植物が硫黄の不足に応じてグルコシノレートの生合成を止める

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刊
PRESS RELEASE( 2016/10/11)
植物が硫黄の不足に応じてグルコシノレートの生合成を止める仕組みを発見 ∼野菜を食べて発がん予防に期待∼ 九州大学大学院農学研究院の丸山明子准教授らの研究グループは、ドイツマックスプランク研
究所のRainer Hoefgenグループディレクターらの研究グループ、福井県立大学の仲下英雄教授ら
の研究グループ、ドイツケルン大学のTamara Gigolashvili教授、秋田県立大学の小西智一准教
授、ミシガン州立大学の髙橋秀樹教授、千葉大学/理化学研究所の斉藤和季教授との共同研究に
より、植物が硫黄の少ない環境におかれた時に発現するタンパク質SDIが、グルコシノレートの
生合成を抑制すること、その抑制がグルコシノレート生合成の促進因子MYB28との相互作用によ
ることを世界で初めて明らかにしました。 硫黄は動植物の生存になくてはならない元素です。植物は硫黄を硫酸イオンとして取り込み、
アミノ酸やタンパク質などとともに、人間にとって有用な化合物を多く合成しています。アブラ
ナ科植物が作るグルコシノレートは、硫黄の貯蔵や病害虫を寄せつけない働きをするとともに、
発がんを予防します。環境中の硫黄が不足すると、植物はタンパク質合成に使う硫黄を増やすた
めにグルコシノレートの合成を抑えます。しかし、その仕組みは解明されていませんでした。
研究グループは、硫黄が不足した時に遺伝子発現の上昇するSDIというタンパク質がグルコシ
ノレートの生合成を抑制することを明らかにしました。SDIはMYB28と相互作用し、その働きを抑
えることで、特にメチオニン由来グルコシノレートの生合成を抑制します。環境に応じた植物の
代謝変換、有用化合物グルコシノレートの生合成調節に関する新しい発見です。この発見により、
植物中のグルコシノレート量を調節することが可能になりました。アブラナ科の野菜には、白菜
やキャベツ、小松菜などたくさんの種類があり、グルコシノレートを増やした野菜を食べること
で、病気を予防することが期待されます。今後は、植物の成長との関係、硫黄が不足してSDIが増
える仕組みを明らかにしていきます。
本研究成果は、2016 年 10 月 7 日(金)午後 2 時(米国東部時間)に、国際学術雑誌『Science Advances』にオンライン掲載されました。
+S
グルコシノレート
生合成
硫酸イオン
MYB28
アミノ酸
タンパク質
硫黄の貯蔵
病害虫・食害中の忌避、発ガン抑制
SDI1
硫酸イオン
グルコシノレート
生合成
MYB28
アミノ酸
タンパク質
!S
アブラナ科植物
SDI
メチオニン由来グルコシノレート
生合成遺伝子
グルコシノレート
!S
+S
硫黄の
一次代謝
生存、成長
MYB28
グルコシノレート
生合成
メチオニン由来グルコシノレート生合成遺伝子
硫黄の貯蔵
病害虫・食害中の忌避、発ガン抑制
メチオニン由来グルコシノレート
生合成遺伝子
グルコシノレート
(参考図) SDI は、グルコシノレート生合成を抑制する
研 究 者 か ら ひ と こ と:働きの分からないタンパク質に焦点を当てることで、長らく不明だった
硫黄欠乏によるグルコシノレート生合成の抑制機構を明らかにすることができました。植物が環
境に応じて代謝の流れを変える精巧な仕組みには驚くばかりです。アブラナ科植物ではグルコシ
ノレートですが、他の植物が作る有用な含硫化合物にも同様の調節機構があるかもしれません。
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【お問い合わせ】 大学院農学研究院 准教授 丸山明子
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