高吸水性樹脂の 機能からみた用途展開

P
C
erformance
124
活 躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
hemicals
SAP応用分社
R&D主任
高 吸 水 性 樹 脂の
機 能からみた用途 展 開
鳴瀧 雅司
[紹介製品のお問い合わせ先]
SAP応用分社
高吸水性樹脂(Super Absorb-
土 木・建 築 な ど の 分 野 に ま で
な機能と発現原理は以下の通り
ent Polymer、以下 SAP)は、多
広まっている。それは、SAP が
である。
量の水を吸収してゲル化し、そ
吸水性(自重の数百倍の水を吸
①吸水性:電解質は水に触れる
の吸収した水を保持する機能を
収する)、保水性(いったん吸
と イ オ ン 化 し、SAP の 周 り
有した高分子材料である。当社
収した水は多少の圧力を加えて
の水と分子内部のイオンの浸
が工業化に適した SAP の開発
も離さない)、膨潤性(すばや
透圧によって分子内部に水が
を 行 い、1978 年 に 世 界 初 の 商
く吸水して膨らむ)
、ゲル化力、
入る[図 1]。
業 生 産 に 成 功 し た。SAP は 紙
増粘性などのさまざまな性能を
②膨潤性:分子の網目内では、
おむつやナプキンなどの衛生材
有 し て い る た め で あ る。表 1
マイナスに荷電したイオン同
料の吸収材として採用され、衛
は、そ の 用 途 例 を SAP の 機 能
士の反発によって分子鎖が広
生材料の普及に伴い、その需要
によって分類したものである。
がる。その範囲は架橋によっ
は年々伸びてきた。
その用途は衛生材料にとどま
てコントロールできる。
SAP の機能発現原理
③保 水 性:架 橋 構 造 の た め、
いったん分子内部に入った水
らず、農業・園芸、食品・流通、
SAP は ア ク リ ル 酸 塩 系 の 高
日用雑貨・化粧品、ペット関連、
分子電解質で、適度に三次元に
は簡単に出ていかない。
メディカル、電気・電子材料、
架橋された網目構造をとる。主
④ゲル化力:適度に架橋された
表1
SAPの機能と用途例
機能
分野
吸水性・保水性
衛生材料
膨潤性
ゲル化力
増粘性
紙おむつ・生理用品
農業・園芸
土壌保水剤
育苗用シート
種子コーティング材
食品・流通
結露防止シート
ドリップ吸収材
鮮度保持材
保冷材
日用雑貨・
化粧品
使い捨てカイロ
冷却用バンダナ
芳香剤・消臭剤
吸水土のう
災害用簡易トイレ
化粧品用増粘剤
廃血液固化剤
湿布材
ペット関連
メディカル
流体は種
肥料の徐放剤・農薬
ペットシート、
ネコ砂
創傷保護用ドレッシング材
電気・電子材料
通信ケーブル用止水材
土木・建築
結露防止用建築資材
その他
油中水分除去
残土固化材
ガスケットパッキング
三洋化成ニュース
消化水
水損防止廃液ゲル化剤
❶ 2016 冬 No.499
COO
水
水
水
COO
水
OOC
COO
水
COO
水
水
紙おむつ
水
CO
O
吸水前
水
COO
水
水
図1
COO
COO
水
吸水後
るかを紹介する[表 2]。なお、
SAPの吸水原理
衛生材料向けには、関係会社の
SDP グローバル㈱が取り扱っ
高分子である SAP は、水に溶
濁重合法で得られる『アクアパー
ける水溶性高分子と、イオン
ル』シリーズの両方を保有してい
交換樹脂のように水に不溶で
る唯一のメーカーである。
ている。
吸水性・保水性を生かす
固体のままの非水溶性高分子
水溶液重合法で得られる SAP
SAP の 吸 水 性 は イ オ ン の 浸
の間の性質を持ち、吸水する
は、分 子 量 が 高 い た め、吸 水
透圧、水との親和性、架橋密度
と水に溶けずにゲルになる。
性、保水性やゲル化力に優れ、
(低い方がよい)により制御で
⑤増 粘 性:水 溶 液 な ど に SAP
かつ長期間保持できることが特
きる。また、架橋密度を変化さ
を添加することで、その溶液
長である。一方、逆相懸濁重合
せることで、吸水性と保水性の
の粘度を上げる。
法により得られる SAP は、パー
バランスをコントロールする。
ル状に近い形状を有する粒子か
吸水性や保水性が生かされる分
らなる。その形状と表面積を制
野として代表的なものが紙おむ
SAP の 製 造 法 に は 水 溶 液 重
御することにより、膨潤性を高
つなどの衛生材料である。衛生
合法と逆相懸濁重合法がある。
められることが特長である。
材料以外では下記のような用途
当社 SAP の特長
当社は水溶液重合法で得られる
本稿では、多岐にわたる産業
『サンウェット』シリーズ、
『サン
分 野 で、当 社 SAP が ど の よ う
フレッシュ』シリーズと、逆相懸
