 力 低 下 に つ な が るこ と が 懸 念 さ れ る た めで あ る 。 全 国 的 に 増 加し て い ると
は い え、 ワ ー キ ン グ プ ア の 実態 は 、 地 域 に よ り 様 々で あ る 。 そ こ に は 、 産業 構 造 や労
働 生 産性 等 の 経 済 状 況 や 人 口動 態 な ど 、 経 済 ・ 社 会環 境 の 地 域 性 が 影 響 して い る もの
と 考 えら れ る 。 貧 困 対 策 の 実効 性 を 高 め る に は 、 目先 の 窮 状 を 支 援 す る 福祉 的 な 発想
の 取 り組 み や 、 地 域 経 済 の 活性 化 と い っ た 抜 本 的 な対 策 と と も に 、 そ う した 地 域 性を
踏 ま えた 取 り 組 み も 重 要 と なる 。
こ う した 問 題 意 識 の 下 、 地 域の 実 情 に 即 し た 対 策 を導 入 す る う え で の 参 考と す るべ
く、
「 地域 の 貧 困 を 考 え る」シ リ ー ズ とし て 、一 連 の レポ ー ト 取 り ま と め る こと と し た。
本 シ リー ズ で は 、 都 道 府 県 ごと の ワ ー キ ン グ プ ア の実 態 を 把 握 し た う え で、 そ の 要因
や 地 域に よ る 状 況 の 違 い が 生じ る 背 景 を 考 察 す る とと も に 、 そ れ を 踏 ま えて 、 求 めら
れ る 対策 の 方 向 性 に つ い て 検討 す る 。 ま た 、 本 シ リー ズ で は 、 貧 困 世 帯 への 支 援 とし
て 、 一般 的 な 生 活 保 護 等 の 救済 型 で は な く 、 貧 困 世帯 の 自 立 を 促 す 環 境 を構 築 し てい
く と いう 観 点 か ら 対 策 を 検 討す る 。 本 稿 は 、 そ の 第 1 弾 と し て 、 都 道 府 県ご と の 貧困
の 実 態と そ の 背 景 を 明 ら か にす る 。
な お 、本 シリ ー ズ に お け る 都道 府 県 別 の 貧 困 率 2 に 関し て は 、政 府 統 計 が 整っ て い な
い 3 た め、山 形 大 学の 戸 室 健 作准 教 授 が「就 業 構 造 基本 調 査 」を基 に 推 計 した デ ー タ を
使 用 する 4 。
2.深刻化するわが国の貧困
(1) 急 増 す る 勤 労 世 帯 の 貧 困
近 年 のわ が 国 で は 、 総 世 帯 数が 頭 打 ち と な る な か 、収 入 が 最 低 生 活 費 以 下の 貧 困世
帯 が 急増 し て い る 。 主 た る 収入 の 種 類 別 に 世 帯 を 分類 し 、 そ れ ぞ れ の 貧 困率 の 変 化を
1
本 稿 に お け る ワ ー キ ン グ プ ア 、ワ ー キ ン グ プ ア 世 帯 の 定 義 は 下 記 の 通 り( 戸 室 氏 の 定 義 に 準 拠 )。
ワーキングプア:被雇用者(役員を除く)のうち、賃金収入が最低生活費以下の労働者。
ワ ー キ ン グ プ ア 世 帯 : 主 な 収 入 が 「 賃 金 ・ 給 与 」、「 事 業 収 入 ( 農 業 収 入 を 含 む )」、「 内 職 」 の 世
帯を勤労世帯とし、そのうち世帯収入が最低生活費以下の世帯 。
本 稿 で 用 い る 最 低 生 活 費 は 、 戸 室 氏 が 、 厚 生 労 働 省 の 「 2012 年 被 保 護 者 調 査 」 に お け る 「 保 護
の 決 定 状 況 額 ( 被 保 護 世 帯 数 分 の 累 計 )」 を 基 に 、 世 帯 人 員 ・ 都 道 府 県 別 に 算 出 。 な お 、 生 活 保 護
制度の基準となる最低生活費は自治体を 6 段階に等級分けし、厚生労働省が設定。
2 本 稿 の 貧 困 率 は 、生 活 保 護 基 準 。こ の ほ か 、等 価 可 処 分 所 得( 世 帯 の 可 処 分 所 得 を 世 帯 人 員 の 平
方 根 で 割 っ て 調 整 し た 所 得 )の 中 央 値 の 半 分 を 貧 困 線 と し 、所 得 が そ れ を 下 回 る 世 帯 を 貧 困 と す る
相対的貧困率がある。いずれの基準とも、貯蓄や土地・建物等の資産の有無は考慮していない。
3 総 務 省 の「 全 国 消 費 実 態 調 査 」や 厚 生 労 働 省 の「 国 民 生 活 基 礎 調 査 」を 基 に し た 相 対 的 貧 困 率 は 、
世帯類型や年齢階層別に算出されているものの、都道府県別のデータは公表されていない。
4 戸室健作『
「都道府県別の貧困率、ワーキングプア率、子どもの貧困率、捕捉率の検討」の基礎
デ ー タ 』。 当 該 デ ー タ は 、 独 立 行 政 法 人 統 計 セ ン タ ー に よ る オ ー ダ ー メ ー ド 集 計 を 基 と す る 。 デ ー
タの利用については、同氏および総務省統計局から許可を得ている。
3
