形形成 A4. 255 pp. 2015. + 税.ISBN978-4-8299-8840-4.

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植物研究雑誌 第 91 巻 第 5 号
新 刊 Book Reviews
□八田洋章(編著)
:樹木の実生図鑑.芽生えと樹
形形成 A4. 255 pp. 2015. 文一総合出版.¥16,000
+ 税.ISBN 978-4-8299-8840-4.
芽生えの図鑑は,もう出尽くしたと思ったら,
まだその先があった.これまでのものは,子葉か
第一葉までの,いわゆる実生だったが,本書で
は,その後がどのような経過を経て成体に至るの
かを,追求している.実生の段階では,変化の道
具立てや選択肢はまだ少ないので,現象は捉え易
く,「系統」とか「属」レベルでのまとめで解釈
し易い.だが生長が本格化して,たくさんの節に
いちいち葉だの芽だの枝だの根だのが付くように
なり,さりとて生殖器官はまだ ... となると,極
めて取っつきにくい代物となる.本書では 1 頁に
原則 1 種類を当てて,そういう時期の押し葉標本
を示しているが,「こんな花も実も無い標本を作
るなよ !」と,言われるような代物ばかりである.
夏休みの宿題なら,評価は最低だろう.しかし編
者は,そういうとりとめの無い現象の中から,主
軸の伸長量や,実生の各節における節間成長量の
グラフを工夫し,各節にどんな器官ができるかを
記録して,成体としての樹形と,幼体としての実
生の振る舞いを関連付けようと試みている.ここ
は,スケールがあるとよい.本書で用いられる形
態用語は,私には聞き慣れない農学系のものも多
く,用語解説が先頭 2 頁にある.最後に,観察し
た 250 種類 15 項目の内容が,一覧表で示されて
いる.ユニークな作品である.
本書は,国立科学博物館筑波実験植物園勤務の
2016 年 10 月
編者が組織した樹形研究会の,1987 年以来の共
同研究の成果で,30 年もの間,こういう地味な
テーマについて調査・研究を続けられた会員諸氏
に,敬意を評する.
ここに示された「押し葉標本」程度のサイズな
ら,生体あるいは液浸標本を直接ラミネート封入
したものを,押し葉標本と共に保存できると思う
ので,試みてほしい.その方が単なる押し葉より
も,組織が弱いための傷みや脱落が少なく,保存
性が良い上に,必要ならば切り出して,組織を調
べることもできるだろう.表紙カバーに見られる
ような,単なる押し葉標本では,こういう「弱い」
部分の「弱い」器官は,本来の運命に忠実に,年
を経るにつれて脱落したり分解したりして,単純
化してしまう.セロファンカバーをかけても,数
年たてばパリパリになってしまって役に立たない
ということは,昔むかしセロテープが出回り始め
た頃,奥山春季氏がおしば用テープとしてテスト
済みである.台紙は不要で,生のままの枝を,い
きなりラミネータに通せばよい.ただしやり直し
は効かないので,あまり太い細いのある標本は,
敬遠した方がよい.矢印つきの説明は,後から貼
り足せる.他の標本との関係で,台紙があった方
がよければ,あとから台紙に乗せればよい.そう
いうやり方なら,失敗してもすぐに補充できるの
で,気楽に試みることができるだろう.
ヤブカラシの葉を生のままラミネートしたこと
があるが,10 年以上経っても原状を保持してい
たことを見ている.水分を含んだまま封入したの
で,すぐに腐敗分解すると思ったのだが,意外だ
った.
(金井弘夫 H. Kanai)