リサーチ TODAY 2016 年 10 月 27 日 男性に目立つ非労働力人口の増加 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 2015年の国勢調査の抽出速報集計結果から、専業主婦や家事や通学もしない者といった非労働力人 口等で注目すべき動きが明らかになった。みずほ総合研究所は、男性で非労働力人口の増加が目立って いることに注目したリポートを発表している1。働き盛りの年齢階級の男性において非労働力人口割合が上 昇している。また、女性では30歳代の労働力率の上昇ペースが鈍るなど、一部に根強い家事・育児優先志 向も推察される。 下記の図表は年齢階級別にみた男性の非労働力人口割合と「その他」割合の変化(2015年-2010年)を 示す。家事も通学もしない「その他」の割合が働き盛りの年齢階級で上昇していることがわかる。こうした動き は30歳代前半までに多い。この世代は2000年代後半のリーマン・ショック後のリストラ期、つまり雇用環境が 厳しく就職機会が乏しかった時期に社会に出ており、労働市場に恵まれなかった世代とも言える。今後、労 働力不足が深刻化するなか、就労をあまり優先しない者の就労を前向きにする対策が重要になる。 ■図表:年齢階級別にみた男性の非労働力人口割合と「その他」割合の変化(2015年-2010年) 2.0 (%ポイント) 「家事」割合の差 1.5 「通学」割合の差 「その他」割合の差 非労働力人口割合の差 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 15~19 20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 (歳) (資料) 総務省統計局『平成 27 年国勢調査報告』、 『平成 27 年国勢調査抽出速報集計結果』よりみずほ総合研究所作成 次ページの図表は女性の年齢階級別労働力率の推移を示す。女性の2015年の労働力率は、25歳以上 のすべての年齢階級で2010年より上昇している。特に、25歳から29歳の労働力率は初めて80%を超え、過 去最高になった。20歳代から30歳代にかけての労働力率が他の年齢階級の水準を下回る、いわゆる「M字 カーブ」は徐々に解消されつつある。ただし、M字カーブの底にあたる30歳代の労働力の上昇ペースは少 1 リサーチTODAY 2016 年 10 月 27 日 し落ちており、M字カーブの解消実現は楽観できない。この背景には、女性の一部に家事・育児を優先す る専業主婦志向が根強いことがあると考えられる。 ■図表:女性の年齢階級別労働力率の推移 90 (%) 1980年 1985年 80 1990年 70 1995年 60 2000年 2005年 50 2010年 40 2015年 30 20 10 0 15~19 20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~ (歳) (資料)総務省統計局『国勢調査報告』各年版、『平成 27 年国勢調査抽出速報集計結果』よりみずほ総合研究所作成 これらの分析から、労働力不足にこれから対応するには、これまでの施策で主な対象であった就労に前 向きな層だけでなく、就労をあまり優先しない「その他」の男性層や専業主婦の女性層を就労に前向きにさ せる施策も必要となる。特に「家事」を主とする者の割合については、男性ではまだ低いものの、徐々に上 昇していることから、男女とも家事と仕事の両立が可能となるよう、これまであまり普及していなかった柔軟な 働き方の拡充を視野に入れて対策を考える必要がある。最近、週休3日という事例もあるが、働き方のニー ズに対処した幅広い選択肢を働く人が持てるようにすることも重要と考えられる。また、非労働力人口にお ける「その他」の者は、学校や企業に属しておらず、社会との接点が少ない可能性があるため、これらの層 へアプローチには工夫が必要とされる。 1 岡田 豊 「男性で目立つ非労働力人口増加」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 10 月 12 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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