[MSFJ]SF CDO に対するムーディーズの格付手法

CLOs & STRUCTURED CREDIT
OCTOBER 20, 2016
RATING METHODOLOGY
SF CDO に対するムーディーズの
格付手法
Moody’s Approach to Rating SF CDOs
1. はじめに
目次
1. はじめに
1
2. SF CDO の種類
2
3. SF CDO に対するムーディーズの
4
モデリング手法
4. シンセティック SF CDO に関する
追加的な考慮事項
13
5. 特殊な特徴を持つトランシェ
16
6. 特殊な特徴を持つアセット
18
7. その他のストラクチャー及び契約
20
関連書類にかかわる問題
8. コラテラル・マネージャー及び SF CDO
のその他の当事者の役割の評価
24
9. モニタリング
25
付録
27
関連リサーチ
48
本レポートは、証券化商品を裏付けとする CDO(SF CDO)に対するムーディーズの格付
手法 1を概説するものである。本格付手法では、アセットクラスの説明、ムーディーズに
よるモデリング・アプローチ、SF CDO に格付を付与する際にムーディーズが考慮する主
な要因を示している。分析には、CDO ノートにおいて投資家が被る期待損失のモデリン
グ、SF CDO の資産および負債の特殊性の考察、SF CDO の契約書類に規定された仕
組み、法律意見書のレビュー、SF CDO のマネージャーおよびその他の当事者が役割
を果たす能力と意思の評価が織り込まれる。
いずれの場合でも、ムーディーズは、SF CDO に対する格付を導出する際には、幅広い
定性的な観点をもって、定量分析を補完する。格付委員会は、各案件の特性を考慮
に入れて最終的に格付 2を決定する。
本信用格付手法は、セクション 5.5、5.6 および付録 8 において、SF CDO を担保とす
る債務トランシェおよびエクイティを裏付けとする証券化証券に対するムーディーズ
のアプローチを明確化し、変更を加て、2016 年 10 月 20 日に再発行された。本格
付手法の他の部分は変更されていない。
コンタクト:
東京
03.5408.4210
お問い合わせ:
クライアント・デスク 03.5408.4210
[email protected]
Website: www.moodys.com
ムーディーズ SF ジャパン株式会社は、金融商品取引法
の下で金融庁に登録された信用格付業者であるが、
NRSRO(米国 SEC の登録を受けた格付機関)ではない。
従って、ムーディーズ SF ジャパン株式会社の信用格付
は、日本で登録された信用格付業者の信用格付である
が、NRSRO の信用格付ではない。
1
本格付手法は、適用前に特定の規制要件が充足される必要がある一部の法管轄域を除き、グローバ
ルに適用される。
2
本信用格付手法の下で評価される債務に対する格付には(sf)の記号が付される。詳細については、本
稿のムーディーズの関連リサーチの「格付記号と定義」を参照されたい。
ムーディーズ SF ジャパン株式会社
CLOs & STRUCTURED CREDIT
2. SF CDO の種類
2.1 キャッシュ型、シンセティック型、及びハイブリッド型
SF CDO のストラクチャーは大きく分けて、キャッシュ型 SF CDO、シンセティック型 SF CDO、及びハイ
ブリッド型 SF CDO の 3 つの種類がある 3。
キャッシュ型取引では、証券化商品やそのトランシェが現物保有され、ノートの発行に伴って資金調
達が行われる(図表 1 参照)。
図表 1
典型的なキャッシュ型 SF CDO のスキーム
CDO 投資家
クラス A ノート
クラス B ノート
クラス C ノート
.
.
エクイティ
元利金
元利金
発行体 (SPV)
投資
ノート代わり金
裏付けプール
ABS 1
ABS 2
.
.
ABS n
シンプルなシンセティック型取引では、スペシャル・パーパス・ヴィークル(SPV)とスワップ・カウンター
パーティとの間で証券化商品を参照するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が締結され、証券化商
品に対するエクスポージャーが発生する。シンセティック型取引では、資金調達を伴わず直接 CDS
が締結される場合(アンファンデッド型、図表 2a 参照)と、ノートの発行により資金調達が行われる場
合(ファンデッド型、図表 2b 参照)がある。
図表 2A
典型的なシンセティック型 SF CDO のスキーム(アンファンデッド型の場合)
スワップ・プレミアム
CDO 投資家
(プロテクションの売り手)
クレジット・イベントが
CDS カウンターパーティ
(プロテクションの買い手)
発生した場合の支払い
参照プール
本件は信用格付付与の公表では
ありません。文中にて言及されて
いる信用格付については、ムー
ディーズのウェブサイト
(www.moodys.com)の発行体のペ
ージの Ratings タブで、最新の格
付付与に関する情報および格付
推移をご参照ください。
2
OCTOBER 20, 2016
3
主に商業不動産(CRE: Commercial Real Estate)を裏付けとした取引は通常、CRE CDO と呼ばれる(付録 9 参照)。本稿で
言及する裏付けとなる資産担保証券は、CRE CDO では CRE をさす。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
図表 2B
典型的なシンセティック型 SF CDO のスキーム(ファンデッド型の場合)
担保資産
ノート
代わり金
CDO 投資家
元利金スワップの決済
スワップ・プレミアム
元利金
クラス A ノート
クラス B ノート
…
発行体
(SPV)
ノート代わり金
CDS カウンターパーティ
(プロテクションの買い手)
クレジット・イベントが
発生した場合の
支払い
参照プール
ハイブリッド型取引は、一般にキャッシュ型とシンセティック型、及びファンデッド型とアンファンデッド
型が組み合わされたスキームである (図表 3)。 4
図表 3
典型的なハイブリッド型 SF CDO のスキーム
クレジット・
イベントが
発生した場合
の支払い
スーパー・シニア・
担保資産
ノート代わり金
(一部)
スワップ
元利金
スワップの決済
スワップ・
プレミアム
投資家
クラス A ノート
.
エクイティ
元利金
スワップ・プレミアム
元利金
クラス B ノート
クラス C. ノート
ABS 1
ABS 2
.
.
ABS n
投資
The Issuer
(SPV)
ファンデッド CDO
裏付けプール
CDS カウンターパーティ
(プロテクションの
買い手)
クレジット・イベントが
発生した場合の支払い
ノート代わり金
参照プール
図表 3 の例では、発行体(SPV)はキャッシュ型資産担保証券(ABS)及びファンデッド・シンセティック
部分に関する現金もしくは適格投資(担保)を保有し、また、CDS カウンターパーティとの間でアンファ
ンデッド CDS 契約を締結する。負債サイドでは、SPV はエクイティを含むファンデッド・ノートを発行し、
スーパー・シニア・スワップや、他の資金調達を伴わない契約、あるいはリボルビング契約(バリアブ
ル・ファンディング・ノート(Variable Funding Note)など)を締結する。ほとんどの場合、CDS カウンターパ
ーティとスーパー・シニア・スワップ・カウンターパーティは同一主体となる。
2.2 マネージ型とスタティック型
SF CDO はスタティック型かマネージ型のいずれかの形態をとる。スタティック型では、新たな資産へ
の再投資はできず、資産の売却に制約がある。分析に関して、スタティック型では、ムーディーズは
実際の構成に基づいて担保プールをモデリングする。
4
3
OCTOBER 20, 2016
キャッシュ型 SF CDO であっても一部がシンセティックであるのが普通である。ムーディーズは通常、シンセティックの割
合が 50%超の取引にハイブリッドという用語を用いる。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
マネージ型 SF CDO では、契約書(インデンチャーなど)が規定する一連のコベナンツに従って、コラ
テラル・マネージャー(以下「マネージャー」)が、証券化商品を売買することができる。そのため、マ
ネージ・キャッシュ型 SF CDO のモデリングは、その時点の SF CDO の担保プールではなく、取引のコ
ベナンツから導かれる想定に基づいて行われる。また、キャッシュ型 SF CDO の当初格付は、コベナ
ンツに基づいたものとなる。なぜなら、取引開始時点では担保プールが上限まで調達されないことが
あり、変化するからである。ムーディーズのモデリングでは、原則として、時間の経過とともに担保プー
ルが悪化する可能性があることなどから、実際の担保プールの特徴と取引のコベナンツを考慮し、よ
り保守的な想定を採用する。再投資期間終了後も再投資が可能な場合を除いて、再投資期間終
了後は、実質的にスタティック型になるので、実際の担保プールを反映してモデリングする。
一方、マネージ・シンセティック型 SF CDO では、通常ムーディーズの CDOROM を用いて実際のポ―
トフォリオをモデリングする。マネージャーのトレードによって投資家が負担するクレジット・リスクが予め
定められた限度を超えないよう、契約関連書類には通常、ムーディーズの CDOROM の結果に関す
るコベナンツが含まれている。
3. SF CDO に対するムーディーズのモデリング手法
3.1 概要
3.1.1 回収率
3.1.1.1 調整前の回収率
企業クレジットを裏付けとする CDO と異なり、SF CDO の場合、ムーディーズは、まずセクター・タイプ、
トランシェの厚み、格付に基づいて対象となる証券化商品の回収率を推定するところから分析を始
める。次に、想定回収率と証券化商品の格付から、モデルで使用するデフォルト率を推定する。
回収率の推定においては、まず、付録 1 に従って個々の証券化商品の平均回収率を想定する。こ
の平均回収率の想定は、証券化商品の現在の格付と、その取引の資本構造全体に占める対象トラ
ンシェの当初割合に基づいて導かれる。例えば、付録 1 の図表 4 から、現在の格付が A2 で、その
取引の資本構造全体におけるトランシェの当初の厚みが 7%の居住用不動産担保証券(RMBS)アセ
ットの平均回収率は 20%になる。証券化商品の格付が高くなり、その証券化商品の資本構造全体に
占める当該トランシェの割合が大きくなればなるほど、ムーディーズが想定する平均回収率は高くな
る。
同じカテゴリー(セクター・タイプ、現在の格付、及び資本構造全体に対するトランシェの厚みで決まる)
内でも、デフォルト時の実際の回収率は、想定する平均回収率から大きく乖離しうる。したがって、ム
ーディーズは、次の数式に基づき、アセットごと(平均回収率の値がゼロではないもの)に回収率のボ
ラティリティ(標準偏差)を考慮する。
St. Dev = �𝑅𝑅𝑅𝑅 ∗ (1 − 𝑅𝑅𝑅𝑅) ∗ 70% (RR は回収率の平均値の想定)
前段で挙げた格付 A2 の RMBS の例では、回収率の標準偏差の想定は約 28%である。回収率は付
録 1 で述べているように、ベータ分布に従うと想定し、ムーディーズの CDOROM を用いて回収率を
算出する 5。
3.1.1.2 シンセティック型 SF CDO の想定回収率の調整
現金決済 CDS の場合、ムーディーズは、証券化商品の流動性やクレジット・イベント発生後の決済手
続きの特徴に基づき、ヘアカットを平均回収率に対して適用する。付録 2 はヘアカットについて説明
したものである。これらのヘアカットは、クレジット・イベント発生後の流動性の低下と、現金決済のプロ
セスがプロテクションの買い手によってコントロールされることを捉えようとしたものである。
5
4
OCTOBER 20, 2016
想定される回収率の標準偏差は、想定される平均回収率の関数であることに留意されたい。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
3.1.1.3 回収のタイミング
ムーディーズは、キャッシュ型及びシンセティック型のいずれであってもデフォルト直後に回収が行わ
れると想定するが、アセット・タイプ、取引のストラクチャーの特徴、市場環境、その他の関連要因に
よって回収の遅れを変化させる場合もある。
3.1.1.4 回収率の相関
ムーディーズは、デフォルトした証券化商品の回収率は相互に相関すると想定する。ガウス・コピュ
ラ・アプローチにより、ムーディーズの CDOROM 内でランダムな回収値を生成し、デフォルトした証券
化商品の全ての組み合わせに 10%の相関を想定する。しかしながら、格付委員会において、市場環
境や担保プールの特徴に応じてこの想定を修正する場合がある。
3.1.2 デフォルト率
3.1.2.1. ムーディーズの格付
ムーディーズが格付を付与している証券化商品については、最新の公表格付を分析に用いる。格付
が見直し中である場合には、調整した上で分析に用いる(3.1.2.4 節参照)。
また、CDO の格付アナリストは、SF CDO の裏付けとなる証券化商品(RMBS、CMBS、ABS など)の信
用力評価を行うムーディーズの他の格付チームと協力して分析を行う。提供される新たな情報には、
裏付けとなる証券化商品の今後の格付に大きな影響を与えうるものや損失予測が含まれる場合が
ある。
3.1.2.2 格付と回収率からの調整前デフォルト率の推定
ムーディーズは、前述の手続きに従って決定した証券化商品の平均回収率、格付及び平均残存期
間を用いて、調整前デフォルト率を推定する。調整前デフォルト率は次の関係式を用いて計算され
る。
(1) DP = EL/(1-RR)
ここで、 EL (Expected Loss) = 理想化された期待損失(現行格付、加重平均期間(WAL))
DP (Default Probability)= デフォルト率
RR (Recovery Rate) = 回収率の平均値(当初格付、当初の厚み、セクタータイプ)
ムーディーズは、理想化された期待損失率 6に基づいて、現行格付と平均残存期間から証券化商
品の理想化された EL 7を推定する。
3.1.2.3 ムーディーズの格付が付与されていない証券化商品
デフォルト率や回収率を推定するためのムーディーズの公表格付がない場合、クレジット・エスティメ
ート 8に基づいた分析を行う。
クレジット・エスティメートは個々の証券化商品の信用力に関する一時点の評価であり、レーティング・
ファクターで示される。クレジット・エスティメートは公表されず、CDO 分析のための裏付資産の期待
損失(EL)の評価という用途のみに用いられる。
ムーディーズの公表格付もクレジット・エスティメートもない証券化商品がポートフォリオに含まれている
場合、そのような証券化商品の占める割合によっては、感応度分析を行う。
5
OCTOBER 20, 2016
6
詳細については、本稿末尾のムーディーズの関連リサーチを参照されたい。
7
理想化された期待損失率は、ムーディーズの過去の実績に基づいており、様々な対象期間に対する、サイクル(循環)を
通じた損失予想を示す。
8
レポート末尾の「関連リサーチ」を参照。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
3.1.2.4 格上げあるいは格下げ方向で見直し中の証券化商品
ムーディーズのリサーチによると、格上げあるいは格下げ方向で見直し中の証券化商品は、見直しの
対象とされていない同格付水準の証券に比べて、実際に格上げあるいは格下げされる確率が非常
に高い。ムーディーズはこの点を反映するため、格上げあるいは格下げ方向で見直し中の証券化商
品を、示唆された方向に 2 ノッチ格上げあるいは格下げされたものとして扱う。ただし、Aaa は例外で、
格下げ方向で見直し中の証券化商品の調整は 1 ノッチとなる。
EL は調整後格付で推定するため、これらの調整は上記数式(1)の EL 値に影響を与える。調整後格
付と調整前格付で付録 1 の図表のコラムの値が異なる場合、想定回収率も異なる。
3.1.2.5 再証券化ストレス・ファクター:想定デフォルト率の調整
SF CDO は、(証券化商品の証券化という性格から)本来レバレッジが高いため、原資産のパフォーマ
ンスのボラティリティに敏感に反応する。実際に、原資産の信用力の僅かな変化によって、SF CDO
の格付が大きく変化することがありうる。ムーディーズの SF CDO のモデルでは、デフォルト率分布のテ
ール部分が厚くなるよう、裏付けとなる証券化商品のデフォルト率に一定のストレスを適用する(再証
券化ストレス)。
ムーディーズは、再証券化ストレス・ファクターを、格付を付与する SF CDO の裏付けとなる証券化商
品によって 2 つのカテゴリーに分類する(付録 3)。
第 1 のカテゴリーは、RMBS CDO、SF CDO、CRE CDO、マーケットバリュー型 CDO&CDO2 などのボラ
ティリティの高い CDO 証券である。この第 1 のカテゴリーの証券化商品に対し、Aaa を除く全ての格付
カテゴリーのデフォルト率に乗数 4 が適用され、Aaa には乗数 12 が適用される。
第 2 のカテゴリーは、オート、クレジット・カード、学生ローンといった ABS、RMBS、CMBS、CLO など、再
証券化されていないアセット・クラスからなる。第 2 のカテゴリーの証券化商品に対しては、Aaa を除く
全ての格付カテゴリーにストレス乗数 2 が適用され、Aaa には乗数 6 が適用される。ここで挙げたもの
以外のアセット・クラスは通常、第 2 のカテゴリーに分類される。
また、市場環境によっては、格付委員会の判断に基づいて、これらより高いあるいは低い再証券化
ストレスを適用することがある。
不動産投資信託(REIT)の格付は、証券化商品の格付よりも企業格付に近いので、REIT には再証券
化ストレスを適用しない。
3.1.3 アセット相関
9
SF CDO の格付では、ムーディーズはアセット相関に「ツリー」の考え方を用いている。すなわち個々の
アセットは、証券化商品全体のユニバース(ツリー)の中で、それぞれ、異なるレベルで細分化された
「枝」に分類される(付録 5) 10。ツリーの枝は、証券化商品のユニバースにおけるセクターやサブセク
ターを意味する。2 つの証券化商品が、共に、より細分化されたセクター(枝)に属していれば、それ
だけその 2 つの証券化商品のアセット相関は高くなる。また、証券化商品のアセット相関は、地域、ビ
ンテージ、あるいは「キー・エージェント」の特徴を共有する程度に依存していると、ムーディーズは想
定している。
6
OCTOBER 20, 2016
9
Robert C. Merton によって紹介されたマートン・モデルによれば、アセット相関とは、一組の企業の間の資産の価値の相
関を意味する。ある企業の資産の価値がその企業の債務の額以下に減少すると、その企業は破産する。広義には、こ
の用語は一組の銘柄の指標の間の相関を指す。ある銘柄の指標が低下して該当する閾値を下回った場合、デフォルト
が発生する。したがって、アセット相関は間接的にデフォルト相関を示す指標になる。
10
ムーディーズの格付委員会は、市場環境やその他の関連する要因を考慮して付録 4 で概説する相関の想定を調整す
ることがある。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
3.2 トランシェの EL の計算
3.2.1 モデルの構成
証券化商品のデフォルト率と回収率の想定は、格付対象となる SF CDO の期待損失を計算するモデ
ルに組み込まれる。モデルは 2 つの主要な要素から成る。すなわち、1)証券化商品の損失シナリオ
をそのシナリオが発生する確率に結びつけるメカニズム(損失分布)、及び、2)個々の証券化商品の
デフォルト・シナリオと、そのシナリオにおける格付対象債務クラスへのキャッシュフローを関連付ける
仕組み(あるいはそれに代わるシンプルな資本構造)である。アセットのデフォルト・シナリオをキャッシ
ュフロー・モデルに適用することで、個々の格付対象トランシェの EL を計算することが可能となる。
定量分析の最終ステップとして、トランシェごとに計算された EL を、格付ベンチマークと対照すること
で、モデルの期待損失に基づく格付レベルを推定する。
3.2.2 ウォーターフォールの複雑さに基づくムーディーズのモデリング手法
SF CDO の裏付資産のデフォルト分布の決定にムーディーズが用いるモデリング手法は、SF CDO の
構造によって決まる。
シンセティック型 SF CDO:支払い優先順位(ウォーターフォールや超過担保(OC)のテストなど)
がそれほど複雑ではなく、プレミアムやクーポンの支払いが担保プール内のデフォルトと直接は
関係がない SF CDO の場合 11、ムーディーズの CDOROM を用いて損失分布とトランシェごとのキ
ャッシュフローをモデリングする
スタティック・キャッシュ型 SF CDO:ウォーターフォールがあるスタティック型 SF CDO(支払金利が
直接、原資産から支払われるクーポンに結びついているもの)の場合、キャッシュフロー・モデル
(各トランシェに流れるキャッシュフローのモデリング)とムーディーズの CDOROM を組み合わせ
てポートフォリオの損失分布をモデリングする。
マネージ型 SF CDO:ウォーターフォールがあるマネージ型 SF CDO の場合、主に相関を考慮した
二項展開メソッド(Correlated Binomial Expansion Technique, "CBET")とキャッシュフロー・モデルを
組み合わせてモデリングする 12。
3.2.3 ポートフォリオの損失分布の決定
3.3.3.1 複雑なウォーターフォールがない CDO やスタティック型取引にはムーディーズの CDOROM
シミュレーション・モデルを適用
複雑な支払い優先順位がない場合や、ポ―トフォリオがスタティックである取引には、ムーディーズは、
