日本におけるドローンの現状〈後編〉 ―技術的解説 - ITU-AJ

スポットライト
日本におけるドローンの現状〈後編〉
―技術的解説
すのはら
ドローン・ジャパン株式会社 取締役会長
ひさのり
春原 久徳
2.飛行原理
今回はドローン関連の技術に関して、解説する。
ドローンが飛ぶ仕組みは、以下のとおりである。
まずは、ドローン本体の解説となる。
・上昇・下降(スロットル)
:すべてのモーターが同じ
1.機体構成
く回転する。
ドローンの本体は以下の部品によって構成される。
(図1)
・前進・後退/左右(エレベーター/エルロン)
:進め
・フライトコントローラー
たい方向のモーターと逆側の回転を強くすることで、
・バッテリー(LIPO:リチウムポリマー電池)
機体の傾きにより移動する。
・電流制御ユニット
・回転(ラダー)
:交互に回転方向が違うモーターの回
・Electronic Speed Controller(ESC)モーター回転制
御コントローラー
転を強くすることで右回転・左回転する。
操縦者の操作信号により、フライトコントローラーが
・ブラシレスモーター
モーター回転数を自動的に計算し、機体制御をしなが
・プロペラ
ら、飛ぶ仕組みである。
(図2)
・電波受信機/電波送信機
3.ドローンとラジコンの違い
従来のラジコンは、送信機からの信号を受けて、動力や
操舵の操作信号をそのままサーボモーターやアンプに伝え
ており、操縦者が直接、舵や動力(スロットル)を操作す
るので難しく、修練の上の高度な技術が必要であった。
一方、ドローンは、受信機とモーターアンプの間にフラ
イトコントローラーと呼ばれるマイコンが搭載されている。
受信機を介して受けた操舵やスロットルの操作信号はフラ
イトコントローラーによって、各種センサーからの機体動
作状態を検出し、
姿勢制御を自動に行いながら、
個別のモー
ターへの回転数を計算し、モーターアンプに伝える。
■図1.機体部品構成図(筆者作成)
■図2.ドローンの飛行原理(筆者作成)
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そのため、操縦者は繊細な操作なしに、機体の姿勢や
高度を維持することができ、簡単に操縦することができる
ようになった。
(図3)
■図4.ドローンの技術フレームワーク(筆者作成)
■図5.各種フライトコントローラー
■図3.ドローンとラジコンの違い(筆者作成)
ドローンが業務に活用されていくに従って、既存の機体
もしくは接続されることで、
“自律”を行っている。
を飛行させるだけでなく、より業務に適した利用が求めら
・ジャイロセンサー:回転する変化(加速度)を検知
れており、ドローン技術全体をきちんとシステムで捉えて
・加速度センサー:移動により生じる加速度を検知しど
いくことが必要となってきている。
4.システムとしてのドローン
ドローンシステムは主に
(1)
機体上のフライトコントロー
ラー、
(2)機体上のコンパニオンコンピューティング、
(3)
の方向にどれくらい動いたかを計算
・気圧センサー:気圧差を計測し、高度変化や高度位
置を計算
・磁気センサー:方位や場所に起因する磁気の変化を
捉える
地上側のPC、タブレット、スマートフォン、
(4)クラウド、
・超音波センサー:対象物からの距離を監視する
の4つのリソースによって成り立っている。
(図4)
・ポジショニングカメラ:対象物の形状や色などを認識
してデータ化して位置情報などに利用
(1)機体上のフライトコントローラー
・GPSユニット:衛星からの信号を拾って位置を特定する
フライトコントローラーがまさにドローンを“自律”た
このフライトコントローラーに対して、今後、新しい機
らしめるもので、人間の機能でいうと筋肉や“反射”に近
体制御用のセンサーが付加されていくことで、
“自律”の
いようなある種の肉体性というものを感じさせるものであ
精緻さが向上していくことになる。
る。
(図5)
(2)機体上のコンパニオンコンピューティング
フライトコントローラーに以下のようなセンサーが内蔵
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このコンパニオンコンピューティングは、昨年あたりか
5.ドローンのプログラミング
ら急速に動き出している部分である。
フライトコントローラーのCPUが主にARM系のレスポ
