資本資産評価モデル(CAPM)

現代ファイナンス論講義ノート No.6
資本資産評価モデル(CAPM)
蛭川雅之
2016 年 10 月 31 日
現代ファイナンス論講義ノート No.6
担当:蛭川雅之
1 市場リスクと個別リスク
1.1 2種類のリスク
• 投資を分散化することにより、リスクを減少させることができる。
– 一般に、ポートフォリオに組み入れる株式数を増加させると、
ポートフォリオのリスクは減少する。
• 株式数を増加させても、リスクを完全に取り除くことはできない。
– 個々の株式のリスクは2種類のリスクから成り立っている。
(株式のリスク) = (市場リスク) + (個別リスク)
2016 年 10 月 31 日
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担当:蛭川雅之
1.2 市場リスク
• 市場リスク (market risk)、もしくはシステマティック・リスク
(systematic risk) は経済全体に影響を及ぼす変数(=マクロ経済変
数)と連動する。
– マクロ経済変数の例:景気、金利、為替. . .
• 分散投資を行っても市場リスクを取り除くことはできない。
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1.3 個別リスク
• 個別リスク (unique risk)、もしくはアンシステマティック・リスク
(unsystematic risk) は市場の動きに依存しない。
– 企業、もしくは業界固有の要因によって発生する。
• 個別リスクは分散投資によって解消することができる。
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2 資本資産評価モデル (CAPM)
2.1 市場リスクと β
結論 1 十分に分散化されたポートフォリオのリスクは、そのポートフォ
リオを構成する株式の市場リスクによって決まる。
• 株式固有の市場リスクは β(ベータ) で測ることができる。
– β は、株式の(超過)収益率をマーケット・ポートフォリオの
(超過)収益率に回帰させたときの傾きとして表現される。
– マーケット・ポートフォリオの代理変数として株価指数(例:
TOPIX、NIKKEI225、S&P500. . . )が用いられる。
– リスクフリー・レートの代理変数として短期国債利回り、T-Bill
Rate などが用いられる。
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■収益率の散布図:S&P500 (ˆGSPC) vs. General Electric Company (GE)、
2002 年 10 月∼2012 年 9 月
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結論 2 β は、市場全体のリターンが 1% 変化するとき、その株式のリター
ンが何 % 変化するかを示す感応度である。
• β 値の特徴を以下のように要約できる。
1. β > 1 ⇒ この株式のリターンの変動は市場全体のリターンの
変動を上回る。
2. 0 < β < 1 ⇒ この株式のリターンの変動は市場全体のリター
ンの変動より小さい。
3. β < 0 ⇒ この株式のリターンの変動は市場全体のリターンの
変動と逆方向である。
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2.2 β とリスク・プレミアムとの関係
• 投資家はリスク回避的 (risk-averse) であると仮定する。
– リスクが高い資産に投資する際は、そのリスクに見合ったリ
ターンを要求する。
(期待収益率) = (リスクフリー・レート)+(リスク・プレミアム)
• リスク・プレミアムはリスクをとることに対する報酬と考えられる。
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• 以下のケースでは β 値およびリスク・プレミアムが具体的に求めら
れる。
1. 無リスク資産に投資する場合:
– β=0
– (リスク・プレミアム) = 0
2. マーケット・ポートフォリオに投資する場合:
– β=1
– (リスク・プレミアム) = E (rm ) − rf 、ただし、rm および
rf はそれぞれマーケット・ポートフォリオの収益率、およ
びリスクフリー・レートを表す。
• β ̸= 0, 1 のとき、リスク・プレミアムはどのように計算されるか?
