完全予約制の消化器専門クリニック 在宅を視野に今後

医業会計データベース
MX2・MX3 活用事例
医療法人西山醫院
院長
西山 努
N i s h i y a m a Ts u t o m u
完全予約制の消化器専門クリニック
在宅を視野に今後の方向性を模索する
高い専門性で消化器領域全般の疾病の診断と治療に注力する西山醫院(福岡県大牟田市)
。診療待ち時間で患
者さんにストレスを与えないために完全予約制を採用する。また、開業時から「TKC 医業会計データベース
(MX2)
」を導入し、毎月、毎月の経営状況をしっかりと把握してきた。大牟田市の急速な人口減少や、患者さん
の高齢化などから、西山努院長は大局的に見てクリニックの転換点に差しかかっているととらえ、今後の方向
性を模索する。
■ DATA
医療法人西山醫院
http://nishiyama-iin.or.jp/
所在地
〒 837-0923 福岡県大牟田市新町 68-2
TEL:0944-56-5111
院長 西山努
日本内科学会認定医
日本消化器病学会専門医
日本肝臓学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
ヘリコバクター・ピロリ感染症認定医
日本医師会認定産業医
診療科目
内科・胃腸科・消化器科
診療時間
月〜土
9 : 0 0 ~ 13 :0 0
14 : 3 0 ~ 18 :3 0
※休診日:日曜日・祝日
消化器領域を中心に専門性の高い医療を提供する西山醫院
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NOV. 2016 TKC医業経営情報
経営情報システム
完全予約制で 1 人ひとりに誠心誠意
専門性の高い医療を提供
── 診療科として内科、胃腸科、消化器科を掲げてい
らっしゃいますが、西山醫院の特徴というと、どのよう
なことになるのでしょうか。
西山 当院の特徴は「完全予約制」です。大牟田市のよ
うな人口減少の激しい地方都市では非常に珍しいと思
います。それも内科です。医師会仲間の先生たちも「よ
くやっていけるね」と言うぐらいです。けれども、そ
の完全予約制について現状では固執しています。
その上で、かかりつけの患者さんを大事にする。逆
吹き抜けで開放的な待合室
に言えば、初めて来られる新患の患者さんに対しては
ながら、どういう検査を組んでいくかというところま
間口が狭いといえるかもしれません。なぜなら、予約
でいろいろプランニングしていく。しかもそれをカル
患者で外来が埋まれば、ほかの患者さんを診る余裕が
テにきちんと書く。私のカルテはわかりやすくきちん
なくなります。大まかに、9 割くらいが予約の患者さ
と書いているという自負をもっています。患者さんに
んではないでしょうか。残りの1割が急に熱が出たと
誠心誠意の対応をし、1 人 10分、フルに使います。カ
か、おなかが痛くなった、風邪をひいたなどの飛び込
ルテ書きなども 10分ではできないこともあります。
みの患者さんになります。
── 消化器内科の専門クリニックとして、内視鏡の検
査や悪性疾患などの診断と治療に注力されているよう
ですね。
電子カルテはわかりやすさに貢献
人口減少地域における高齢化が課題
西山 消化器内科だけでも、胃がん、肝がん、胆のう
── 電子カルテも開業のときからのようですね。
がん、大腸がんなどがあります。これらを拾い上げ中
西山 画像がパッと出て、プレゼンするときにわかり
核病院に送る。少なくとも、見落とさないことです。
やすいでしょう。僕たちは画像診断医、内視鏡医です
── こだわりを持っていらっしゃる完全予約制のスタ
から、自分が撮った画像診断の根拠を患者さんにわか
イルは、開業前から考えられていたのですか。
りやすくプレゼンするにはモニターは必須です。そう
西山 そうです。僕は医学部を卒業して入った医局が
いう顧客サービス、満足度には電子カルテはずいぶん
