世紀の誤算のインパクト、『Brexitショック 企業の選択』

リサーチ TODAY
2016 年 11 月 2 日
世紀の誤算のインパクト、『Brexitショック 企業の選択』
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2016年も終盤に差し掛かってきたが、今年最大のサプライズは英国のEU離脱の国民投票の結果が、
Brexitに賛成になったことであったと言っていいだろう。これは、「世紀の誤算」とも言われている。英国から
みて日本は「極東」とされるように、日本からみても英国は地理的には遠い国である。しかし、Brexitによって
日本にも大きな影響が及ぶことに注目する必要がある。みずほ総合研究所は、『Brexitショック 企業の選
択』と題する書籍を出版している1。今後、英国とEUとの交渉はどのような時間軸で行われるのか、日本企
業はどのような対応を進めればいいのか、離脱後の英国とEUの関係はどのような形になるのか等の論点は、
日本企業がリスクシナリオを作成する上で不可欠である。下記の図表は、EU離脱交渉が日本企業に及ぼ
す影響をまとめた概念図である。図表にあるように、日本企業は①政治的な側面、②世界経済への影響、
③英国金融街シティへのインパクト、④「ヒト、モノ、カネ、サービス」の移動への影響等、様々な観点から自
身への影響を事前に考えておく必要に迫られている。
■図表:EU離脱が日本に及ぼす影響
英・EU間の交渉の時間軸や交渉内容は?(何時までに何に備えればいいのか?)
EU懐疑政党が台
頭し、EU政治不
安が高まる?
EU離脱に伴う経済主
体や市場の変化が世
界需要に影響?
英金融街シティが衰
退し、金融機関がロ
ンドンより流出?
EU離脱で4つの自由
移動(ヒト・モノ・カネ・
サービス)を喪失?
EU離脱ドミノによる政
治リスクは?
欧州での事業戦略は?
為替への影響は?
英国、EU、世界経
済への影響は?
金融機関の立地戦略が
変わる?
英国の金融センターとし
ての地位低下?
英国の規制・法制への影
響は?
英国で人材確保は?
EUへの輸出は?
日本経済・産業・企業へ影響
(資料) みずほ総合研究所作成
次ページの図表は英国のEU離脱の5つのモデルを示す。英国がこれから行う新協定の締結に向けた交
渉には、大きく分けて2つの方向性がある。英国がEUを離脱することに変わりはないが、離脱後の姿として、
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2016 年 11 月 2 日
「法制を出来る限りEUと同一にし、現状維持に近づける」という道と、「英国の主権維持を最優先してEUか
らは距離を取る」との道である。EUとの新協定の主な選択肢は、下記の図表の通りであるが、ここで挙げら
れた4つのモデルの違いは、EU法をどこまで受け入れるかにある。図表では上欄ほどEU法の許容度が高
い選択肢になり、下にあるWTO型は移民の制限を重視し、EUと何の協定も結ばない「ハードBrexit」とされ
るものである。
■図表:EU離脱の5つのモデル
自由な市場へのアクセス
財
サービス
金融サービス
(注)
高
単一市場へ
の参加度
(EU法の許
容度)
低
EU移民
の受入
1
ノルウェー型
(EEA協定に参加)
○
○
○
○
2
スイス型
(EUと二国間協定締結)
○
△(非常に
限定的)
×
○
3
カナダ型
(EUと自由貿易協定(FTA)締結)
○
△
(部分的)
×
×
4
WTO型
(EUと何の協定も結ばず)
×
×
×
×
5 英国の現状(EUメンバー)
○
○
○
○
(注)ここでの金融サービスとは、金融機関がEU域内に子会社を設置することなく、直接的に金融サービスを提供でき
るかどうか。
(資料)The City UK "A Practitioner's Guide To Brexit", Open Europe
"Trading Places: Is EU Membership Still the
Best Option for UK Trade?", HM Government "Alternatives to membership: possible models for the United
Kingdom outside the European Union"等を元にみずほ総合研究所作成
今日、英国政府が目指そうとする「移民制限」と「EU単一市場への参加」の同時達成という、「良いとこど
り」を、今のところEUは認めていない。特に厳しい姿勢を示しているフランスでは、国を挙げて欧州の金融
センターとしての地位をロンドンからパリに移そうとしている。英国としても、「移民制限」と「EU単一市場への
参加」のバランスをどう取るかの決定を、どこかのタイミングで迫られる可能性がある。英国はこれからEUと
の厳しい交渉に直面することになるだろう2。それゆえ、日本企業としては、様々な選択肢を想定した上で対
応が必要になる。いずれにしてもBrexitは、2020年代を展望した長い道のりのスタートである。今後も当社
は各局面に対処し日本企業に資する情報を発信していく所存である。
1
2
『Brexit(英離脱)ショック 企業の選択』 (吉田健一郎 日本経済新聞出版社 2016 年)
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/book/161014.html
詳しくは、『みずほ欧州経済情報』(2016 年 10 月号 2016 年 10 月 25 日)を参照いただきたい。
筆者の都合により、11 月 4 日(金)から 11 日(金)は休刊とさせていただきます。
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