大阪教育大学附属平野小学校での 財政教育プログラム特別授業

大阪教育大学附属平野小学校での
財政教育プログラム特別授業
SPOT
近畿財務局 総務部財務広報相談室長 橋本
同室室長補佐 佃
嘉浩 /
博紀
同室広報相談第一係長 岡野
1.はじめに
28 年 9 月 1 日、大阪市内南東に位置する平野区
真志
2.特別授業の概要
この度の特別授業は、特別授業を生んだ原点
にある、大阪教育大学附属平野小学校(以下、
「附属平野小学校」に立ち戻り、小学生向けプロ
「附属平野小学校」という)の 6 年生 119 名を対
グラムのモデルケースとするため、本省文書課広
象に、財政教育プログラム特別授業(以下、
「特
報室課長補佐を講師に迎え、新しく作成された資
別授業」という)を開催しました。
料を用いて実施したものです。特別授業は、前後
特別授業は、将来を担う子どもたちに、私たち
半 45 分ずつの計 90 分で、講師からの説明や財務
の国の財政について、少しでも知ってほしい、一
省ホームページの動画「日本の財政を考える」の
緒に考えてほしいとの思いと、教育現場からのニ
視聴に加え、同校が授業で活用しているタブレッ
ーズが相まって、27 年 6 月、近畿財務局が全国
ト端末を使用した予算編成のシミュレーションな
で初めての試みとして、附属平野小学校を皮切り
ど、児童参加型のアクティブラーニング方式で実
に開始した取組であり、同年 11 月には奈良女子
施しました。
大学附属中等教育学校、28 年 1 月には大阪教育
モデルケースとなった今回の特別授業には、学
大学附属平野中学校と、近畿財務局において 3 回
校および PTA 関係者のほか、今後の展開を見据
連続で特別授業を実施しました。
え、全国財務局の財務広報相談室長、更に租税教
その後、この取組は、全附連 、学校、財務省本
室を推進している国税局関係者など大勢の見学者
省(大臣官房地方課、文書課広報室、主計局調査
も参加されました。今後、一層の全国展開が期待
課)および各地域の財務局等とが連携し、全国の
されます。
*
附属学校に展開されることになりました。28 年 8
月末までに14 回(公立校1回を含む)の特別授業
が実施され、全国で15回目となる附属平野小学校
3.特別授業の内容
授業の前半、講師は、冒頭に児童たちが必ず行
での特別授業は、同校では2 回目の開催となりま
ったことのある「歯医者さん」を題材にその数や
す。
治療費に関するクイズを投げかけ(児童たちは、
歯科医院の数がコンビニよりも多いことや、治療
*全国に国立大学附属学校は、56 大学 259
費は患者が支払う額よりも大きな金額を健康保険
校園(幼・小・中・高・特支)存在し、そ
が負担していることに驚いた様子)
、身近な例か
の学校園により組織される全国国立大学附
ら、公共サービスとは何か、また、その問題点に
属学校連盟と保護者および教員により組織
ついて説明していきました。そして、なぜ、社会
される全国国立大学附属学校 PTA 連合会か
保障や財政を勉強する必要があるのかについて、
ら成る全国組織として「全附連」が存在。
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「健康保険」を絡めて説明しました。
大阪教育大学附属平野小学校での財政教育プログラム特別授業

図 1 授業で使用した資料
「もし、日本が 100 人の村だったとしたら…」、
「もし、日本の予算が 100 万円だったとしたら…」
として、児童の皆さんが村人から選ばれた村の役
員で、どう使えば、この村をよくできるのかを考
えてもらいました。
児童 4 人で 1 台のタブレットを使い、歳出面は
の各項目を設定し、それぞれどの程度増やすのか
また、公共サービスとは何か、それに必要なお
あるいは減らすのか、一方、歳入面は所得税、消
金は誰が負担し、どのように集めるのか、という
費税、法人税、その他の各項目を、どの程度増や
財政の概念について丁寧に説明しました。
すのかあるいは減らすのかを考えてもらい、歳入
さらに、事前に用意していた「1 億円のトラン
が足りなければ新たな借金をするなど、グループ
ク(レプリカ)」を、児童に実際に持ってもらう
ごとに予算編成のシミュレーションをしてもらい
コーナーもあって大きな歓声が上がるなど、活気
ました。
に満ちた雰囲気の中で授業が進んでいきました。
授業の後半は、
“
「日本村」の予算を作ろう!”