システムとしてのドローンを実現させていく中で、システ
ンシビリティ性が高いものが使われるのに対し、コンパニ
ムを構築するための重要な要素がプログラミングである。
オンコンピューティングのほうのCPUはより処理能力が高
いNVIDIAやINTEL系のCPUが使われる傾向にある。
(1)DJIとDronecode
これはフライトコントローラーが筋肉や反射といった肉
ドローンのプログラミングにおいて、使われているフラ
体系の機能だったことに対し、いわば、人間の脳にあたる
イトコントローラーと密接な関係にある。
機能になっている。
フライトコントローラーに関しては、現状、大別すると
現在、このコンパニオンコンピューティング上で、画像
DJI系とDronecode系の二種類に分かれる。
解析による衝突回避や他ドローンとの群制御といったもの
DJI系は機体側がOnboard SDK(Software Development
が開発され始めている。この開発が進み、人工知能(AI)
Kit)となっており、アプリケーション側はMobile SDKと
が活用されていくことで、ドローンは自らが判断し目的に
なっている。また、Dronecodeは機体側がPX4というオー
応じて航行するようになるであろう。現在、一番ホットな
プンソースになっており、アプリケーション側はDroneKit
開発領域と言えよう。
となっている。
(3)地上側のPC、タブレット、スマートフォン
(2)プログラミングでできること
このリソースにおいては、現在、操作用のアプリケーショ
プログラミングを行うことで以下のような開発や拡張が
ンやテレメトリーと呼ばれる機体からの情報収集用アプ
可能になっている。
リ、また、自動航行用のソフトウェアなどが開発されてい
①機体
る。また、空から収集したデータを解析したり、クラウド
・機体制御
にアップロードするためのツールなども作られている。
・VTOL
今後、飛行ログの解析といったものも、非常に重要なツー
・精緻な着陸や自動航行
ルとなっていくであろう。
・GPSに頼らない測位や航行
・ペイロード管理
(4)クラウド
クラウドでのソリューションに関しては、現在、日本で
・強風対策
②Companion Computing
は機体から直接クラウドに上げるための手段がなく(現状、
・衝突回避
SIMはドローンに搭載して使用することが認められていな
・室内航行
い等)
、地上側のPCやタブレット、スマートフォン等を経
・群制御
由して送られている。
③アプリケーション
そのクラウド上で主にドローンで取得したデータの処理
・自動航行アプリケーション
や解析を行うサービス(ドローンの空撮映像を3Dマッピン
・カメラ制御
グ化する等のデータ加工サービス、ドローンで撮った画像・
・撮影ポイントの同期
・飛行ログ解析
動画を共有するサービス等)が海外では展開され始めてい
る。
④クラウド
また、ドローンの機体や運用、データを管理するサービ
・管制システム
スも始まりつつある。SIMのドローンへの搭載が可能にな
・航行管理
れば、よりリアルタイムに機体を管理したり、遠隔地の画
像や映像をリアルタイムで送るようなサービスも生まれて
くるであろう。
(3)DJIの戦略
DJIは、今まで比較的クローズな戦略を敷いてきたが、
産業での用途が広がるにつれ、昨年から、ソフトウェア開
発者が機体の機能拡張やアプリケーションが開発できるよ
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うに、SDKという形で開発可能な環境を提示している。
(5)Dronecodeの構造
機体拡張に関するSDKはOnboard SDKとなり、PCやタ
OSが搭載された各種コントローラーにFlight Codeとし
ブレットといったデバイスでのアプリケーションを開発す
て、PX4が載っている。
るためのSDKは、Mobile SDKとなっている。
そして、Communication LayerであるMAVLINKを通じ
(DJIの開発者向けサイト:https://developer.dji.com/)
て、管理アプリケーションであるGround Station(Mission
DJIはこういった形で開発者をサポートする中で、各々の
Planner等)やDronekitというSDKによって、Companion
産業用途でのDJIの機体が活用されるシーンを広げている。