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み る と、「 年 金・ 恩 給 受 給 世 帯」 の 貧 困 率 は 、 2012 年 度 時 点 で 、22.1% と 低 下傾 向 に
あ る(図 表 1)。こ れ は 、比 較的 家 計 に 余 裕 の あ る 団塊 の 世 代 が 加 齢 に よ って 年 金・恩
給 受 給層 に ス ラ イ ド し た こ とに よ り 、 貧 困 率 を 計 算す る 際 の 分 子 よ り も 分母 の 伸 びが
著 し かっ た た め と 考 え ら れ る。
( 図 表 1)
わが国の各種貧困率の推移
(%)
30
25
24.9
23.7
23.9
23.3
22.1
年金・恩給受給世帯の貧困率
20
全体の貧困率
18.3
子供の貧困率
15
ワーキングプア率
13.8
14.6
14.4
10.5
10
9.2
9.7
6.0
5.4
5
10.0
10.1
4.0
4.2
1992
1997
6.9
6.7
2002
2007
0
2012 (年度)
( 資 料 )戸 室 健 作「 都 道 府 県 別 の 貧 困 率 、ワ ー キ ン グ プ ア 率 、子 供 の 貧 困 率 、捕
捉 率 の 検 討 ( 2016 年 3 月 )」 を 基 に 日 本 総 合 研 究 所 作 成
こ れ に対 し て 、
「 ワ ーキ ン グ プア 世 帯 」の 割 合( 以 降、
「 ワ ー キ ン グ プ ア 率 」と 記 す)
は 、1992 年 度 の 4.0%か ら 、2012 年 度 に は 9.7%と な った 。ま た 、こ れ に 連 動す る 形 で、
「 子 供の 貧 困 率 5 」 も 上 昇 し 、2012 年 度 に は 、 1992 年 度 の 2.5 倍 に あ た る 13.8%と な
った。
「 ワ ーキ ン グ プ ア 率 」や「 子供 の 貧 困 率 」は、
「 年 金・恩 給 受 給 世 帯 」の 貧困 率 に比
べ る と、 低 水 準 で あ る 。 し かし 、 勤 労 世 帯 や 子 供 がい る 世 帯 の 絶 対 数 が 減少 す る なか
で 、 貧困 世 帯 数 が 増 加 し て いる こ と を 勘 案 す る と 、ワ ー キ ン グ プ ア や 子 供の 貧 困 は 、
深 刻 度を 増 し て い る と い え る。 勤 労 世 代 と 子 供 世 代は 、 現 在 か ら 未 来 に かけ て 国 を支
え る 存在 で あ る こ と を 踏 ま えれ ば 、 右 肩 上 が り に 進む 貧 困 の 拡 大 は 、 わ が国 経 済 ・社
会 の 持続 性 を 揺 る が し か ね ない 事 態 と み る こ と が でき る 。
(2) 懸 念 さ れ る 貧 困 の 連 鎖 ・ 固 定 化
こ うし た 状 況 下 、 特 に 懸 念す べ き は 、 貧 困 の 連 鎖と 固 定 化 で あ る 。
図 表 2 の 青 の 囲 み は 、貧 困 の連 鎖 の イ メ ー ジ で あ る 。 低 所得 世 帯 の 子 供 は 、進 学の
機 会 が限 定 さ れ る 結 果 、 非 正規 雇 用 や 低 付 加 価 値 産業 へ の 従 事 等 、 雇 用 や所 得 の 選択
肢 も 少な く 、親 世 代 同 様 、貧 困 状 態と な る お そ れ があ る 。2009 年 に 東 京 大学 大 学 院 が
実 施 した 調 査 6 に よ れ ば 、 子 の大 学 進 学 率 は 、 世 帯 年収 1,000 万 円 超 の 62% に 対 し 、
5
6
18 歳 未 満 の 末 子 が い る 世 帯 に 占 め る 、 ワ ー キ ン グ プ ア 世 帯 の 割 合 ( 戸 室 氏 の 定 義 に よ る )。
東 京 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 大 学 経 営・政 策 研 究 セ ン タ ー「 高 校 生 の 進 路 と 親 の 年 収 の 関 連 に つ
4
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同 200 万 円 以 下 で は 28% に 過 ぎ ず、 親 の 年 収 が 子 の進 路 を 左 右 し て い る こと が 示 唆
さ れ た。 ま た 、2014 年 の 厚 生労 働 省 に よ る 調 査 7 で は、 大 学 卒 で は 8 割 が 正規 雇 用 で
あ っ たの に 対 し 、高 校 卒 で は 5 割 、中 学卒 で は 3 割 以 下 と 、学歴 に よ り 就労 形 態 に 差
異 が 生じ て い る 。
( 図 表 2)
貧困の連鎖・固定化のイメージ
子供の貧困
ワーキングプア
低学力・低学歴
貧
困
の
固
定
化
年金未納
企業年金未加入
⇓
不十分な
保険料の積立
非正規労働
低付加価値産業従事
貧困の連鎖
年金・恩給受給貧困世帯
(≒貧困高齢者)
(資料)日本総合研究所
図 表 2 の 赤 の 囲 みは 、 貧 困 の固 定 化 の イ メ ー ジ で ある 。 ワ ー キ ン グ プ ア の大 半 は、