と題したグループワークです。
その後、グループごとの発表時間では、多くの
児童から手が挙がり、「少子化が進んでいるため、
教育費予算を少し減らすことにした。
」という意
見や、「所得税が増えると親に負担をかける。消
費税収を増やすと、更に親に負担をかけることに
なるため、消費税は増やさないことにした。」と
いった意見もあったのは印象的で、児童の知識か
ら出てきた発言に感心しました。
熱気にあふれる授業も終わり、質疑応答や感想
の時間に移り、児童たちから、「普段の授業に出
てこない内容をわかりやすく講師が説明してくれ
て面白かった。」、「税金を集めれば日本の借金も
何とかなると思っていたが、国の借金の大きさに
講師の説明を聞き入る児童たち
案外重い? 1 億円(レプリカ)のトランク
タブレットを使った予算編成シミュレーション
(右下は講師)
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ファイナンス 2016.10 SPOT
社会保障、地方交付税、教育、科学技術、その他
SPOT
発表に積極的な児童たち
予算編成の発表
も驚いたし、色々なことを教えていただき良かっ
た。」といった声が聞かれました。
の集中力が持続した良い授業となった。
◆知ることに貪欲な児童たちに、どこに価値を
置くかという価値判断と意思決定を体験させ
4.おわりに
ていただく貴重な機会となり感謝。
授業後、学校および PTA 関係者と財務本省・
◆資料の内容がやや難しいとの印象。100 兆円
財務局担当者で積極的な意見交換を行い、忌憚の
の予算を 100 万円に置き換え増減させること
ない意見を頂戴しました。
で、どのような影響が及ぶのかを児童たちに
その中のいくつかを紹介しますと、
◆特別授業は学校と財務省とが協力して作り上
げていくもの。学校において、財務省ホーム
理解してもらうことの難しさを感じた。
など、教育現場からの意見もいただき、今後の
課題や更なる発展への足掛かりとなりました。
ページを活用した財政用語等に関する事前授
財政教育プログラムが全国各地へ更なる広がり
業をしていただいたことが、今回の成功につ
を見せる中、学校および PTA 関係者との連携を
ながった。
深めながら、また、学年や年代に応じて、講義資
◆学校から児童たちの事情等についてアドバイ
料や講義の進め方を工夫する等して、より良い若
スさせていただき、財務省で資料や授業の進
年層向けの財政教育を継続して実施していきたい
め方に工夫・反映していただけた。児童たち
と考えています。
財政教育プログラム開催状況(28 年 9 月末現在)
開催日
平成 27 年 6 月 11 日(木)
平成 27 年 11 月 17 日(火)
平成 28 年 1 月 15 日(金)
平成 28 年 2 月 2 日(火)
平成 28 年 2 月 16 日(火)
平成 28 年 2 月 16 日(火)
平成 28 年 2 月 19 日(金)
平成 28 年 2 月 19 日(金)
平成 28 年 2 月 23 日(火)
平成 28 年 3 月 2 日(水)
平成 28 年 5 月 18 日(水)
平成 28 年 5 月 26 日(木)
平成 28 年 6 月 20 日(月)
平成 28 年 9 月 1 日(木)
学校名
大阪教育大学附属平野小学校
奈良女子大学附属中等教育学校
大阪教育大学附属平野中学校
北海道教育大学附属札幌中学校
香川大学教育学部附属坂出中学校
広島大学附属三原中学校
宮崎大学教育文化学部附属中学校
奈良女子大学附属中等教育学校
熊本大学教育学部附属小学校
和歌山大学教育学部附属中学校
鳴門教育大学附属中学校
静岡大学教育学部附属浜松中学校
神戸大学附属中等教育学校
大阪教育大学附属平野小学校
