「アメリカ議会で影響力を発揮する『ロビイスト』」(PDF)

D.C.通信
海外だより
連載 66
中村岳志 (JA全中農政部国際企画課<在ワシントン>)
November, 2016
アメリカ議会で影響力を発揮する
「ロビイスト」
な手段があり、例えば、仕事を
通じ業界幹部や大物政治家との
人脈を築いた議会スタッフや政
府職員が退職して転身する例が
多くの国でそうであるように、
グを展開しているが、最も多い
多いほか、大企業の担当幹部が、
アメリカにおいてもさまざまな
のが経済・業界団体であり、全
多大な献金を通じて特定の政治
団体・企業等の利益集団により、
米商工会議所などの分野横断的
家と強い関係を築いている例も
政府・議会に対する働きかけが
な経済団体、製薬や自動車など
多い。こうした強力な人脈と資
行われている。
の業界別団体、労働組合等があ
金を活用し、議員の意思決定に
議会における法案の可決・否
る。また、農業関連団体も多
影響を及ぼすのである。
決に影響を及ぼすために政府や
く、品目横断団体のほか、品目
なお、ロビイングには何らか
議会に働きかけることは「ロビ
別では牛肉、豚肉、乳製品、米、
の形でカネが絡み、汚職疑惑も
イング」
、それを行う人々は「ロ
砂糖、トウモロコシ、大豆等の
絶えなかったことから、原則と
ビイスト」と呼ばれ、顧客や雇
団体が大きい。
してロビイストは登録制となっ
用主の利益となる法律や政策の
その他にも、アフリカ系アメ
ており、活動内容や資金提供元
実現に向けて活動している。
リカ人やヒスパニックなどの団
の公開が義務付けられている。
体、特定国家の利益を追求する
■アメリカの利益集団
団体、さらには環境保護、消費
■おわりに
アメリカでは諸外国に比べて
者 保 護、教 育 改 善、女 性 の 地
ロビイストを通じた利益集団
も特にロビイングが盛んである
位・権利向上を目指す団体など、
の活動は、各議員の投票行動に
が、その理由としては、人種、
極めて多様である。
大きな影響を与えており、例え
民族、宗教等の異なる多様な
こうした団体は、組織内にロ
ば環太平洋連携協定(TPP)を
人々から成る国家であることか
ビイストを抱えるか、法律事務
めぐっても、製薬業界の献金を
ら、自らの所属グループを少し
所や広告会社などに所属する外
受ける上院財政委員長が、先進
でも有利にしていくために政治
部のロビイストと契約し、情報
医薬品の知的財産保護が不十分
への働きかけを展開してきたこ
収集や働きかけを行っている。
として反対し、審議を進められ
と、また、要求の実現のために
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ない理由のひとつとなっている。
積極的に発言・行動していくこ
■ロビイストの経歴
アメリカ議会の動きを分析して
とが評価される文化が浸透して
ロビイストは、議員や政府要
いくためには、世論だけではな
いることなどがあるとされる。
人と強い「関係」を築き、それ
く、こうした利益集団・ロビイ
首都・ワシントン D.C. では、
をテコに影響力を行使している。
ストの動向にも目を光らせてい
さまざまな利益集団がロビイン
この「関係」構築にはさまざま
く必要がある。
月刊 JA
2016/11