な機能を生かして、活躍してい
表2
に展開されている。
[農業・園芸]
農業・園芸分野で代表的なも
SAPの機能と当社の主な製品
機能
分野
衛生材料
吸水性・保水性
膨潤性
ゲル化力
増粘性
サンウェット シリーズ、
アクアパール シリーズ
(関係会社SDPグローバル㈱の取り扱い品)
農業・園芸
サンフレッシュ GT−1
食品・流通
サンフレッシュ ST−500D*
サンフレッシュ ST−500MPSA
サンフレッシュ ST−500D*
サンフレッシュ ST−250*
日用雑貨・
化粧品
サンフレッシュ ST−500D*
サンフレッシュ ST−573
サンフレッシュ ST−500D*
サンフレッシュ ST−250*
アクアパール E−200
サンフレッシュ ST−500MPSA
サンウェット IM−1000MPS
ペット関連
サンフレッシュ ST−250*
アクアパール E−200
メディカル
サンウェット IM−300MPS
サンウェット IM−1000MPS
アクアパール E−200
サンフレッシュ ST−250*
サンウェット IM−300MPS
サンウェット IM−1000MPS
サンフレッシュ ST−500D*
アクアパール E−200
アクアパール E−200
電気・電子材料
土木・建築
サンフレッシュ ST−500MPSA
サンフレッシュ ST−500D*
サンフレッシュ ST−500D*
お取り扱いいただく際は弊社営業所にお問い合わせください。
また必ず
「安全データシート」
(SDS)
を事前にお読みください。
ご使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。
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❷ 2016 冬 No.499
トなどの形態がある。
のが土壌保水剤である。従来の
SAP では植物の生育を阻害する
当社製品では吸放湿性に優
課題があったが、
『サンフレッ
れ る『サ ン フ レ ッ シ ュ ST−
シュ GT−1』はこの課題を解決
500D*』や『サ ン フ レ ッ シ ュ
し、農業・園芸、のり面・屋上
ST−500MPSA』が有効である。
緑化や砂漠緑化に利用されて
いる。
膨潤性を生かす
ペットシート
その他、
①育苗用シート、②肥
SAP の 優 れ た 膨 潤 性 を 生 か
料、農薬などの表面をコーティ
イレ)やネコ砂が代表的な商品
す分野が、電気・電子材料分野
ングし、土壌中での徐放性を改
である。ペットシートはパルプ
で あ る。膨 潤 性 は、SAP 分 子
良した緩効性肥料や農薬などに
と SAP でできた吸収層を中心
の架橋密度が低いほど高く(膨
も展開されている。
に、尿を吸収体層へ導く表面不
潤倍率)
、膨潤速度はイオン浸
織布、吸収した尿の裏側へのし
透圧と SAP の表面積などで制
み出しを防ぐ防漏フィルムから
御できる。
[日用雑貨]
日用雑貨の分野では、夏場に
首や額に巻いて冷感を得る冷却
なる。
[通信ケーブル用止水材]
用バンダナ、汗などを吸収する
ネコ砂は、パルプ、古紙やお
地中や海底に敷設される電
靴の中敷き、ヘルメットの内側
がくずを丸めた核の表面に
力・通 信 ケ ー ブ ル や 光 フ ァ イ
に装着する汗取りバンドなどで
SAP を コ ー テ ィ ン グ し た ペ
バーケーブルの表面被覆材とし
使用されている。
レット状のものが主流である。
て SAP が 使 用 さ れ て い る。不
用途に応じて、
『サンフレッ
ネコの排尿した部分だけが塊に
織布に SAP を塗布したテープ
シュ ST−500D*』や『サンフ
なるように設計されており、処
をケーブル芯と外壁被覆材との
レ ッ シ ュ ST−573』な ど が 使
理が簡単である。加えて、従来
間に挿入することによって、万
われる。
使用されてきたベントナイトな
一被覆が破損して水が浸入した
どに比べ、軽量化できることも
場 合 で も、SAP が 素 早 く 水 を
特長である。
吸収し、水の浸入を最小限度に
[使い捨てカイロ]
使い捨てカイロは、鉄粉が空
気中の酸素で酸化し酸化鉄にな
吸水が速い『サンフレッシュ
る時に発生する熱を利用してい
ST−250*』や『アクアパール
る。この酸化を促進させる触媒
E−200』が有効である。
と し て 食 塩 水 が 必 要 で あ る。
[結露防止シート]
食い止めることができる。
当 社 製 品 で は 吸 水 が 速 く、
膨 潤 性 に 優 れ る『ア ク ア パ ー
ル E−200』が有効である。
SAP は 食 塩 水 の 保 持・徐 放 剤
密閉されたコンテナ内では外
と し て 使 用 さ れ て い る。SAP