上記附属校のほか、公立校(福井県立敦賀高等学校、富士市立高等学校)においても開催。
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学年・人数
6 年生・120 人
3 年生・120 人
3 年生・120 人
3 年生・125 人
2 年生・120 人
3 年生・80 人
3 年生・160 人
5(高 2)年生・16 人
6 年生・120 人
3 年生・130 人
3 年生・150 人
3 年生・120 人
4(高 1)年生・40 人
6 年生・119 人
大阪教育大学附属平野小学校での財政教育プログラム特別授業

財政教育の新たなステージ
今回、財務省・財務局等と連携している全附連および学校関係者の方々からも意見をいただきました。
この国の未来のために
全国国立大学附属学校 PTA 連合会 専務理事 呉本 啓郎
長)
【合わせて『全附連』
】では、かねてより『全附連は公教育を考えます』をスローガンに掲げ、全
国のそれぞれの国立大学附属学校が教育を通じて、子ども達の幸せとこの国の未来のために、その
社会的使命を果たすべく先進的かつ公共的な教育の研究と実践を行うことをサポートしてきました。
その一環として、昨年度より財務省のご協力を得て、財務省(財務本省・財務(支)局・財務事
務所)の方々による「財政教育」を全国の附属学校で研究授業という位置付けで実施。毎回、授業
の後には、財務省の方々と大学の教育学の先生、各校の管理職および社会科の先生、PTA 関係者、
時には地元教育委員会や公立学校の関係者なども交えて、この授業について真摯に議論を重ねてき
ました。財務省の方々は、都度、改訂を重ねてくださり、今年度より小・中・高それぞれの校種に
合ったプログラムを全国の附属学校に展開しています。
子どもたちに対するニュートラルな主権者教育の一環として、国の財政からこの国のあり方につ
いて広く子どもたちに学び、興味を持ってもらい、自分たちの国の未来について考え判断できる子
どもたちを育成することは、次世代の豊かな日本を形成する上で、重要な公教育の使命であると考
え、各附属学校を通じて、それぞれの地域社会に根付かせていきたいと考えています。
子どもと教師へのダブルインパクト
大阪教育大学附属平野小学校 副校長 丸野 亨
財政教育プログラムは国立大学附属学校の現場に、対子どもと対教師との大きく 2 つのインパク
トを与えるものとなっています。
我が国の将来の形を決めていく子どもたち。財政の側面から我が国の将来を考えることになりま
した。小学校のカリキュラムから見ると少し背伸びをしていますが、国づくりを考える意味では大
きな意義があります。実際に、その後の歴史学習において為政者の政策を評価する視点として子ど
も自らが活用していました。財務省関係の皆様という「本物」からの学びは、主権者教育の意味で
子どもたちにとっての大きなインパクトとなっています。
国立大学附属学校は、我が国の教育を牽引する教師が育つ場所です。主権者教育の好事例にふれ
る以上に、講義形式ではない子どもの主体的で協働的な学びを促すプログラムを財務省の方々が作
っておられることそのものが、教員にとって強いインパクトです。
昨年 6 月に近畿財務局総務部長による特別授業として本校で産声をあげた財政教育プログラム。学
校にとって外部人材活用のこの上ない好事例は、財務省関係の皆様のご尽力により急速に展開し、
予想をはるかに超える形で 2 年目を迎えることができました。感謝の気持ちでいっぱいです。
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ファイナンス 2016.10 SPOT
全国国立大学附属学校連盟(首藤敏元 理事長)
、全国国立大学附属学校 PTA 連合会(井上恒治 会