ムーディーズの CDOROM に組み込まれているモンテカルロ・シミュレーションの枠組みを用いて SF
CDO の損失分布をモデリングする。この枠組みでは、担保プールの個々の証券化商品の調整後デ
フォルト率(すなわち、3.1.2.1 節で述べた調整後の「現行格付」に基づき、再証券化ストレスの乗数を
掛けたデフォルト率)と整合的な頻度でデフォルトが生成される。具体的には、3.1.3 節で述べられた
アセット相関の枠組みを取り入れたガウス(正規)・コピュラ・モデルに基づき相関があるデフォルトの
シミュレーションが行われる。
デフォルトした証券化商品の回収率は、シミュレーションの中で、前の 3.1.1 節で説明した分布の想
定に従い生成される。このシミュレーションでは、各アセットの回収率の相関も考慮される。
各モンテカルロ・シミュレーション・シナリオにおいて生成されるデフォルトと回収率に基づく計算を全シ
ナリオにわたって行うことで、ポートフォリオの損失分布が決まる。
3.2.3.2 ウォーターフォールがあるマネージ型 CDO の大半に相関を考慮した二項展開メソッド(CBET)
を適用
ほとんどのマネージ・キャッシュ型およびハイブリッド型 SF CDO に CBET によるモデリングを適用する。
マネージ型シンセティック CDO でも、ポートフォリオ特性に関するコベナンツに従って管理されるもの
には CBET を適用する場合がある。しかし、ほとんど全てのマネージ型シンセティック CDO は、ムーデ
7
OCTOBER 20, 2016
11
したがって、支払いは CDS カウンターパーティからなされる。
12
“Moody's Correlated Binomial Default Distribution” を参照。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
ィーズの CDOROM の結果に関するコベナンツによって管理されている。CBET は、ムーディーズが従
来からキャッシュ型 CDO のモデリングに適用し てきた 、二項展開メ ソッド(Binomial Expansion
Technique : BET)のバリエーションの 1 つである。伝統的な BET では、理想化された資産(互いに同一
で相関性がない)から成るモデル・ポートフォリオを用いて、実際の担保資産プールのデフォルト分布
を模倣する。CBET では、理想化された資産が互いに同一である点は変わらないが、各資産間に相
関が存在すると想定する。そうすることで、担保資産プールには BET を適用する場合より多くの資産
が含まれることになり、より高い精度で損失分布のテールを描くことができる。担保資産プールに含ま
れる 2 つの証券の相関を説明するシングル・ファクターは、ムーディーズのアセット相関(Moody’s
Asset Correlation, “MAC”)として知られている 13。
CBET を用いて、担保資産プールの実際の損失分布(デフォルト率と回収率の分布を反映)に可能な
限り近い損失分布を得るために、ムーディーズは次の 2 段階から成る手順を適用する。
ムーディーズの CDOROM を用いて担保資産プールのデフォルト率と回収率のシミュレーションを
行い(3.2.3.1 節参照)、損失分布を導出する。
損失分布のシミュレーションに最も近い MAC の値を決定する 14。
MAC が推定されることで、CBET を用いて各損失シナリオとその確率を結び付けることができる。キャ
ッシュ・モデルの MAC は、ムーディーズの CDOROM によって導出される損失分布(デフォルトと回収
がシミュレートされ、回収率の不確実性を反映している)に適合するよう決定されるので、CBET 損失
シナリオにおける理想化された資産のデフォルトそれぞれに、一定の回収率を適用することができる。
こうして導出された CBET 損失分布は、ムーディーズの CDOROM を用いた損失分布に近いものにな
る 15。分析では固定回収率として、加重平均回収率(Weighted Average Recovery Rate, “WARR”)を用
いる。これは、担保資産の平均回収率を元本で加重して算出した平均値である。
3.1.2.2 節で述べたように、CBET に適用するデフォルト率を決定する要因の一つが、資産プールの加
重平均期間(Weighted Average Life, “WAL”)である。ここでは、契約で定められた WAL を用いる。
3.2.4 複雑なウォータオフォールのある取引:キャッシュフロー・モデル
担保資産の損失分布を計算した後、スタティック型ではムーディーズの CDOROM、マネージ型では
CBET により導出した担保資産ごとの損失シナリオを、キャッシュフロー・モデルを通じて、格付対象の
負債クラスによって受け取られる元利金と組み合わせる。キャッシュフロー・モデルでは、次の点を考
慮している。
担保資産のキャッシュフロー
取引のコベナンツ
ポートフォリオの資産から受領した元利金の支払順位(「ウォーターフォール」、契約書類で規定)
再投資の想定
デフォルトのタイミング
金利シナリオ
為替リスク(存在する場合)
SF CDO に関するこれらの特徴は、ムーディーズのソフトウェア CDOEdge™に織り込まれる。
8
OCTOBER 20, 2016
13
担保資産プールが何らかの特性(格付、額面など)からみて明らかに不均一な資産から構成される場合、資産プールを 2
つ以上の部分に分解するマルチ CBET アプローチを適用することがある。しかし、ムーディーズの CDOROM による損失分
布シミュレーションには、プールの不均一性が既に反映されているため、このアプローチは通常は必要とされない。
14
MAC に加えて、理想化されたプールにおける「資産を代表する数字」を選択しなくてはならない。通常は 100 に設定される。
15
より正確に言うと、CBET 損失分布は、ムーディーズの CDROM 損失分布と同じ第 1 積分(平均)と第 3 積分(歪度)を示す。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
3.2.4.1 担保資産のキャッシュフロー
ムーディーズは、キャッシュフローのモデリングを行う場合、まず担保資産プールから創出されるキャ
ッシュフローを想定する。スタティック型取引については加重平均スプレッド(Weighted Average
Spread, “WAS”)、マネージ型取引については WAS コベナンツ 16を用いて、SF CDO の裏付資産からの
利息キャッシュフローをモデリングする(3.2.4.2 節参照)。変動金利型の担保資産からの利息回収金
は、Libor/Euribor の想定も反映する(3.2.4.6 節参照)。
元本回収金は、担保資産プールの加重平均残存期間(WAL)に基づく担保資産の償還期限(スタテ
ィック型では実際の償還期限、マネージ型ではコベナンツの規定)と、償還プロファイルの想定(ベー
ス、ファースト、スローのいずれか)に基づいてモデリングする。「ベース」ケースの速度は、新規に取
得する証券の価格決定に用いられる速度、または経年化した証券の場合は過去 6 ヵ月における期
限前償還の速度である。一般に、「ファースト」ケースはベース・ケースの 2 倍の速度、「スロー」ケー
スはベース・ケースの半分の速度を想定している。必要に応じて、それ以外の償還プロファイルの想
定を用いることもある。デフォルト金額とそれに対応する回収額は元本回収金に含まれる。そのモデ
リングについては、3.2.4.5 節で説明する。
期間ごとの分析を必要とする追加的なリスクが考慮されるべきケース(稀ではあるが為替リスクがあ
る場合など)では、CBET に基づくキャッシュフロー・シナリオとともに、為替および/または金利のシミュ
レーションも考慮することがある(付録 6 および 7 参照) 17。
モデル化された利息回収金と元本回収金は、それぞれ特定の支払い期限と結び付けられる。契約
書類で各支払い日の間における再投資が禁止されていない場合、回収金は受領直後に再投資さ
れると想定する(3.2.4.4 節参照)。支払い期限到来日に、利息回収金と元本回収金は契約書類が
規定するウォーターフォールに支払われる(3.2.4.3 節参照)。
3.2.4.2 取引のコベナンツ
マネージ型取引のキャッシュフロー・モデルでは、モデルで用いられるデフォルト率と回収率を規定し
たコベナンツに加えて(WARF、WAL、WARR、MAC)、WAS 等の他のコベナンツも考慮する。
3.2.4.3 支払い優先順位
ムーディーズは、各トランシェによって受領されるキャッシュフローのモデリングが、契約書類で規定さ
れたウォーターフォールを正確に反映するよう努めている。支払はシーケンシャルまたはプロラタ方
式で行われ、テストの基準を満たさない場合はスキームが変わる可能性がある。ヘッジ契約のカウン
ターパーティとの間で発生するキャッシュフローも含まれる。モデル化されたウォーターフォールには、
OC テストや利息カバレッジ(interest-coverage : IC)テストなどが織り込まれ、テストの基準を満たさない
場合はキャッシュフローは優先順位の高いクラスに移転される。マネージ型取引では、「再投資」OC
テストが行われることがあり、これを満たさなければ、エクイティ・ノートの保有者に支払われるはずで
あった利息回収金を、新たな担保資産の購入のために確保しておく必要が生じる。OC テストと IC テ
ストでは、まず利息回収金または元本回収金が用いられる。関連手数料、費用、口座もウォーターフ
ォールに反映される。再投資期間が終了すれば、ウォータフォールも変わる可能性がある。
3.2.4.4 再投資の想定
マネージ型 CDO では、担保資産プールからのアモチ償還額の受領時、あるいはデフォルト資産から
の回収金の受領時に(いずれも通常は元本回収金に分類される)、その回収金が新たな担保資産
に再投資される場合もあれば、されない場合もある。ムーディーズは通常、再投資はそれが許される
時点であればいつでも行われると想定する。したがって、例えば、SF CDO の各支払日の間において
9
OCTOBER 20, 2016
16
SF CDO の担保資産の大半は変動金利型であるため、加重平均利息のコベナンツは必要ない。CDO の担保資産に固
定金利型が含まれるバスケットがある場合、当該バスケットについては一般に保守的な低い平均利率を想定する。
17
キャッシュ型では潜在的な為替リスクを低減するために「完全な」アセット・スワップが用いられる場合がある。完全なア
セット・スワップとは、アセットごとの通貨スワップ契約で、アセットとともにアモチし、デフォルト時、償還時、または期限
前償還時(一部または全額)に終了コストが発生しないものをさす。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
受領したキャッシュをマネージャーが再投資することを契約書類が禁止していない場合、キャッシュ
受領後直ちに再投資されたと想定して取引をモデリングする(7.5.2 節参照)。
一部の CDO では、再投資期間終了後でも、一定の再投資が許可されている。再投資期間終了後
に再投資してもよいキャッシュは通常、スケジュール外で受領した元本回収金と信用悪化(Credit
Impaired)または信用改善資産(Credit Improved)の売却代金に限られる。そのような再投資が許され
るのは、通常、SF CDO のパフォーマンスが十分な水準にある場合に限られる。そのようなプロテクショ
ンがないケースでは、資産の WAL が延長され、CBET で用いられるデフォルト率が実際に高まると想
定する可能性がある。
マネージ型 SF CDO の多くに「再投資」OC テストが組み込まれている。このテストの違反は、エクイテ
ィの保有者に支払われるべきであった利息回収金を用いて担保資産を追加取得することにより治癒
される。ムーディーズは通常、そのようなテストを SF CDO のモデリングに反映させる。しかし、モデルと
実際のテストとの整合性が担保できない可能性がある場合(例えば、ウォーターフォールにおいてテ
ストより上位にある費用に上限が設定されていない場合)には、テストは存在しないと想定するか、あ
るいはそのような上限のない費用にストレスを加えて、取引のモデリングを行う。
3.2.4.5 デフォルトのタイミング
CBET は経時的なデフォルト状況をモデリングするものではない。ムーディーズは、CBET の代わりに、
デフォルトのタイミングを想定したいくつかのシナリオを用いる。一般的には、ある CBET シナリオにおい
て、SF CDO のデフォルトが当初の 6 年間で発生するというケースを検討する。例えば、シナリオ上の
デフォルトの 50%は最初の 1 年間で、その後は毎年 10%ずつ発生すると想定する。50%のデフォルト
が集中する時期は、景気後退期のデフォルトの集積を模倣したもので、デフォルトが急増する時期を
最初の 6 年間の 1 年目から 6 年目まで移動させることにより、6 つのデフォルト・タイミングのシナリオ
を想定する。
複雑なウォーターフォールのあるスタティック型取引については、CBET ではなくムーディーズの
CDOROM を用いて損失分布を生成するが、デフォルトのタイミングのシナリオ(それぞれのシナリオで
異なる年に 50%のデフォルトが集中)は、複雑なウォーターフォールのあるマネージ型取引のケース
と同じものを用いる 18。
3.2.4.6 金利シナリオ
キャッシュ型 SF CDO については、時間の経過と共に短期金利が変化する可能性を反映させるため、
いくつかの金利シナリオを想定する。具体的には、取引に格付を付与する時点の Libor のフォワードカ
ーブをベース・ケースとする。さらに、Libor カーブから標準偏差の 1 倍及び 2 倍乖離したカーブも考
慮し、合わせて 5 つの金利シナリオを想定する。したがって、t 年後の LIBOR は次の数式でモデリング
される。
(2)
{
~
Lt = Lt exp ωσ t
}
ここで、 ω ∈ {-2, -1, 0, 1, 2},
~
Lt は Libor のフォワードカーブを表す。
σ = Libor の年率換算変動性
19
残存期間が比較的長い取引、あるいは金利リスクが特に重要である取引(ダイナミック・ヘッジをかけ
ているケース、あるいはいくつかの通貨バスケットがモデリングに用いられている場合)については、イ
10
OCTOBER 20, 2016
18
ムーディーズの CDOROM も、各デフォルトに発生時期を関連付けているが、それから得られるタイミングのプロファイル
はほとんど線形になる。しかし、モデリングの結果は一貫しておらず、ストレスの高い時期にはデフォルトの集中が観測
される。
19
現時点では 18%に設定。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
ールドカーブをシミュレーションすることがある。その際に、金利について平均回帰過程を想定する
(付録 6 参照) 20。
スワップ・カウンターパーティ・リスクについては、クロスセクター格付手法で説明している 21。ヘッジ・カ
ウンターパーティの格付があらかじめ定められた閾値を下回る水準に引き下げられた場合、通常は
担保の差し入れやカウンターパーティの交代が行われる。
SF CDO 取引で固定金利型アセットのバスケットをヘッジするために金利スワップを締結する場合、市
場金利を上回るスワップレートでヘッジされる場合がある。そうしたケースで SF CDO が受領する前払
い金は、実質的な融資である。通常、この前払い金は、利息回収金ではなく元本回収金として扱わ
れる。
一部の SF CDO では、取引開始日あるいはそれ以降にアセットごとの金利スワップを締結することが
ある。そのような取引では、そうしたヘッジの締結または終了に関連したリスクの有無を検討する。ア
セットとヘッジの厳密なマッチング、超過利息の前払い金への充当、特定のヘッジに関するデフォルト
事由の発生時に終了に伴う支払いを防止する、もしくは終了に伴う支払いを格付対象の全てのノート
の支払に劣後させる、といった条項を取引の契約に入れることで、こうしたリスクは軽減されてきた。
3.2.5 期待損失の計算
3.3.5.1 ウォーターフォールのあるマネージ型 CDO
各トランシェの EL は、全シナリオにわたって各トランシェに発生する損失の単純な加重平均で、ウェイ
トには当該シナリオが発生する確率を用いる。
D
(3)
EL = ∑ Pj L j
j =0
ここで
Pj = CBET により得られるシナリオ j が発生する確率
Lj = シナリオ j でトランシェに発生する損失の比率
ムーディーズは損失を、現在価値ベースでのトランシェの約定金額に対するキャッシュフローの不足
額と定義する。したがって、次の数式が成り立つ。
(4) L j = max(0,
PV promised − PV j
PV promised
)
(4)式において、現在価値(Present Value, "PV")は、トランシェの約定クーポンを割引率として計算され
る。変動金利トランシェの割引率は、Libor に上載せした約定スプレッドと Libor シナリオの想定に基づ
いて計算される。約定支払い額が市場金利に連動していない場合、あるいは約定支払い額がパス
に依存する場合は、異なるアプローチをとることもある。付録 8 を参照されたい。
3.2.5.2 シンプルなウォーターフォールの CDO とスタティック型取引
シンプルなシンセティック型 SF CDO の資本構造は、アタッチメント・ポイント(トランシェに損失が及ぶ
プール損失の水準)とトランシェの厚み(これによってトランシェが 100%の損失を被るプール損失のレ
ベルが決まる)を入力することによって、ムーディーズの CDOROM に組み込まれる。いずれも、資本
構造に対する比率で表される。スタティック・キャッシュ型 SF CDO の場合、資本構造とウォーターフ
ォールはムーディーズの CDOROM と併せて用いられるキャッシュフロー・モデルに組み込まれる。
11
OCTOBER 20, 2016
20
具体的には、コックス・インガーソル・ロス・プロセス(Cox, Ingersoll, Ross process)に従って金利の変化を想定する。パラメ
ータは最尤法を用いて推定する。
21
ヘッジのカウンターパーティ・リスクに対するムーディーズのアプローチに関する詳細については、末尾の「関連リサー
チ」のセクションを参照。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
ムーディーズの CDOROM のモンテカルロ・シミュレーションでは、シミュレートされた個々のシナリオの
確率は同じになるので、(3)の数式は以下のようになる。
(5)
EL =
1 N
∑ Lj
N j =1
この場合、損失は次の数式で与えられる。
(6) L j = max(0,
Tranche _ Notional − PV _ Cash _ Flow j
Tranche _ Notional
)
ムーディーズの CDOROM でモデリングされるシンセティック型 SF CDO で現在価値の計算に用いる
割引率は、トランシェの残存期間に基づいた、現時点のスワップ・レートに約定スプレッドを加えたもの
となる。ムーディーズは、損失を割引く目的にのみ、トランシェの満期までの期間の 60%が経過した時
点でトランシェに損失が発生するという想定を基本的に用いる。その結果、シンセティック型 SF CDO ト
ランシェの最終的な EL は、ムーディーズの CDOROM でシミュレートした全シナリオのトランシェ損失の
平均を現在価値に引き直したものになる。
マネージ・キャッシュ型 SF CDO では、3.2.5.1 節で説明した割引率を用いる。
EL はシミュレーションの結果として得られるものなので、シミュレーションの収束結果は、シミュレーショ
ンの試行回数にも左右される。ムーディーズは、モンテカルロ・シミュレーションの試行回数で除した
EL の分散の平方根に等しい標準誤差を用いて、EL のシミュレーション結果に 99%の信頼区間を適
用する。この信頼区間の調整幅が大きい場合、ムーディーズのアナリストは標準誤差を小さくするた
めに試行回数を増やす場合がある。
3.2.6 期待損失からモデルに基づく格付レベルへの変換
この節では、モデルのアウトプットとトランシェごとに計算された EL を結びつける方法について述べる。
ムーディーズが実際に付与する SF CDO の格付は、モデルのアウトプットに加え、格付委員会の判断
に基づいて様々な定性的要因を考慮した上で、決定されることに注意が必要である。
ムーディーズの理想化された累積期待損失率は、さまざまな期間における、格付カテゴリーごとのベ
ンチマーク EL を示したものである。ベンチマーク EL は、各格付カテゴリーのレンジの中心点である。モ
デルのアウトプットは、トランシェごとに計算された EL を、平均残存年限(WAL)およびベンチマーク EL
と対照させることで決定される。格付が初めて付与される際には、トランシェごとに計算された EL は、
その格付と WAL の組み合わせにおいて想定されるベンチマーク EL より低くなる(あるいは「pass」する)
と予想される。例えば、平均残存年限が 5 年の特定のトランシェが Aa1 と Aa2 の閾値にある場合は、
モデルのアウトプットは Aa2 になる。
通常、前節で定義した 6 つのデフォルト・タイミングと 5 つの金利を想定したシナリオに基づけば、30
の異なるケースが生まれ、1 トランシェにつき、30 の異なる EL が導出される。これらの EL は、個々の
レベルと総合レベル両方で評価される。ターゲット格付の水準に関わりなく、30 のシナリオそれぞれに
ついて算出した EL の加重平均は、ターゲット格付のベンチマークを満たさなくてはならない 22。
22
加重平均 EL の算出に用いるベースケースの確率のウェイトを下表に示す。状況に応じて、他のウェイトを用いて算出し