ComputerやWebアプリケーションといった開発を行うこ
とが可能となっている。
(4)Dronecode
一方、欧米を中心に広がっているのは、Dronecodeであ
(6)PX4
る。Dronecodeとは、Dronecode Foundationが 提 供する
Dronecodeの機体での自律航行制御プログラムを担って
ドローンソフトウェア開発者向けオープンソースコード体
いるのはPX4で、オープンソースとして、ソースコードが
系である。 PX4(自律航行制御プログラム)及びDronekit
開示されている。
(アプリケーション開発用プログラム)などで構成され、
内部のループを回すことで、自律航行を可能にしている。
ソフトウェア開発者向けのツールを提供している。
また、PX4はマルチコプターだけでなく、シングルロー
Dronecode FoundationはLinux Foundationが 支 援 し、
ターや固定翼、ローバーといった陸上を走行するものや水
複数のオープンソースのドローンプロジェクトの成果を統合
上や水中ドローンとしても、活用することが可能である。
し、ソフトウェア開発を加速させるために共通コードベー
(図6)
スを提供することを目的として2014年10月に設立された。
現在、3D Robotics、インテル、クアルコムをはじめ、
(7)MAVLINK
その他多くのドローン関連企業がDronecodeのコミュニ
Communication LayerにはMAVLINKが使われている。
ティに参加し、活用している。
今までMAVLINKにおいて、Signedという形でその署名
日本企業では、エンルート、プロドローン、ドローン・ジャ
を送信できるような仕組みとなっておらず、セキュリティ上
パン、CLUEの4社がSilverスポンサーとして参加している。
の問題があった。そのため、署名の送信が可能な新しいフ
レームワークとしてMAVLINK2が開発された。
■図6.活用分野(Ardupilot.orgサイト)
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(8)Dronekit
入札案件などではフライトログの取得が必須になっている
Dronekitは、Companion Computerといったドローンが
案件も出てきている。
より高度化していくための開発や、Webを通じてのドロー
現在、多くはそのフライトログの内容をメーカーに送り
ンの管理を可能にするため、開発者用のツールとして、ラ
解析してもらうといったプロセスが必要だが、この解析作
イブラリーを提供している仕組みである。
業を自社もしくは関連企業において行いたいとする企業が
AndroidやPython向けなどにライブラリーが提供されて
出てきている。そういった企業が、Dronecodeを学ぶこと
おり、ダウンロードは15万を超えている。
で、解析技術を身に付けることができるようになる。
(図8)
Dronekitを活用することで、図7のように、Webを通じた
クラウドコンピューティングの開発も可能になっている。
7.今後のドローンシステム開発
また、ドローン上のCompanion Computerでの、特別な
ドローンの業務利用が進んでいく中で、安全性、正確な
空撮技巧のプログラミングや画像認識分野における人工
業務実行、使いやすいシステムの開発が必要となってきて
知能の活用によって、ドローンの高度化が図られている。
いる。
その際に重要なのは、ユーザーのニーズに向けての改良
ポイントや、自社の強みを生かしながら、システム設計を
行っていくことである。
また、その際には、通信の安定性やスピードを考慮する
■図7.DronekitのWebでの活用(筆者作成)
ことも重要になる。これは通信技術の革新だけでなく、電
波法といった各種法律の動向にもアンテナを立てて、情報
6.フライトログの解析
収集していくことも重要である。
ドローンの業務利用が進んでいく中で、実証実験の内容
システムとしてのドローンは、今後、各種業務の中で、
や、また、実際の運用において、事故が発生した場合のフ
ますます浸透していくことであろう。
ライトログの解析が必要な企業が増えてきており、また、
(2016年6月24日 情報通信研究会より)
■図8.Log解析画面(筆者作成)
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