企 業 年金 制 度 の 対 象 外 と な るケ ー ス が 多 い 非 正 規 労働 者 や 、 同 制 度 が 整 って い な い小
規 模 企業 の 従 業 員 と み ら れ る。 こ の た め 、 年 金 を 受給 で き な い 高 齢 者 の ほか 、 受 給資
格 を 有し て い て も 、 未 払 期 間の 存 在 な ど に よ り 、 受給 額 が 生 活 保 護 基 準 であ る 最 低生
活 費 に届 か な い 高 齢 者 は 少 なく な い 。 無 年 金 ・ 低 年金 に も か か わ ら ず 、 年齢 を 理 由に
就 労 が難 し い 高 齢 者 も 存 在 し、 ワ ー キ ン グ プ ア が その ま ま 貧 困 高 齢 者 に 移行 す る ケー
ス は 増え て い る と み ら れ る 。
3.都道府県によって異なる貧困の様相
(1) 貧 困 は 地 理 的 に 偏 在 ・ 固 定 化
全 国的 に 貧 困 は 深 刻 の 度 を増 し て い る が 、 都 道 府県 別 に み る と 、 そ の 状況 は 一 様で
は な く、 地 理 的 な 偏 在 と 、 それ が 固 定 化 す る 傾 向 がみ て と れ る 。
図 表 3 は 、 各 種 の 貧困 率 に つい て 、2012 年度 の 全 国平 均 か ら の か い 離 を 、都 道 府
県 ご とに 示 し た も の で あ る 。 こ れ に よ れ ば 、 い ず れの 貧 困 率 も 、 関 東 、 北陸 、 東 海と
い っ た東 日 本 で 全 国 平 均 に 比べ 低 い 一 方 、 北 日 本 と、 近 畿 、 四 国 、 九 州 の西 日 本 で全
国 平 均を 上 回 る 傾 向 に あ る 。
い て の 調 査 ( 2009 年 7 月 )」
7 厚 生 労 働 省 「 就 業 形 態 の 多 様 化 に 関 す る 総 合 調 査 ( 2014 年 度 )
」
5
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( 図 表 3)
都 道 府 県 別 に み た 各 貧 困 率 と 全 国 平 均 と の 比 較 ( 2012 年 度 )
5 (ポイント)
4
全体の貧困率
年金・恩給受給世帯の貧困率
3
ワーキングプア率
子供の貧困率
2
高
←
1
全
国
0
→
▲1
低
▲2
北青岩宮秋山福茨栃群埼千東神新富石福山長岐静愛三滋京大兵奈和鳥島岡広山徳香愛高福佐長熊大宮鹿沖
海森手城田形島城木馬玉葉京奈潟山川井梨野阜岡知重賀都阪庫良歌取根山島口島川媛知岡賀崎本分崎児縄
道
川
山
島
(資料)図表 1 に同じ
(注)都道府県ごとに各貧困率について全国平均とのかい離幅(ポイント差)を標準化。
県 ご との 貧 困 率 の ラ ン キ ン グは 、 時 間 の 経 過 に よ って あ ま り 変 化 し て お らず 、 固定
化 が みら れ る 。2012 年 度 に おい て 、「ワ ー キ ン グ プ ア率 」 が 高 い 10 道 府 県( 上 位 10
位)、 お よ び 低 い 10 県 ( 下 位 10 位) を み る と 、 上位 、 下 位 と も に 、 半 分以 上 が 過 去
20 年 にお い て も 、 ラ ン ク イ ンし て い た こ と が わ か る( 図 表 4)。
( 図 表 4)
ワーキングプア率の順位の推移
①ワーキングプア率が高い10道府県(2012年)の過去の順位の推移
50
②ワーキングプア率が低い10県(2012年)の過去の順位の推移
(順位)
20
(順位)
(1992年27位→1997年28位)
沖縄
大阪
京都
高知
鹿児島
45
(1992年21位→1997年22位)
15
沖縄
大阪
京都
高知
鹿児島
青森
福岡
和歌山
宮崎
北海道
福岡
青森
和歌山
40
宮崎
北海道
35
10
5
30
0
1992
1997
2002
2007
2012 (年度)
1992
1997
2002
2007
(資料)日本総合研究所作成
( 注 ) 太 字 斜 体 下 線 の 道 府 県 は 「 全 体 の 貧 困 率 」 で も 上 位 10 位 、 あ る い は 下 位 10 位 以 内 。
「 ワ ーキ ン グ プ ア 率 」 の 高 い 10 道府 県 ( 以 降、「 高 ワ ー キン グ プ ア 率 群 」と 記 す )
は 、 近畿 、 四 国 、 九 州 が 中 心で 、 沖 縄 県 、 高 知 県 、鹿 児 島 県 な ど は 、 い ずれ の 時 点で
も 上 位 10 位以 内 に 入 っ て いる 。一 方 、「 ワ ー キ ン グプ ア 率 」の 低 い 10 県( 以降 、「 低
ワ ー キン グ プ ア 率 群 」 と 記 す) は 、 関 東 、 中 部 、 北陸 に 集 中 し 、 し か も 、富 山 県 、福
井 県 、滋 賀 県 、 石 川 県 な ど 、ラ ン ク イ ン す る 顔 ぶ れは 、 ほ ぼ 同 一 で あ る 。
6