た加重平均 EL を分析する場合がある。
Libor シナリオ
デフォルトが増加する年
1
2
3
4
5
6
合計
12
OCTOBER 20, 2016
-2 標準偏差
-1 標準偏差
フォワード金利
+1 標準偏差
+2 標準偏差
合計
1%
1%
1%
1%
0.5%
0.5%
5%
4%
4%
4%
4%
2%
2%
20%
10%
10%
10%
10%
5%
5%
50%
4%
4%
4%
4%
2%
2%
20%
1%
1%
1%
1%
0.5%
0.5%
5%
20%
20%
20%
20%
10%
10%
100%
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
3.2.7 ハイブリッド SF CDO に対する特別な考慮事項
ハイブリッド SF CDO では、シンセティック型とキャッシュ型の組み合わせやトランシェ比率が柔軟に決
められる。ドローダウン後のスーパー・シニア・トランシェに支払われるファンデッド・レートはアンファン
デッド・レートよりも大幅に高くなる。したがって、シニア・トランシェは上限まで資金調達されると想定す
るのがモデリングにおいて最も保守的である(前掲図 3 参照)が、スーパー・シニア・トランシェが上限
まで資金調達されることはほとんどない。ムーディーズのアナリストはこれらのトランシェにおけるファン
ディングの可能性を分析上検討する。
3.2.8 デフォルト事由のモデリング(“EOD”)
SF CDO の分析において、ムーディーズは、デフォルト事由(Event of Default)の発生可能性とそれがも
たらしうる事象を評価する。OC の不足や利払い不履行がデフォルト事由になる場合、ムーディーズ
はそのような事由をモデルに組み込んで分析を行う。また、デフォルト事由の影響は契約書類が規
定する救済措置条項によって決まる。これらの論点とモデリングに与える影響については 7.6 節を参
照されたい。
3.3 補完的分析
上記の分析に加えて、ムーディーズは、格付が付与されたノートに対するイベント発生時の影響をテ
ストするため、以下のような様々なシナリオを用いて分析することがある
全ての、もしくは一部の対象債務の格付が複数ノッチ変更された場合
より高いアセット相関
ストレスをかけた回収率:例)シニア・トランシェ以外は 0%の回収率、シニア・トランシェは想定回
収率に対して 25%のヘアカット、あるいは、Ca 格付トランシェについて回収率を想定
より高い回収率分布に対する相関
各々の対象債務に対して、様々な加重平均年限(WAL)の想定
さらに、これらのストレス・シナリオにおいて、最大のエクスポージャーに対してはより高いデフォルト率
を想定して分析することがある。
格付委員会は、モデルを用いたアプローチに加えて、この補完的分析を考慮した上で、最終的な結
論を出す。
4. シンセティック SF CDO に関する追加的な考慮事項
4.1 ファンデッド型シンセティック・トランシェと担保資産
4.1.1 担保資産の機能
担保資産はファンデッド型シンセティック・トランシェにおいて重要な役割を担う。担保資産は、参照
ポートフォリオにクレジット・イベントが発生した際のクレジット・プロテクションの支払いとファンデッド型ト
ランシェの満期時における元本返済に用いられる。担保資産から得られる収益は CDS プレミアムに
追加され、ファンデッド型トランシェの投資家に支払われるクーポンの一部に充当される。
4.1.2 担保資産により付加される EL
ファンデッド型トランシェの投資家が被る、担保資産に起因する追加的な EL は、担保資産を高格付
で流動性が高い資産に制限することで限定される。また、担保資産リスクをスワップ・カウンターパー
ティに移転するストラクチャー上の手当てによって緩和される場合もある(通常は格付トリガーによっ
て、カウンターパーティ・リスクの軽減が図られる)。これまで、銀行預金、ABS 証券(典型的にはクレ
ジット・カード ABS)、カバード・ボンド、保証付投資契約、レポ契約、トータル・リターン・スワップなどの
証券や契約が担保資産として使用されてきた。
13
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
それらの手当てでどの程度、担保資産リスクが限定されるかを考慮し、担保資産に起因するリスクの
増分をモデリングする。一般に、CDO の格付が高いほど、担保資産の追加的なリスクを抑えるために、
より高い信用力と十分な流動性が求められる。
担保資産のデフォルトは通常、CDS 契約上その他の終了事由となり、期限前終了に伴うカウンターパ
ーティへの支払いはノート保有者に優先する。カウンターパーティへの支払い後の回収額の残額が、
ノート保有者に支払われる。ムーディーズのアナリストは、それらの終了時における支払いの可能性と
影響をモデリングする。
優先順位の高い終了時支払いに関連する損失は一般に、ポートフォリオの信用力に対するマーケッ
トの見方や取引の残存期間で決まるものであり、終了事由がなければ発行体によって支払われるこ
とになったであろうプロテクションの支払額の想定を超えることもある。担保資産のデフォルトによって、
発行体が優先順位の高い重大な支払いを求められる可能性が高い案件では、ムーディーズは、担
保資産の格付を上限として取引の格付を付与することになろう。
担保資産と SF CDO ノートが同じ通貨で、基準金利が異なる場合(例えば、固定金利と変動金利、国
債金利と Libor 金利、1 カ月 Libor と 3 カ月 Libor など)、金利スワップ、ベーシス・スワップ、タイミング・
スワップが用いられてきた。稀に、担保資産と SF CDO ノートの通貨が異なることがあるが、その場合
は通常、カウンターパーティと通貨スワップを締結することで為替リスクをヘッジする。
担保資産に関わる市場価格リスクは、(1)クレジット・プロテクションの支払い、(2)ノートの期限前償還
時の支払い、(3)ノートの満期時における支払い、などのために、担保資産を処分する際に発生する。
市場価格リスクがヘッジあるいは軽減されていない場合、ムーディーズは担保資産の特徴を考慮し
て、追加的な EL の評価を行う。
4.2 カウンターパーティ・リスク
CDS カウンターパーティなどのデリバティブ契約のカウンターパーティにかかわるリスクは、通常、担保
資産リスクと同様の方法で、追加的な EL としてモデルに織り込む。その場合、ムーディーズは、エク
スポージャーの性質と種類に応じて、カウンターパーティがデフォルトした場合に SF CDO に発生する
損失を想定する。例えばカウンターパーティ・リスクが、その CDS カウンターパーティからのプレミアム
支払いの損失に限定される場合、追加的な EL はカウンターパーティのデフォルト率と発生するプレミ
アム損失を反映したものになる。.
ファンデッド型シンセティック SF CDO では、カウンターパーティのデフォルトによって、優先順位の高い
終了時支払いも発生し得る。そのような支払いが発生する可能性を、取引ごとに(1)カウンターパー
ティの格付と所在地、(2)支払優先順位の有無とその強制力(カウンターパーティのデフォルト時に、
発行体からのカウンターパーティへの支払いが劣後される、いわゆる「フリップ・クローズ(flip clause)」
を含む)等の関連要因を全て考慮した上で決定する。優先順位の高い終了時支払いに関連する損
失は、通常、参照ポートフォリオの信用力に対するマーケットの見方や取引の残存期間で決まるもの
であり、終了事由がなければ発行体によって支払われることになったであろうプロテクションの支払額
の想定を超えることもある。カウンターパーティのデフォルトによって、発行体が優先順位の高い重大
な支払いを求められる可能性が高い案件では、ムーディーズは、4.1.2 節の担保資産リスクのケース
と同様、カウンターパーティの格付を上限として取引の格付を付与することになろう。
ほとんどの場合、デリバティブ契約にはそのようなカウンターパーティ・リスクを軽減する仕組み上の手
当てが取り入れられている。それらの手当ては通常、カウンターパーティが最低格付要件を満たさな
くなった場合に、カウンターパーティに何らかの措置(担保資産の差し入れ、カウンターパーティの交
代、保証取得など)を講じさせる格下げトリガー条項である。それらの仕組み上の手当てを分析する
際、ムーディーズは、デリバティブ契約の種類、カウンターパーティ・リスクの性質やカウンターパーテ
ィの信用力の変化の可能性などを考慮する。
14
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
4.3 決済と評価の手続き
クレジット・イベントが発生した債務の評価手続きは、3.1.1 節で説明した回収率の想定に影響を与え
る要因の一つとなる。ムーディーズのアナリストは、採用された手続きがこの想定と整合的であるかを
検証するため、ISDA コンファーメーションの契約条件を確認する。当然ながら、評価と決済の仕組み
が、回収率の変動性を高めたり、予想回収率の下方ストレスを要するものになっていないことが重要
である。例えば、最割安銘柄引渡しのオプションがある場合、予想回収率に下方ストレスを加える。
SF CDO の対象アセットに対して用いられる、ペイ・アズ・ユー・ゴー(Pay As You Go : PAUG)決済の手続
きは、シンセティック取引の枠組みの中で、証券化商品を現物保有する場合とほぼ同等のキャッシ
ュフローが可能となることを目的としている。すなわち、PAUG CDS の下での支払いは、特定の参照債
務の支払いに合わせて行うよう組成することができ、元利金返済の不履行、実際のあるいは想定さ
れる減額(あるいはその回復)などを反映して、スワップのいずれかの当事者によってなされる。この
ように、PAUG の下では複数の決済が可能である。
PAUG 決済を用いて証券化商品を参照する CDS 契約が締結される取引では、デフォルト率と回収率
の想定に関し、証券化商品を現物保有する場合と同様の想定を適用するケースがあ り う る と ム ー
デ ィ ー ズ は 考 え てい る 23。 その他のケース(Caa2(sf)への格下げなどの「ソフトな」クレジット・イベント
が適用される場合など)では、特定の取引契約書によって生じる追加的なリスクを反映するためにモ
デリングの想定を調整することがある。
ABS を参照する CDS の決済にはほぼ例外なく PAUG が適用されているが、初期のシンセティック型
CDO はほとんどが現金決済であった。それらの SF CDO に対しては、ムーディーズは現在でも 3.1.1.2
節で説明したヘアカットを適用して、シンセティック型 SF CDO のモニタリングを行っている。
4.4 ファンデッド型シンセティック SF CDO の期限前償還
ムーディーズは、ノートの早期償還に起因する何らかの損失によって格付対象トランシェが被りうるリ
スクを評価する。ISDA マスター契約のスケジュールに基づく CDS の期限前終了や、当該ノートを規
定する契約書類の条項に基づく EOD の発生が、期限前償還の原因となりうる。期限前償還により、
格付対象トランシェに無視できない損失が想定される場合は、前述のように期限前償還が発生する
確率と発生した場合の損失を考慮して EL を加算する。
ISDA マスター契約のスケジュールには通常、CDS カウンターパーティのデフォルト、ノートの担保資産
のデフォルト、あるいはノートの期限前償還など、一定の期限前終了事由が規定されている。また、
特に CDS カウンターパーティが有する CDS 終了の権利の行使によって格付対象トランシェに何らか
の損失が発生するような「ソフト」トリガーが存在する場合は、そのようなソフト・トリガーはリスク軽減処
置がなされるか、さもなければ定量可能な EL が加算される可能性がある。
シンセティック型 SF CDO の場合、最も発生の可能性が高いデフォルト事由は、CDS の期限前終了
(CDS カウンターパーティのデフォルトに起因する場合を含む)、あるいはノートの担保資産のデフォル
トである。
ファンデッド型 SF CDO の CDS カウンターパーティがデフォルト事由の当事者、あるいはスケジュール
規定上、唯一の関係当事者となる場合、期限前終了に関わる CDS カウンターパーティへの全ての
支払い(クレジット・プロテクションの未払い額を除く)は、通常、当該格付対象ノートの支払いに劣後
する。その場合でも、ムーディーズは、担保資産の処分により元利金の支払いに不足が生じる可能
性を考慮する 24。
担保資産のデフォルトについては、4.1.2 節で説明したように、そのリスクを反映した EL が加算される。
15
OCTOBER 20, 2016
23
この点に関する検討については、前脚注を参照されたい。
24
この計算は、ムーディーズの CDOROM を用いずに行い、結果をムーディーズの CDOROM に手動でインプットする。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
4.5 大部分がキャッシュ型の SF CDO にシンセティック・アセットを含めることについて
既に述べたように、大部分がキャッシュ型の SF CDO であっても、シンセティック証券のバスケットを含
んでいることが多い。ムーディーズは一般に、シンセティック証券のバスケットに対する制限を分析し、
参照債務の性質あるいはマネージャーの専門的経験を理由として、SF CDO には不適切な担保資産
を購入する仕組みとして用いられていないかどうかを確認する。参照債務は一般に、債務担保証券
の定義を満たすが、支払回数、ベース金利、満期がいくらか変更されている場合もあるだろう。また、
いかなる引渡可能債務も、債務担保証券の基準を満たさなくてはならない(引渡し後にデフォルトす
る可能性があるという事実は除く)。
担保資産の質と集中度をテストする目的で、ムーディーズは通常、裏付け参照資産の特性を分析
する。しかし、上述したように、クレジット・イベントや適用される決済手続きによっては、デフォルト率や
回収率にストレスを加えることがある。WAL については、裏付資産の予想満期とシンセティック・アセ
ットの満期のうち、最も短い期間を考慮する。資産からの支払の特性(回数、参照インデックス、通貨)
は、シンセティック証券の契約条件を反映する。
シンセティック・アセットにクレジット・イベントが発生した場合、あるいはシンセティック取引のカウンター
パーティがデフォルトした場合、当該シンセティック・アセットは一般にデフォルトとして扱う。
大部分がキャッシュ型の CDO において、シンセティック証券の使用を管理するため、契約文書に「承
認されたフォーム(form approved)」が採用されていれば、ムーディーズの分析も CDO のマネジメントも
容易になる。承認フォームによるシンセティック取引の契約書類は、当該取引のレーティング・ファク
ターと回収率を決定するプロセスを規定するものである。承認フォームによらない他のシンセティック
取引では、通常、契約締結時に発行体が格付会社にレーティング・ファクターと回収率の通知を要
請する。承認フォームを用いた契約が締結される場合、ムーディーズは通知を受ける。
CDS カウンターパーティへの過剰なエクスポージャーは、CDO のリスクを高める可能性がある。ムー
ディーズは、付録 6 で示したカウンターパーティの集中の制限により、シンセティック・アセットのカウン
ターパーティがデフォルトする可能性から生じる SF CDO のリスクが制限されると考える。追加エクス
ポージャーは、モデルで考慮するか、軽減措置をとる必要がある。シンセティック・エクスポージャー
のカウンターパーティのデフォルトがトリガーとなって、終了事由による支払いを行う義務が SPV に生じ
た場合、ウォータオーフォールにおける支払い順位は、通常、あらゆる格付対象のノートの支払に劣
後する。そのような終了事由による支払いが他のノートに劣後しない場合は、追加リスクをモデリング
する必要がある。CDS 契約で SPV が差し入れる担保は、「適格投資」の定義を満たしていなくてはな
らず、請求時に額面で償還可能でなくてはならない。
5. 特殊な特徴を持つトランシェ
ここまでは、ファンデッド型およびアンファンデッド型の典型的なキャッシュ型 SF CDO のトランシェとシ
ンセティック SF CDO のトランシェのモデリングについて説明した。一方、特殊なタイプのトランシェにつ
いては、格付にあたって追加的な検討が必要となる。
5.1 短期(あるいはマネー・マーケット)トランシェ
キャッシュ型 SF CDO の中には、満期が 390 日以下の短期トランシェが発行されるものがある。ムー
ディーズがそのようなトランシェに対する短期格付の付与を依頼された場合、EL ではなく単純にデフ
ォルト率の基準を用いて格付を行う。
こうした SF CDO の短期トランシェに付与する短期格付は、主として、当該トランシェを契約で定められ
た上限未満のスプレッドで全額売却できない場合にそれを購入することを確約をした P-1 格付のカウ
ンターパーティがいるかどうかによって決まる。ムーディーズは取引の契約書を分析し、資金調達に
関してターゲット格付と一致しない条件があるかどうかをみる。
16
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
5.2 アンファンデッドのリボルビング型 SF CDO のトランシェ
すでに見た通り、ハイブリッド CDO のスーパー・シニア・トランシェには、ファンデッドのものとアンファン
デッドのものがある。一般に、アンファンデッドのトランシェでは、特に担保資産の積み増し期間におい
て、マネージャーは柔軟に資産を購入できる。ムーディーズは通常、SF CDO の取引開始日にアンフ
ァンデッドのトランシェに格付を付与する。そのようなトランシェ(他の SF CDO トランシェの格付に影響
する可能性がある)については、上限まで資金調達されるケースを考慮しながら分析する 25。
リボルビング・アセットの資金調達のために、リボルビング・ノートが発行されることが多い。SF CDO が流
動性不足を補う資金源として、キャッシュ・リザーブではなく、このような資金調達に依存しなくてはな
らない状況が存在する場合、SF CDO の契約書には、高い格付を有する買い手がリボルビング・ノート
を購入するという条項が明記される。買い手の格付が P-1(引き下げ方向で見直し)に低下した場合
の追加的なリスクは、P-1 格付の買い手との交代、P-1 格付の主体による保証、または SF CDO による
ファシリティからの全額引き出しによって、軽減することができる。
5.3 他のトランシェより早く償還される SF CDO トランシェ
一部の SF CDO では、全てのアセットの満期後に償還されるトランシェの他に、プールのいくつかのア
セットより早期に満期となるトランシェが発行される。そのようなケースでは、満期の短いトランシェの
元本が満期までに全額支払われない場合、EOD が発生する可能性をテストする。一部の CDO は、
このようなリスクを軽減する手当ての一つとして、短期トランシェより満期の短いアセットの額面のみを
考慮した場合、短期トランシェの元本が十分にカバーされているかどうかを評価する OC テストを契約
文書に含めている。
5.4 ラップ・トランシェ
一部の SF CDO トランシェは第三者(通常はモノライン保証会社)の保証を受けている。取り消し不能、
要求払い 26、且つ無条件の保証であれば(あるいは、発生の可能性が極めて低い状況でのみ取り消
し可能であれば)、そのトランシェはラップ・トランシェのクロスセクター格付手法に基づき、大抵の場合、
保証者の格付と保証がないと想定した場合のトランシェの「格付」との高いほうに格付される。信用代
替に関する格付手法については、関連リサーチを参照されたい。
5.5 SF CDO を担保とする債務およびエクイティを組み合わせた証券化証券
ムーディーズは、1つあるいは複数の SF CDO の債務トランシェ、あるいは場合によりエクイティ・トラン
シェを裏付けとする証券化商品の格付の依頼を受けることがある。この種の証券の格付に対する定
量的アプローチについては付録 8 で詳述する。
5.6 SF CDO のパススルー証券
2 つ以上の SF CDO の債務トランシェのキャッシュフローの全てをその保有者にパススルーするだけの
証券化商品が発行されることがある。ムーディーズはそれらの証券化商品を加重平均期待損失ア
プローチを用いて分析する。この分析手法では、当該証券化商品を構成する原資産の期待損失の
額面加重平均をその証券化商品の期待損失(EL)とし、原資産のゼロ・デフォルト・シナリオにおける
WAL の額面加重平均をその WAL とする。そのようにして得られた当該証券化商品の EL を、同様に
得られた WAL に基づいて、ムーディーズの理想化された累積期待損失率テーブルの EL ベンチマー
クと対照し、得られた結果がターゲット格付と一致するかを判定する。
17
OCTOBER 20, 2016
25
上限まで資金調達されるケースは、より強いストレスをかけた想定である。ファンデッドとアンファンデッドのスーパー・シ
ニア・トランシェの比較については、3.2.7 節を参照。
26
「要求払い」とは、保証者は被保証者の請求に応じて支払いを履行する義務があることを意味する。具体的には、非保
証者からの請求額が実際に支払うべき金額であるか否かをあらかじめ確認する権利が保証者にはない。保証者はま
ず支払いを履行する必要があり、その後初めてそのような要請をすることができる。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
6. 特殊な特徴を持つアセット
これまで述べてきたモデリングのアプローチでは、主にシンセティック型とキャッシュ型を区別してきた。
このような幅広いカテゴリーの中で、SF CDO は特別な取り扱いを必要とする証券を購入することがで
きる。.