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2.3 資本資産評価モデル (CAPM)
結論 3 マーケット・ポートフォリオの収益率、リスクフリー・レート、お
よび資産 i の収益率をそれぞれ rm 、rf および ri と表す。このとき、資本
資産評価モデル (Capital Asset Pricing Model, CAPM) は
E (ri ) − rf = βi {E (rm ) − rf }
(1)
と定式化される。
• この式は、任意の資産のリスク・プレミアムがその資産の β 値 βi
に比例することを意味する。
(資産 i のリスク・プレミアム) = βi ×(マーケット・リスク・プレミアム)
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例 4 リスクフリー・レート(例:国債の利回り)が 1.5%、マーケット・
ポートフォリオの期待収益率が 5.5% の場合、β 値が 1.25 の資産 i の期待
収益率は式(1)から
E (ri ) = rf + βi {E (rm ) − rf }
(2)
= 1.5% + (1.25) (5.5% − 1.5%)
= 6.5%
と計算される。
• 式(2)は β − E (r) 平面上で直線で表される。
– この直線を証券市場線(Security Market Line, SML)という。
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2.4 資本市場線 (CML) と証券市場線 (SML) の対比
CML
SML
図示する平面
σ − E (r)
β − E (r)
リスクの尺度
σ :絶対的
β :相対的
(マーケット・リスク・
プレミアムとの対比)
直線が表す関係
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効率的ポートフォリオ
任意の資産のリスク・
(マーケット・ポートフォ
プレミアムとマーケット・
リオと無リスク資産との
リスク・プレミアムとの
組合せ)
(β を通じた)関係
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3 効率的市場仮説
• 株式投資は将来見通しに基づいて行われる。
– 株価を決定するのは予想である。
– 予想は投資家が利用する情報によって決定される。
• 予想形成に関して情報が有効利用されることを(情報に関して)効
率的であるという。
– 現在に至るまでの情報が正確かつ速やかに株価に反映される市
場を(情報に関して)効率的な市場(Informationally Efficient
Market)とよぶ。
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• 効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis, EMH)では、株式
市場が情報に関して効率的であると考える。
– 市場が効率的 ⇔ 市場平均を上回るパフォーマンスを上げる可
能性はない
• 効率的市場仮説における情報のレベルには、以下の3種類がある。
1. ウィーク・フォーム(weak-form)
2. セミストロング・フォーム(semistrong-form)
3. ストロング・フォーム(strong-form)
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3.1 ウィーク・フォーム(weak-form)
• 現在の株価には過去の株価が反映されていると考える。
• 過去の株価の動きのパターンを分析して将来の株価を予想すること
はできない。
– テクニカル分析・時系列分析を使って儲けることはできない。
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3.2 セミストロング・フォーム(semistrong-form)
• 現在の株価には過去の株価に加えて、市場参加者が共通に利用可能
な公開情報全てが反映されていると考える。
• 公開されている企業情報(例:有価証券報告書)を利用して将来の
株価を予想することはできない。
– ファンダメンタル分析・アナリスト情報を使って儲けることは
できない。
– 市場関係者の多くは、市場はセミストロング・フォームの意味
で効率的であると考える。
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3.3 ストロング・フォーム(strong-form)
• 現在の株価には一部の市場参加者のみが利用可能な未公開情報を含
む全ての情報が反映されていると考える。
– インサイダー情報を使っても儲けることはできない!?
• 市場がストロング・フォームの意味でも効率的であると考えるには
少々無理がある。
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3.4 効率的市場仮説は成り立つか?
• 効率的市場仮説が成り立っているか否かの問題には決着がついてい
ない。
• 実証分析では、しばしば市場の効率性を否定する結果が出る。
– アノマリー(変則事象)· · · 証券市場で見られる規則性(根拠
は不明)
1. 曜日効果(週末効果):リターンは月曜日に低く、金曜日
に高い。
2. 1月効果:1月のリターンは他の月のものに比べて高い。
3. 規模効果(小型株効果):時価総額の小さい企業の株式の
リターンは時価総額の大きい企業のものに比べて高い。
– 株価の予測可能性(⇔ ランダム・ウォーク仮説)
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