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群馬
栃木
石川
滋賀
三重
岐阜
島根
茨城
福井
富山
2012 (年度)
(2) 背 景 に 雇 用 お よ び 世 帯 を 取 り 巻 く 環 境 の 違 い
① 多変量解析による地域差の要因分析
ワ ー キン グ プ ア の 地 域 差 が 生じ る 要 因 を 明 ら か に する た め 、重 回 帰 分 析 8 と因 子 分 析
の 多 変量 解 析 を 行 っ た と こ ろ、 ワ ー キ ン グ プ ア 率 の差 異 に は 、 単 純 な 経 済規 模 の 大小
よ り も、雇 用 や社 会 を 取 り 巻 く環 境 の 違 い が 、大 き く かか わ っ て い る こ と が 示さ れ た 。
ま ず 、重 回 帰 分 析 か ら は 、 失業 率 、 非 正 規 雇 用 者 の割 合 、 最 低 賃 金 の 水 準 9 (以 降 、
「 最 低賃 金 水 準 」 と 記 す ) など の 就 労 に 関 す る 変 数と 、 3 世 代 世帯 の 割 合、 母 子 世 帯
の 割 合、 高 齢 者 に 占 め る 要 介 護 4 以 上 の 要 介 護 者 の割 合 ( 以 降、「 重 度 要 介護 者 割 合」
と 記 す)と い っ た 扶養 に 関 する 変 数 が 、
「 ワ ー キ ン グプ ア 率 」の 高低 に 関 連し て い る 可
能 性 が確 認 で き た 。
こ れ を「 ワ ー キ ング プ ア 率」の 高 い 3 府 県と 低 い 3 県で 比 べ た も の が 図 表 5 で あ る 。
各 項 目と も 、外 側 に向 か う ほど 、
「ワ ー キ ン グ プ ア 率」の 押 し 上 げ要 因 と なる こ と を 意
味 す る。
( 図 表 5)
関連を確認できた項目の標準化指数の群別の比較
①ワーキングプア率が高い3府県
②ワーキングプア率が低い3県
失業率
失業率
母子世帯割合
最低賃金水準
非正規雇用者割
合
3世代世帯
非正規雇用者割合
3世代世帯
母子世帯割合
最低賃金水準
平均
平均
大阪
重度要介護者割
合
京都
重度要介護者割合
労働生産性
高知
富山
労働生産性
福井
茨城
沖縄(参考)
(資料)日本総合研究所作成
(注)沖縄県は、ワーキングプア率が最も高いものの、重回帰分析の対象外であるため、参考とした。
図 表 5 の 左 図 に 示 し た 「 ワ ーキ ン グ プ ア 率 」 の 高 い 3 府 県 で は 、 グ ラ フ が平 均 線よ
り 外 側に 張 り 出 し 、 い ず れ の項 目 も 押 し 上 げ に 作 用し て い る 一 方 、 右 図 の低 率 の 3 県
を み ると 、 一 部 の 項 目 で 平 均を 上 回 る も の の 、 そ れを 打 ち 消 す 形 で 、 他 の項 目 が 平均
を 下 回っ て い る 。
「 ワ ー キ ン グ プ ア 率 」 が 極 端 に 高 い 沖 縄 県 を 除 い た 46 都 道 府 県 を 対 象 に 、「 ワ ー キ ン グ プ ア 率 」
を 被 説 明 変 数 と し 、 有 意 水 準 5%の も と 、 ス テ ッ プ ワ イ ズ 変 数 選 択 法 を 用 い 、 実 施 し た 。 説 明 変 数
に は 、経 済 状 況 、労 働 環 境 と い っ た 収 入 に 直 接 的 な 影 響 を 及 ぼ す 変 数 ば か り で な く 、生 活・社 会 環
境の影響を確認するため、世帯や教育などに関する変数も用いた 。
な お 、ス テ ッ プ ワ イ ズ 変 数 選 択 と は 、多 く の 変 数 の な か か ら 、予 測 に 適 し た 変 数 の み を 選 択 し 重
回帰式を作成する方法。選択の過程で、多重共線性のおそれのある変数は除外した。
9 最低生活費(年額)を基準にした最低賃金(年額)の水準を表した値。
本 稿 で は 、世 帯 人 員 が 2 人 の 最 低 生 活 費 を 用 い た 。ま た 、最 低 賃 金 は 時 給 で 設 定 さ れ て い る た め 、
月の平均労働時間数を基に年額に換算した。
最 低 賃 金 水 準 = ( 最 低 賃 金 ( 時 給 ) ×月 平 均 労 働 時 間 ×12 カ 月 ) ÷世 帯 人 員 2 人 の 最 低 生 活 費
(年額)
8
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次 に、因 子 分 析か ら 、都 道 府 県を 特 徴 づ け る 4 因 子 10 のう ち 、
「 収 入 環 境 」因 子 と「 雇
用 機 会」 因 子 が、「 ワ ー キ ン グプ ア 率 」 に 影 響 を 及 ぼす こ と が 確 認 で き た 。
「 収 入環 境 」 因 子 は 、 因 子 得点 が 高 く な る に 従 い 「ワ ー キ ン グ プ ア 率 」 が低 く なる
傾 向 を示 し た 。 同 因 子 は 、 賃金 水 準 や 収 入 源 の 状 況を 表 し 、 得 点 が プ ラ スで あ れ ば世