本節で検討する集中度の制限や他の条項は、標準化されたものであり、以下の節で示す集中度の
許容範囲を超える取引や、下で述べる条件にあてはまらない取引を分析する際には、追加的なリス
クを織り込む場合がある。
6.1 格付の低い証券化商品
SF CDO は通常、投資適格等級の証券化商品を購入するよう組成されている。格付の低い証券化
商品を購入する SF CDO の OC テストでは、OC テストをトリガーとするキャッシュの支払先の変更を完
全にモデルに織り込むため、格付の低い証券化商品の元本に対するヘアカットを求めている。
SF CDO 市場では一般的な慣行として、そのような格付の低い証券を購入する場合、集中度に制限
を設ける。元本のヘアカットは通常、制限を超える部分に適用される。
OC テストが行われるシンセティック型については通常、格付に基づく集中度の制限が、参照証券に
同様に適用される。
上述したように、格付の低い証券に関連したリスクの軽減措置が十分にとられていないとムーディー
ズが判断した場合、CDO の残存期間を通して、あるいはその一部において、OC テストが存在してい
ないと想定して SF CDO のモデリングを検討する。
6.2 デフォルト・アセット
ムーディーズの格付定義によると、「デフォルト証券」とは、期日通りに元利金が支払われなかった証
券、破産法適用の対象となった主体の債務、あるいは取り消し不能の元本削減が行われた証券で
ある 27。ムーディーズは、猶予期間や免責条項の有無にかかわらず、そのような債務をデフォルト債
務とみなす。しかし、一部の SF CDO では、マネージャーが受託者に対して、支払い不履行がクレジッ
トの問題や不正とは関係がないことを証明し、そのような問題が月次トラスティー・レポートで明らかに
なっていれば、3 日あるいは証券の契約文書で規定された猶予期間のいずれか短い期間が猶予期
間として与えられる。また、ムーディーズは、モニタリングを目的とする取引のレビューにおいて、「Ca」
または「C」に格付されたアセットをデフォルト債務として扱う。
SF CDO の担保資産プールには、デフォルト資産が含まれている場合がある。デフォルト資産は通常、
SF CDO の担保の質および集中度のテストにおいて、除外される。
SF CDO の OC テストにおけるデフォルト証券の額面は、想定回収率に基づいて決められ、ムーディー
ズが想定する回収率に基づく金額と現在の市場価値とのいずれか小さい方を用いる。市場価値とは、
アームズレングス・ルールに基づく公正な市場価値である。一般に、ディーラーのビッドの集計値また
は第三者のプライシング・サービスからのビッドに基づいて決定する。しかし、一部の SF CDO では、ム
ーディーズの回収率に基づく金額とデフォルト後最長 30 日の自己評価額のいずれか小さい方を額
面とすることがインデンチャーで認められている。この期間の経過後は、第三者を情報源とする市場
価値が利用可能になるまで、OC テストにおけるデフォルト証券の額面はゼロとする。
SF CDO の中には、担保資産の入れ替え目的に厳しく限定して、デフォルト証券(および格付が Caa
(sf)の担保資産と信用減損資産)の購入を認めているものがある。そのような資産購入に一定の基
準(プールに占める割合や信用力の制限)が設けられていれば、必ずしもリスクの増加にはつながら
ない。
27
18
OCTOBER 20, 2016
救済目的の債務交換(ディストレスド・エクスチェンジ)で受領した証券が、担保債務証券の定義を満たす場合は、通常、
デフォルトとはみなされない。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
デフォルト資産および Ca 格付の資産から利息または元本が支払われる場合、格付委員会はケー
ス・バイ・ケースでそれらの資産の想定回収率に関するシナリオを追加し、その評価を行う。
6.3 長期資産
SF CDO(キャッシュフロー型あるいはハイブリッド型)のトランシェの償還期日後に満期となる「長期資
産」は、流動性リスクを発生させる。資産の残存期間と、格付対象トランシェの償還日よりどれくらい
後に満期となるかによって、ムーディーズは通常、これらの資産を売却して得られる対価を想定する。
その対価は、ムーディーズが当該証券に対して想定する回収率に基づく金額と同じくらい低くなる、
あるいはそれを下回る可能性がある。
長期資産にも、SF CDO の OC テストにおいて元本にヘアカットが適用されることがある。その場合、通
常、再投資期間を通して長期資産バスケットが上限まで調達されるケース、再投資期間の終了時
点のみにおいて上限に達するケース、上限まで調達されないケースをモデリングすることにより、感
応度分析を行う。
ムーディーズは、長期資産が CDO トランシェの満期日まで残存する可能性と、予想される売却価格
のレンジを考慮する。
6.4 PIK 債、ステップ・アップ/ステップ・ダウン債、支払回数の少ない証券
利払い繰り延べが行われる(“PIK”あるいは “PIKable”)資産、あるいは利払いの頻度が SF CDO より少
ない資産は、流動性に関する懸念を生じさせる。SF CDO は通常、資産購入時に利払い繰り延べとな
っている資産を購入できないが、購入後に利払い繰り延べが発生する可能性のある資産(特に他の
CDO から発行されたトランシェ)の購入は禁止されていない。WAS テストでは、繰り延べ利息にクレジ
ットを与えない。実際、そのような資産から十分なスプレッドが確保できない場合、SF CDO の他の資
産のスプレッドによって相殺されなくてはならない。証券の利払い繰り延べが発生した場合、格付が
Baa3 以上で利払い繰り延べ期間が 1 年あるいは 2 回のいずれか短い期間である、または、格付が
Ba1 以下で利払い繰り延べ期間が 6 ヵ月あるいは 1 回のいずれか短い期間である資産は通常、OC
テストではデフォルト証券として扱われる。この条項が契約書類に明記されていない場合、OC テスト
は存在しないものとして、SF CDO のモデリングを検討する。
こうした利払い繰り延べ資産に関連するリスクは、軽減措置がとられるか、またはモデルに組み込ま
れる。担保資産の利払い繰り延べをモデリングするのは非常に難しいため、このリスクを最小化する
ためにとられる一般的なアプローチは、次のいずれかである。すなわち、(1)PIK 証券のバスケットを制
限する一方で、モデリング上は取引開始時からバスケット全体で PIK が発生すると想定する、あるい
は(2)CDO への支払の不足をすべてカバーする流動性スワップ契約を、高格付のカウンターパーテ
ィと締結する。
支払回数の少ない資産とは、SF CDO のトランシェより利払いの頻度が少ない資産である。PIK 証券と
同様、これらの資産は CDO の PIK 以外のトランシェの利払いを行うために十分な利息を創出できな
いというリスクを生じさせる。そのような資産から生じる流動性リスクは、モデルに組み込むか、軽減措
置を講じなくてはならない。一部の取引では、これらの資産のバスケットを制限する、キャッシュ・リザ
ーブ/円滑な利息支払のための口座を維持する、タイミング・スワップ、SF CDO のすべての支払期間
において利払いの比率を制限する、等の軽減措置がとられる。
「ステップ・アップ」または「ステップ・ダウン」証券とは、残存期間において利息またはスプレッドの増
加または減少が予定されている証券である。加重平均クーポン(WAC)の算出および WAC テストに
おいて、ステップ・アップ証券は現時点の利率またはスプレッドが支払われると想定し、それに準じて
モデリングを行う。一方、ステップ・ダウン証券は、予定利率またはスプレッドの中で最も低い値が全
期間にわたって適用されると想定してモデリングする。
19
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
7. その他のストラクチャー及び契約関連書類にかかわる問題
7.1 取引開始日、効力発生日、ランプアップ条項に関するキャッシュ型およびハイブリッド
型 SF CDO の問題
7.1.1 資産プールの基準と期中のテスト
次に挙げる様々なストラクチャー上の特徴を検討することにより、ムーディーズのモデリングは SF CDO
の投資家が負うリスクを適切に反映することができると考える。ここで述べる慣行から極端に外れるケ
ースでは、リスクを十分に分析することが不可能になるため、SF CDO を格付できない場合がある。他
のケースでは、モデリングの想定を調整することによって、ストラクチャー上の問題の扱い方の相違を
補完できる可能性がある。
SF CDO の取引開始日(Closing Date)に、債務担保証券(SF CDO のランプアップ(ramp-up)期間に取
得した債務)の支払いスケジュールと、それらの証券が取引開始日にカバレッジテストおよびクオリテ
ィテストの基準を満たしていることを示す会計士の証明書が提出されなくてはならない。効力発生日
(Effective Date)にも、効力発生日における基準に言及した証明書が提出されなくてはならない。
ランプアップ期間の長さと、取引開始日までに購入した担保資産のターゲットに対する比率に応じて、
通常、資産購入の中間テストを実施することが契約書類に明記される。ムーディーズは、効力発生
日のコベナンツが遵守されないリスクを、中間テストが緩和する可能性を考慮しながら、評価する。
他に考慮される要因は、取引開始日と効力発生日における担保資産の質の基準の著しい相違や、
マネージャーによる CDO の購入が適切になされなかった履歴などである。
このような中間テストは、担保資産の購入価格、取得資産の額面、WARF、MAC、WAS 等を捉えるも
のである。ランプアップ期間の間、中間テストの基準や効力発生日のコベナンツが満たされない、あ
るいは発行体がテストで基準に満たなかった要因の治癒措置を取らない場合、格付アクションをとる
可能性がある。
7.1.2 効力発生日における「超過」キャッシュの支払い
マネージャーは、ランプアップ期間の終了時に未使用の回収金をエクイティ投資家に支払うことを選
択できる。SF CDO のインデンチャーは通常、格付対象ノートの保有者にモデリングされていないリスク
を発生させる可能性のある早期の支払いを回避するための基準を設定している。
これらの基準には、(1)担保資産のクオリティ・テスト(特に WARF と格付バスケットの集中のコベナン
ツ)を第 1 回の支払日の前、ならびに(試算ベースで)それ以後に満たしていること、(2)支払いの影
響を考慮した後でも、最劣後トランシェの OC テストで得られる比率が、効力発生日の水準以上であ
ること、(3)そのような支払の金額は、取引総額に対して非常に低い比率に制限されること、が含ま
れる。
7.2 利息回収金及び元本回収金の定義
利息回収金と元本回収金では、SF CDO のウォーターフォールにおける取り扱いが異なり、その定義
がキャッシュフローの分配に大きな影響を与える。一般に、SF CDO の利息回収金は対象となる証券
化商品の利息と CDS プレミアムから生じ、元本回収金は証券化商品の元本の期限前償還、元本返
済、及び償還から生じる 28。以下の節では、この定義に関連して発生する可能性のある問題につい
てのムーディーズの見解を示す。
7.2.1 利息回収金
通常、デフォルト・アセットに対しては、回収金のうち、元本金額を上回る部分のみが利息回収金に
分類される。また、元本が 100%回収されるまで利息回収金は元本回収金とみなされる。
28
20
OCTOBER 20, 2016
利息回収金には、未収利息、遅延利息、様々な改定に伴う支払い金、遅延損害金、保証投資契約収益金、スワップ支払い金、
適格投資の金利なども含まれる場合がある。また元本回収金には、未投資資金、シンセティックの減額に伴う償還金、適格投資
の元本、様々な改定に伴う支払金や遅延損害金、コール・プレミアム、売却代金などが含まれる場合がある。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
一部の取引において、「トレード益」が元本回収金ではなく利息回収金として取り扱われることがある。
トレード益が元本回収金として取引に残らず、ウォーターフォールにおいて利息回収金として流出す
る場合、額面金額を大幅に下回る価格でアセットを購入することに対しインセンティブが働くことが懸
念される。その場合、これらのアセットが劣化あるいはデフォルトするまでに、それらに発生した損失を
相殺できるはずだったトレード益がすべて枯渇してしまう可能性がある。したがって、ほとんどの取引は
そのようなリスクを軽減する規定を設けている。具体的には、通常、トレード益は売却価格から額面
金額あるいは購入価格のどちらか大きい方を差し引いた金額として計算される。取引書類に組み込
まれるその他の代表的なリスク軽減策としては、(1)トレード益を効力発生日後 1 年間は利息に分類せ
ず、その間分配されないようにする、(2)利息のウォーターフォールによりトレード益をリリースする際、リ
リース後の担保プールのクオリティ・テスト(WARF テスト)要件を定める、(3)リリース後の格付に関連し
た集中制限を定める、(4)リリース後の最劣後 OC テストの値を効力発生日のレベル以上とする、(5)
最上位シニアが格下げされたり、メザニンが 2 ノッチ以上格下げされる場合回収金をリリースしない、
などが挙げられる 29。
7.2.2 元本回収金
マネージャーが元本回収金を未払い利息の購入に充てた場合、その金額は通常、利息収入には分
類されない。当該アセットから利息を実際に受領した場合、その額も引き続き元本回収金に分類さ
れるのが普通である 30。利息を支払う前にアセットがデフォルトを起こした場合、あるいは次回の支払
い期日が SF CDO の次回の「支払日」の後に到来する場合、超過利息は通常、当該証券の未払い
利息の購入に用いた元本回収金の金額まで、元本回収金に再分類される。
7.3 適格投資基準
SF CDO におけるキャッシュの適格投資基準は、信用リスクや、市場価格リスク、カウンターパーティ・
リスクなどを最小化すると考えている。適格投資に関する格付手法については、関連リサーチを参照
されたい。
7.4 手数料及び経費
7.4.1 上限の定めがない優先手数料
第三者(マネージャー、トラスティー、ヘッジ・カウンターパーティ、保険者など)に支払う手数料に上
限が定められていない場合には、注意が必要である。金額に制限がない経費、特に補償に関連する
経費は、ウォーターフォールにおいてそれが格付対象ノートへの支払いに優先するケースでは、格付
対象ノートの保有者の利益を損なう場合がある。上限規定のない手数料を正確にモデリングするの
はほとんど不可能である。SF CDO はこのリスクに対する措置として、通常、格付対象ノートの支払いに
優先する全ての手数料について上限規定を設けている。ムーディーズのキャッシュフロー・モデルで
は、上限規定がある場合には、上限額を用いて手数料(経費)をモデリングする。しかし、典型的な
SF CDO のウォーターフォールでは、上限を超える経費の支払を規定している。これらの経費支払い
は一般に、格付対象ノートに直接影響する支払に劣後するが、エクイティへの支払には優先する。
7.4.2 マネジメント手数料
通常 SF CDO のマネージャーに支払う手数料には、優先手数料と劣後手数料の 2 種類がある。キャ
ッシュ型 SF CDO では、優先マネジメント手数料は一般に、ウォーターフォールにおいて格付対象ノー
トへの支払いに優先するが、劣後マネジメント手数料は通常、格付対象ノートへの支払いに劣後する。
シンセティック型 SF CDO には、マネジメント手数料の支払いに関し、いくつかの形態がある。典型的な
取り決めでは、未払いの格付対象ノートに基づいて優先手数料が支払われ、劣後手数料は格付対
象ノートに劣後する想定トランシェに支払われる。
SF CDO のパフォーマンスが良好でない場合、劣後手数料が支払われない可能性が極めて高くなる。
そのような事態が起こった時、SF CDO が代わりのマネージャーを指名できるかどうかは、優先手数料
の額が十分かどうかにかかっている。ほとんどの取引では、マネージャーの交代が必要になった場合
21
OCTOBER 20, 2016
29
このような格下げに対するテストでは、当初 Aa2 以上に格付されたノートが「シニア」になる。「メザニン」は A2 未満で Ba1
超のノートを指す。
30
言い換えると、マネージャーは、未収利息の購入を通じ、元本回収金を利息回収金に変換することはできない。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
にのみ支払われる「スプリンギング(springing)」優先手数料(通常ノート保有者の同意が必要とな
る)を定めてこのリスクを緩和している。このような取り決めは通常、取引書類に明記されている。
7.5 トレーディングと再投資にかかわる問題
7.5.1 トレーディング
SF CDO のインデンチャーは通常、マネージャーに対し、証券化商品を信用改善あるいは信用劣化ア
セットのいずれかに分類する裁量権を与えている。ただし、通常シニア・ノートが格下げされたり、メザ
ニン・ノートが 2 ノッチ以上格下げされた場合は、客観基準が適用される。通常、格付変更(格付見
直しの決定を含む)や最低 1 ノッチの格付変更に相当する価格(スプレッド)変動などが客観基準とし
て用いられる 31。他に、ノート保有者の承認でマネージャーが裁量権を回復できる場合がある。格付
対象ノートがさらに格下げされた場合、ノート保有者の投票で回復しない限り、マネージャーの裁量権
は停止する。
マネージャーが自己の判断で証券化商品を信用改善もしくは信用劣化アセットに分類できる場合、
実質的にトレーディングの自由裁量がマネージャーに与えられることになるため、通常、同様のルー
ルが裁量的トレーディング自体にも適用される。すなわち、マネージャーは、シニア・ノートが格下げさ
れていない、あるいはメザニン・ノートが最低 2 ノッチ以上格下げされていない限り、通常、年 20%程
度までアセットを裁量的に売却することができる。ノート保有者の承認があれば裁量権は回復される
が、ノートがさらに最低 2 ノッチ格下げされている場合は、再度ノート保有者の投票が必要となる。
マネージャーは、個々のトレードの適用基準がアセットのグループに適用される「バスケット・トレード」
の採用を志向することがある。インデンチャーにそのような規定が織り込まれる場合は、「維持または
改善」条件が付されるのが普通である。バスケット・トレードにおいて「維持または改善」の概念を機能
させるため、(1)所与のバスケット・トレードの期間を 1 日に限定するか、 (2)1 回のバスケット・トレードで
売却あるいは再投資できるポ―トフォリオの比率を制限した上(たとえば元本総額の 5%)、所与のバ
スケット・トレードの期間を 20 日間に制限する、さらに (3)通常、前回のバスケット・トレードにおいて「維
持または改善」を果たせなかった場合には以降のバスケット・トレードを停止させる、などの方策がとら
れる。
7.5.2 再投資
SF CDO のモデリングが、トレーディング及び再投資の規定と整合的であることは重要である。
例えば、SF CDO インデンチャーが支払日の間において元本回収金の再投資を認めている場合、モ
デルは、全ての元本回収金(アモチ償還額とデフォルト後の回収額を含む)が次回の支払日のウォ
ーターフォールにおいて使用可能であるという想定ではなく、全ての元本回収額が受領後直ちに再
投資されると想定すべきである。
ムーディーズの標準的モデリングの枠組みでは、売却による元本回収や約定期日以外の元本回収
の再投資は担保プールの様々な指標(クオリティ・テストなど)を悪化させるものでなないと想定して
いる。また、信用改善アセットの売却あるいは裁量的売却に伴う売却代金や、約定期日(または非約
定期日)の元本回収金の再投資は、元本を毀損するものにはならないと想定している。さらに、信用
劣化アセットの売却回収金を再投資する場合には、再投資アセットの元本金額が売却代金の額を
下回らないものと想定している。仮にこれらのいずれかが満たされない場合、ムーディーズは分析上
の対応を検討する。
3.2.4.4 節で触れたように、一部の SF CDO は、再投資期間終了後、制限付きで約定期日外の元本
回収金と信用劣化あるいは信用改善アセット売却の回収金の再投資を認めている。それらの投資は
通常、提案された再投資が実施された後に WARF テストや最劣後 OC テストが満たされるケースに
限定される。また、ムーディーズは、再投資の結果、SF CDO の残存 WAL が延長されるかどうかを確
認する。さらに、これらの再投資期間終了後の再投資は、通常 SF CDO のシニア・ノートが格下げされ
ておらず、且つジュニア・ノートが 2 ノッチ以上格下げされていないことがインデンチャー上の条件とな
っている。
31
22
OCTOBER 20, 2016
スプレッド変動は通常、適切で広く利用されているインデックスを用いて測定される。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
7.6 デフォルト事由(EOD)の扱い
デフォルト事由が発生すると、インデンチャーが定義するコントローリング・パーティ(通常 1 つあるいは
複数のクラスのシニア・ノート保有者を指すが、それぞれのクラスのノート保有者が個別に投票権を
有する場合もある)は、何もしないか、償還期日を繰り上げるか(この場合、全てのノートが満期となり
再投資が終了する)、担保プールを処分するかを選択できる。ほとんどの場合、最上位シニア・クラ
スが取引を完全に支配する。
SF CDO の分析では、ムーディーズはデフォルト事由の可能性と発生に伴う影響を評価する。超過担
保不足や利払い不履行がデフォルト事由のトリガーとなりうる場合は、ムーディーズはそれらのトリガー
をモデルに組み込んで分析する。デフォルト事由の影響は、インデンチャーが具体的に規定する救
済措置条項によって決まる。
格付委員会は、有意な EOD リスクがあるとみられる場合、A1 を超える格付を付与しない裁量権を持
つ。また、EOD リスクが大きい場合は Baa1 を超える格付を付与せず、実際に EOD が発生したが担保
資産の処分はまだ決定していない場合は Ba1 を超える格付を付与しない裁量権を持つ。治癒措置と
して資産の処分が選択された場合、格付の上限は B1 となる。格付見直しの対象となっている取引に
ついては、具体的な要因の分析に基づき、格付の上限を変更する場合もあれば、適用しない場合も
ある。分析される要因には、取引に固有のストラクチャー上の特徴、シニアトランシェのタイプと厚み、
担保資産の性質とタイプ、取引のタイプなどが含まれる。
7.7 アセットの所在地
担保プールにおける証券化商品の所在地は、アセット相関の想定と集中度の計算に大きな影響を
与えることがある。SF CDO の契約書類は証券化商品の裏付けとなる原資産が属する国を参照する。
7.8 契約書類及び法律意見書のレビュー
ムーディーズは、SF CDO の法的構造を全般的に評価するにあたって、該当する場合は、通常、イン
デンチャー、担保管理契約、信託証書、スワップ契約一式、他の取引契約書類、それに法律事務
所が発行体及びアレンジャー宛に作成した各法律意見書をレビューする。全ての SF CDO でほぼ例
外なく作成される標準的な法律意見書には、取引の各当事者の一般的なコーポレート・オピニオン、
担保権に関する意見、取引の各当事者間の合意事項についての執行可能性に関する意見、関連
する租税に関する意見などがある。一部のケースでは、資産のセラーと SF CDO の間に緊密な関係
があるケースにおける真正売買に関する意見など、取引のストラクチャーの詳細に関連した追加意
見をレビューする。
法律意見書には、取引の当事者が取引の契約関連書類の準拠法として選択した裁判管轄地の法
律が適用される。したがって、ある裁判管轄地の法律が、他の裁判管轄地の法律と同じであると解
釈されるべきではない。
SF CDO の契約書類及び意見書のレビューでは、格付分析と矛盾するような SF CDO のパフォーマン
スにつながり得る特徴、曖昧性、インセンティブの特定に努める。ムーディーズの格付分析は、SF
CDO が法的書類の記載の通りに実際に機能するかどうかを十分に理解することにかかっている。書
類の文言が曖昧な場合はより保守的な解釈を適用し、異なる解釈によって分析が不適切になること
がないようにする。
23
