マイクロバブルクーラントによる切削加工

B07
マイクロバブルクーラントによる切削加工
(第1報:簡易マイクロバブルクーラント発生装置の開発)
日本工業大学 鈴木清,石田實, 北陸職業能力開発大学校 ○二ノ宮進一,
富山県立大学 岩井学,植松哲太郎
Machining with a micro bubble coolant method (1st repot: Development of a micro bubble generator)
Nippon Institute of Technology Kiyoshi SUZUKI, Minoru ISHIDA,
Hokuriku Polytechnic College Shinichi NINOMIYA,
Toyama Prefectural University Manabu IWAI and Tetsutaro UEMATSU
A new coolant method for machining by using the micro bubble coolant where the diameter of the bubble is 10-20µm is
proposed in this study. A simple and inexpensive micro bubble generator is manufactured which can be applied to various
machining operations. The results indicate that the developed generator generates the micro bubbles stably and a large number
of micro bubbles are present in the coolant supply from the nozzle outlet.
Moreover, from the drilling test using the micro
bubble coolant method on S50C, it is found that this method has some effects of improving the tool life.
1.はじめに
冷却,潤滑,および切屑除去作用を担う除去加工液に関す
る研究が活発化している.その主目的は,液量の低減,加工
品質の向上,および工具寿命の増大にある.目的達成の方策
として,従来は除去加工液成分に関する研究が行われてきた
が,メガソニッククーラント1)のように物理的エネルギを利
用して加工液を活性化させる試みも行われている.近年,湖
水の浄化や,物体と液体との摩擦抵抗低減などに応用する研
究が進められ,一部実用に供されているマイクロバブル(直径
10~20μm 程度の微細な気泡)も液を活性化させるという点で
は除去加工用クーラントなどにも効果的と考えられる.
本研究では,上記マイクロバブルを加工液中に発生させる
ことで加工特性の向上を図る“マイクロバブルクーラント加
工法”を提案し,その発生装置の試作と基本的特性の調査を
行った.
2.マイクロバブルの特性
産総研の資料2)ではマイクロバブルを以下のように説明し
ている.『空気を多気孔体から排出するときに生ずる気泡な
どは,気泡径が大きく,水中に供給しても極めて短時間に消
滅するのに対し,マイクロバブルは,上昇速度が遅く広大な
比表面積を持つため,水中で溶解しながら縮小して,最終的
に消滅する(図1).マイクロバブルは,電荷を帯びており,
通常のマイクロバブルは表面電位として-30~-50mV に帯
電している.また,表面張力の作用による自己加圧効果があ
る.この圧力の上昇は気泡径に反比例するため,気泡の縮小
と共に内部圧力が上昇して,ナノレベルに至った段階では数
十気圧以上に加圧されている.』
3.マイクロバブルの発生機構
多数の研究者や技術者によって,多くのマイクロバブルの
発生方法が提案され,実用化されている.マイクロバブルの
発生方法を大別すると,(1)多孔質体を使用する方法,(2)外部
から空気を取り入れ,せん断する方法,(3)液流によりキャビ
テーション現象を発生させ,利用する方法などがある.上記
(3)により,マイクロバブルはベンチュリー管やアスピレータ
の原理などを応用することで,比較的簡単に発生し得る.液
体中に溶存している気体を利用しても発生するが,液体と圧
縮空気等を混合することでその製造が容易になることなどが
わかっている3).
2004 年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集
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4.マイクロバブルクーラント加工法の提案
マイクロバブルを除去加工に適用した際に期待される効果
および利点を表1に示す.マイクロバブルクーラントによっ
て生じる気化潜熱を利用した冷却効果や液の活性化による切
り屑の排出・洗浄効果ならびにこれらの相乗効果による加工
性能の向上などが予想される.
さらに,マイクロバブルを応用した加工液には,さまざま
な用途が考えられる.以下にマイクロバブル加工液としての
効果が期待できる例を列挙する.
(1)マイクロバブルクーラント:切削,研削加工液(水,ソリ
ューション,エマルジョン,ストレートオイル)への適用.
本報告では,主としてこの技術に対しての適用の可能性を調
査した.
(2)マイクロバブル放電加工液:(a)WEDM 用マイクロバブル純
水を用い,外部トリガー(放電火花)によるマイクロバブルの爆
発エネルギを付与および(b)深穴加工用マイクロバブル EDM
加工液に用いることで流動抵抗の低下が利用できる.
消滅
破裂
上昇
縮小
(a)通常の気泡
(b)マイクロバブル
図1 通常の気泡とマイクロバブルの比較2)
表 1 マイクロバブルクーラントに期待される効果
・加工液の冷却作用の向上
・切り屑の洗浄効果の向上
・加工液の加工点への確実供給,
・加工液供給量の低減
・工具摩耗の抑制
・加工性能の向上
・装置の簡便性
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5.簡易マイクロバブルクーラント発生装置の試作
簡易で安価なマイクロバブルクーラント装置を試作した.