帯 の 収入 環 境 が 良 好 な 地 域 を意 味 す る 。 同 得 点 が 下が る に 従 い 世 帯 収 入 が押 し 下 げら
れ る ため 、 ワ ー キ ン グ プ ア が増 加 す る と 思 わ れ る 。
こ れ に対 し て 、
「 雇 用機 会 」因 子 は 、点 数に 比 例 し「 ワ ー キン グ プ ア 率 」が 高 く なる
傾 向 を示 し た 。 同 因 子 は 、 雇用 機 会 の 悪 化 の 程 度 を表 し 、 非 正 規 雇 用 者 の割 合 が 高い
と 点 数が 高 く な る 。非 正 規 雇用 者 の 賃 金 は 正 規 雇 用者 の 6~7 割 に 過 ぎ ず、非 正 規 雇 用
者 の 割合 が 高 い 地 域 は 、 ワ ーキ ン グ プ ア が 生 じ や すい 環 境 に あ る と 考 え られ る 。
( 図 表 6)
収入および雇用の状況を示す因子とワーキングプア率の相関関係
高齢化・人口減(第2因子)
①「収入環境」因子
(点)
②「雇用機会」因子
16 (%)
16 (%)
14
14
12
12
ワ
ー 10
キ
ン 8
グ
プ
ア 6
率
ワ 10
ー
キ
ン 8
グ
プ 6
ア
率
y = -1.675x + 9.3099
R² = 0.4683
4
y = 1.5307x + 9.3478
R² = 0.3289
4
2
2
0
▲2
▲1
0
0
1
2
収入環境
3
▲2
(点)
▲1
0
1
雇用機会
(資料)日本総合研究所作成
② 「高ワーキングプア率群」の特徴
以 上 の結 果 を 基 に、
「 高 ワ ー キン グ プ ア 率 群 」の 特 徴を ま と め る と 、下 記 の通 り であ
る。
雇 用 環境 に つ い て は 、第 1 に 最 低 賃 金 水 準の 低 さ が挙 げ ら れ る 。全 国 的 に 、最 低賃
金 は 最低 生 活 費 を 下 回 っ て いる が 、「ワ ー キ ン グ プ ア率 」 上 位 3 府 県 で は 、と り わ け
低 く 、全 国 平均 を も 下 回 っ た 。第 2 は 、雇 用 者 に 占め る 非 正 規 雇 用 者 の 割合 の 高 さ が
挙 げ られ る 。2012 年 度 に は、「 高 ワ ーキ ン グ プ ア 率 群」 の 道 府 県 が 、 非 正 規雇 用 者 の
割 合 の上 位 5 位 ま でを 占 め た。
世 帯 環境 に 関 し て は 、 家 族 によ る 介 護 力 や 子 育 て 力が 脆 弱 な 点 が 挙 げ ら れる 。 図表
7 は 、各 都 道 府 県の 介 護・子育 て の 負 担 を 示 す 指 数 11(以 降 、
「 扶 養 負 担 指 数」と 記 す )
10
他の二つの因子は、生産活動を示す因子と、高齢化および人口減少の進展を示す因子である。
両 因 子 と も「 ワ ー キ ン グ プ ア 率 」と の 明 確 な 関 連 性 は 確 認 で き な か っ た 。な お 、こ れ ら 四 つ の 因 子
に よ っ て 説 明 で き る 都 道 府 県 の 性 質 は 、 全 体 の 66% 程 度 に 過 ぎ ず 、 解 釈 の 際 は 、 そ の 点 に 留 意 す
る必要がある。
11
指 数 が 高 い ほ ど 、扶 養 負 担 が 大 き い こ と を 表 す 。重 回 帰 分 析 で 関 連 性 が 確 認 で き た a.地 域 の 重
8
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2
(点)
と「ワ ー キ ン グ プ ア率 」との 関 係 を 表 し たグ ラ フ であ る 。
「 扶 養 負 担 指 数」が 高 い 地 域
ほ ど、「 ワ ー キン グ プ ア 率 」 が高 く 、「高 ワ ー キ ン グ プア 率 群 」 に お け る 扶 養負 担 が 大
き い こと が 確 認 で き る 。 こ れは 、 介 護 や 子 育 て 等 によ っ て 、 就 労 へ の ア クセ ス が 制限
さ れ 、そ の 結 果 、 家 計 の 維 持に 必 要 な 収 入 が 十 分 確保 で き な い こ と を 意 味す る 。 雇用
環 境 ばか り で な く 、 扶 養 負 担も ワ ー キ ン グ プ ア の 一因 と い え る 。
( 図 表 7)
扶養負担指数とワーキングプア率の相関関係
16 (%)
大阪
京都
14
12
鹿児島
福岡
和歌山
北海道
宮崎
高知
青森
高ワーキングプア率群
ワ 10
ー
キ 8
ン
グ
プ 6
ア
率 4
2
y = 1.034x + 9.4602
R² = 0.5601
0
▲4
▲3
▲2
▲1
0
1
2
扶養負担指数
3
4
5
(ポイント)
(資料)日本総合研究所作成
(注)囲み内の▲は「高ワーキングプア率群」の道府県。ただし、沖縄県は、ワー
キングプア率が外れ値のため、除外した。
4.ワーキングプア対策の課題
(1) ポ イ ン ト は 労 働 者 の 経 済 的 自 立 に 向 け た 環 境 整 備