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
8. コラテラル・マネージャー及び SF CDO のその他の当事者の役割の評価
8.1 コラテラル・マネージャー
8.1.1 コラテラル・マネージャーのレビュー
ムーディーズは、SF CDO 及び担保プールを管理するマネージャーの能力を検討し、マネージャーが
SF CDO のパフォーマンスに及ぼす潜在的な影響を評価する。その際、過去に格付を付与した、同一
マネージャーの SF CDO 取引のパフォーマンスを評価し、また、当該 SF CDO におけるマネージャーの
役割を規定した書類を検証する。
ムーディーズは通常、マネージャーのオペレーション・レビューを実施する。マネージャーとのミーティ
ングでは、スタッフ、過去の実績、与信の方針と手続き、システム、管理下にある SF CDO に対する理
解度などに関する議論が行われる。ムーディーズはまた、「キーマン」にかかわる問題の存否や、マ
ネージャー(米国法人の場合)が登録投資顧問法人 32であるか (その場合、マネージャーのフォー
ム ADV (Manager’s Form ADV)に何らかの問題が提示されていないか)を検証する。また、マネージャ
ーが監査を受けているか、監査で何らかの違反が発見されていないか検証する。格付委員会は、マ
ネージャーの義務履行能力に影響を与える何らかの未解決の問題、例えばマネージャー法人のス
タッフ交代や企業支配権の変更の可能性などが存在しないかどうか検討する。
ムーディーズは通常、過去の SF CDO におけるマネージャーのパフォーマンス実績を格付委員会に
提出する。その際には、過去におけるマネジメント契約の遵守状況、エクイティ及びデット投資家の間
の利害調整、さらには過去の SF CDO におけるインデンチャーの「精神」の遵守状況(取引テストの遵
守または回避など)に焦点が当てられる。
8.1.2 担保管理契約
マネージャーによる SF CDO に関する義務の履行方法は、ある程度、担保管理契約(Collateral
Management Agreement: CMA)に規定されている。CMA で規定されている以下の要素が CDO 取引の
分析において重要であるとムーディーズは考えている。
マネージャーの注意と義務の基準
マネージャーの解任条件に関する規定
アームズ・レングスの原則に関する規定
強固な CMA は一般に次のような規定を含む。
マネージャーは、国際的に地位のある機関マネージャーが、同種のアセットを管理する際に払うべき
ものと同等の注意を払うことに同意する。さらに、マネージャー自身が同様のアセットを自分自身、関
連会社、第三者のために管理するときに払う注意の水準を下回るものであってはならない。
CMA の故意の違反や不履行(この場合、猶予期間あるいは「重大な影響」の例外事由は適用され
ない)、それに表明違反や保証の不履行 (この場合、猶予期間あるいは「重大な影響」の例外事由
が適用される)などの正当な理由があれば、投資家はマネージャーを解任できる。そのような解任や
阻止による遅れを回避するため、正当な理由による解任は、ノート保有者のうちの複数のクラスの投
票によるのではなく、単独のクラスの決議で実施できる。理由の明示なしに、過半数あるいは圧倒的
多数の決議でノート保有者がマネージャーを解任する状況もありうる。マネージャー(あるいはマネー
ジャーの関連会社やマネージャーが一任を受けているアカウント)は、正当な理由による自身の解任
や、それに代わるマネージャーの選任に関する議決権を持たない。
いかなる場合でも、マネージャーの交代は、コントローリング・クラスの投資家あるいは受託者の優勢
な判断、もしくは裁判所での十分な審議がなされた後に決定される。
32
24
OCTOBER 20, 2016
登録投資顧問業者(RIA)は、第三者のために証券の評価と証券への投資の推奨を行う事業体である。RIA はトレードに
対するコミッションではなく管理手数料を受け取る。1940 年投資顧問法に基づき、RIA は証券取引委員会への登録が義
務づけられている。
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
CMA は通常、マネージャーが関連当事者とアームズ・レングスの原則に従って交渉を行うよう規定
する。
8.2 受託者と担保管理人
ムーディーズのアナリストは、受託者あるいは担保管理人(受託者)が SF CDO に関わる責任を遂行
する能力を有するかどうかを検討する。この際に、受託者について、SF CDO が保有する資産タイプを
扱った経験や、他の SF CDO における同様の役割を担った経験があるかが重要なポイントとなる。
受託者は、ある行動がノート保有者に重大な悪影響を与えるか否かについて、自ら判断する能力を
備えておくべきである。
受託者の最も重要な義務の一つは、SF CDO がインデンチャーに織り込まれた多くの要件を遵守して
いるかを報告することである。ノート保有者は、少なくとも月次ベースで以下の書類を受領すべきであ
ろう。
「合否」判定と計算の詳細と共に、全てのカバレッジ・テスト、担保資産の質、及び集中基準に対
する測定値とコベナンツ値の比較
デフォルト・アセット(直近期にデフォルトしたアセットに限定されない)及びデフォルト日の明細
担保プールの明細(トレーディングの記録を含む)
ヘッジの想定元本
勘定残高
ノートの残高
コンビネーション・ノートの「格付対象残高」
各支払日には、ノート保有者は上記書類の全てと、ウォーターフォールに従った支払いの明細を受
領していなければならない。
格付をタイムリーに取り下げられるよう、償還があった場合には迅速にムーディーズに通知することが
求められる。
8.3 監査役
7.1.1 節で述べたように、監査役は通常、取引開始日、効力発生日、及びその他の確認日に、インデ
ンチャーのコベナンツ遵守性を証明する。監査役は少なくとも年 1 回、SF CDO の発行体の勘定を監
査し、結果を受託者に報告しなければならない。
また、監査役は、特定の合意された手続き(agreed-upon-procedures: AUP)の履行を求められる。なお、
ムーディーズは、監査役の手続きの十分性についての判定は行わない。その責務は SF CDO の当事
者に属する。
9. モニタリング
SF CDO の格付モニタリングに関するムーディーズのアプローチは、時間経過に伴い重要性が低下す
る要素や、逆に変化しないと予想される要素を除き、通常、新規格付を付与する際のアプローチと
同様である。既存案件の法的仕組みや真正売買に関する見解といった要素は変化することはなく、
見直しが必要な状況が生じない限り、通常は見直しを行わない。
ムーディーズは、案件のパフォーマンス・トレンド(信用力の大幅な遷移、パー・カバレッジの変化等)、
および案件の実際の動きや特徴(返済額、ポートフォリオの入れ替え、EOD の宣言によるウオーター
フォールの変化、早期償還、清算等)を追う。案件の特徴やパフォーマンスにおける大幅な変化によ
り、案件の見直しが必要となることもある。また、資産売却やそれに伴うレバレッジ低下の影響の検討
25
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
などの追加的なシナリオ分析を、SF CDO に対する格付評価において考慮するべきシナリオの1つとし
て織り込むこともある。
ムーディーズによるモニタリングのプロセスでは通常、格付対象債務の EL がベンチマークの水準まで
改善し、それまでの格付に相応する水準から向上した場合、格上げを検討する。ムーディーズは通
常、格付対象債務の EL がそれまでの格付において想定されるレンジの上限を上回った場合に格下
げを検討する。このアプローチによって、期間ごとの短期的なパフォーマンスの変化を許容し、格付に
過度の変動性をもたらさない結果となる。
また、格付対象債務の EL が実際に上限または下限に達したか否かを定性的にも判断し、パフォーマ
ンスの大きなトレンドが予想される場合に格付アクションをとることがある。この判断には、モデリングの
枠組みでは補足されない、将来を見通した検討事項が織り込まれる。ただし、格付の最終的な決定
は、格付委員会によってなされる。
26
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録
付録 1: SF CDO および CRE CDO の裏付け証券化商品の回収率の想定
図表4
すべての証券化商品(CMBS 及び SF CDO*を除く)
最小 %
50.0%
10.0%
5.0%
0.0%
最上位シニアトランシェ
最上位でないシニアトラ
ンシェ
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa
Ca/C**
65.0%
40.0%
25.0%
0.0%
60.0%
35.0%
20.0%
0.0%
60.0%
35.0%
20.0%
0.0%
60.0%
25.0%
15.0%
0.0%
45.0%
25.0%
15.0%
0.0%
45.0%
25.0%
15.0%
0.0%
30.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
最大%
100.0%
50.0%
10.0%
5.0%
図表5
CMBS
最小 %
最大%
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa
Ca/C**
最上位シニアトランシェ
70.0%
100.0%
85.0%
80.0%
65.0%
55.0%
45.0%
30.0%
30.0%
0.0%
最上位でないシニア
最上位でないシニアト
ランシェ
10.0%
70.0%
75.0%
70.0%
55.0%
45.0%
35.0%
25.0%
0.0%
0.0%
5.0%
10.0%
65.0%
10.0%
10.0%
10.0%
10.0%
10.0%
0.0%
0.0%
0.0%
5.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
図表 6
CRE B ノートおよびジュニア・パーティシペーション
最小 %
資本構成に占めるトラ
ンシェの割合***
70.0%
10.0%
5.0%
2.0%
0.0%
最大%
100.0%
70.0%
10.0%
5.0%
2.0%
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa
Ca/C**
85.0%
75.0%
65.0%
55.0%
45.0%
80.0%
70.0%
55.0%
45.0%
35.0%
65.0%
55.0%
45.0%
35.0%
25.0%
55.0%
45.0%
35.0%
30.0%
20.0%
45.0%
35.0%
25.0%
20.0%
10.0%
30.0%
25.0%
15.0%
10.0%
5.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa
Ca/C**
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
75.0%
65.0%
50.0%
40.0%
30.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
50.0%
40.0%
30.0%
25.0%
15.0%
40.0%
30.0%
20.0%
15.0%
5.0%
25.0%
20.0%
10.0%
5.0.%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa
Ca/C**
90.0%
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
85.0%
75.0%
60.0%
50.0%
40.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
60.0%
50.0%
40.0%
35.0%
25.0%
50.0%
40.0%
30.0%
25.0%
15.0%
35.0%
30.0%
20.0%
15.0%
10.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
図表 7
CRE メザニン利息および優先出資
最小 %
資本構成に占めるトラ
ンシェの割合***
70.0%
10.0%
5.0%
2.0%
0.0%
最大%
100.0%
70.0%
10.0%
5.0%
2.0%
図表 8
CRE 第二順位モーゲージ
最小 %
資本構成に占めるトラ
ンシェの割合***
70.0%
10.0%
5.0%
2.0%
0.0%
最大%
100.0%
70.0%
10.0%
5.0%
2.0%
*
ポートフォリオに含まれる資産が SF CDO の場合、ムーディーズは格付 Baa 以上の大半のシニアトランシェについては回収率の平均を 15%、その他のトランシェについては 0%と
想定する。
**
格付 Ca/C の資産については、観察されたキャッシュフローのパターンに基づいて、回収率の分析に特別な調整を加えることがある。
*** トランシェには、同順位で、かつ(1)同一の商業不動産モーゲージか、(2)同一の商業不動産に関わる企業の持ち分か、(3)同一の不動産のいずれかを担保とする利息が含まれ
る。
27
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
図表9
CRE ホールローンおよびホールローン・パーティシペーション
物件種類
RR
産業用、マルチファミリー向け、中心的なリテール物件
60.0%
オフィス物件および中心的でないリテール物件
55.0%
ホスピタリティ・ヘルスケア物件
45.0%
その他の物件
40.0%
図表10
REIT
債務と SU との格付の差
RR
+2 以上
60.0%
+1
50.0%
0
45.0%
-1
40.0%
-2
30.0%
-3 以下
15.0%
債務 = C/Ca
25.0%
28
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 2: 現金決済が適用されるシンセティック型 SF CDO への回収率ストレス
ムーディーズは(PAUG ではなく)現金決済が適用されるシンセティック型 SF CDO の想定平均回収率
に、以下の通り流動性に関する調整を加える。
図表 11
キャッシュ型 SF CDO の回収率に対する流動性の調整比率(1-ヘアカット)
決済までの期間
流動性の高い証券
流動性の低い証券
3 ヶ月
25%
15%
6 ヶ月
75%
50%
1年
95%
65%
2年
100%
90%
流動性のカテゴリーは次表の通り区分される。
流動性の高い証券
次のアセット・タイプのうち、最優先ファンデッド型トランシェ*のみ
オート ABS**
キャッシュフロー型企業 CLO
CMBS (全カテゴリー)
クレジット・カード ABS**
欧州消費者ローン ABS*
政府 ABS***
RMBS (全カテゴリー)
REITs (全カテゴリー)
学生ローン ABS**
*シンセティック取引のアンファンデッド・スーパーシニア・トランシェも流動性が高いものとみなされる。
**上記カテゴリーに含まれるサブプライム・アセットの証券化商品は流動性が高いとはみなされない。
*** 政府 ABS には、政府保証付 ABS の大多数、及び裏付資産のセラーが政府となる ABS (イタリア政府 ABS など)の大多数が含まれる。
29
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 3: 再証券化ストレス・ファクター
再証券化ストレス・ファクター(デフォルト率に適用される)
Moody’s
Sector Code
Sector Name
Aaa
Non-Aaa
136
137
138
139
140
141
142
143
152
153
154
155
156
157
158
159
160
161
162
163
164
165
166
167
168
169
170
171
172
173
174
175
176
ABS - Consumer - Cons.ABS - Auto
ABS - Consumer - Cons.ABS - Credit Card and other Consumer Unsecured Loans
ABS - Consumer - Cons.ABS - Student Loans
ABS - Consumer - RMBS - Prime
ABS - Consumer - RMBS - Subprime
ABS - Consumer - RMBS - CDO of RMBS
ABS - Consumer - RMBS - Manufactured Housing
ABS - Consumer - Div.SF.CDO - CDO of SF - Diversified
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Credit Tenant Lease
ABS - Corporate - CRE - CRE CDO
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Diversified
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Office
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Retail
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Hotel
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Industrial
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Nursing Home
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Residential/Multi-Family
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Warehouse / Self-storage
ABS - Corporate - CRE - CMBS - Healthcare
ABS - Corporate - Specific - Tax Lien
ABS - Corporate - Specific - Mutual Fund Fees
ABS - Corporate - Specific - Structured Settlement
ABS - Corporate - Specific - Utility Stranded Cost
ABS - Corporate - Specific - Big Ticket Lease
ABS - Corporate - Specific - IP (including Entertainment Royalties)
ABS - Corporate - Specific - Dealer's Floorplan
ABS - Corporate - Specific - Tobacco Bonds
ABS - Corporate - Corp.CDO - Market Value CDO & CDO^2
ABS - Corporate - Corp.CDO - CDO exposed to IG
ABS - Corporate - Corp.CDO - CDO exposed to HY
ABS - Corporate - Corp.CDO - CDO exposed to EM
ABS - Corporate - Corp.CDO - ABS or CDO exposed to SME risk
ABS - Corporate - Corp.CDO - CDO - Franchise Loans
6
6
6
6
6
12
6
12
6
12
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
12
6
6
6
6
6
2
2
2
2
2
4
2
4
2
4
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
4
2
2
2
2
2
30
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 4: アセット相関の枠組み
相関の枠組み
一組のアセット間の相関は、下の表に基づき決定される。
Additional
Factors
Correlation 'Tree'
Moody's
Sector
Code
136
137
138
139
140
141
142
143
144
145
146
147
148
149
150
151
152
153
154
31
Sector Name
ABS - Consumer - Cons.ABS - Auto
ABS - Consumer - Cons.ABS - Credit
Card and other Consumer Unsecured
Loans
ABS - Consumer - Cons.ABS Student Loans
ABS - Consumer - RMBS - Prime
ABS - Consumer - RMBS - Subprime
ABS - Consumer - RMBS - CDO of
RMBS
ABS - Consumer - RMBS Manufactured Housing
ABS - Consumer - Div.SF.CDO - CDO
of SF - Diversified
ABS - Corporate - CRE - REIT - Hotel
ABS - Corporate - CRE - REIT - Multi
family
ABS - Corporate - CRE - REIT - Office
ABS - Corporate - CRE - REIT - Retail
ABS - Corporate - CRE - REIT Industrial
ABS - Corporate - CRE - REIT Healthcare
ABS - Corporate - CRE - REIT - Selfstorage
ABS - Corporate - CRE - REIT Diversified
ABS - Corporate - CRE - CMBS Credit Tenant Lease
ABS - Corporate - CRE - CRE CDO
ABS - Corporate - CRE - CMBS Diversified
OCTOBER 20, 2016
Map to,
for
correlation
only
Key Agent
Key
Agent
Penalty
(same
broad
cat)
Global
136
137
Originator
Originator
15%
15%
FALSE
FALSE
138
Originator
15%
FALSE
140
140
140
Originator
Originator
Arranger
15%
15%
15%
FALSE
FALSE
FALSE
140
Originator
15%
FALSE
5.00%
0%
0%
5%
143
Manager/Arranger if static
20%
TRUE
Div.SF.CDO
7%
0%
5%
144
145
NA
NA
0%
0%
FALSE
FALSE
5.00%
Same Country
12%
12%
0%
0%
5%
5%
146
147
148
NA
NA
NA
0%
0%
0%
FALSE
FALSE
FALSE
5.00%
12%
12%
12%
0%
0%
0%
5%
5%
5%
149
NA
0%
FALSE
CRE
12%
0%
5%
150
NA
0%
FALSE
5.00%
12%
0%
5%
151
NA
0%
FALSE
Same Country
2%
0%
5%
152
NA
0%
FALSE
5.00%
12%
0%
5%
153
154
Manager/Arranger if static
NA
20%
0%
FALSE
FALSE
12%
2%
0%
0%
5%
5%
Assume
Managed
unless
specified?
