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148 すいじ
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の風とともに飛び去ってしまうと,暮らしてい
た家も消えてしまい,頭上ではカラスの群れが
飛んでいた。近くで寝ている子どもを起こす
と,三囲神社の裏の小梅に小綺麗な家があるこ
かげ み
とが分かり,おこうが影身になって息子を世話
してくれていたことを杢蔵は知る。杢蔵はしば
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す
になる勇気がない杢蔵を置いて,おこうは一陣
らくぶりに訪ねてきた元の女房を追い返し,男
水神(すいじん)
に息子を浅草の呉服屋へ奉公に出すと,その働
手一つで息子を育て上げ,十二歳になったとき
【種別】 人情,新作
きぶりが認められて店の娘と一緒になり養子に
【あらすじ】 三囲神社の縁日で,泣きやまない
入った。一人になった杢蔵はおこう会いたさに
乳飲み児を抱いた三十歳くらいの男が困ってい
屋根に上り,黒い羽織に袖を通すと羽根になっ
る。すると境内の外れで卵や柿に干し魚などを
て大空に舞い上がった。「おお,飛べる飛べる。
みめぐり
売っている頭の先から足元まで黒い格好をして
おこう!おこう!」。
いるが,顔は白くて綺麗な若い女性が声を掛け
【解説】
『君の名は』などで知られる脚本家の
てきて,「赤ん坊はお腹を空かせているのだ」
菊田一夫が,NHKの依頼で六代目三遊亭圓生
と自分の乳を含ませると,赤ん坊は泣きやんで
のために書き 下 ろ し た 新 作 落 語。 昭 和 38 年
眠ってしまった。男に訳を聞くと「働きが悪い
(1963)初演。原作では子供を置いて出て行っ
と,女房が呆れてこの子を置いて出て行ってし
た女房が帰って来て,再び一緒になり,一人息
まった」と言う。お礼に名前を聞くと女の名前
子を育て上げるが,その女房にも先立たれて,
は「こう」で,男は屋根職人で「杢 蔵 」。女は
寂しくなった杢蔵が屋根で黒羽織に手を通す
「お乳がないと困るでしょう」と店をたたんで,
と,魂だけが舞い上がり,年老いた職人が安ら
水神の森にある自分の家に連れ帰り,それが縁
かな顔で亡くなっていたという設定であった
で二人は一緒に暮らすことになる。杢蔵は一所
が,圓生が上記のような展開に直した。現在で
懸命に働くようになり,そういう生活が四年続
は三遊亭圓窓や林家正雀が独自の工夫を施して
いたある朝,おこうの寝姿を見ると,そこには
演じている。
もく ぞう
顔は女房だが身体は真黒なカラスがいた。これ
までの恩を思い,見なかったことにして布団を
菅原息子(すがわらむすこ)
掛け直すと,いつもの姿をしたおこうが「お前
【種別】 滑稽,芝居
さん,私の姿を見たでしょ?」と身の上につい
【あらすじ】 芝居が大好きな若旦那が今日も家
て話し出した。おこうは水神様のお使い姫をし
へ帰って来るなり,『菅原伝授手 習 鑑』の真似
ていた牝ガラスで,神様のお使いで霞ヶ浦まで
をはじめる。「はて,膳部の数が一脚多い」と
行ったが,遊びに夢中になって使いを忘れてし
松王を真似たり,おかずにアワビのふくら煮が
まった。そのために野ガラスにされるところを
出ると聞くと,「なに,死貝と生貝とは風味味
五年間だけ人間の女となり,それを務めあげた
わいの変わるもの。真っ赤な嘘にてその手は喰
ら使い姫に戻してくれることになっていた。杢
わぬ」と口にしたかと思うと,いきなり椀の蓋
て ならいかがみ
蔵のことは空から見て知っていたが,正体を見
を取って「あ~ら,怪しやな」と,すべてが
られたので野烏にならなければならない」と話
「寺子屋」気取り。それを見ていた父親があき
して聞かせた。杢蔵が「このまま家にいてく
れて叱ると,父親のことを「親びと,御免」と
れ」と頼むと,黒い羽織を差し出して「これを
言って放り投げた。そしてひと言,「女房喜べ,
着ると,私のようにカラスになれるから,一緒
に来てくれませんか」と返してくるが,カラス
せがれがおやじに勝ったわやい」。
【解説】 菅原道真の流罪事件を扱った『菅原伝