ワ ー キン グ プ ア の 低 減 に 当 たっ て は 、 上 述 し た よ うな 労 働 者 を 取 り 巻 く 環境 の 改善
を 図 る必 要 が あ る 。 そ の た めに は 、 地 域 産 業 の 構 造改 革 、 新 規 産 業 の 創 出 、 労 働 市場
の 流 動性 向 上 な ど に よ り 地 域 経 済 を 活 性 化 さ せ る とと も に 、 核 家 族 化 や 少子 高 齢 化の
進 展 に歯 止 め を か け る こ と など が 必 要 と な る 。 も っと も 、 こ う し た 対 策 は、 中 長 期観
点 か ら進 め ら れ る べ き で あ り、 一 朝 一 夕 に 成 果 が 得ら れ る も の で は な い 。
し か しな が ら 、 上 記 の よ う な根 本 治 療 の 成 果 を 待 って い て は 、 ワ ー キ ン グプ ア の増
加 に 歯止 め が か か ら ず、む し ろ、最 も 重要 な 資 源 で あ る人 材 を 活 か し き れ な いと い う 、
わ が 国の 経 済 ・ 社 会 の 基 盤 を蝕 む 事 態 が 招 来 さ れ かね な い 。 こ う し た こ とを 踏 ま える
と 、 中長 期 的 視 点 に 立 脚 し た地 域 経 済 の 活 性 化 と いっ た 抜 本 的 な 対 策 は もち ろ ん のこ
と 、 雇用 や 介 護 ・ 子 育 て を 取り 巻 く 環 境 の 整 備 な どを あ わ せ て 進 め て い くこ と が 求め
度 要 介 護 者 割 合( 介 護 負 担 要 因 )、b.子 育 て 負 担 が 相 対 的 に 大 き い 母 子 世 帯 の 割 合( 育 児 負 担 要 因 )、
お よ び こ う し た 介 護・子 育 て 負 担 の 軽 減 に 作 用 す る と み ら れ る c. 3 世 代 世 帯 の 割 合( 扶 養 負 担 の 緩
和要因)をそれぞれ標準化し、下記の計算式を用いて算出。
扶養負担指数=(重度要介護者割合標準化指数+母子世帯割合標準化指数)
-3 世代世帯割合標準化指数。
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ら れ る。
具 体 的な メ ニ ュ ー を 挙 げ る と、雇 用 環境 の 改 善 に 関 して は 下 記 の 4 点 が 重 要で あ る。
① 最 低生 活 費 を 下 回 っ て い る最 低 賃 金 を 、 地 域 の 生活 実 態 に 見 合 っ た 金 額へ 引 き上
る最 低 賃 金 の 引 き 上 げ
② 非 正規 労 働 者 や 介 護 ・ 育 児に よ る 離 職 者 を 対 象 に、 正 規 雇 用 化 や 職 場 復帰 の 支援
と 合 わせ 、 市 場 ニ ー ズ に 応 じた 知 識 ・ 技 術 の 習 得 機会 を 提 供 す る職 業 訓 練 の 拡 充
③ 裁 量労 働 、 在 宅 勤 務 、 地 域限 定 等 、 時 間 や 勤 務 地の 制 約 が 少 な い 働 き 方を 導 入す
る勤 務 形 態 の 多 様 化
④ 非 正規 雇 用 者 の 正 規 雇 用 への 転 換 等 を 促 進 す る正 規 雇 用 の 拡 大
介 護 ・子 育 て 環 境 の 改 善 に つい て は 、 次 の 3 点 が 挙げ ら れ る 。
① 人口 動 態 を 踏 ま え て 介 護施 設 や 保 育 施 設 等 の 定員 の 増 減 、 拠 点 の 新 設・ 統 合 など
を 進 める 地 域 の 実 態 に 即 し た サ ー ビ ス 提 供 拠 点 の 見 直 し
② 専 門的 な 介 護 や 子 育 て 支 援 サ ー ビ ス を 組 み 合 わ せた り 、 そ れ ら と 家 事 支援 を ワ ン
ス ト ップ で 提 供 し 、 か つ 臨 時・ 緊 急 時 に も 対 応 で きる 複 合 的 な サ ー ビ ス の 24 時
間 ・ 365 日 提 供 体 制 の 整 備
③ 介 護や 子 育 て 支 援 で の ICT( 情報 通 信 技 術 )や AI( 人 工 知 能)と い っ た 先 端 技 術
の積極的な活用
(2) 求 め ら れ る 地 域 の 実 情 に 即 し た 対 策
ワ ー キン グ プ ア 問 題 の 解 決 に向 け た 課 題 と 対 策 の ポイ ン ト を み て き た が 、ワ ー キン
グ プ ア対 策 を 講 じ る に 当 た って は 、 い く つ か の 課 題を 取 り 纏 め 、 総 合 的 に取 り 組 むこ
と が 重要 で あ る 。 複 数 の 課 題が 相 互 に 関 係 す る こ とで 、 事 態 が 複 雑 化 し てい る た めで
ある。
も っ とも 、 ど の 課 題 が 「 ワ ーキ ン グ プ ア 率 」 を 押 し上 げ て い る か 、 そ れ ぞれ の 課題
が ど のよ う に 影 響 し 合 っ て いる か は 、地 域 に よ り 様 々で あ る た め、