from above
3.00%
Meta
Broad
Narrow
Consumer
Consumer ABS
5.00%
5.00%
5.00%
Same Country
Same Country
10.00%
Corporate Related
5.00%
CLO
Real Estate
7%
7%
0%
0%
0%
0%
5.00%
7%
0%
0%
RMBS
7.00%
Same Country
0%
0%
0%
0%
0%
0%
5%
5%
5%
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
相関の枠組み
一組のアセット間の相関は、下の表に基づき決定される。
Additional
Factors
Correlation 'Tree'
Moody's
Sector
Code
155
156
157
158
159
160
161
162
163
164
165
166
167
168
169
170
171
172
173
32
Sector Name
ABS - Corporate - CRE - CMBS Office
ABS - Corporate - CRE - CMBS Retail
ABS - Corporate - CRE - CMBS Hotel
ABS - Corporate - CRE - CMBS Industrial
ABS - Corporate - CRE - CMBS Nursing Home
ABS - Corporate - CRE - CMBS Residential/Multi-Family
ABS - Corporate - CRE - CMBS Warehouse / Self-storage
ABS - Corporate - CRE - CMBS Healthcare
ABS - Corporate - Specific - Tax Lien
ABS - Corporate - Specific - Mutual
Fund Fees
ABS - Corporate - Specific Structured Settlement
ABS - Corporate - Specific - Utility
Stranded Cost
ABS - Corporate - Specific - Big
Ticket Lease
ABS - Corporate - Specific - IP
(including Entertainment Royalties)
ABS - Corporate - Specific - Dealer's
Floorplan
ABS - Corporate - Specific - Tobacco
Bonds
ABS - Corporate - Corp.CDO Market Value CDO & CDO^2
ABS - Corporate - Corp.CDO - CDO
exposed to IG
ABS - Corporate - Corp.CDO - CDO
exposed to HY
OCTOBER 20, 2016
Map to,
for
correlation
only
Key Agent
Key
Agent
Penalty
(same
broad
cat)
Global
Assume
Managed
unless
specified?
Meta
Broad
Narrow
CLO
Real Estate
Consumer
Consumer ABS
5.00%
12%
0%
5%
155
NA
0%
FALSE
156
NA
0%
FALSE
Same Country
12%
0%
5%
157
NA
0%
FALSE
0.00%
12%
0%
5%
158
NA
0%
FALSE
12%
0%
5%
159
NA
0%
FALSE
12%
0%
5%
160
NA
0%
FALSE
12%
0%
5%
161
NA
0%
FALSE
12%
0%
5%
162
NA
0%
FALSE
12%
0%
5%
163
164
Servicer
Manager
20%
20%
FALSE
FALSE
Same region add-on
Specific
0.00%
27%
27%
0%
0%
0%
0%
165
Servicer
20%
FALSE
(regardless of sector)
Same Country
27%
0%
0%
166
NA
0%
FALSE
5.00%
0.00%
27%
0%
0%
167
Servicer
20%
FALSE
(halved for Global vs.
27%
0%
0%
168
Originator
20%
FALSE
non-Global exposure)
27%
0%
0%
169
Seller
20%
FALSE
27%
0%
0%
170
NA
0%
FALSE
100%
0%
0%
171
NA (but check Manager)
0%
TRUE
Corp. CDO
100%
17%
0%
172
Manager/Arranger
if static
Manager/Arranger
if static
20%
TRUE
5.00%
17%
0%
0%
20%
TRUE
Same Country
0%
17%
0%
173
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
相関の枠組み
一組のアセット間の相関は、下の表に基づき決定される。
Additional
Factors
Correlation 'Tree'
Moody's
Sector
Code
174
175
176
33
Sector Name
ABS - Corporate - Corp.CDO - CDO
exposed to EM
ABS - Corporate - Corp.CDO - ABS
or CDO exposured to SME risk
ABS - Corporate - Corp.CDO - CDO Franchise Loans
OCTOBER 20, 2016
Map to,
for
correlation
only
Key Agent
Key
Agent
Penalty
(same
broad
cat)
Global
Assume
Managed
unless
specified?
Meta
Broad
Narrow
CLO
Real Estate
Consumer
Consumer ABS
5.00%
5.00%
17%
0%
0%
20%
TRUE
175
Manager/Arranger
if static
Manager / Originator
20%
TRUE
17%
0%
0%
176
Originator
20%
TRUE
17%
0%
0%
174
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
キー・エージェント
上表で定義される同一のキー・エージェントを持つ同一のブロードセクター(前述した特定セクターではないもの)に対するエクス
ポージャーには、次に示す相関アドオンが付加される。
ABS ビンテージ・ペナルティ・アドオン
Same Meta Sector
Same Broad Sector
Global
Global
Same Region
Same Country
2%
0%
0%
Global
Same Region
Same Country
Real-Estate
Cons.ABS
3%
0%
5%
0%
5%
5%
Consumer
0%
0%
5%
Global
Same Region
Same Country
0%
0%
5%
Global
Same Region
Same Country
3%
0%
0%
0%
5%
5%
Global
Same Region
Same Country
Corporate
0%
10%
5%
Global
Same Region
Same Country
Same Narrow Sector
0%
10%
5%
0%
5%
5%
RMBS
0%
0%
5%
Div.SF.CDO
0%
0%
5%
CRE
0%
5%
0%
Corp.CDO
0%
5%
5%
Specific
0%
5%
5%
5%
0%
5%
Real-Estate
次にビンテージ・ペナルティ・アドオンの合計に 2 つの取引の発行日の年数差に基づくファクターを乗じる。
ビンテージ・ペナルティの剥離
年あたりの減少
スタティック型
25.00%
マネージ型
16.67%
格付に伴う調整
各ペアの最終的な相関の値は、対象となる証券化商品の格付に基づいて調整される。
ABS 相関の格付に伴う調整
スケーリング
Aaa-Aa
A
Baa-Ca
34
OCTOBER 20, 2016
100.00%
93.33%
86.67%
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 5: サード・パーティ・リスクの集中度の制限
下表は、典型的なサード・パーティ・リスクの集中度の制限である。これには、シンセティック証券のカ
ウンターパーティ、参加機関、シンセティック信用状のカウンターパーティ、証券貸付のカウンターパ
ーティが含まれる。
関与機関の格付
個々のサード・パーティへの集中度制限
サード・パーティ全体の制限
20.0%
10.0%
10.0%
10.0%
5.0%
5.0%
0
20.0%
20.0%
20.0%
15.0%
10.0%
10.0%
0
Aaa
Aa1
Aa2
Aa3
A1
A2*
A3 or below
*ムーディーズの短期格付 P-1 も付与されている主体に限る。
35
OCTOBER 20, 2016
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 6 – 金利カーブのシミュレーション
コックス・インガーソル・ロス・プロセス・モデル(Cox-Ingersoll – Ross process models)を用いて、次の微
分方程式により金利の変化をモデリングする。
ここで
α, β 及び σ は定数
r は現在の金利
dWt は正規乱数で、dz (dz~N(0,1))の「ホワイト・ノイズ(white noise)」と √dt から導かれる値と等し
い。
α, β 及び σ の値は、最尤法を用いて分析的に決定される。
β
α
σ
$3M
£3M
€3M
3.82%
21.68%
618%
5.80%
14.39%
5.96%
3.27%
13.74%
5.28%
各金利カーブのホワイト・ノイズ間の相関:
U.S. $
£
€
36
OCTOBER 20, 2016
U.S. $
£
€
1
62%
1
31%
51%
1
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 7 – 為替レートのシミュレーション
ストレスをかけた為替レートの標準偏差を用いる。
通貨の組み合わせ
37
OCTOBER 20, 2016
ヒストリカルな月次変化の標準偏差
の年換算値
ストレス・ファクター
ストレスをかけた年換算標準偏差
EUR/USD
GBP/USD
11.30%
10.90%
1.5
1.5
17.00%
16.40%
EUR/GBP
8.40%
1.8
15.20%
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 8: SF CDO を担保とする債務トランシェおよびエクイティを裏付けとする SF CDO 証
券および非標準的な約定項目を伴う SF CDO 証券に対する格付のアプローチ
本付録では、エクイティを含む場合もある1つまたは複数の SF CDO トランシェを裏付けとする証券を
評価するムーディーズの定量的アプローチ、および投資家への約定内容が標準的ではない SF CDO
関連証券(元本のみ返済する、あるいは証券のクーポンがサブ・マーケットの金利に連動する)を評
価する際にムーディーズが用いる定量的アプローチについて概説する。
SF CDO の債務トランシェおよびエクイティを裏付けとする証券
1つあるいは複数の SF CDO トランシェおよびエクイティの組み合わせを裏付けとする証券は SF CDO
のエクイティのキャッシュフローや SF CDO を担保とする債務トランシェのリファイナンスの可能性(取
引契約書がリファイナンスを許容する場合) 33に関連するリスクに晒される。
エクイティ・キャッシュフローのヘアカット
ムーディーズは、裏付資産の1つにエクイティ・トランシェが含まれる場合、これらの証券のモデリング
においてエクイティ・キャッシュフローにヘアカットを適用することで、SF CDO エクイティに関連する特
別なリスクに対応する 34。エクイティ・トランシェのキャッシュフローのヘアカットは、図表 12 に示したよ
うに、当該 SF CDO リパッケージ債のターゲット格付に応じて決定される。
図表 12
SF CDO リパッケージ債の格付に対応するエクイティ・キャッシュフローのヘアカット
SF CDO リパッケージ債のターゲット格付
エクイティ・キャッシュフローのヘアカット
Aaa(sf)から Aa3(sf)
100%
A1(sf)から A3(sf)
75%
Baa1(sf)から Baa3(sf)
50%
Ba1(sf)から Ba3(sf)
25%
B1(sf)以下
0%
出所:ムーディーズ・インベスターズ・サービス
リファイナンスのシナリオ
取引契約書によって格付対象の証券化商品の裏付けとなる担保付き債務トランシェの一部リファイ
ナンスが許容されている場合、リファイナンスされた SF CDO トランシェからのクーポン支払いが無くな
ることで、当該証券化商品の信用リスクが変更される場合がある。そのため、ムーディーズは SF CDO
のリファイナンス・シナリオを分析に織り込むことによって、SF CDO を担保とする債務トランシェのリファ
イナンスに起因するリスクを考慮する。リファイナンス・シナリオを分析に加えることで、リファイナンスさ
れた債務トランシェからのクーポン支払いの喪失や、証券化商品の加重平均期間/デュレーションに
与える影響を複合的に捕捉する。
取引開始日とノンコール期間の終了日後1年の間の期間に評価する SF CDO については、ノンコール
期間の終了日から1年後にリファイナンスが起こると想定し、通常、当該 SF CDO のリファイナンス・シ
ナリオの発生確率を 20%とする。当該期間の終了後から再投資期間の終了日までの間の期間に評
価する SF CDO に対しては、再投資期間の終了日にリファイナンスが起こると想定し、通常、当該 SF
CDO のリファイナンス・シナリオの発生確率を 10%とする。再投資期間の終了日以降に評価する SF
CDO については、リファイナンスが発生する可能性はごく低いものと想定し、再投資期間終了後に SF
CDO のリファイナンスが発生するシナリオの発生確率を 0%とする。
ムーディーズはまず、対応する加重平均 EL とゼロ・デフォルト・シナリオの下での加重平均 WAL/デュ
レーションを導出しモデルのアウトプットを得て、リファイナンスを想定しないベースケースのモデリング
分析を行う。次に、リファイナンス発生前にはキャッシュフローを受領しその分を対象証券の残高から
減額、リファイナンス発生後はエクイティ・キャッシュフロー(ヘアカット後)のみ受領すると想定した当
38
OCTOBER 20, 2016
33
「リファイナンス」という用語は、予想よりも大幅に早く発生する SF CDO によって担保された債務トランシェの全額弁済を
指すものとする。
34
これらのヘアカットは、SF CDO のウォーターフォールで最優先とされる経費費支払いの上限を超える経費、トレーディン
グ損失、その他のマイナス要因など 、エクイティ・キャッシュフローに影響するリスクを考慮して適用するものである。エ
クイティ・トランシェに対する請求権のみを証券化した商品の格付にもこのヘアカットを適用する。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
該証券のリファイナンス・シナリオ分析を行う。そのようなリファイナンス・シナリオについて加重平均 EL
とゼロ・デフォルト・シナリオ WAL/デュレーションを導出してモデルのアウトプットを得る。その上で、上
述した発生確率に従って、両ケースの結果を組み合わせる。SF CDO のリファイナンスがノンコール期
間の終了日から 1 年後に発生するシナリオを想定した場合、ベース・ケースとリファイナンス・シナリオ
に割り当てられる発生確率は通常、それぞれ 80%と 20%になる。SF CDO のリファイナンスが CLO の
再投資期間の終了日に発生するシナリオを想定した場合、ベース・ケースとリファイナンス・シナリオ
に割り当てられる発生確率は通常、それぞれ 90%と 10%になる。SF CDO が再投資期間の最終日に
到達している場合は通常、リファイナンスの可能性はゼロにまで縮減されていると想定する。
市場環境や取引の特性を考慮して、リファイナンスの発生確率の想定を上方または下方調整する
場合もある。
非標準的な約定項目を伴う証券
本付録では、投資家への約定内容が標準的ではない(元本のみ返済する、あるいは証券のクーポ
ンがサブ・マーケットの金利に連動する)SF CDO 関連証券を評価する、ムーディーズの定量アプロー
チについて概説する。
約定内容が標準的な SF CDO ノートと同様、約定内容が標準的ではない証券に対する定量分析で
も、投資家が被る EL に焦点を当てる。ムーディーズは通常、裏付資産の様々なデフォルト・シナリオ
においてノート保有者が被る損失を検討し、それらのシナリオの発生確率に応じて損失を加重して EL
を算定する 35。いずれのシナリオでも、ノート保有者が被る損失は、ノートの期待キャッシュフローの正
味現在価値(NPV)と、ノートにおいて約束された支払いの NPV の差(約定支払いに対する比率で表さ
れる)である。
非標準的な約定項目を伴う証券に対するアプローチは、損失、ディスカウントファクター、エクスポー
ジャー期間、ベンチマーク金利の算定(図表 13 参照)において、標準的な SF CDO に対する手法と
異なる。 ムーディーズはこのアプローチを、コンボ・ノート(combo note)および SF CDO 再証券化商品
の分析に用いる。
図表 13
非標準的な約定項目を伴う証券と SF CDO に対するアプローチの比較
非標準的な約定項目を伴う証券
SF CDO
約定項目
経路依存性のある約定支払い
額面
損失率 (%)
(約定支払い – NPV CF ) / 約定支
払い
(額面 – NPV CF) / 額面
ディスカウントファクター
リスクフリーレート (または、Libor
等、リスクフリーレートに準ずるもの)
クーポン
エクスポージャーの期間
確率加重デュレーション
加重平均期間 (デフォルトが発
生しないシナリオ)
ベンチマーク
ダイナミック・ベンチマークレート
ムーディーズの理想化された損
失率
36
出所:ムーディーズ・インベスターズ・サービス
定量分析 - 段階的アプローチ
非標準的な約定項目を伴う証券のモデリングに対するムーディーズのアプローチは以下の段階を経
る。
1)
各デフォルトシナリオにおける、コンボ・ノートおよび再証券化証券のキャッシュフローを算定する。
2) (通常、Libor をベースとする)リスクフリーレートをディスカウントファクターに用い、各デフォルトシ
ナリオの NPV を算定する。
39
OCTOBER 20, 2016
35
SF CDO のモデリングに対するアプローチの全体像については、セクション 3 を参照されたい。
36
NPV CF は全キャッシュフローの正味現在価値。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
3) 各デフォルトシナリオにおいて、キャッシュフローの NPV と未払い元利金の NPV を合計して約定
キャッシュフローを算定する。
4) 各デフォルトシナリオの損失およびデュレーションを算定する。
5) 様々なデフォルトシナリオをそれぞれの発生確率で加重し、EL および期待デュレーションを算定
する。
6) SF CDO コンボおよびリパッケージ証券の EL と、デュレーションが同程度のベンチマーク証券の EL
を比較し、妥当な格付を決定する。
ステップ 1: キャッシュフローの算定
セクション 3.2.4.の通りキャッシュフローを算定する。それぞれのデフォルトシナリオにおいて、ノートの
ストラクチャーに応じてコンボ・ノートおよびリパッケージ証券にキャッシュフローを配分する。
ステップ 2: 各デフォルトシナリオの NPV の算定
各デフォルトシナリオについて、Libor をリスクフリーレートに使用し、全てのキャッシュフローを割り引い
て NPV を算定する。
𝑚𝑚
𝑁𝑁𝑁𝑁𝑁𝑁 𝐶𝐶𝐶𝐶 = � 𝐶𝐶𝐶𝐶𝑡𝑡 ∗ 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑡𝑡
𝑡𝑡=1
ここで、CFt は期間 t のキャッシュフローを、DFt は t のディスカウントファクターを、 m は償還期限をさ
す。
ステップ 3: 各デフォルトシナリオにおける約定項目の検討
SF CDO コンボ・ノートまたはリパッケージ証券の分析では、経路依存性があり、デフォルトシナリオによ
って異なる約定支払いを、次の算式によって算定する。
ここで、
𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 = 𝑁𝑁𝑁𝑁𝑁𝑁 𝐶𝐶𝐶𝐶 + 𝑁𝑁𝑁𝑁𝑁𝑁 𝑈𝑈𝑈𝑈𝑈𝑈𝑈𝑈𝑈𝑈𝑈𝑈 𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼 𝑎𝑎𝑎𝑎𝑎𝑎 𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 𝑤𝑤ℎ𝑒𝑒𝑒𝑒 𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷
NPV Unpaid Interest and Principal when Due = (PIK バランス 37+ 元本損失) * 償還期限のディスカウントフ
ァクター 38
ステップ 4: 各デフォルトシナリオの損失とデュレーションの算定
各デフォルトシナリオの下での合計損失は、約定内容に基づくキャッシュフローの NPV と、期日におい
て未払いの元利金の NPV の差である。損失率は、約定金額に対する合計損失の比率である。
𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿 % =
(𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 − 𝑁𝑁𝑁𝑁𝑁𝑁 𝐶𝐶𝐶𝐶)
𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃
デュレーション (Dur) は、実際の支払いではなく約定内容に基づくものである。
𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷 =
(∑𝑚𝑚
𝑡𝑡=1 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑡𝑡 ∗ 𝐶𝐶𝐶𝐶𝑡𝑡 ∗ 𝑡𝑡 ) + 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑚𝑚 ∗ (𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵 + 𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿) ∗ 𝑚𝑚
(∑𝑚𝑚
𝑡𝑡=1 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑡𝑡 ∗ 𝐶𝐶𝐶𝐶𝑡𝑡 ) + 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑚𝑚 ∗ (𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵 + 𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿)
算定式の PIK バランスは、利払い繰り延べが可能な SF CDO コンボ・ノートおよびリパッケージ証券に
のみ適用される。
40
OCTOBER 20, 2016
37
この種類の証券の一部では、キャッシュフローが不足した場合、利払いが繰り延べられることがある。未払利息(経過
利息を含む)は PIK バランスと呼ばれる。
38
ムーディーズは、SF CDO コンボ・ノートまたはリパッケージ証券の PIK、および元本が償還期限まで支払われないことを
許容する。従って、Promise = NPV CF + PV Unpaid Interest and Principal at Maturity が成立し、また、償還期限のディスカウ
ントファクターを算定式の 2 項目に用いる。ノートの PIK が認められない場合には、それぞれの期間のディスカウントファ
クターを用いて、未払い利息の現在価値を求める。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
ステップ 5: 期待損失および期待デュレーションの算定
全てのデフォルトシナリオについて、次の算定式に基づき、発生確率で加重した損失およびデュレー
ションとして期待損失(EL)および期待デュレーション(ED)を算定する。
𝐷𝐷
𝐸𝐸𝐸𝐸 = � 𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝑖𝑖 % ∗ 𝑃𝑃𝑖𝑖
𝑖𝑖=0
𝐷𝐷
𝐸𝐸𝐸𝐸 = � 𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝑖𝑖 ∗ 𝑃𝑃𝑖𝑖
𝑖𝑖=0
ここで、D はデフォルトシナリオの数を、 Pi は各デフォルトシナリオの発生確率をさす。
ステップ 6: SF CDO コンボおよびリパッケージ証券の EL と、デュレーションが同程度のベンチマーク証
券の EL の比較
算定した EL と、デュレーションが同程度の適切なベンチマーク証券の EL を比較し、ノートへの格付を
決定する(図表 14 の後の囲み参照)。ここでは、多数の入力項目(格付、デュレーション、リスクフリー
レートカーブ、回収率、支払い回数)に基づいて、ベンチマーク証券の EL ハードルレートを算定する。
非標準的な約定項目を伴うノートの EL 算定に用いた割引手法を反映して、ベンチマークに調整を加
える。標準的な約定内容のノートの EL は、ノートのクーポンレート(通常、リスクフリーレートにクレジット
スプレッドを加える)を使用して算定するが、非標準的な約定項目を伴うノートの EL ではリスクフリーレ
ートを使用する。リスクフリーレートをディスカウントファクターとして使用する場合、通常の目標 EL に調
整を加える必要が生じる。
図表 14 は、EL が 0.17%、期待デュレーションが 6.23 年のノートについての手順を示したものである。
図表14
SF CDO コンボおよびリパッケージ証券の EL とベンチマーク証券のハードル EL の比較
60%
0.60%
50%
0.50%
Hurdle Rate (6.23 yr Duration Bond)
Repack EL = 0.17%
EL Hurdle Rate (%)
0.40%
40%
30%
0.30%
0.20%
0.10%
20%
0.00%
Aaa (sf) Aa1 (sf) Aa2 (sf) Aa3 (sf) A1 (sf)
A2 (sf)
A3 (sf)
10%
Hurdle Rate (6.23 yr Duration
Bond)
0%
Ratings
出所:ムーディーズ
41
OCTOBER 20, 2016
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
ベンチマーク証券のハードルレートの算出
ベンチマークの額面証券の非裁定価格は、額面価額に等しい。説明を簡略化するため、ここでは
証券の額面価額を 1 とする。通常、ベンチマークの額面証券の価格は次のように算定する。
𝑁𝑁
𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 = � 𝑃𝑃𝑃𝑃(𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶(𝑡𝑡) | 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑 𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡 𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝 𝑡𝑡) ∗ 𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃(𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑 𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡 𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝𝑝 𝑡𝑡)
𝑡𝑡=1
ここで
+ 𝑃𝑃𝑃𝑃(𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴 𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶(𝑁𝑁) | 𝑛𝑛𝑛𝑛 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑)
∗ 𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃(𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡 [0, 𝑁𝑁])
PV = 現在価値
CFs(t) = 期間 1 から t までの間に受領した全キャッシュフロー
PV(CFs(t) | default in time t) = 証券が t の期間中にデフォルトした場合の、期間 1 から t までの間
に受領した全キャッシュフロー の現在価値
Prob(ℇ) = 事象 ℇ が発生する確率
期待キャッシュフローにおけるデフォルトリスクを考慮する一般的な場合では、債券価格は次のよ
うに表される。
𝑁𝑁
𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃 = �[𝑆𝑆𝑡𝑡 (𝑓𝑓𝑡𝑡 + 𝑠𝑠) + 𝑑𝑑𝑡𝑡 𝑟𝑟]𝐹𝐹𝑡𝑡 + 𝑆𝑆𝑁𝑁 𝐹𝐹𝑁𝑁
𝑡𝑡=1
ここで
Dt = 期間 t の累積デフォルト確率
dt = 期間 t のデフォルト確率(期間 t – 1 まで生存し期間 t にデフォルト)= Dt - Dt-1
r = 回収率 (一定)
ft = 期間 t のリスクフリーレート
s = クレジットスプレッド(一定)
Ft = 期間 t のディスカウントファクター (リスクフリーレートから算定)
St = 期間 t にかけての生存確率(デフォルトしない確率)= 1 - Dt
N = 期間数
債券が額面価格に等しくなると想定すると、デフォルト・インプライド・クレジットスプレッド s は次のよう
に導くことができる。
1 − ∑𝑁𝑁
𝑡𝑡=1[𝑆𝑆𝑡𝑡 𝑓𝑓𝑡𝑡 + 𝑑𝑑𝑡𝑡 𝑟𝑟]𝐹𝐹𝑡𝑡 − 𝑆𝑆𝑁𝑁 𝐹𝐹𝑁𝑁
∑𝑁𝑁
𝑡𝑡=1 𝑆𝑆𝑡𝑡 𝐹𝐹𝑡𝑡
ムーディーズは、デフォルト・インプライド・クレジットスプレッドを用いて、ベンチマーク証券の現在価
格、PV(Promise)を算定する*。
𝑠𝑠 =
𝑁𝑁
𝑃𝑃𝑃𝑃(𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃) = �(𝑓𝑓𝑡𝑡 + 𝑠𝑠)𝐹𝐹𝑡𝑡 + 𝐹𝐹𝑁𝑁
𝑡𝑡=1
したがって、ベンチマーク額面証券の期待損失および期待デュレーションは次の算定式に従って
導く。
𝑃𝑃𝑃𝑃(𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃) − 1
𝑃𝑃𝑃𝑃(𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃)
∑𝑁𝑁
𝑡𝑡=1(𝑓𝑓𝑡𝑡 + 𝑠𝑠)𝑡𝑡𝐹𝐹𝑡𝑡 + 𝑁𝑁𝐹𝐹𝑁𝑁
𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸 𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷𝐷 =
𝑃𝑃𝑃𝑃(𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃𝑃)
𝐸𝐸𝐸𝐸(%) =
*
42
OCTOBER 20, 2016
ベンチマーク債券は、一般的な(PIK が行われない)満期一括償還債券であるため、約定内容には経路依存性はない。その価格
は、約定利息と償還期日に支払われる約定元本の割引現在価値に等しい。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 9: CRE CDO 証券の格付アプローチ
概要
この付録では、主に CRE を裏付とする SF CDO 関連証券を評価するムーディーズのアプローチを概
説する。ここでは、CRE CDO の格付にあたり、SF CDO に対する一般的な格付手法をどう適用・調整
するかに焦点を当てる。
CRE CDO セクターは主に 3 種類の案件からなる。すなわち、キャッシュ型再証券化(再証券化)、シ
ンセティック型再証券化(シンセティック型)、およびローン担保証券型(CRE CLO)である。再証券化
の裏付資産は CMBS や REIT であり、一方、CRE CLO では、裏付資産の大半は商業不動産を裏付け
とする直接債務持ち分(ホールローン、B ノート、メザニン持ち分、第二順位モーゲージ等)である。
CRE CDO 取引には、CMBS、REIT、直接ローン持ち分の複合が含まれることもある。シンセティック型
は通常、CMBS や REIT のプールを参照する。
ムーディーズは、本稿に示した SF CDO の標準的な格付手法と同一のアプローチに基づいて、CRE
CDO の分析を行う。
一方、CRE CDO のモデリングアプローチは、主に以下の 2 つの点で標準的な SF CDO に対するアプロ
ーチと異なる。
CRE CDO には、商業不動産に対する直接持ち分(ホールローン、B ノート、メザニン持ち分、第二
順位モーゲージ等)が含まれることが多い。通常、これらの債務持ち分には公表格付が付与さ
れていない。そのデフォルト確率を検討するため、ムーディーズは、CMBS 大口ローンに対する格
付手法 39を用いて信用評価を付与する。
商業不動産に対する直接持ち分の間のアセット相関は 35%と想定する。
CRE のモデリングアプローチ –SF CDO に対するアプローチへの調整
回収率 (3.1.1 節)
回収のタイミング (3.1.1.3 節)
商業不動産に対する直接持ち分については、ムーディーズの Moody’s CDOEdge の回収期間に対し
て 12-24 ヵ月のタイムラグがあると想定している。
デフォルト率 (3.1.2 節)
ムーディーズの格付が付されていない証券化商品 (セクション 3.1.2.3)
ムーディーズの格付が付与されていない商業不動産担保には通常、信用評価が付与される。ただ
し、クレジット・エスティメートが用いられる場合もある。
アセット相関 (3.1.3 節)
ムーディーズは、商業不動産に対する直接持ち分の間のアセット相関を 35%と想定する。ただし、商
業不動産のテナント、物件種類、立地の分散度が低い場合には、これより高いアセット相関を考慮に
入れる。
トランシェの EL の計算とモデルによる算定結果の導出(3.2 節)
スタティック型およびマネージ型のキャッシュフローCRE CDO およびハイブリッド CRE CDO については、
MOODY’S CDOROM に基づいてデフォルト分布を導き、Moody’s CDOEdge に基づいて、キャッシュフ
ローその他のストラクチャー上の特徴を考慮して資本構成別の期待損失を導く。CRE CDO への格付
では、Moody’s CDOEdge のキャッシュフローモデルとともに、CBET を適用することはない。CRE CDO へ
39
43
OCTOBER 20, 2016
大口ローンの格付アプローチについては、関連リサーチを参照されたい。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
の格付に適用するモデリング・アプローチ上では、セクション 3.2 における CBET への言及部分を、
CDOROM により近似された相関デフォルト曲線に置き換える 40。
CMBS 取引および CRE CDO 取引の商業不動産ローンの多くは、デフィーザンス、イールド・メンテナン
ス、ロックアウト条項等のストラクチャー上の特徴から、期限前償還のリスクがない。従って、ムーディ
ーズは通常、Moody’s CDOEdge 上の「ファーストペイ」ケースのアモチゼーションプロファイルにはそれ
ほどウエイトを置かない。
取引のコベナンツ (3.2.4.2 節)
マネージド型 CRE CDO には、セクション 2.2 で述べたコベナンツが付されていることが多い。また、マネ
ージド型 CRE CDO は、ハーフィンダール指数(プールにおけるアセット集中度を表す)、トランシェ
WARF(アセットの各トランシェカテゴリーに関する格付要因の加重平均を表す)、実際の裏付資産の
格付分布などの指標を参照することもある。
トレーディングと再投資にかかわる問題 (7.5 節)
トレーディング (7.5.1 節)
商業不動産ローンに対する直接持ち分(ホールローン、B ノート、メザニン持ち分、第二順位モーゲー
ジ等)を裏付けとする CRE CDO については、客観的なトレーディング基準として最も一般的に用いら
れるのが、アセットがスペシャル・サービシングの対象となっている期間や、信用リスクのある裏付資
産の利払いが遅延している期間、ローン・トゥ・バリュー(LTV)の改善、および/または信用力が改善し
た裏付資産に対する信用評価などである。また、その他、ムーディーズの格付分析と同様の客観基
準が用いられることもある。
40
44
OCTOBER 20, 2016
ただし例外もある。例えば、裏付資産の大部分が特定されていない、あるいは短期間のリボルビングが予想される場合
である。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
付録 9a: CRE CDO の将来資金供給義務
将来ローン(future funding loan)は、当初の資金調達時点で完全にコミットされているが、1 回以上の
分割で提供され るもの であ る。将来資金供給義務( future funding obligation)は、アーンアウト
(earnout)条項が付されたローンやトランジション・ローン(transition loans)にみられる。
アーンアウト・ローンでは、ボロワーは、ローンの当初契約締結時以降に、LTV、デット・サービス・カバレ
ッジ・レシオ、満室率基準に応じて、追加資金を受領する権利を有する。アーンアウト・ローンの将来
提供額は、物件のパフォーマンスが改善しない限り資金を供給する義務が生じないことから「グッド・
ニュース・マネー」と呼ばれることもある。トランジション・ローンは、安定した状態への移行過程にある
物件を担保とするローンである。トランジション・ローンは、将来の資金供給の実行にあたり、物件が具
体的なパフォーマンス水準を達成することを要件としていない点で、アーンアウト・ローンより一般的に
よりリスクが高い。資金提供はローンのスポンサーの事業計画のタイミングに基づいて行われる。トラ
ンジション・ローンは、コンストラクション・ローン(construction loans)に通常みられるような、グランドアッ
プ・コンストラクション(ground-up construction)が盛り込まれていない 41。
ムーディーズは、こうしたローンが期日に実行されない場合、取引の格付における、ムーディーズによ
る担保評価の想定が脅かされ、CDO 発行体に対してレンダー債務請求が生じる可能性を懸念して
いる。また、改修などの大幅なリノベーションが行われた場合には、リノベーションが完了し、建物が賃
貸されるまでは、CRE CDO の利払い費を賄うキャッシュフローが減少することがある。
多くの場合、予定されているプロジェクトへの将来の資金供給が可能となり、工事が適時に完成する
ことを想定した、安定的な完成ベース(as-built basis)で将来の資金供給の価値を考慮する。CRE
CDO のローンの信用評価は、この完成ベースの価値に基づいて行われるが、その価値は、追加的
な改修や、アセット対比でのリースアップ・ディスカウントに左右される。従って、プロジェクトの完成に
必要な将来の資金が、ムーディーズの分析において重要となる。ムーディーズは特に、将来の資金
供給義務を負う当事者が高格付でないか格付が付与されていない場合の、ボロワーへの将来の資
金供給能力を懸念する。
CRE CDO 取引には、 そうした資金調達リスクを低減する条項が付帯されていることがある。例えば、
CRE CDO によっては、将来の資金供給を高格付の主体が行うか、トラストによって管理されたアカウ
ントに全額リザーブされていなければならない場合がある。また、CRE CDO において、取引期間中の
将来資金供給義務を完全にカバーするリボルビング Aaa 格クラスが設けられることがある。また、期
間のマッチングと、期待される将来資金供給義務をカバーする信用状が設けられることがある。その
他にも、CRE CDO では、一定期間にわたり、 推定される将来必要資金までトラストに資金が積み立て
られることがある。その推定額は通常、オフィサーによって承認され、関係当事者と特定第三者が評
価する必要資金額のいずれか大きいほうとなる 42。さらに、CRE CDO には、将来ローンの集中、およ
び全体のコミットメント額のうちの将来資金調達額に関する限度が設けられていることがある。
これらが設けられている場合には、将来ローンに関するリスクおよびその低減効果を検討する。そのリ
スクを低減できない場合には、当該取引の期待損失が増大する可能性がある。
付録 10: スペインの複数発行体カバード・ボンドに対する格付アプローチ
概要
この付録では、スペインの複数発行体カバード・ボンド(SMICB)に対するムーディーズのモニタリング・
アプローチを概説する。SF CDO に対する標準的な格付手法を、異なる特徴をもつ SMICB の分析に、
どのように調整して適用するかに焦点を当てる。ムーディーズのモニタリング・アプローチには、SMICB
45
OCTOBER 20, 2016
41
コンストラクション・ローンは、他の種類の将来ローンにみられない、将来の市場リスク要素を伴う。これは、新たに建設
される建物は、将来、何ヵ月あるいは何年にわたって存在する市場で供給されるためである。市場は急激に変化し、そ
うした変化がプロジェクトの存続にマイナスの影響を及ぼすことがある。それによって、物件のキャッシュフローおよび評
価に関する不確実性が高まる。
42
トラストが将来資金をコントロールしていない場合、将来資金に責任を負う第三者がトラストの責任を継承し、ボロワー