消化器内科でした。そのときに僕のベースができたと
貢献していると思います。
思うのですが、消化器内科という医局に入ったからに
── ホームページにもわかりやすい医療ということが
は、その領域のエキスパートドクターにならなければ
記載されていました。それとともにホームドクターと
いけないという自負もあったし、だからこそ大学院ま
いうことも出ていましたね。
で行って学位もその領域で取りました。卒業した後
西山 ホームドクターは、いまは在宅医療に力を入れ
も、消化器内科領域の専門医、肝臓専門医、ベースと
ている先生方といようなニュアンスになっています
なる内科認定医などを、きちんと更新するべく勉強、
が、少なくとも 10年前にクリニックを立ち上げたとき
最低限の講習会や実技トレーニングを続けています。
のホームドクターには、在宅という意味合いはありま
その自分が最大限に与えることのできる医療技術を患
せんでした。高齢化率が違うように、当時は、高血圧・
者さんに還元するには予約外来しかないということで
糖尿病・脂質異常症の 3大成人病の患者さんたちが基
す。自分のスキルを生かすための方法です。
本的には月に 1 回、ウォークインしてくれる。その患
患者さんと接して、しゃべって、触って、一通り診
者さんとどうやって付き合っていくかというときに、
てからプランニングしなければならない。つまり、患
予約制だったわけです。
者さんの現状と、今後の変動に対することまで予測し
僕の中でもその概念が少しずつ変わりつつあるのは
TKC医業経営情報 NOV. 2016
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事実です。少しくらい在宅を診ないといけないのでは
な い か。な ぜ な ら、10 年 間 付 き 合 っ て き た 元 気 に
ウォークインしてくれていた患者さんが、10 歳年を取
れば、
「もう来られない」
「きつくなった」となります。
すると、そういう方たちを他のクリニックに回すこと
になりますし、経営的にも成り立たなくなります。そ
ういう意味で、過渡期だと思います。
── 患者数は減ってきているのでしょうか。
西山 ここ 1 ~ 2年は横ばいでしょう。新患数の上昇
率は減っています。
これは大牟田市の事情ですが、人口10 万人以上の都
市で人口減少率はワースト4 位(2012 年)
、高齢化率は
月曜から土曜日の午前中は内視鏡の検査を行う
ワースト2 位(2009 年)です。僕が小学生のときは 1 学
ら、地方都市の宿命も背負っているのです。
年 6組まであったのが今は2 組です。その親世代も同
患者さんの平均年齢は、10 年前に比べ見事に10歳
様に3 分の1になっている。人口が減少し、高齢化する
上がっています。現在の患者数は、1 人 10 分が基本で、
のもよくわかります。最近、特に実感しています。そ
8時間ですから、だいたい 50名くらいです。
の一方で、消化器内科をしている先生は多いのです。
僕のように予約制まではしていなくても、軸足を消化
器内科においている先生は多い。患者さんの自然減少
と、人口自体も大きく減少する中で、パイは小さく
転換期に差しかかったクリニック
在宅医療も視野に今後を検討
なっています。
── 顧問税理士の山根和彦先生とは開業当初からのお
そういう中で、僕がいちばん診たいのは壮年です。
付き合いになるそうですが。
胃がん、大腸がんの人たちを拾い上げて、適材適所で
西山 この方は僕にとっては財産で、かけがえのない
中核病院に送る。これまでは「西山先生のところはよ
パートナーです。
くがんを見つけてくださいますね」と言われてきたけ
山根 経営者の中でも西山先生は、すごく真剣だと思
れど、その壮年者がいなくなる。そういう状況ですか
います。数字もしっかり見られます。
●外来(入院)収益分析表
西山努院長が重視する経営数値は ?