マイクロバブルの発生にはボルテックス・キャビテーション
現象(渦空洞化現象)を利用した.ボルテックス・キャビテ
ーションは,渦の中心の低圧部に発生し,安定で崩壊しにく
い特徴を持つ.さらに,配管の解放端にテーパ部を設け,ベ
ンチュリー管の原理を応用して,液流の進行とともに圧力差
が生じるようにすることで,急激な圧力変化によってバブル
が緻密化される現象を利用した.試作したマイクロバブルク
ーラント発生機構の概略を図2(a)に示す.液流を旋回流にす
るため,配管中に特殊な溝形状を有する機構を設け,液中に
含有されている空気を分離・抽出する.この装置を使って水
道水を供給したところ,良好なマイクロバブルが発生した(図
2(b)).図3は,生成したマイクロバブル混入水をビーカに
貯め,放置した状況を示している.マイクロバブルは時間が
経過してもビーカ内に長く残留していることがわかる.
さらに,発生したマイクロバブルクーラントを安定的に加
工点へ供給するため,配管内にバブル溜り用のタンクを取り
付け,その上部のノズルから加工液が飽和して供給されるよ
うにした.吐出する加工液にはマイクロバブルが多く含有さ
れていることが確認できた(図4).
6.ストレートドリル穴あけ加工に対する効果
マイクロバブルクーラントが加工性能向上に及ぼす影響を
調査するため,マイクロバブルクーラント装置を用いて,穴
あけテストを行った.実験条件を表2に示す.本実験の加工
液には市水を利用し,マイクロバブルの混入および無しで実
験した.穴あけ実験の結果,連続穴あけ中に急激に切削音が
大きくなり,加工継続不能になる直前までの穴あけ総数を比
較すると,通常クーラントよりもマイクロバブルクーラント
は向上し,刃先部分の摩耗進行が抑制される効果が若干見ら
れた(図5).
7.おわりに
マイクロバブルの加工への応用の可能性を見出し,簡易な
発生・供給装置を試作した.この装置によって,安定したマ
イクロバブルクーラントを加工点に供給することが可能とな
った.今後,各種加工特性を詳細に調査していく.
本研究を実施するにあたり,被削材をご提供頂いた
OSG(株)ならびにご協力いただいた BP JAPAN KK(カストロ
ール),日本工大 白石陽一君に深く感謝申し上げる.
8.参考文献
気泡混入旋回流
ノズル先端
絞り弁
液供給
気泡微細化ノズル 旋回流発生機構
マイクロバブル
(a)マイクロバブル発生機構
(b)水中での発生状況
図2 簡易マイクロバブル発生機構の概要
マイクロバブル
なし
図3
マイクロバブル
混入直後
マイクロバブル
混入 1 分後
マイクロバブル混入後の状況
ノズル
バブルなし
タンク
白濁
バブルなし
図4
バブル混入
バブル混入
簡易マイクロバブル発生装置による加工液供給状況
表2
実験装置の仕様及び実験条件
使用機械 縦型マシニングセンタ(V-10,ヤマザキマザック)
切削工具
ストレートドリル
(φ6mm,HSS,ノンコート,NACHI)
ノズル
吐出口径φ9mm
研削液
水道水(マイクロバブル混入および無し)
設定供給流量:q=3.5 l /min
切削条件 S50C; V=30m/min,送り:f=0.225mm/rev,深さ=12mm
1000
穴あけ数 個
(3)マイクロバブル化学反応液:メッキ液等に適用し,反応時
間の短縮(高速化)
,高品質化が期待される.
(4)マイクロバブルによる洗浄:マイクロバブルによって洗浄
効果の向上・促進が期待される.
(5)マイクロバブルによる分散:微細砥粒の均一分散などを期
待して,加工および調合などへの適用がある.
(6)マイクロバブルによる摩擦低減:マイクロバブル低抵抗浮
上スライダー等への取り組みがある.
ドリル(HSS:φ6mm),S50C, V=30m/min,
f=0.225mm/rev, Depth 12mm
800
600
710
570
400
1mm
<通常クーラント>
200
0
1) 鈴木清,岩井学,植松哲太郎,三代祥二,田中克敏:メガ
ソニッククーラント加工法の研究(第1報), 砥粒加工学会誌
通常クーラント マイクロバブル
クーラント
Vol.48, no.2 (2004) pp95-100.
< 穴あけ総数の比較 >
2) 産業技術総合研究所ホームページ,http//www.aist.go.jp
<マイクロバブル>
図5 穴あけ数の比較と加工後のドリル切れ刃摩耗状態
3) 日本工業新聞,JIJweb,2004.07.15,http//www.jij.co.jp
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