「 ワ ー キ ング プ ア 率」
が 高 いか ら と い っ て 、 他 県 と同 じ 対 策 を と っ て も 、効 果 が 保 証 さ れ る と は限 ら な い。
対 策 の実 効 性 を 高 め る に は 、地 域 の 実 態 に 応 じ て 、 施 策 を 組 み 合 わ せ 、 カス タ マ イズ
す る 必要 が あ ろ う 。
そ こ で、
「 ワ ー キ ン グプ ア 率 」が 全 国平 均 を 上 回 り 、か つ 10%以 上 と 高 率 の 19 道府
県 に つい て 、 こ れ ま で の 分 析・ 検 証 結 果 等 を 踏 ま えて 分 類 し た 結 果 、 い くつ か の パタ
ー ン に大 別 で き た( 図 表 8)。各 パ ター ン の 特 徴 と 求め ら れ る 対 策 の 方 向 性は 、次 の 通
り で ある 。
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( 図 表 8)
ワ ー キ ン グ プ ア 率 10% 以 上 の 19 道 府 県 の 分 類
収入環境悪化型
良
←
愛媛
岡山
熊本
鳥取
大分
雇
用
機
会
宮城
福岡
高知
兵庫
大阪
京都
青森
長崎
宮崎
和歌山
奈良
鹿児島
→
北海道
悪
沖縄
複合型
雇用機会悪化型
悪 ←
収入環境
→ 良
(資料)日本総合研究所作成
(注1)バブルの大きさは、扶養負担の大小を示す。
(注2)白抜きのバブルは、扶養負担指数がマイナス(低扶養負担)を示す。
①
雇用機会悪化・高扶養負担型
収 入 環境 は 決 し て 悪 く な い もの の 、 雇 用 機 会 が 縮 小し 、 扶 養 負 担 が 大 き い地 域 で 、
青 森 県と 和 歌 山 県 が 該 当 す る。 両 県 と も 、 雇 用 の 拡大 を 柱 に し た 労 働 市 場の 整 備 が必
要 で ある 。 加 え て 、 こ れ ま での と こ ろ 、 扶 養 負 担 の大 き さ を 世 帯 収 入 の 多さ で カ バー
し て いる も の の 、 高 齢 化 や 人口 減 少 の 進 展 が 見 込 まれ る な か 、 今 後 、 介 護負 担 が 一段
と 増 大し 、 世 帯 収 入 を 圧 迫 する お そ れ が あ る 。 そ れに 備 え 、 介 護 環 境 の 整備 を 速 やか
に 進 める こ と が 求 め ら れ る 。
②
収入環境悪化・低扶養負担型
扶 養 負担 に よ る 影 響 が 小 さ く、 雇 用 機 会 の 拡 大 よ りも 収 入 環 境 の 改 善 に 重点 を 置い
た 対 応が 必 要 な 地 域 で 、宮城 県 と 熊 本 県 が該 当 す る。両 県 で は、
「 最 低 賃 金水 準 」の 引
き 上 げが 対 策 の 柱 と な る 。 加え て 、 宮 城 県 で は 、 世帯 当 た り の 有 業 者 の 人員 の 増 加を
促 進 する こ と も 求 め ら れ る 。
③
収入環境悪化・高扶養負担型
収 入 環境 の 改 善 に 注 力 し 対 策を 進 め る と と も に 、 介護 ・ 子 育 て 環 境 の 改 善が 急 がれ
る 地 域で あ る 。 鳥 取 県 、 岡 山県 、 愛 媛 県 、 長 崎 県 、大 分 県 が 該 当 す る 。 収入 環 境 の改
善 は、県 に よ り 対 策の 柱 が 異な り 、鳥 取 県や 岡 山 県で は「 最 低 賃金 水 準」の 引 き 上 げ 、
長 崎 県と 大 分 県 で は 有 業 人 員割 合 の 引 き 上 げ 、 愛 媛県 で は 「 最 低 賃 金 水 準」 と 有 業人
員 双 方の 対 応 が 重 要 と な る 。介 護 ・ 子 育 て 環 境 の 整備 は 、 い ず れ の 県 も 、介 護 に 重点
を 置 く必 要 が あ る 。
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Research Focus
④
複合・低扶養負担型
雇 用 機会 が 縮 小 し 、 か つ 収 入環 境 が 悪 い も の の 、 扶養 負 担 は 小 さ い 地 域 で、 奈 良県
の み が該 当 す る 。 同 県 で は 、介 護 ・ 子 育 て 環 境 よ りも 雇 用 環 境 の 整 備 に 重点 を 置 き、
最 低 賃金 の 引 き 上 げ や 正 規 雇用 の 拡 大 を 図 る 必 要 があ る 。
⑤
複合・高扶養負担型
雇 用 環境 全 体 に 改 善 が 必 要 なう え に 、 扶 養 負 担 の 軽減 が 求 め ら れ る 地 域 であ る 。北
海 道 、京 都 府 、 大 阪 府 、 兵 庫県 、 高 知 県 、 福 岡 県 、宮 崎 県 、 鹿 児 島 県 、 沖縄 県 が 該当
す る。雇 用 環 境 に つい て は、
「 最 低賃 金 水 準 」の 引 き上 げ や 正 規 雇 用 の 拡 大に 重 点 を 置