▶▶▶医業収益の内容を診療行為別に
チェックする
「TKC 医業会計データベース」
(MX2)を活
用して、患者数と、医業収益、原価利益、経
常利益を毎月確認するのはもちろん、年間の
着地点を予測する中で、月々の動向を把握し
ます。さらに医業収益は、診療行為別に把握
して、その中身を重視しています。このよう
な分析は会計事務所のサポートが不可欠だ
といいます。
※ TKC 医業会計データベース(MX2) 画面サンプル(取材医院とは関係ありません)
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NOV. 2016 TKC医業経営情報
経営情報システム
──「TKC 医業会計データベース(MX2)」を活用されて
いますが、試算表では何に注目されますか。
西山 月に 1回、山根税理士と会って最初に聞くこと
は、黒字なのか赤字なのかです。本来は黒字・赤字よ
りもその内容が大事なことはわかっているのですが、
気持ちとしては、1か月働いたら、患者さんが何人で、
黒字なのかどうかです。そしてその内容も含めて、い
ろいろディスカッションするのです。
── どのような内容になるのでしょうか。
西山 TKCのシステムに沿って状況を説明してもら
うとともに、レセプト枚数は何枚で、検査件数は何件
あったかなど細かく見ていき、年間の最終的な着地点
西山努院長と山根和彦税理士(右)
を予測しながら打ち合わせます。
てきましたが……。
山根 診療行為別にレセプトの分析も毎月していま
── なかなか踏み出せないところがあるようですね。
す。レセプト情報をいただき、それをもとに独自にエ
それと、専門性の高いクリニックと在宅医療とでは方
クセルで資料をつくります。やはり、先生方とお話し
向性が違うようにも感じますね。
する際の共通言語はレセプトであり点数になります。
西山 そうなんです。高い専門性を求める患者さんの
── 収益と診療行為が紐づけされているので、いろい
グループは絶対にゼロにはなりませんが、こういう地
ろな問題点なども見つけやすいのでしょうね。
方都市ではそのグループが小さすぎるのです。
西山 たとえば、インフルエンザの薬は、ほかのクリ
それに、軸足は変えたくないのです。これまでのや
ニックに比べるとグッと少ないので、インフルエンザ
り方を否定することになります。ただ、そこにプラス
の時期はそういう患者さんをもう少し増やすという対
の方法論を入れるとすれば、週 2日くらい午後を休診
策も考えられるわけですが、予約の患者さんで受けら
にして在宅をするということなのでしょうね。いろん
れない。そういう短所が把握できるのは助かります。
なことを含めてクリニックとして転換点に差しかかっ
── しっかりと現状を把握されているわけですが、そ
ています。よく検討して決めたいと思います。
の課題への対応は難しいところですね。
(平成 28 年 8 月18 日 / 本誌編集部 柿崎法夫)
西山 今のやり方では、患者数をこれ以上増やせない
ことが課題です。どこのクリニックでも患者さんが
いっぱいの午前中、当院は10 時半まで内視鏡の検査を
していて、外来は閉じています。また予約制は患者数
に限りがあります。
本当はもう 1 人、活きのいいお医者さんが欲しいと
ころです。うまくシナジーが出るところを山根さんと
シミュレーションをしたのですが、大牟田市の状況も
含めて、今後右肩上がりで推移していくような状況に
ないことから、新しく医師を雇ったとしても使い切れ
ない可能性があります。現実的ではありません。
── 今後、在宅に取り組まざるを得ないのではないか
というお話しもあったわけですが。
西山 在宅となれば 24時間開けておかなければなり
ません。そういう勉強会は目白押しなので、話を聞け
会計事務所からの一言
院長先生のパートナーとして
経営、税務面から支援
山根会計事務所
税理士 山根和彦
院長先生とは、事業承継のため、医院に帰って来られた時か
ら、10年以上もお付き合いをさせていただいております。
西山先生の医療に対する真摯な気持ちは、以前と全く変わ
らず、曲がったことや自分が納得できないことには首を縦
に振らないという、しっかりとした信念をお持ちのドク
ターです。
今後は、先生のご懸念の通り、医院の転換期に差し掛かって
います。私も、的確なアドバイスで経営が順調に発展へ向か
うようご支援をしていきます。
ば、それほど肩肘張って考えなくてもいいことは見え
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