結集!! みんなの力で五島を豊かに ∼人口減に挑む

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結集!! みんなの力で五島を豊かに ∼人口減に挑む∼
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結集!! みんなの力で五島を豊かに
∼人口減に挑む∼
五島市長 野 口 市太郎
昭和53年
平成20年
平成21年
平成22年
平成24年
平成28年
4月 長崎県庁入庁
4月 五島地方局長
4月 長崎振興局長
4月 長崎県水産部長
9月 五島市長就任
9月 五島市長再任(2期目)
はじめに
その主な要因は、高度成長期の都市部への
人口移動に始まり、近年では、基幹産業であ
8月28日に執行された五島市長選挙におい
る農林水産業の低迷等による雇用機会の減少、
て、無投票で2期目の当選をさせていただき
大学への進学などによる若年層(生産年齢人
ました。人口減少に歯止めがかからず厳しい
口)の流出であり、このことが後継者不足や
状況が続く中、再び市政の舵取り役を担って
消費の低下など経済活動に大きな影響を及ぼ
いくその責任の重さを痛感し、身が引き締ま
し、さらに人口減少に拍車がかかっていると
る思いであります。その重責をしっかりと受
いう状況であります。
け止め、今後4年間を人口減少問題に挑む重
このような中、平成26年11月に「まち・ひ
要な期間と位置付け、全力を尽くしていきた
と・しごと創生法」が制定され、国と地方が
いと考えています。
総力を挙げて人口減少の克服・地方創生を推
進していくこととされました。
我が国は、2008年(平成20年)をピークに
本市においても、昨年12月に、最重要課題
「人口減少時代」に突入しており、今後、加
である人口減少問題への対策として「人口ビ
速的に進行していくと推計されていますが、
ジョン」と「総合戦略」を策定しました。行
本市の人口は、1955年(昭和30年)の91,973
政だけでこれらを実現していくことは不可能
人 を ピ ー ク に 平 成27年 国 勢 調 査 で37,331人
であり、市民や企業、団体などあらゆる主体
(速報値)と、国より50年以上も早く減少に
に積極的に参画いただき、目標の実現に向け
転じたまま、歯止めがかからない状況が続い
取組を加速させていきたいと考えています。
ています。
今年4月には、地元選出の谷川弥一衆議院
ながさき経済 2016.11
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議員のご尽力により、離島自治体の悲願であ
約30%まで減少すると推計されています。
りました「有人国境離島地域の保全及び特定
人口ビジョンでは、出生率の増加、健康寿
有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関
命の延長、若者の転出抑制(主に高校卒業後
する特別措置法」
(いわゆる国境離島新法)
の人材流出の抑制)、UIターンの促進などを
が成立しました。雇用の創出や交流人口の拡
戦略の柱に据えることとし、目指すべき将来
大など、今までよりも踏み込んだ施策展開を
人口を2040年(平成52年)で27,000人、2060
図っていきたいと考えています。
年(平成72年)で20,000人と設定しています。
今回は、本市の人口ビジョンと人口減少対
策を盛り込んだ総合戦略の4つの基本目標に
(2)五島市総合戦略
ついて説明させていただきます。
①基本目標1:五島の恵みを活かし、雇用
を生み出す“しま”をつくる
人口減に挑み、豊かな未来を切り拓く
2
本市にとりまして、最大かつ喫緊の課題は、
雇用の確保であり、人口減少を抑制するため
(1)五島市人口ビジョン
には、若者が生涯安心して暮らしていける環
国立社会保障・人口問題研究所の推計によ
境を創り出していくことが不可欠であります。
ると、本市の人口は、2060年(平成72年)に
現在、基幹産業である農林水産業や商工業な
12,685人と2010年(平成22年)の40,622人の
どの担い手確保や収益力の強化に向けた取組、
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起業・創業や規模拡大への支援策を講じ、地
②基本目標2:五島の魅力を発信し、世界
元で安定的な雇用の場づくりを進めていると
に誇れる“しま”をつくる
ころですが、今後、職業訓練による企業が求
平成30年に潜伏キリシタン関連遺産の世界
める人材の育成、結婚や出産後も安心して働
遺産登録を目指す候補地として注目が集まる
ける職場環境づくりなどに取り組んでまいり
この機会を活かして、本市の魅力を戦略的に
ます。
発信するとともに、本市ならではのおもてな
本市の豊かな資源を活かした取組を代表す
しの展開、地域の特性を活かした体験型観光
る海洋エネルギー事業は、今年4月から国内
を促進することで、交流人口の拡大を図って
初の商用・実用化となる浮体式洋上風力発電
いきます。
(2メガワット)が営業運転を開始していま
特に民泊事業とともに本格的な受け入れを
す。今後、風車を10基程度増設する計画もあ
進めてきた修学旅行については、首都圏をは
りますので、雇用の創出が期待されるメンテ
じめ全国各地から、今年度、約3,000人の実
ナンスなど関連産業の育成に力を注いでいき
績が見込まれており、来年度は、すでに5,000
たいと考えています。また、平成20年から、
人の予約をいただいています。私が初めて市
地域振興策として強力に推進してきたクロマ
長に就任した4年前の年が約500人でしたの