い た 対策 が 求 め ら れ る 。 介 護・ 子 育 て 環 境 に つ い ては 、 介 護 サ ー ビ ス の ほか 、 乳 幼児
を 含 めた 子 育 て 支 援 サ ー ビ スを 提 供 す る 体 制 の 整 備が 急 が れ る 。
5.おわりに
ワ ー キン グ プ ア の 増 大 は 、 貧困 の 連 鎖 ・ 固 定 化 を 通じ て 、 将 来 に わ た り 、わ が 国の
経 済・社 会 の 屋 台 骨を 揺 る がし か ね な い 問 題 で あ る。も っ と も 、こ こ ま では 、
「ワ ー キ
ン グ プア 率 」 の 高 い 地 域 に つい て み て き た 。 し か し、 現 時 点 で 「 ワ ー キ ング プ ア 率」
の 低 い地 域 に お い て も 、 今 後の 社 会 情 勢 の 変 化 に よっ て は 、 貧 困 が 課 題 とし て ク ロー
ズ ア ップ さ れ る 可 能 性 も あ る 。 そ う し た 地 域 で も 、地 域 の 特 性 に 適 し た 対応 策 が 必要
と な ろう 。
わ が 国の 持 続 的 な 発 展 に 向 けて 、 一 億 総 活 躍 社 会 の実 現 が 最 重 要 課 題 と なる な か、
ワ ー キン グ プ ア 問 題 を 克 服 し、 国 民 一 人 ひ と り が 能力 や 意 欲 を 最 大 限 に 引き 出 す こと
が で きる よ う 、 民 間 企 業 と 行政 が 連 携 し 、 こ れ ら 施策 に 迅 速 に 取 り 組 む こと が 求 めら
れる。
< 参 考文 献 ・ 資 料 >
・ 駒 村康 平 [2007]、「ワ ー キ ング プ ア ・ ボ ー ダ ー ラ イン 層 と 生 活 保 護 制 度 改革 の 動 向」
『 日 本労 働 研 究 雑 誌 』 563 号 、独 立 行 政 法 人 労 働 政 策研 究 ・ 研 修 機 構 、 2007 年 6
月
・ 駒 村康 平 [2015]、『中 間 層 消滅 』、 KADOKAWA、 2015 年 3 月
・ 橘 木俊 詔 ・ 浦 川 邦 夫 [2012]、『 日 本 の 地 域 間 格 差』、 日 本 評論 社 、 2012 年 6 月
・ 戸 室健 作 [2013]、「近 年 に おけ る 都 道 府 県 別 貧 困 率の 推 移 に つ い て」『 山 形大 学 紀 要
( 社 会科 学 )』 第 43 巻 第 2 号 印 刷 、2013 年 2 月
・戸 室 健 作[2016]、
「 都 道 府 県別 の 貧 困 率 、ワ ー キ ング プ ア 率 、子 ど も の 貧困 率 、捕 捉
率 の 検討 」『 山形 大 学 人 文 学 部研 究 年 報 第 13 号 別 冊』、2016 年 3 月
・ 内 閣府 [2016]、『 平 成 28 年 版 高齢 社 会 白 書』、 2016 年 5 月
・ 水 無田 気 流 [2014]、『 シ ン グル マ ザ ー の 貧 困』、 光 文社 、 2014 年 11 月
・ 星 貴子 [2015]、「 地域 包 括 ケア に お け る 住 民 組 織 の役 割 と 求 め ら れ る 対 応 」『JRI レ
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日本総研
Research Focus
ビ ュ ー』 2015 Vol6, No25、2015 年 6 月
・ 星 貴子 [2015]、「 東京 圏 に おけ る 高 齢 者 介 護 の 課 題と 求 め ら れ る 取 り 組 み 」『JRI レ
ビ ュ ー』 2015 Vol.10, No.29、2015 年 12 月
・ 厚 生労 働 省 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.mhlw.go.jp/)
・ 総 務省 統 計 局 ホ ー ム ペ ー ジ( http://www.stat.go.jp/)
・ 内 閣府 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.cao.go.jp/)
・ 経 済産 業 省 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.meti.go.jp/)
・ 文 部科 学 省 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.mext.go.jp/)
・ 国 立社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研究 所 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.ipss.go.jp/)
・ 独 立行 政 法 人 労 働 政 策 研 究・ 研 修 機 構 ホ ー ム ペ ージ
(http://www.jil.go.jp/index.html)
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日本総研
Research Focus