ノイズ・キャンセル実験室

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ノイズ・キャンセル実験室
第
3 回 ノイズ除去性能はまぁまぁ! 確率最大信号を求める…MAP 推定法
本連載では,音声のノイズ除去に注目し,さまざま
な方式や,それらを実現するプログラムを紹介してい
きます.
今回は,MAP(Maximum a Posteriori)推定法に基
づくノイズ除去法について説明します.MAP 推定法
は,事後確率を最大化する方法です.
原理
観測信号
観測信号の
(音声+ノイズ)
スペクトル
(
x n)=s( n)+d(n)
X(k)
FFT
MAP 推定法を実現するブロック図を図 1 に,効き
目(シミュレーション)を図 2 に示します.信号の流
れは,前回(第 2 回,2016 年 11 月号)のウィーナー・
フィルタと全く同じです.
MAP 推定法は,選択する確率密度関数によってゲ
インの計算方法が変わります.ほとんどの場合,事後
SNR と事前 SNR の関数としてゲインを求めることがで
きます.
● FFT で音声を分析する
時刻 n の観測信号 x(n)が,音声 s(n)とそれ以外の
ノイズ d(n)との和で与えられると仮定します.この
とき,
x(n)= s(n)+ d(n)
です.観測信号を N サンプルごとに切り出し,N 点
FFT(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)
を実行します.切り出した区間をフレームと呼びま
す.
FFT 結果として得られる,k 番目の複素スペクトル
を,
X(k)= S(k)+ D(k)
と書きます.ここで,k は 0 〜 N − 1 の整数値をとる
周波数番号です.
● ハーフ・オーバラップで分析を進める
FFT による分析は,N/2 サンプルごとに実行する,
ハーフ・オーバラップを採用します.
ノイズ除去処理後に,IFFT(Inverse Fast Fourier
Transform;逆高速フーリエ変換)で時間領域の信号
2016 年 12 月号
ノイズ除去結果の
スペクトル
出力
(
y n)=s( n)
S
(k)
IFFT
ノイズ除去フィルタ
G
(k)
絶対値
(振幅)
ゲイン
計算
ゲインを掛けて
ノイズ除去
振幅スペクトル
X(k)
川村 新
事前SNRξ(k)
事後SNRγ(k)
ノイズ・スペクトルの
分数の推定値
(k)
λ
初期数フレーム
ノイズ の平均値として
分散
算出
MAP推定によるゲイン
①レイリー分布
ξ(k)
2+2
(1+ξ(k))
ξ(k)+ ξ(k)
γ(k)
2(1+ξ
(k))
②Lotterらの分布
ν
G
(k)=u+ u2+
2γ
1
μ
u= -
2 4 γξ
図 1 MAP 推定法を実現するブロック図
に戻すときに,フレームの半分が重複するので,その
部分は加算して最終的な出力を得ます.
● MAP 推定法の考え方
MAP 推定法は,事後確率を最大化する方法です.
事後確率とは,観測信号 X(k)が既に生じた状態(事
後)で,音声 S(k)がとる値の確率のことです.その確
率密度関数は,事後確率密度関数と呼ばれ,p(S | X)
のように書きます.便宜上,周波数番号 k を省略して
います.
S を動かして,p(S | X)が最大になれば,そのとき
の S を音声の推定値とすることが MAP 推定法です.
問題は,p(S | X)が未知であることです.
ベイズの定理によれば,p(S | X)は次のように変
形できます.
p (X | S) p (S)
p (S | X) =
p (X)
(1)では,
関 連 特 集:本 誌 2016 年 6 月号「 体 感! 全 集 CD 付き! 音 声 信 号 処 理 」
さまざまな音声処理の方式と,それらを実現するプログラムを紹介しています.
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