気温の変化によって結露水が発
を使用したカイロは食塩水の吸
生し、農産物の品質が損なわれ
水・保水性がよく、一方で酸化
ることがある。結露防止シート
少 量 の SAP で ゲ ル 化 す る。ゲ
促進に必要な量だけ食塩水を徐
は、SAP の も つ 調 湿 性(湿 度
ル 化 速 度 は SAP の 表 面 積(形
放する役割を担う。
が高い条件では吸湿し、湿度が
状)で、ゲルの硬さは架橋密度
当社製品では長期間保持性に
低い条件では放湿する)を利用
で コ ン ト ロ ー ル で き る。SAP
優れる『サンフレッシュ ST−
している。2 枚の通気性のある
のゲル化力を生かす分野として
500D*』が有効である。
膜に SAP を挟んだシートや不
下記のようなものがある。
[ペット関連]
ペットシート(犬の室内用ト
織布上に SAP の微粉末をバイ
ンダーでコーティングしたシー
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ゲル化力を生かす
SAP の 分 子 量 が 高 い ほ ど、
[保冷材]
野菜などの生鮮食料品、ケー
保冷材
キや冷凍食品の輸送時に使用さ
災害用簡易トイレ
である。
吸水土のう
[災害用簡易トイレ]
れる保冷材(ポリエチレンなど
の袋にゲル状の材料を入れたも
準備が迅速に行えるうえ、軽量
災害時の簡易トイレ用尿固化
の)にも SAP が使われている。
かつ保管の場所をとらない。積
剤として SAP が使用されてい
保冷するものに合わせて、ゲル
み上げて使用されるため、硬いゲ
る。便 器 に ビ ニ ル 袋 を セ ッ ト
の硬さを変える必要性がある。
ルを形成する『サンフレッシュ
し、SAP を 振 り か け 尿 を ゲ ル
硬 い ゲ ル の タ イ プ は『サ ン フ
ST−500D*』が有効である。
化させる。使い捨てで中身がこ
レ ッ シ ュ ST−500D*』、柔 ら
[残土固化材]
ぼれることを避けるために速く
ゲル化することが求められる。
か い ゲ ル の タ イ プ は『サ ン フ
水分を多く含み、流動性のあ
レ ッ シ ュ ST−250*』が 有 効
る建設残土は山積み・運搬など
同じくレジャーやドライブ用と
である。
が 困 難 で あ る。SAP を 混 錬 す
して便利な携帯用トイレも商品
ることで余剰の水分を吸収させ
化されている。
[廃血液固化剤]
医療現場の外科手術時に発生
流動性をなくすことができる。
当社製品ではゲル化が速い
す る 廃 血 液 な ど を 固 化(ゲ ル
さらに無機系固化材に比べ、処
『サ ン フ レ ッ シ ュ ST−250*』
化)さ せ る た め に SAP が 使 用
理後の土の pH 変化が小さいこ
や『ア ク ア パ ー ル E−200』が
されている。廃血液などは専用
とも特長である。少量でゲル化
有効である。
容器に回収され、保管・輸送や
し、流動性を低くできる『サン
最近では、第 1 回福島第一廃
処理過程で廃血液の漏液による
フレッシュ ST−500D*』が有
炉国際フォーラムと同時開催
二 次 感 染 の 危 険 を 防 ぐ た め、
効である。
さ れ た 廃 炉 技 術 展 に 出 展 し、
SAPでしっかり固化させている。
[芳香剤・消臭剤]
福島原発の廃液処理での SAP
当社製品では『アクアパール
ゲル芳香剤に使用されるゲル
(SAP 応用製品)の実用可能性
E−200』や『サ ン フ レ ッ シ ュ
化剤には多糖類が一般的である
を探索するなど、新たな用途開
ST−250*』はゲル化が速く漏
が、ゲル化させる際に温度を上
拓にも注力している。今後は国
液しにくいため適している。
げる必要があるため、香料の揮
内市場だけでなく、新興国を中
発や劣化を伴う課題があった。
心とした海外展開も視野に入
台風や豪雨の時に発生する浸
し か し な が ら、SAP は 室 温 で
れ、ユーザーニーズに対応した
水などの災害対策用の備品とし
ゲル化できるので、これらの心
SAP の 開 発、用 途 展 開 を 推 進
て普及している「吸水土のう」に
配がなく、さらに芳香剤・消臭
していく。
SAPが使われている。通常の土
剤の香料の徐放性にも優れてい
のうは袋に土を詰めて作成する
る。少量でゲル化しやすく、ゲ
が、
「吸水土のう」はSAPの入っ
ル の 安 定 性 に 優 れ る『サ ン フ
た袋を水に浸すことで完成する。
レッシュ ST−500D*』が有効
[吸水土のう]
三洋化成ニュース
❹ 2016 冬 No.499
参考文献
1)増田房義『高吸水性ポリマー』高分
子学会編、共立出版(1987)
2)長田義仁『ゲルハンドブック』エヌ・
ティー・エス(1997)