女性雇用拡大が年収100万円台前半に集中するわけ

リサーチ TODAY
2016 年 10 月 26 日
女性雇用拡大が年収100万円台前半に集中するわけ
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2002年から2015年に女性雇用者は、300万人以上増加した。しかし、2つの年次を比較すると、下記の
図表に示されるように、正社員はあまり増えず、雇用拡大の約4割を年収100万円から149万円の非正社員
が占めた。みずほ総合研究所は、女性雇用の拡大が年収100万円台前半に集中したことに注目したリポー
トを発表している1。年収100万円から149万円の非正社員女性の増加を年齢階級別にみると、45歳から64
歳を中心に子育て期以降の女性で幅広く増加がみられる。また、就業時間別には週30時間未満の女性が
増加している。女性については、雇用が増加したものの、依然として就労には大きな制約が残存するなか、
女性の多くは限定された「壁」のなかに留まる状況にある。それゆえ、今後、政府が検討する「働き方改革」
では、女性の就業に中立的でない制度、働き方(長時間労働やパート労働者の賃金)、性別役割分業の
全てについて改革のメスを入れる必要がある。
■図表:雇用形態別・年収別に見た女性雇用者数の変化(2002年から2015年)
140
(万人)
120
100
非正社員
正社員
雇用者
80
127
60
40
48
20
0
-20
-2
-2
59
-3
-40
66
17
11
-7
-24
3
18
17
-11
-1
1
1
0
0
-26
50万
50~
100
150 200~ 300~ 400~ 500~ 700~ 1000~ 1500万
円未満 99万円 ~149万 ~199万 299万円 399万円 499万円 699万円 999万円 1499万 円以上
円
円
円
(仕事からの年間収入、万円)
(注)役員を除く女性雇用者
(資料)総務省「労働力調査・詳細集計」(2002 年、2015 年)より、みずほ総合研究所作成
次ページの図表は、世帯主の勤め先収入と有配偶女性の就業率を示す。世帯主の賃金低迷は有配偶
女性の就業を促進させた。図表にあるように、世帯主の平均月額賃金は1997年の48.7万円をピークに、
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2016 年 10 月 26 日
2015年は41.4万円に7万円以上減少した。
■図表:世帯主の勤め先収入と有配偶女性(15~64歳)の就業率
55
(万円)
(%)
配偶者のいる女性の就業率
[右目盛]
50
67
65
63
45
61
世帯主の勤め先収入(月額平均)
[左目盛]
40
59
57
35
55
30
0
1990
95
2000
05
10
15
530
(年)
(注)1.有配偶女性の就業率は 15~64 歳(1990 年の年齢階級別・有配偶女性の人口構成比をウェイトに調整)。
2.2011 年の有配偶女性の就業率は、東日本大震災の影響からデータが公表されていない
(資料)総務省「家計調査」及び「労働力調査」各年版よりみずほ総合研究所作成
ただし、現実には様々な「壁」が女性の雇用拡大の前に立ちふさがる状況にある。まず、制度的には下
記が存在する。
・所得税非課税限度枠と配偶者控除の壁
・社会保険の被扶養配偶者制度の壁
・企業の配偶者手当の壁
加えて、現実には下記のような壁もある。
・パート労働者の賃金水準の壁
・正社員の働き方の壁
・性別役割分業の壁
最低賃金の引上げ等によるパート労働者の賃金上昇は、パート女性の収入を底上げし、年収100万円
から149万円の非正社員の増加に寄与した模様である。ただし、このように様々な「壁」が存在するなか、女
性が先に示した社会保険制度等を超えて就労することは容易でなく、あくまでも「壁」のなかで働くように促
される状況にあるのが実情だ。従って、政府が今後検討する「働き方改革」では、これまで「壁」となってきた
女性の就労に中立的でない制度、働き方(長時間労働やパート労働者の賃金)、性別役割分業のすべて
にメスを入れる必要があると当社は考えている。また、女性の働く希望の実現を後押しすべく、様々な多様
性をもった働き方を作り上げることが、日本経済の活力向上と家計の安定につながると考えられる。
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大嶋寧子 「女性雇用拡大はなぜ年収 100 万円台前半に集中したのか」 (みずほ総合研究所 『みずほリポート』
2016 年 9 月 29 日)
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