米国出張メモ:大統領選が終わると本当に霧は

リサーチ TODAY
2016 年 10 月 19 日
米国出張メモ:大統領選が終わると本当に霧は晴れるのか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
10月初に、日本に関するセミナーのパネルに参加すべく大統領選直前のワシントンを訪問した。第2回
のTV討論の時期に重なったが、論点はトランプ氏のスキャンダル問題に終始しており、正直に言うと大統
領選の盛り上がりは感じられなかった。下記の図表に示されるように、両者の支持率は、足元ではかい離幅
が拡大しており、今後トランプ氏の逆転は困難であろう。ただし、クリントン氏の不人気も続いており支持率
が大きく盛り上がる状況にない。筆者が8年前、オバマ大統領就任直前のワシントンに滞在した時に実感し
たのは、「change」に代表される転換意識と米国内の高揚感だった。さらに、16年前にも、大統領選の時期
にワシントンを訪れる機会があった。当時はブッシュ、ゴア両氏の大接戦が話題になったが、政策論争にお
いても見ごたえのあるものがあった。これらと比較して、今回は論点らしい論点が見当たらない。金融市場
では、大統領選が終わると不確実性が低下して、経済活動が改善するという楽観的な見方が多かった。た
だし、そもそもトランプ氏がここまで曲がりなりにも持ちこたえたのは、白人男性の不満、中間層の没落のた
めであるとすれば、こうした不満が持続しているため、長期停滞不安も拭い去ることができない。米国経済
への期待はかかるが、霧が晴れるような転換は、今回は生まれにくいのではないか。その先の明確な展望
が見当たらないというのが今回の大統領選の特徴のように思えた。
■図表:どちらに投票するか
(%)
クリントン
トランプ
50
40
(年/月)
30
2016/1
2016/2
2016/3
2016/4
2016/5
2016/6
2016/7
2016/8
2016/9
2016/10
(資料)Real Clear Politics 資料より、みずほ総合研究所作成
次ページの図表は製造業・非製造業のISM指数であるが、最近発表された数値からは大きな改善がみ
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2016 年 10 月 19 日
られ、一時の不安は低下したことが分かる。ただし、依然として企業セクターに力強さは感じられない。長期
停滞とされるような構造変化の影響で下方バイアスの存在することに留意が必要だ。また、非製造業の水
準が高いなか、製造業が低水準にあるのは、海外経済の不安定さを反映している可能性もある。こうした、
製造と非製造のかいり離は1990年代後半の世界経済の変調期にも生じた。米国の内需には期待が掛かる
ものの、米国が世界をけん引するほどの力があるかが問われる状況にある。
■図表:製造業・非製造業ISM指数
65
60
55
50
45
40
非製造業
35
30
1998
製造業
00
02
04
06
08
10
12
14
16 (年)
(注)網掛けは、リセッション期。
(資料)Institute for Supply Management よりみずほ総合研究所作成
2016年に想定外であったことは、米国の改善の期待が未達に終わったことだった。昨年の今頃に考えた
2016年を展望した基本シナリオは、新興国は不安定だが、米国を先頭に米国の改善が緩やかながらも世
界をけん引するというものだった。そこでの暗黙裡の前提は、米国が利上げし、ドル高を許容し、米国市場
を世界に明け渡し世界経済の「踏み台」になることだった。しかし、現実には米国はドル高負担に耐え切れ
ず、金利を据え置き、ドル安に舵を切ったことが先述の想定外につながった。
現在、米国では7~9月期企業決算が発表される時期であり、5四半期ぶりにプラスに転じるかが注目さ
れている。7~9月期はマイナスでも10~12月期はプラスになることは既定路線であり、年末に向けて楽観
論が生じやすい。また、市場のなかでは大統領選が終われば不確実性が後退し、霧が晴れるとの期待もあ
る。ただし、今年も年末にかけて利上げを行い、ドル高になれば、再び米国製造業セクターにはマイナスの
影響があり、1年前と同じ動きが繰り返されかねない。イエレン議長は10月14日のコメントで「高圧経済
(high-pressure economy)」を保つことが必要との見方を示し、ハト派的な見方と受け止められた。12月の利
上げ観測は再び高まっているが、昨年の経験も踏まえると、実際に利上げを行えば、それがその後さまざ
まな方面に副作用を与えることになるので、2016年同様2017年も当分利上げが困難になるのではないか。
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