グロ養殖については、今や全国でも有数の生
で、これまでの取組が着実に成果に結びつい
産基地となっており、生産量も毎年増加(平
ており、今後も、民泊軒数の拡大など受入体
成27年度は917t)しています。地域経済へ
制を強化し、さらなる誘致拡大を図っていき
の波及効果も大きいため、可能な限りその取
たいと考えています。
組を支援してまいります。
また、本市における人口減少に歯止めをか
けるためには、いかにU・Iターンを実現し
ていくかということが重要であります。現在、
専任の移住支援員を配置し、移住相談から移
福江島崎山沖 浮体式洋上風力発電所
修学旅行向け民泊・体験プログラム
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住後のフォローアップまで、徹底してお世話
らも住み続けたいと感じていただけるしまづ
する体制をつくり、昨年度は52名の方に移り
くりを目指していきます。
住んでいただくことができました。今後も住
まいや仕事、子育てや暮らしにかかる情報の
積極的な発信、きめ細かな支援により取組の
強化を図っていきます。
③基本目標3:安全・安心で住みやすさ 日本一の“しま”をつくる
人口減少と少子高齢化に対応し、持続可能
な地域社会を実現していくためには、市民一
人ひとりが生涯を通じて安心して暮らせる環
境づくりを推進することが重要です。本市は、
「日本一健康なしま」を目指して、健康で長
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地域ミニデイサービス
④基本目標4:五島の宝・子どもが育ち、
輝く“しま”をつくる
生きしていただくための各種健康づくり事業
本市の合計特殊出生率は、国、県よりは高
に力を入れており、特に、平成25年度から高
い水準で推移してきていますが、未婚化、晩
齢者の居場所づくりとして進めてきた地域ミ
婚化、出産・子育てに関する経済的負担など
ニデイサービスは、これまで31か所設置され、
により、残念ながら子どもの数は減少してい
600名を超える参加者とそれを支える約200名
ます。このため、結婚・出産を望む人の希望
の介護予防ボランティアにより運営いただい
がかなえられるよう、出会い、結婚、出産、
ています。平成24年末には24.8%だった本市
子育てを切れ目なく支援し、出生数の増加を
の要介護認定率は、平成27年度末に21.5%と
図っていくことが重要となります。子育て支
初めて県平均(22.1%)を下回り、こうした
援については、現在、多子世帯における保育
取組の成果であると思っています。
料の大幅な軽減及び子どもの医療費助成の対
また、地域コミュニティ活動については、
象を小中学生まで拡大し、その成果を期待し
地域の課題を住民自らの知恵と能力で解決し
ながら取組を進めていますが、出産支援や子
ていく「地域の絆再生事業」が浸透してきて
どもの健やかな成長、発達への支援もあわせ
おり、地域独自の活性化策が市内全域で展開
ながら、よりきめ細かな対応を行っていきた
されるようになりました。このほか、公共交
いと考えています。
通網の再編、国境離島新法による航路、航空
また、次世代を担う子ども達が、心豊かに
路運賃の低廉化など市民の暮らしを向上させ
生きる力を育み、高い志をもって自分の夢に
る取組を着実に実施することにより、これか
挑戦できるような教育環境づくりを目指して、
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ICT教育や国に先駆けて実施している早期か
市を取り巻く環境が厳しさを増していく中、
らの英語習得事業「プロジェクトG」、今年4
徹底した事務事業の見直しや自主財源の確保、
月にスタートした「しま留学」など特色ある
公共施設の再編(統廃合)に努めるとともに、
教育を継続・拡充していくこととしています。
職員数の削減など市役所自ら血を流す覚悟を
新たな奨学金制度については、人口減少の
もって改革を推進し、市民の皆様にも痛みを
抑制につながる取組として、市内で就労した
伴う見直しをお願いしながら進めていきたい
場合、借り入れた奨学金の返済金を助成する
と考えています。
独自の制度創設、さらには、本市から世界に
また、今年4月、震度7の大地震に見舞わ
羽ばたく人材を育成すること目的とした給付
れた熊本地震では、災害時の対策拠点となる
型奨学金の制度創設について、検討したいと
自治体庁舎が被災し使えなくなる事例が相次
考えています。
ぎました。こうしたことを受け、現在、本市
では、市庁舎及び消防出張所の耐震整備につ
いて検討を進めています。市民の命と暮らし
を守るために、あらゆる事態を想定して将来
に備えていく必要があると考えています。
私たちの子や孫の世代に希望の道筋を示す
ことができるのは、他の誰でもない私たち自
身であります。これまで以上に市民の力、そ
五島市イングリッシュキャンプ
して国・県の力、政治の力を結集し、総力を
挙げてふるさと五島の豊かな未来を築いてま
将来に備えて
いります。
このように、本市では、人口減少に歯止め
をかけるべく、総合戦略に基づいた施策をス
ピード感を持って展開していくこととしてい
ますが、一方で、さらなる行財政改革に取り
組み、将来への責任として、次の世代に負担
を先送りしないよう持続的な財政基盤を構築
していく必要があります。
これからの4年間、合併算定替特例措置の
終了に伴う地方交付税の減額や平成31年度を
もって合併特例債の発行が終了するなど、本
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