はトラストに対する相殺権を放棄し、将来の資金調達額について別途、証券を組成することがある。それにより、第三者
による将来資金の請求からトラストが保護される。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
の裏付けとなっているカバード・ボンドの評価も織り込む。カバード・ボンドの評価についてはムーディー
ズの標準的な格付手法に基づく 43。
新規の格付付与(あれば)については、ここで概説するモニタリング・アプローチに加え、追加的な分
析を行う必要がある。
SMICB のストラクチャーでは、スペインのカバード・ボンド(Cédulas)プールを裏付けとする債券を発行す
るが、なかでもモーゲージを裏付けとするカバード・ボンド(Cédulas Hipotecarias)が多い 44。 発行体は
スペイン法 45の下で設立されたリミテッド・ライアビリティ SPV で、通常、カバード・ボンドに関するスペイ
ンの枠組みの下で金融機関が発行する債券を取得する 46。Cédulas の固定プール(すなわち「単独
の」ファンド)を裏付けとする一連の SMICB を発行することもあれば、Cédulas の変動プールを裏付けと
し、複数回にわたって発行される「マスター・プログラム」の場合もある。
SMICB に対するムーディーズの格付は基本的に、SMICB の EL に基づく。すなわち、SMICB の裏付け
となっている Cédulas の EL や取引におけるリザーブ・ファンドの規模に基づく。ただし、2 つの追加的な
観点から格付が制約されることがある。 (1) SMICB の流動性、および(2) Cédulas の発行体のデフォル
トリスクによって、債券における期日通りの支払い(タイムリー・ペイメント)が妨げられる可能性がある。
SMICB の期待損失
リザーブ・ファンドのない取引については、裏付けプールの加重平均信用力から SMICB の EL を算定
する。裏付けプールの加重平均信用力は通常、各裏付資産の残高で加重した Cédulas の EL に基づ
く。Cédulas の EL は、発行体 47がカバード・ボンドにおける支払いを停止する(CB アンカー事象(CB
anchor event)が発生する)確率と、発行体が支払いを停止した場合のカバー・プールの価値の双方
を考慮に入れる。カバー・プールの価値の分析では、カバー・プールの担保の信用力、カバー・プール
の資産とカバード・ボンドの負債の金利または通貨のミスマッチ、Cédulas での支払いを行うためにカバ
ー・プールの資産を売却する必要が生じた場合の裏付資産の市場リスクを織り込む。
リザーブ・ファンドが設けられた取引については、プールの加重平均期待損失からリザーブ・ファンドの
額を差し引いたものを SMICB の EL とする。プールの様々な損失シナリオの発生確率で加重する。こ
れらの確率は、本格付手法の本文に示した SF CDO に対するものと同一のアプローチに従い、単純
化のため、2 つの想定に基づき算定する。その想定とは、 (i) Cédulas におけるアセット相関をすべて
50%とし、 (ii) 各 Cédulas について一定の回収率とするというものである 48。
流動性資金の十分性
Cédula がデフォルトした場合、 Cédula の発行体の支払不能により SMICB のキャッシュフローが少なく
とも一時的に低減した後、カバー・プールの資産の流動化に幾分時間を要することがある。従って、
ムーディーズによる分析の一環として、投資家への支払いを行うために、SMICB が、流動性ファンドな
どの形でどの程度十分な流動性を有するかを検討する。
流動性を評価するにあたり、ムーディーズは、Cédula でデフォルトが発生すると、デフォルトした
Cédula から SMICB への利払いが 2 年間行われないと想定する。 その想定に基づき、流動性ファンド
が、SMICB が必要な支払いを行う十分な資金を確保している可能性が、SMICB の目標格付より 4 ノ
ッチ低い水準に相応する、十分な規模であるか否かを検討する。例えば、SMICB が期日通りの支払
46
OCTOBER 20, 2016
43
カバード・ボンドに対するムーディーズの格付アプローチの詳細については、関連リサーチの項を参照されたい。
44
スペインの公的セクターのカバード・ボンド(Cédulas Territoriales)を裏付けとする SMICB の発行は限定的である。
45
資産証券化ファンドおよびファンド管理会社に対する規制の根拠となっている Royal Decree 926/1998, of 14 May
46
モーゲージ市場に対する規制の根拠となっている Law 2/1981, of 25 March(モーゲージ市場法)。Law 2/1981 (モーゲー
ジ市場法のもうひとつの規制)および Law 22/2003 of 9 July(破産法)の一定の側面について規定した Royal Decree
716/2009 of 24 April 改正モーゲージ市場法は 2007 年 12 月 8 日に施行された。2007 年 11 月 27 日付のスペシャル・レ
ポート “Spanish Mortgage Market Law Amendments to Strengthen Position of Covered Bond Holders”を参照されたい。
47
「発行体」は必ずしもカバード・ボンド自体の発行体をさすわけではない。カバード・ボンドの支払いを保証またはその他
の形で直接サポートする主体をさすこともある。そうした主体は通常、発行体グループの一部である。
48
各 Cédulas について、 1 – (Cédulas の EL/ Cédulas のデフォルト確率)として算定する。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
いを行う可能性が、格付が A3 の証券がデフォルトしない可能性に等しい場合、ムーディーズは
SMICB の格付上限を Aa2 とすることがある。
ムーディーズは、SMICB の約定償還期限までの Cédulas のデフォルト確率分布の推定に、シングル・
ファクター・タイム・トゥ・デフォルトモデル(single-factor time-to-default model) 49 を用いる。このモデル
では、各 Cédula のデフォルト確率は、Cédula 発行体の CB アンカー事象の発生確率(ムーディーズの
理想化されたデフォルト表に基づく)と、CB アンカー事象発生時に SMICB の裏付けとなっている
Cédula がデフォルトする確率(ムーディーズの「タイムリー・ペイメント・インディケーター(Timely
Payment indicator)」の評価に基づく)に基づく 50 51。モデリングでは、SMICB における裏付け Cédulas 間
のアセット相関を 50%と想定している。
SMICB のタイムリー・ペイメントに関する格付上限
SMICB に対する格付には、Cédulas の発行体のデフォルトにより SMICB の債務のタイムリー・ペイメント
が妨げられるリスクの評価が織り込まれる。そのリスクの評価を織り込むため、ムーディーズは、加重
平均 CB アンカー(Cédulas において発行体がデフォルトする確率を表す格付)と、CB アンカー事象後
の Cédulas のタイムリー・ペイメントの可能性の評価に基づいて、SMICB の格付を制限する(上限を設
ける)。
ムーディーズは、タイムリー・ペイメントの可能性の予測を、カバード・ボンド格付のタイムリー・ペイメン
ト・インディケーター(TPI)の枠組みに基づいて行う。ただし、SMICB の特殊ケースについては、TPI の用
い方に調整を加え、SMICB の約定償還期限にいずれかの Cédulas がデフォルトした場合の、SMICB の
流動性ファンドや、期限を延長するストラクチャー上の一般的な規定の恩恵を織り込む。すなわち、
各 Cédulas に適用される TPI の使用に代わり、SMICB の格付に、それほど厳格でない格付上限(通
常、Cédulas の加重平均 TPI に示唆される上限より約 2 段階高い)を適用する。例えば、Cédulas の加
重平均 TPI が「可能性がある」であれば、SMICB の格付上限の決定に用いられる TPI は「高い」となる。
Cédulas の格上げ/格下げ方向での見直し
発行体または Cédulas が格上げまたは格下げ方向で見直しの対象となっている場合、SMICB の評価
においてはそれらが既に格上げまたは格下げされたと想定することはない。
47
OCTOBER 20, 2016
49
タイム・トゥ・デフォルトモデルの詳細については、Bluhm, Christian and Overbeck, Ludger, Structured Credit Portfolio
Analysis, Baskets & CDOs, Chapman & Hall/CRC, 84, 2007 を参照されたい。
50
P(Cédulas default)= (1-TPI)* P(CB Anchor Event)
51
カバード・ボンドに対する格付のアプローチの詳細については、関連リサーチのセクションを参照されたい。
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
関連リサーチ
本セクターで付与される信用格付は主としてこの格付手法に従って決定される。本セクターの発行
体および債務の信用格付の決定において、特定の幅広い手法上の考慮事項が適用される場合が
ある(それらはいくつかのクロス・セクター格付手法で解説されている)。関連する可能性があるクロ
ス・セクター格付手法は www.Moodys.com から入手できる。
本格付手法を用い て付与され た格付の ヒスト リカルな頑健性と予測能力をまとめ たデータは
www.Moodys.com から入手できる。
ムーディーズの格付記号と定義はこちらから入手できる。
ムーディーズの理想化された累積期待デフォルト率および損失率はこちらから入手できる。
48
OCTOBER 20, 2016
格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法
CLOs & STRUCTURED CREDIT
ムーディーズ SF ジャパン株式会社
〒105-6220
東京都港区愛宕 2 丁目 5-1
愛宕グリーンヒルズ MORI タワー 20F
Report Number:
SF441254 (Japanese)
1038012 (English)
お問い合わせ:
New York: +1.212.553.1653
Hong Kong: +852.3551.3077
Sydney: +612.9270.8100
Singapore: + 65.6398.8308
著作権表示(C)2016 年 Moody' s Corporation、Moody's Investors Service, Inc.、Moody’s Analytics, Inc. 並びに(又は)これらの者のライセンサー及び関連会社(以下、総称して「ムーデ
ィーズ」といいます)。無断複写・転載を禁じます。
Moody's Investors Service, Inc.及び信用格付を行う関連会社(以下「MIS」といいます)により付与される信用格付は、事業体、与信契約、債務又は債務類似証券の相対的な将来
の信用リスクについての、ムーディーズの現時点での意見です。ムーディーズが発行する信用格付及び調査刊行物(以下「ムーディーズの刊行物」といいます)は、事業体、与信
契約、債務又は債務類似証券の相対的な将来の信用リスクについてのムーディーズの現時点での意見を含むことがあります。ムーディーズは、信用リスクを、事業体が契約上・
財務上の義務を期日に履行できないリスク及びデフォルト事由が発生した場合に見込まれるあらゆる種類の財産的損失と定義しています。信用格付は、流動性リスク、市場価値
リスク、価格変動性及びその他のリスクについて言及するものではありません。信用格付及びムーディーズの刊行物に含まれているムーディーズの意見は、現在又は過去の事実
を示すものではありません。ムーディーズの刊行物はまた、定量的モデルに基づく信用リスクの評価及び Moody’s Analytics, Inc.が公表する関連意見又は解説を含むことがありま
す。信用格付及びムーディーズの刊行物は、投資又は財務に関する助言を構成又は提供するものではありません。信用格付及びムーディーズの刊行物は特定の証券の購入、売
却又は保有を推奨するものではありません。信用格付及びムーディーズの刊行物はいずれも、特定の投資家にとっての投資の適切性について論評するものではありません。ムー
ディーズは、投資家が、相当の注意をもって、購入、保有又は売却を検討する各証券について投資家自身で研究・評価するという期待及び理解の下で、信用格付を付与し、ムー
ディーズの刊行物を発行します。
ムーディーズの信用格付及びムーディーズの刊行物は、個人投資家の利用を意図しておらず、個人投資家が投資判断を行う際にムーディーズの信用格付及びムーディーズの刊
行物を利用することは、慎重を欠く不適切な行為です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家にご相談することを推奨します。
ここに記載する情報はすべて、著作権法を含む法律により保護されており、いかなる者も、いかなる形式若しくは方法又は手段によっても、全部か一部かを問わずこれらの情報を、
ムーディーズの事前の書面による同意なく、複製その他の方法により再製、リパッケージ、転送、譲渡、頒布、配布又は転売することはできず、また、これらの目的で再使用するた
めに保管することはできません。
ここに記載する情報は、すべてムーディーズが正確かつ信頼しうると考える情報源から入手したものです。しかし、人的及び機械的誤りが存在する可能性並びにその他の事情によ
り、ムーディーズはこれらの情報をいかなる種類の保証も付すことなく「現状有姿」で提供しています。ムーディーズは、信用格付を付与する際に用いる情報が十分な品質を有し、ま
たその情報源がムーディーズにとって信頼できると考えられるものであること(独立した第三者がこの情報源に該当する場合もあります)を確保するため、すべての必要な措置を講
じています。しかし、ムーディーズは監査を行う者ではなく、格付の過程で又はムーディーズの刊行物の作成に際して受領した情報の正確性及び有効性について常に独自に確認
することはできません。
法律が許容する範囲において、ムーディーズ及びその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー及びサプライヤーは、いかなる者又は法人に対しても、ここに記載
する情報又は当該情報の使用若しくは使用が不可能であることに起因又は関連するあらゆる間接的、特別、二次的又は付随的な損失又は損害に対して、ムーディーズ又はその
取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー又はサプライヤーのいずれかが事前に当該損失又は損害((a)現在若しくは将来の利益の喪失、又は(b)関連する金融商品
が、ムーディーズが付与する特定の信用格付の対象ではない場合に生じるあらゆる損失若しくは損害を含むがこれに限定されない)の可能性について助言を受けていた場合にお
いても、責任を負いません。
法律が許容する範囲において、ムーディーズ及びその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー及びサプライヤーは、ここに記載する情報又は当該情報の使用若し
くは使用が不可能であることに起因又は関連していかなる者又は法人に生じたいかなる直接的又は補償的損失又は損害に対しても、それらがムーディーズ又はその取締役、役職
員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー若しくはサプライヤーのうちいずれかの側の過失によるもの(但し、詐欺、故意による違反行為、又は、疑義を避けるために付言すると法
により排除し得ない、その他の種類の責任を除く)、あるいはそれらの者の支配力の範囲内外における偶発事象によるものである場合を含め、責任を負いません。
ここに記載される情報の一部を構成する格付、財務報告分析、予測及びその他の見解(もしあれば)は意見の表明であり、またそのようなものとしてのみ解釈されるべきものであ
り、これによって事実を表明し、又は証券の購入、売却若しくは保有を推奨するものではありません。ここに記載する情報の各利用者は、購入、保有又は売却を検討する各証券に
ついて、自ら研究・評価しなければなりません。
ムーディーズは、いかなる形式又は方法によっても、これらの格付若しくはその他の意見又は情報の正確性、適時性、完全性、商品性及び特定の目的への適合性について、(明示
的、黙示的を問わず)いかなる保証も行っていません。
Moody's Corporation (以下「MCO」といいます)が全額出資する信用格付会社である Moody's Investors Service, Inc.は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形
及び CP を含みます)及び優先株式の発行者の大部分が、Moody's Investors Service, Inc.が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、1500 ドルから約 250 万ドルの
手数料を Moody's Investors Service, Inc.に支払うことに同意していることを、ここに開示します。また、MCO 及び MIS は、MIS の格付及び格付過程の独立性を確保するための方針と
手続を整備しています。MCO の取締役と格付対象会社との間、及び、MIS から格付を付与され、かつ MCO の株式の 5%以上を保有していることを SEC に公式に報告している会社
間に存在し得る特定の利害関係に関する情報は、ムーディーズのウェブサイト www.moodys.com 上に"Investor Relations-Corporate Governance-Director and Shareholder Affiliation
Policy"という表題で毎年、掲載されます。
オーストラリア専用の追加条項:この文書のオーストラリアでの発行は、ムーディーズの関連会社である Moody's Investors Service Pty Limited ABN 61 003 399 657(オーストラリア金
融サービス認可番号 336969)及び(又は)Moody's Analytics Australia Pty Ltd ABN 94 105 136 972(オーストラリア金融サービス認可番号 383569)(該当する者)のオーストラリア金
融サービス認可に基づき行われます。この文書は 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「ホールセール顧客」のみへの提供を意図したものです。オーストラリア国内からこ
の文書に継続的にアクセスした場合、貴殿は、ムーディーズに対して、貴殿が「ホールセール顧客」であるか又は「ホールセール顧客」の代表者としてこの文書にアクセスしているこ
と、及び、貴殿又は貴殿が代表する法人が、直接又は間接に、この文書又はその内容を 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「リテール顧客」に配布しないことを表明し
たことになります。ムーディーズの信用格付は、発行者の債務の信用力についての意見であり、発行者のエクイティ証券又はリテール投資家が取得可能なその他の形式の証券に
ついて意見を述べるものではありません。リテール投資家が、投資判断を行う際にムーディーズの信用格付及びムーディーズの刊行物を利用することは、慎重を欠き不適切です。
もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家に相談することを推奨します。
日本専用の追加条項:ムーディーズ・ジャパン株式会社(以下、「MJKK」といいます。)は、ムーディーズ・グループ・ジャパン合同会社(MCO の完全子会社である Moody’s Overseas
Holdings Inc.の完全子会社)の完全子会社である信用格付会社です。また、ムーディーズ SF ジャパン株式会社(以下、「MSFJ」といいます。)は、MJKK の完全子会社である信用格付
会社です。MSFJ は、全米で認知された統計的格付機関(以下、「NRSRO」といいます。)ではありません。したがって、MSFJ の信用格付は、NRSRO ではない者により付与された
「NRSRO ではない信用格付」であり、それゆえ、MSFJ の信用格付の対象となる債務は、米国法の下で一定の取扱を受けるための要件を満たしていません。MJKK 及び MSFJ は日本
の金融庁に登録された信用格付業者であり、登録番号はそれぞれ金融庁長官(格付)第 2 号及び第 3 号です。
MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を含みます。)及び優先株式の発行者の大部分が、MJKK 又は MSFJ
(のうち該当する方)が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、20 万円から約 3 億 5,000 万円の手数料を MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)に支払うことに同意
していることを、ここに開示します。
MJKK 及び MSFJ は、日本の規制上の要請を満たすための方針と手続も整備しています。
49
OCTOBER 20, 2016
ムーディーズ SF ジャパン 格付手法:SF CDO に対するムーディーズの格付手法